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J/53  作者: 池金啓太
二十八話「見るべき背中と希少な家族」

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ドラゴンもどき

「で、なんなのよそのドラゴンもどきは」


「いやその・・・今日討伐した完全奇形の子供だと・・・」


鏡花との合流が済んでの第一声がこれだったために静希としてもどう反応していいか困ってしまっていた


眉間にしわを寄せてあからさまに不機嫌そうにしながら生まれたばかりの奇形種の方に目を向ける


ドラゴンもどき、鏡花の的確かつ安易な表現に静希は苦笑してしまう、確かに見た目はドラゴンのそれに近い、七つのボールを集めたら出てきそうな外見をしているだけに否定もできなかった


明利の体に巻き付くようにして寄り添っているその姿は見る人間が見たらまるでマフラーのように見えるだろう


何とも趣味の悪いマフラーだと言われそうだが、明利も別に嫌ではないのか巻き付かれるがままになっていた


「完全奇形の子供が生まれて・・・しかも明利を親と勘違いか・・・皮肉なもんね」


「本当の親はむしろ俺たちが倒したんだけどな・・・」


あのドラゴンもどきこと奇形種は明利を親だと思っているようだったが、実際には明利を含めこの場にいる全員は親の仇であるのに


そこは生き物の本能というものだから仕方がないと言えば仕方がないのだが、何ともやるせない話である


「で?残った卵が七つ、この子が生まれたことを考えるとあまり猶予はなさそうね」


「あぁ、今すぐにでも先生の所に搬送したほうがいいと思う、どうするかは先生にも意見を聞かないとな」


このドラゴンもどき奇形種が生まれたことを考えると、他の卵がいつ孵っても不思議はない、すぐにでも城島達の下へこれを運び、どうするかを考えなければならないだろう


ついでに言えば、今明利の体に巻き付いている奇形種に対しての対応もどうするか考える必要がある、懐いているとはいえ奇形種だ、それもあれだけ巨大だった完全奇形の子供だ、一体どれだけ大きくなるのかも、どれほど危険になるのかもわかったものではない


生まれた途端に人に囲まれていたというのもあって、人間に対してそこまで強い警戒心を抱いていないことが幸いしてひとまずは安全だろうが、これから成長してどうなるかはわかったものではない


「たぶんこいつは研究所送りになるだろうな、せっかく生まれたのに可哀想ではあるけど」


「え?静希達がこれ飼うんじゃないのか?」


陽太の言葉にその場の全員が呆れたような顔をする、先程まであれの親と戦闘をしていながらどんな顔をしてその子供を飼うなどという考えが浮かぶのか


「あんたね、あのデカブツの子供よ?どれだけ大きくなるかもわからないし、それにどう育つのかも、どんな風に育てればいいのかもわからないような生き物を飼えるわけないでしょ?」


