表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

895/1032

数々の忠告

「え?じゃあまた海外に行くの?」


「あぁ・・・いつになるかとかはわからないけどたぶん近日中」


家に帰った後静希が身支度をしている時に雪奈はやってきた、何故身支度などをしているのかと聞かれ返答した後の会話がこれである


「なんだか忙しいねぇ・・・まぁ仕方ないっちゃ仕方ないのかな?」


「本当なら誰か連れていければよかったんだけどな、俺だけだと動きにくいし」


静希は本来単独行動を得意としているが、スケープゴートとなる人間が他にもいたほうがその隠密性は高くなる


大野と小岩が一緒に行くとは言っても連携の精度としては陽太達が一緒にいたほうが断然高いのだ


とはいえ、面倒に巻き込みたくないというのも正直なところなのだ


無理を言えば陽太たちを巻き込むことだってできるだろうが、そこまでして自分が楽をしようとは思わない


自分が動きやすくなる代わりに身近な人間を危険にさらすか、それとも身近な人間は巻き込まず自分で何とかするか、その二択なら静希は後者を選ぶ


それに去年もそうだったが班員を面倒に巻き込みすぎているのだ、たまには自分で何とかしなくては


「今回はどこに行くの?イギリス?」


「いや、今回はオーストリアだ」


「・・・オーストリア・・・どこだっけ?」


国名を聞いてもそれがどこにあるのかわからなかったのか、雪奈は小首をかしげる


確かにイギリスやフランス、イタリアなどと違ってオーストリアはどこにあるかと聞かれてもパッと場所が思いつくようなものではない


静希もちゃんと調べるまでどこにあるのかわからなかったほどだ


「イタリアのちょい北にあるところだよ、日本との時差は八時間くらいだ」


「イタリアのちょい北ってことはまたヨーロッパか、たまにはアメリカとかアジア圏に行けばいいのに」


「俺が行先決めてるわけじゃないんだけどな・・・」


静希が行先を決めるのであればもっとほかにもいきたいところはたくさんある、どうせヨーロッパ圏に行くのであればスイスなどに行ってみたいと思っているのだが、なかなかどうしてそのあたりでは静希が呼ばれるような事件が起こらないものである


否、事件が起こらないという事はいいことなのだ、残念だと思ってはいけないなと静希は首を横に振る


「でもさ、オーストリアって何があるの?特産とかは?」


すでに土産の話をしている雪奈に静希は若干呆れた表情を見せるが、とりあえず身支度をいったん終えてネットで調べることにした


「・・・あー・・・名物ってのとは違うかもしれないけど、ザッハトルテが有名みたいだな」


「・・・それってケーキの?何で?」


「えっと・・・なんか昔のザッハーさんが作ったケーキらしい、そのザッハーさんがオーストリア出身みたいだな」


「あぁ、だからザッハトルテっていうんだ」


今まで全く知らなかった知識に雪奈は感心している、日本でも結構見るようになったケーキだが、その名前の由来が製作者から来ているとは思わなかった


つまり、ザッハトルテの本場がオーストリアなのだ、まさかこんなところで甘露の話が出るとは思っていなかったのか、邪薙の耳がぴくぴくと動いている


食べたいのだろうか


そんなことを考えながら調べていくと、他にもいくつか土産らしきものを見つけることができる


「後はワインと・・・食器類がそこそこ有名みたいだな・・・俺ら未成年だから酒飲めないけど」


「料理用にワイン使うのとかもあるらしいし、お土産にはいいんじゃない?それか大人たち用のお土産ってことでさ」


このラインナップを見る限り、少なくとも子供が行って楽しいというものではなく、少し歳を重ねた高齢の人間が行くことで本当に楽しめるという印象を受ける


もう少し歳をとってから行きたかったなと思う反面、そんな余裕があるかどうかも定かではない


それに今回行くのはオーストリアの中でも田舎の方だ、交通の便もよくない、車で行くほかない上に、向かった先の町が消えている可能性まであるのだ、買い物ができるかと聞かれれば、恐らくできないだろう


