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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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悪魔の影響

「なに?じゃああいつらに抱き着かれたりしないように頼んだわけ?」


翌日、人外会議の事の顛末を大まかに話すと鏡花は呆れを半分ほど含んだ表情で静希に目を向けていた


一見すれば特にこれと言って変化はない、というか人間に知覚できるような変化が静希にあるかと言われればないのである


こればかりは誰かの首に巻き付いているであろうイーロンに確認するほかない


「でもそれでもイーロンに嫌われてたらどうするのよ」


「それはあれだ、もう俺の性格が悪いってことでいいよ、それ以上のことは求めない、むしろ問題なのは俺があいつらから何かしらの影響を受けているかどうかって話だ」


鏡花はその言葉の意味を理解したのかなるほどと呟いていた


先日静希が考えた危険性に鏡花も気づいたのである、一年で動物に嫌われるほどの変化があった場合、これからの生活によってはもっと強い変化があるかもしれないのだ


鏡花たちはほとんどメフィ達と顔を合わせるようなことはなく、その気配にのみ慣れてしまっている、明利のように日ごろから静希の家に行くようになって初めて人外たちの気配を感じ取れるようになる程度だ


だが毎日のように一緒にいる静希には何かしらの影響があっても不思議はない


メフィ程ではないにせよ、動物たちが逃げ出すような変化が起きないとも限らないのだ


「まぁ妙な変化がないのであればそれに越したことはないわね・・・少なくともあんたの場合かくれんぼもできなくなりそうだし」


鏡花にしては随分と可愛らしい表現をしたものだが、彼女の言うように静希が得意とする隠密行動をするにあたって何かしらの変化があっては困るのだ

例えばもし隠れていた時にいきなり動物たちに威嚇されたりしたらそれだけで隠れた意味がなくなってしまう


一年間の累積が一週間やそこらで変わるとも思えなかったが、これでイーロンに何かしらの変化が起きるのであれば、何かしらの影響をメフィから受けているという事になるのではないかと静希と鏡花は考えていた


「でもよ、それだとエドモンドさんとかも似たような影響があるってことになるんじゃね?」


「ん・・・そう言えばそうだな・・・」


エドやカレンは静希のようにトランプの中に入れているわけではなく、以前の東雲風香のようにその体の中に悪魔を宿していることが多い


静希以上に一緒にいるという以上、静希以上に影響を受けていても何ら不思議はない


逆に言えば、もしエドたちが何かしらの影響を受けていた場合、静希も同じように何かしらの影響を受けるという事になる、一度エドに話を聞いてみるのもいいかもしれない


「もし動物たちにしかわからない影響があるなら、鏡花ちゃんの家のベルちゃんに会ってみるのもいいんじゃないかな、前はそんなに警戒されてなかったように思うけど・・・」


以前鏡花の誕生日の際に彼女の飼い犬であるベルには会ったことがある、明利の言うようにそこまで警戒されてもいなかったし嫌われるという事もなかった


単にイーロンに嫌われていただけか、それともあの時はメフィの影響はそこまでなかったのか、判断に困るところである


「うちの子をビビらせるのはあんまり感心しないけど・・・まぁ確認くらいならいいんじゃない?今度うち来る?」


「そうだな・・・何かしら確認は必要だし・・・あとは近くのペットショップに行ってみるか・・・」


動物が多くいるというとペットショップくらいしか思いつかない、動物園などには入ることはできないし、そう考えると近場の店に足を運ぶのも一つの手だろう


「にしても、イーロンに嫌われただけだっていうのに随分大ごとになってるのね」


「まったくだよ、自分の性格が悪いだけならいいのにって思ったのなんて初めてだ」


これがただ単にイーロンが静希のことを個人的に嫌いなだけであるならばどれだけ気楽だったことか、そしてどれだけ間抜けな事だろうか


この行動や考え自体が空回りだった場合、すべて静希が勝手に勘違いして間抜けを晒しているだけという事になる


それはそれで嫌な状況だが、むしろ空回りであってほしいと思うのも事実である


「まぁ静希の場合都合が都合だしな、仕方ないんじゃね?」


「普通に過ごしてる分には何も変わらないんだけどね・・・気配とか言われても別に何も感じないし・・・雪奈さんは何か言ってた?」


「いや特にはなにも・・・」


雪奈は明利以上に静希の家に入り浸る傾向があるために、明利以上に人外やそれらの気配には敏感になっている可能性がある


その為静希の気配の変化に何かしら気づけたかもしれないが、雪奈自身も特に何もないのではと言っていた


雪奈も変化がないと言っているのであれば本格的に静希の空回りとなっている可能性は否めない


確証も何もなく、何より今のところ嫌われているのはイーロンだけなのだ、判断材料としては少なすぎる


「まぁもし影響があったんだとしたら、あいつらとの関わり方もこれからもう少し考えていったほうがいいんじゃないの?私が口出しするような事じゃないかもしれないけどさ」


「ん・・・まぁ考えておくよ」


この問題は鏡花たちには直接的には関係がない、静希とメフィの問題だ、その為鏡花たちが何かしら忠告しようと最終的な決定権は静希達にある


対等契約、静希とメフィの二人の間に交わされる不可侵の契約、これは恐らく静希が死ぬまで変わることはないだろう、それ故に他の誰かが口を出せるような問題ではないのだ


鏡花も、そして陽太も明利もそのことを重々承知していた











『なるほど、それで僕に電話してきたってわけだね?』


「あぁ、何かしら影響があるんじゃないかと思ってな」


その日の夜、静希はエドに電話をかけていた、件の悪魔の影響に関して聞くためである


丁度仕事が終わったところだったのか、エドは時間があるからと静希の相談を快く引き受けてくれた


『今のところ僕やあの子たちには特に影響はないけれど・・・ふむ・・・確かに何かしら変化があると考えてもいいかもしれないね』


「俺の杞憂であることも十分考えられるんだけどな、一応明日ペットショップに行って確認してこようと思ってるんだ、そっちでも何かしらのチェックをしておいてくれないか?」