「で、でも明利になついてんじゃん、それに人外は静希の担当だろ?」


人外、確かに静希は多くの人外と関わってきたし、すでにそのうちの一体は奇形種であるが、だからと言って面倒事を自分から引き込むほど静希はバカではない


「勝手に俺を面倒事の担当にするな・・・責任のとれないような命を飼うわけにはいかないだろ」


「明利んちは一軒家じゃん?無理か?」


「・・・頑張れば無理ではないと思うけど・・・もしさっきの完全奇形クラスの大きさになると・・・」


今は明利の首や体に巻き付いているこの小さなドラゴンもどき、成長してどのような姿になるのか全く想像できないのだ


爬虫類がどの程度の速度で成長するのかは知らないが、もし先の完全奇形と同じレベルの大きさになった場合、まず間違いなく屋内で飼うことはできなくなるだろう


責任が取れないような命は飼ってはいけない、それはペットを飼う上での鉄則だ


「でもお前いろんな面倒な奴らが家にいるじゃん」


「あいつらは別だ、動物と一緒にするな・・・それに生まれたばかりならまだいくらでも生活環境は変えられる、懐いてる明利がいなくても大丈夫になる」


刷り込みというのはあくまで生まれてからすぐ、まだ自分で餌などを確保できないような幼少時にのみ有効な感情である


大人になるにつれてその感情は薄れていき、やがて親という生き物そのものを認識できなくなり、ただの一個体として扱うようになる


構ってくれなかったり、餌を与えてくれなかったりすると自然と離れていく、それは彼らが生きる上で仕方のないことだ


人間に慣れているのも生まれてすぐ人間に囲まれていたからだ、自分に近い存在が他にもいればいずれ野生に帰ることもあり得る


逆に言えば研究所でこのまま人間に囲まれて過ごせば人間に慣れた、飼いならされた奇形種にすることだってできるだろう


だがそれは広大な土地や施設があってこそ成り立つものだ、一個人の家で何とかなる問題ではない


ただのトカゲや蛇とは違うのだ


もしこのまま大きくならないとしても、これは奇形種、一体どんな習性を秘めているかもわかったものではない


「静希の言う通りよ、生き物を飼う以上責任が生じる、それはその子が死ぬまで面倒を見るってことだもの、それができる保証がない以上、その子は飼うことはできないわ」


陽太としてもせっかく明利に懐いているこの奇形種を手放すのはもったいないと思っているようだったが、こればかりは仕方がないのだ


「とにかく早くこれを先生たちの下に持っていくぞ、いつまでもダラダラはしていられん」


「そうですね、じゃあ移動します、卵は動かないように固定しておきますから地面においていいですよ」


卵を持っていた四人が地面に卵を置くと鏡花は動かないように固定し、さらに全員を乗せた状態の台座を作り出す


近くに手すりを作ったうえで移動を始めると、数分後にはもう林業区域に戻ってきていた


「おー・・・なんかすごい楽だな、エスカレーターみたいだ」


「案外手間が多いんだけどね・・・まぁ一度慣れればどうってことないわ」


ゴーレムの動かし方を元にした移動法はすでに会得したのか、鏡花は得意げに微笑みながら木々を縫うように移動していく


これがあるかないかでこれからの行動は随分と楽になるだろう、その分鏡花の負担が多くなる気がしたが、そのあたりは彼女のことだ、なんでもない顔をするに違いない


林業区域を越えて事業所前にやってくるとそこには先程自分たちが戦っていた完全奇形の亡骸とそれを見にやってきた近隣住民、そしてそれを押さえている城島達の姿が見える


静希達が戻ってくるのを確認すると、城島と三年生の教師は住民たちの対応を事業所の人間に任せてこちらに歩み寄ってきた


「ずいぶん手間取ったらしいな、お前達らしくも・・・なんだそいつは」


それぞれ班に分かれて教員の報告する際に、城島は全員の顔を順々に眺めていたのだが、その視線が明利に移ったとたんに怪訝な表情をする


なにせ彼女には蛇のようなトカゲのような奇妙な生き物が巻き付いているのだ


ドラゴンもどきも城島の顔を興味深そうにのぞき込んでいる、城島と目を合わせてビビらないあたりこの奇形種は案外度胸があるのかもしれない


「えっと・・・まずはあれを見てください、今回討伐した完全奇形の残したっぽい卵なんですけど、搬送中に一つ生まれてしまって・・・」


「・・・それがこいつか・・・」


恐る恐る手を伸ばすとドラゴンもどきは興味深そうに手の方に顔を近づけ、僅かにその指先に頭をこすりつける


人間に慣れ過ぎているような気がしたが、生まれたばかりだから仕方がないのかもしれない


「それで、あの卵とこいつをどうすればいいか、先生に意見を聞こうと思ってここまで運んできたんです」


「ふむ・・・お前達としてはどうするつもりだ?」


一通りドラゴンもどきを撫でたところで城島は全員を見渡す、どうやら三年生の方でも同様の報告が終わったようで、意見を統括するべきだと思ったのだろう、二、三年を一カ所に集めることにした


「今のところ意見が分かれてて、研究所に送るべきって意見と、今すぐ処分するべきって意見と、先生たちの意見を聞いたうえで考えるっていう三つに分かれてます」


「なるほど・・・まぁどれも正論といったところか」


静希達の意見を聞いたうえで城島は三年生の教員とも話し合うようで、卵の傍らに立ち、これからどうするか考えているようだった


どの意見も間違っているとは思えない、研究所に送れば奇形種の良い実験材料になるだろう、殺せばまずこの卵の中身たちが危険を及ぼす可能性はゼロにできるだろう、そして自分たちだけで判断するべき内容ではないのも間違っていない