「他のお土産とかはないの?チーズとかお菓子とか」


「あったら買ってくるよ、美味しいかどうかはわからないけどな」


せめて空港ではゆっくりしている時間があってほしいものだ、その時間さえあれば土産の一つや二つは買えるだろう


できるならザッハトルテなども買っておきたいが、長距離移動にケーキが形状を維持できるかどうかは微妙なところだ


そう考えると食器類やワインなどが一番無難なところだろうか


明利にも今回のことを伝えなければいけないなととりあえずメールすることにする


ついこの前海外に行ったばかりだというのにまた海外に行くことになるとは思っていなかっただけに、自分のフットワークの軽さが恨めしい


こういう時、学生というのは本当にいいようにつかわれてしまうなと今の立場にもどかしさを感じていた








「はい・・・はい、わかりました、では明日荷物を持って学校に行きます・・・はい、失礼します」


身支度を済ませ、明利への連絡を済ませた直後、城島から電話があった


内容は言わずもがな、今回の町の消失についてである


正式に静希への依頼が来たらしく、すでに資料も学校側に届いているらしく、明日学校が終わり次第向こうに飛ぶことになりそうだった


事件が起きたのは三日前なのだ、対応するならば早い方がいい


こうして静希の方に依頼が回ってきたのも、時間を考えればむしろ早い方だろう、諸外国が重い腰を上げるに十分すぎる内容であるというのは静希も理解している


とはいえ話を聞いて昨日の今日でもう向こうに行くことになるというのは、いささか忙しい気がしてならなかった


「そう言えばシズキ、エドモンドたちにはこの事伝えなくていいの?」


「ん・・・あぁそうか・・・一応伝えておいた方がいいか」


明利に海外に行くことが確定したとメールをした後、静希はエドに電話を始める


今回のことが一体どういうことの顛末を迎えるかはさておき、最低限の情報は伝えておくべきだろう


まだ静希達も状況を正確に把握できていないために何とも言い難いが、少なくとも人間ではない何かが関わっている可能性は示唆しておいた方がいい


『やぁシズキ、君から連絡とは、何か問題があったのかい?』


「問題があった・・・ていうか・・・まぁそうだな、ちょっと面倒が起きたんだけど、そのことについて一応伝えておこうと思って」


静希はとりあえず今オーストリアで起こっていることと、自分の知っていることをエドモンドに教えることにした


現在わかっていることなどたかが知れているが、確定しているのは一つ、ある町が外見上見えなくなり、交信も内部への侵入もできなくなっているという事


そしてメフィが人間の仕業ではないだろうとほのめかしたこと


それらを伝えるとエドは考えるように唸り始める


『なるほど・・・確かに妙だね・・・でも僕たちのような契約者が出て行って役に立つような事案かな・・・?』


「向こうの人間はこれが悪魔の仕業じゃないかって考えてるんだよ、だから俺がひっぱられてるんだ・・・俺も最初はそうじゃないかとも思ったんだけど・・・なんか違うっぽいんだよなぁ・・・」


悪魔がその力を発動したにしては魔素が穏やか過ぎる、強すぎる力はその分周囲に影響を及ぼす、町一つ、いやそれ以上の範囲に効果を表している状態で魔素濃度が安定して高いというのは異様だ


そしてそのことにエドも気づいたのだろう、何かがあるという事はわかっても、その何かがわからない


『僕はどうするべきかな?その気になれば手伝うことくらいできるかもしれないけれど』


「いや、今回は一応伝えておこうって思っただけだ、俺も向こうに行って何の役に立てるかもわかってないしな・・・カレンにも伝えておいてくれ、こういうことが起こってるってことだけは知っておいて損はない」


その知識が必要になるかどうかはさておいて、知っておくことによって何か損が発生するという事は無い


特に協力関係にある悪魔の契約者同士、自分たちの関わることに関しては知識を共有しておくことは大事なことだ


もし静希が何かに巻き込まれたとき、今回の件に関わることであるとすぐにエドたちが気付くことができるのだから


『ふむ・・・まぁ君がそれでいいっていうなら構わないけれど・・・わかった、くれぐれも気を付けてくれ、話を聞く限り何があっても不思議じゃない』


「わかってる・・・先生からも何度も言われたよ・・・ちょい警戒していくことにする」


町一つ、今まで関わってきた事件とは規模が違う


今まで関わってきた事件は広くても動物園一つ、人が死んでも数人、攫われたのも数十人程度


だが今回の事件は数千、いや万にも届くかもしれない人間が関わっている

もしあの町が丸々消滅していたのであれば、それだけの人間が皆死亡したという事に他ならない


人類史を紐解いても、それだけの人間を一度に殺した事件というのは数少ない、戦争などでは日常茶飯事だったかもしれないが、個人、あるいは組織が起こした事件では初めてではないだろうか


町の周囲の状況の変化、町一つが覆われるだけの何かがあるのだ、何かしらの影響があると思っていいだろう


そしてそれを起こした人間がいるかも分からないのだ、考えるだけでも現地には危険があふれていることがわかる


『一応カレンにも話は通しておくよ、何かあったらすぐに連絡してくれ』


「了解、こっちはこっちでうまくやるさ」


今回は自分だけが関わる事件だ、周りを次々巻き込むわけにもいかない


それにエド達には静希に何かがあった時の救出役というのを担ってほしいのだ


何があるかわからない以上、ある程度の手は打っておく必要がある


オーストリア中部に位置する町、一体何が起こったのか、何があったのか

それを知るにはまだまだ情報が少なすぎる


現地に行くことでそれを知ることができるかも怪しいところである、そもそも自分は今回どのような立場で向こうに行くのか、そのあたりもしっかり頭に入れておく必要があるだろう