考えすぎならそれでいい、静希が心配し過ぎているのであればそれでいいのだ、ただ単に何の変化もなく自分が嫌われているだけというならそのほうがいい


とはいえ自分たちは良くも悪くも人ならざるものを抱え込んでいる


特にエドやカレンはその体に直接宿らせているのだ、しかもそれは動物たちが即座に逃げ出すレベルの上級悪魔、何の影響もないという方が不自然に思える


メフィ曰くそういった変化があったというのも珍しいとは言うが、長期の契約というのは何が起こるかわからないものが多い、それとなく気を付けておいて損はないだろう


「ちなみにカレンとかはなんて言ってる?変化とか気になったこととか」


『ちょっと待っててくれるかい、今聞いてくるよ』


エドはそう言うと受話器を置いてカレンに話を聞きに行ったのか少しの間席を離れた


すると数秒と経たずに受話器の向こう側から誰かの声がする


『シズキか?私だ』


受話器の向こう側から聞こえてきたのはエドと契約している悪魔ヴァラファールのものだった、唐突に聞こえた渋い声に静希は若干驚きを感じていた


「ヴァラファールか、お前どうやって電話してるんだ?」


『なに、アイナに受話器を持ってもらっている・・・ところで何か影響があったと聞こえたが、メフィストフェレスは何と言っている?』


「あいつ曰く、変化があった契約者は珍しいって・・・少なくともこういう変化は記憶にないって言ってたな」


アイナに受話器を持ってもらって電話しているヴァラファールを想像して若干微笑ましくなるが、今はそんな事よりももっと重要なことがある


ここで彼に話を聞けるというのはなかなかにありがたい、思えば他の悪魔の会話したこと自体あまりないのだ


「お前としてはどうだ?契約者が契約してる悪魔から何らかの影響を受ける事、あり得ると思うか?」


『・・・ふむ・・・多少なりとも影響を受けるのは否定できん、この子たちやエドも人外の気配を感じ取れるようになったように、何かしらの変化はあるだろう』


思えば確かに静希も、そして明利も人外の気配をある程度感じ取れるようにはなっていた


そう考えると外見的ではなく、内面的な意味でも何かしらの変化を受けるのは当たり前なのだろうか


『とはいえ、どちらかと言えばそれは人間側の慣れや感覚的なものだ、本質的なものにまで影響を与えるとは思えんが』


「やっぱりか、メフィもそんなことを言ってたな・・・ちなみに動物に嫌われたりだとかそう言うのはあるか?」


『・・・それはただ単にお前が嫌われるタイプだったというだけではないのか?』


そう言われてしまえば今回の件は確かにそのとおりと言わざるを得ないのだが、それだけではない可能性があるだけに若干不安なのだ


なにせこれからの静希の行動そのものに関わってくることがあるのだから

妙な気配がしたら五十嵐静希がいる


そんな風にみられるのは極力避けたいところである、我ながら奇妙な想像ではあるが完全に否定できないだけに情けない限りである


「まぁなんにせよ、確認しておいて損はないと思うんだ、特に俺と違ってエドやカレンはお前達をずっと体の中に入れてるわけだろ?」


『まぁそうだが・・・そうだな、何かしらの影響があるというのも否定はできんか・・・とはいえ動物に嫌われるというのはさすがにないとは思うが・・・』


ヴァラファールとしても悪魔がいつも一緒にいるから動物に嫌われるようになったという静希の考えは多少否定的なようだった


もちろん静希だってそんな暴論を突き通すつもりなどない、ただ単にイーロンに嫌われただけという事だって考えられるのだ、まだ検証も途中であるために無理に誰かに押し通したいような内容でもない


むしろ可能なら誰かに論破してほしいところである、動物に嫌われるのは悪魔のせいではなく自分のせいなのだと


そう考えながらなんで自分はこんなことを考えているのだろうと若干情けなくなる静希だった


『・・・ん・・・エドが帰ってきたようだ、代わるぞ』


「あぁ、頼む」


受話器がヴァラファールからエドに戻ったのか、向こう側から聞こえていた渋い声が聞こえなくなると、いつものエドの声が聞こえてくる


『もしもしシズキ?カレンは特にこれと言って変化はないと言っていたよ、オロバスもそんな症状が出るような経験は無いそうだ』


「そうか、それならいいんだ、明日ペットショップに行って嫌われないか試してくるよ」


ハハハそれがいいよとエドは一つ不安が解消されたのか気楽な笑いを飛ばしている


エドやカレンに影響がないのであれば自分にも影響はほとんどないだろう、そう言う意味ではこの結果はありがたいものと言えるかもしれない


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