教師としてはどうするべきか、裁定に非常に頭を悩ませていた


「あの・・・先生、一ついいっすか?」


「なんだ?他に意見があるのか?」


「はい・・・えっと、明利に懐いてるあいつなんですけど、学校で飼う事ってできますか?」


陽太の言葉に全員が目を見開く、まだあきらめていなかったのかという呆れが含まれるものもあり、その手があったかという驚愕も含まれた


「・・・何故学校で?」


「どんな生き物に育つかもわからないんじゃ個人で飼うのは難しいって言われたんで・・・学校とかのでかい施設がある場所なら大丈夫かなと思ったんすけど」


それはつまり、学校そのものが飼育するという事だ、無能力者の学校などでは鶏や豚などの動物が飼育されているようなところもあるという


それが奇形種となると少々事情が変わるが、それはそれで学校という立場からすると逆にありがたかったりするのだ


学校では奇形種という存在そのものの定義は教えるものの、実物を見せるという事は今までできていない、実習などで外に出て、敵という形でしか遭遇できないのが基本的な奇形種だ


だがもし、手懐けて教育材料という風にできるのであれば、これ以上ない最高の教材となるだろう、実際に生きた、本物の奇形種を見せられるのだから

陽太の意見は自分たちがダメなら学校なら大丈夫じゃないかという、どちらかというと飼う場所を提供するというだけのものだったのかもしれないが、実際はもっと深い、それこそ教育そのものに関わるほどのものだった


静希も熊田も鏡花も、そして城島も三年の教員もそのことに気付いていた

だからこそさらに迷いが生じた


安全を考えるのであれば、この卵は処分するか、研究所へ送るべきだ、だがもし委員会などの了承が得られるなら


教育者としては、この卵、いや今明利に巻き付いている奇形種だけでも飼育し、教材として置いておきたい、そう言う考えが芽生えていた


「・・・少し待っていろ・・・いろいろと確認することがある、全員卵と亡骸から目をそらすな」


城島は三年生の教員と共にその場を離れた、恐らく委員会や学校などに問い合わせをするのだろう、陽太は自分が言ったことがどういうことなのか自分でも理解できていないのかきょとんとしていた



「・・・あんたね・・・なんてこと言いだすのよ」


「え?だって俺らだけじゃなくてみんなで世話すれば死ぬまで面倒見れるだろ?」


陽太としては単純に、全員で面倒を見れば寿命の問題も解決し、なおかつ大きくなったとしても学校であれば広大な土地があるためにカバーできるというただそれだけの理由で立案したのだろうが、事はそう単純なものではないのだ


奇形種の出産に立ち会うということ自体が困難だったのに、これからは頻繁に確認できるようになるかもしれないのだ


無論卵生ではあるが、奇形研究という意味でも、そして教育の環境という意味でも重要な転機となるだろう


卵は八つ、うち一つはすでに生まれてしまったが、今のところ明利には何の危害も加えていない、温厚な性格であると思いたいが、将来どうなるかわからないというのもあり少し不安ではある


「ちなみにさ、仮にこの子を学校で飼育することになるとしてさ、トカゲとかの寿命っていくつなのよ」


「そもそも奇形種だから寿命がどうかとかわからないけど・・・えっと・・・トカゲは大体十年前後、蛇は二十年前後だってさ」


軽く携帯で調べてみるとあくまで目安でしかないがそのようなことがわかる、あの奇形種がヘビよりも長い寿命を有していたとしても何ら不思議はない、もしかしたら何十年、いや百年単位で生きることもあり得るのだ


あのままの大きさであれば教室の中でも飼うことができるだろうが、もしあれの親と同じくらいの大きさになった場合、演習場を一つドラゴンもどきのために貸し切り状態にしなくてはならないだろう


無論それによって得られるリターンもリスクもかなり大きい、奇形種がいるというだけで危険視されることもあるだろうし、実戦でしか遭遇することのできない奇形種といつでも会うことができるのだ


研究所に送ったとしてもその生態や状態に対しても調べやすくなるだろうし、何より容易に交配などの実験も行える、教育と奇形研究という観念からすればこの卵たちを処分するという選択肢はないに等しい