「え?じゃあ今日学校終わったらすぐ向こうに行くの?」


「あぁ、だからそんな荷物持ってたのか」


翌日、静希は海外へ行くための荷物を持って学校へとやってきた、もちろんクラスメートは一体何事だろうかと静希に尋ねてきたが、適当にはぐらかしておいた


この中で真実を知っているのは三班の人間だけである


「にしてもまた面倒事を引き受けたのね・・・てっきり断るかと思ったのに」


「向こうから直接委員会に掛け合ったんじゃ断れないだろ、外交関係ってのもあるし・・・ただの学生の辛いところだな」


ただの学生などとどの口が言うのかと鏡花は思っていたが、実際静希の立場としてはただの学生というのもまんざら間違っているというわけでもない


ただの学生であり、悪魔の契約者である、この二つの立場が静希の生き方を面倒にしている理由でもある


これが成人している人間であれば国の友好関係など知らないとでも言えたのかもしれないが、静希は一応ただの学生、周りの大人から比べれば弱い立場であるのに変わりはない


これでもし断った時、あることないこと書かれたり通告されでもしたら面倒なことこの上ない、多少面倒でも今のうちに外面だけはよくしておいて損はないのだ


今は選り好みできる立場にないからこそ、その力を全力で振るう、そして大人になって立場を確立したら受ける仕事を選べばいい


今の立場は下積みのようなものだ、そう考えると多少楽になってくる


「でも話を聞く限り、すごいめんどくさそうね、てかあんたはどういう目的で行くのよ」


「今日渡される資料に詳しく載ってるらしい、移動中に読むさ・・・まぁ戦闘ができるように準備だけはしておいたけど・・・」


猶予期間が一晩だけではできることは限られていたが、もともと用意してあったものも含めてそれなりに武装は強化した、多少の戦闘ならば耐えられるだろうが、どうなるかは不明である


なにせ現場で何が起こっているのかすら把握し切れていないのだ、何が起こっても不思議ではない、城島やエドが言っていたように、何があっても対応できるようにしておいた方がいいのはまず間違いない


「私達は今回は留守番ってわけね?」


「あぁ、ノートとかとっておいてくれると助かる・・・普通に学校はあるからな・・・」


以前単独で向かったときは夏休みであったために気兼ねなくいくことができたが、今は特に何の休日でもない、数日は確実にかかるであろう今回の面倒事、学業が疎かにならないように気を付けなければならないだろう


思えば学生の本分は学業だというのに、こんな面倒事にうつつを抜かしている時点でどうなのだろうかと思えてならない


「明利はいいの?あんたの旦那がまた面倒事に巻き込まれてるわけだけど」


「だ、旦那って・・・気が早いよ・・・まぁ心配ではあるけど、ちゃんと守ってくれるようにお願いもしたし、大丈夫だと思うよ」


お願いした相手というのは恐らく人外達だろう、人外たちに個人的なお願いができるようになるほどに明利はすでに彼らの中での地位を確立しているのだろう


邪薙やオルビアは素直に聞き届けてくれるだろうが、メフィがどういう反応をしたのかだけは気になるところである


「でもこれで海外いくのって何回目だ?交流会に、エドモンドさんの時に、えっと・・・この前の含めて三・・・いや四?」


「いや、今回で六回目だな、イギリス三回、フランス一回、イタリア一回、オーストリア一回・・・何でこんなにヨーロッパ圏ばっかり・・・」


まだ日本の中でも行っていないところが多いというのに、海外にばかり行くことが多くなるのもどうかと思ってしまう


別に海外旅行が嫌というわけではないのだが、たまには日本の中で事件が起きてほしいものである


いや、事件は起きなくてもいいから日本のどこかに旅行に行きたいものである


「んで、オーストリアの土産物って何があるんだ?」


「お前もそれか・・・ザッハトルテとワインと食器類だそうだ」


その言葉に陽太は若干がっかりした様だった、自分が知っているようなものばかりだったのが残念だったのだろう


幸か不幸かそれら全て日本でもよく見かけるものになっている、今さらどこかで買ってくるようなものではないと思っているのだろう


「でも確かザッハトルテの本場でしょ?どうせなら買ってきてよ」


「買うのはいいけど・・・まぁ時間があればな・・・それに形を保っていられるかどうかも保証できないぞ?最悪収納して帰るけどさ・・・」


静希の能力の中に入れることができるサイズであれば、静希がどんな衝撃を受けようとその形を維持しておける


収納系統としての本来の力を発揮するときなのだろうが、土産物のために一つトランプに空きを作らなければいけないというのもなかなか妙な話である


「まぁなんにせよ気を付けなさい、話を聞く限り今までのとはちょっとタイプが違うみたいだしね」


「わかってるよ、それなりに警戒しておく・・・行ってみないことには何とも言い難いけどな」


実際に静希がわかっていること自体が少ないために、まだまだ判断できないことが多いがそれでも警戒するべきだということくらいは十分に理解できる

何が起こってもおかしくない


それを頭に入れて静希はその日の授業を受けていく、集中状態はまだ必要ない、頭を休めることに重点を置いて授業を受けるべきだろう


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