だが問題はこの卵から生まれた奇形種たちが人間に牙をむいた場合だ、それを危惧して静希と熊田はすぐにでも処分するように意見しているのだ


物事には万全などは存在しない、もし将来的に研究所から逃げ出して人を襲い殺してしまった場合を考えると、今ここで処分しておいた方が安全ではある


無論リスクがある分リターンも大きいことは二人とも理解している、ただ人間の命と奇形種の命を比較した時、静希や熊田は人間の方が重いという事を即決する


万が一を起こさないために、この場で殺しておくことが最適な手段であることは間違いない


とはいえ、決定権が自分たちにはないことも十分に理解していた


あの場で殺さなかった時点で、すでに戦闘に巻き込まれてという言い訳はまず使えそうにない、後は城島達の判断を待つしかないのだ


「そう言えばさ、トカゲとかヘビって何食べるの?普通に動物とか?」


「あの時食われかけたからな・・・普通に動物じゃねえの?生まれたばっかの時は芋虫とかか?」


実際に飲み込まれた静希としてはこの話題はあまり良いものではないが、実際飼うことになった場合この話は重要だ


動物性のものを好むのであれば人間を食うこともあり得る、一度人間の味を覚えたらどうなるか


飼う場合、そうさせないように飼育する必要がある、子供の頃となると一体何を食べるのか想像もできない


「そう言えばトカゲとかって卵の殻を食べたりするんだろ?」


「あー・・・それってトカゲだっけ?明利、その子を卵の上に乗せてやって」


生まれて一番最初に食べるものは、自分を守っていた卵、確かそんな生き物がいたような記憶がある、陽太の記憶であるためあまり正確ではないかもしれないが、試してみて損はないだろう


明利が割れた卵の上にドラゴンもどきを置くと少し周りを見た後で自分の下にある卵の殻に気付いたのかしきりに匂いを嗅いでいる


いや、正確に言えば匂いを嗅いでいるようなしぐさをしていると言ったほうがいいだろう、そもそも嗅覚があるのかさえ定かではないのだ


そしてしばらくすると殻の一部を口に含み始めた、どうやら卵の殻を食べるという習性があるらしい、他の卵でも食べられるかはさておき、これは大きな発見だった


「にしてもなぁ・・・こういうのはちょっと初めてだね・・・今まで奇形種を倒すことはしてきたけど」


「そうだな・・・奇形種にあったらまず攻撃が自然だったからな・・・こういうのは新鮮だ」


雪奈たちからすれば奇形種は発見したらすぐに処分が鉄則だったために、まじまじと観察するような機会はなかったのだろう、殻を食べているドラゴンもどきを興味深そうに眺めていた


雪奈の場合、静希の使い魔であるフィアを普段から見ているが、フィアの場合は生粋の奇形種とは言い難い、なにせフィアはもうすでに死んでおり、生きているように見えているだけなのだから


だが目の前にいるドラゴンもどきの奇形種は生きている、生きたまま雪奈たちの前で存在することを許されている、そう考えると何とも奇妙なものだった


奇形狩りの班として定評のある雪奈たちがその子供をこうしてみているのだから



「待たせたな・・・委員会からの決定が来た」


数十分ほどして、城島と三年生の教員が戻ってくると、静希達は卵とドラゴンもどきを近くに集める


このドラゴンもどきと他の卵たちの命運が決まると言ってもいいだろう、城島の言葉を待ちながら静希達は卵を固唾をのんで見守っていた


「結果から言えば、卵は研究所へ、そしてそこの蛇トカゲは獣医に診せた後、喜吉学園の方で教材として飼育することになった・・・無論条件付きではあるが」


その決定にその場にいた全員が思い思いの反応を示していた


静希と熊田はどうなっても知らないぞというあきらめを含んだ表情を、明利と雪奈はとりあえず殺されなくてよかったという安堵の表情を、陽太はドラゴンもどきが殺されなくてよかったというのと自分の意見が通って嬉しいのか笑みを浮かべている


この結果がこの卵やドラゴンもどきにとって良いものなのかどうかは静希達では判断できなかった


「ちなみに先生、条件って?」


「・・・まぁ当然だが死なせないようにすること、寿命が来る前に積極的に交配させることだな・・・あと研究所の方に送られた卵のうち、いくつかは他の専門学校の方にも移送されるそうだ・・・まぁ喜吉だけが優遇されるわけにはいかないからな」


常に平等な教育体制を、それは教育者としての心構えだろうか、恐らく生まれる卵の中のどれかは他の専門学校で同じように教材として大事に育てられることになるだろう


人に飼育される奇形種、卵を見つけたのは本当に偶然だ、その偶然がこれからどのような結果を生むのかは全く分からない


「あと、まだ未発見の卵がある可能性がある、亡骸と卵、そしてその蛇トカゲの搬送が済んだらお前達はまた山に入って卵の捜索をしてもらう」


「うぇ・・・まだ働かせる気ですか・・・?」


陽太の言葉に城島は当たり前だと返す、実習はまだ二日目なのだ、しかもまだまだ日が落ちるには時間がある、この時間を無為に過ごすのはもったいないという事だろう


戦闘が早かったおかげで早いうちに決着をつけることができたのは僥倖だった、とはいえその分面倒事の卵、もとい種となる存在を見つけてしまったのも事実である


「ちなみに先生、なかった場合はどうするんですか?まさか見つけるまで探せってことは・・・」


「そこまでは言わん、どうせ後日に正式な調査団が派遣されることになるだろうからな、お前たちはその前の下調べ程度で構わん、無いものを見つけろともいえんからな」


奇形種の卵という事もあってやはり静希達が帰った後にきちんとした調査チームが組まれ、この辺り一帯を調査するのだろう


無論早い行動の方が孵化する前に確保できるため、静希達が行動を起こせという事なのだ


静希達としてもやるべきことができたという意味ではむしろいいことなのかもしれない


とはいえ問題が一つある、それは明利の体に巻き付いているドラゴンもどきだ


「あの・・・この子も今日引き渡すんですか?」


「・・・その予定だが・・・難しいか?」


明利は何度かドラゴンもどきを地面においたり卵の近くにおいたりするのだが、すぐに明利の体を登って定位置とでもいうかのように首に巻き付くのだ


自分の居場所というか、そこが落ち着くのだろう、ちょっとやそっとでは離れそうになかった


「無理に引き離すとストレスで能力を発動しかねないんじゃ・・・後日獣医に診せるって形の方がいいんじゃないですか?」


「・・・確かに・・・ここで能力を発動されても厄介だな・・・その旨は後で委員会の連中に伝えておくか・・・」


何の因果か親代わりとなってしまった明利、本人はまんざらでもないのだが、今後喜吉学園全体で育てていくのであれば親離れさせる必要がある


なにせ明利はあと二年も経たずに学校を卒業してしまうのだ、大勢の人間が世話をすれば自然と明利の必要性は薄れていくと思うが、環境を少しずつ整えていく必要があるだろう


育てる場所、そして何を食べるのか、大きさや周囲の適切な温度、考えることは山積みだ


「・・・この亡骸も研究所に送るんですか?」


「あぁ、奇形種の死骸はそれだけで研究対象だ・・・特に完全奇形のそれは貴重だからな、一通り研究した後はきちんと埋葬するだろうさ」


近くに放置してある三分割された巨大な奇形種の亡骸を見ながら静希達は複雑な心境になる、なにせこれから飼うつもりのドラゴンもどきの親なのだ


今回の目標であったとはいえ何とも居た堪れない気分になる、その子供のドラゴンもどきが仇ともいえる明利を親代わりと思っているのも何とも皮肉な話である


「さすがにこれだけの大きさとなると、運ぶのも一苦労だろうが、そのあたりは委員会の能力者が何とかするだろう、ザリガニの時もそうだっただろう?」


「あー・・・確かに、死体なら比較的運ぶのは楽そうですね」


当たり前だが、死体は生きていない、大多数の収納系統の能力者なら収納できてしまうのだ


能力によっては質量や体積などの問題も出てくるが、優秀な収納系統の能力者ならこのくらいの重さなら運ぶことはできるだろう


かつてのザリガニの時がそうだったように、今回の蛇トカゲの完全奇形も問題なく運搬は可能だ


むしろ問題は卵の方だ、有精卵である以上卵は今生きている


生きているものを収納できる能力者は意外と少ない、そうなってくると転移などを併用して運ぶことになるだろう、衝撃を与えないように、できる限り手早く研究所への搬送が求められる、委員会の優秀な能力者の実力が試される事案と言えるだろう


誤字報告を十件受けたので二回分(旧ルールで四回分)投稿


今回の風邪からの大量誤字のコンボを『二二〇事件』と名付けることにしました、もう起きない事を祈ります


これからもお楽しみいただければ幸いです

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