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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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静希の義務

一時間の仮眠を終え、静希は城島のいる女子部屋へと足を運んでいた


「事情は大まかにながら察したが・・・ありきたりな話だ・・・」


「そうですね、人質とられて犯罪行為に加担・・・それって確証あるわけ?」


「無能力者が拷問に近いことされても口を割らないってのは結構なことだぞ?それにその人質とやらを確保したらもう言い訳は使えなくなるんだ、確保しておいて損はないだろ?」


静希の話を聞いて城島はため息をつき、鏡花は未だ疑いの色が強い


実際に話を聞いていないというのもあるのだが、今まで犯罪行為を行っていた人間がそう易々と協力的になるとは思えないのだ


「先生はどう思います?さっきの話聞く限り明らかにその場限りの言い訳みたいに聞こえるんですけど」


「ふむ・・・五十嵐、件の男はテオドールの部下と今いる捜査隊の両方での監視体制を敷くという話になっているのか?」


「テオドールの方は問題ありませんが、捜査隊の方は現在打診中です、向こうの裏取りが終われば監視と調査の体制に移行するでしょう」


テオドールの部下の監視だけでも十分な気もするが、正規の部隊にしっかりと監視と調査を任せた方が確実ではある、むしろテオドールの部下に任せたのは静希の方に情報を回させるためでもあるのだ


確かな情報源として確保するためとはいえほぼ無関係な人間二人を巻き込むことに関しては罪悪感が多少なりともあるが、それも仕方がないだろう


「で、その人質ってのはさ、どうするわけ?まさかずっとこのまま?」


「いいや、リチャードの件が片付いたら解放して、ついでにジャンも一緒に逮捕って形になるだろうな、気の毒だけどそこは仕方がない」


どんな事情があろうが犯罪を行ったことには変わりがない、その為経歴に多少の傷はつくかもしれないがその程度で済むのならむしろ御の字である


完全に巻き込まれただけの妻と娘に関しては本当に気の毒としか言いようがない


「明日その人質の二人と話をしに行くんだったな、付き添うか?」


「いいえ、今回は俺だけで行きます、さすがに今回ばっかりはそうせざるを得ないでしょうし・・・」


静希がおもに動きすぎたせいで鏡花たちを無駄に巻き込むわけにはいかないし、エドやカレンはなるべくこの件に関わってほしくない、というよりテオドールに近しい人間に関わってほしくないのだ


もしテオドールの魔の手があの二人にも及んだ場合、静希のように対処できるとも限らないからである


「妻の方はヒステリーになる可能性もある、冷静に話をしようとしても無駄かもしれんぞ?」


「その時はその時です、俺は事情を話すだけ話してお暇しますよ」


事情を知らせる義務が静希にはあるし、人質になっている二人には事情を聞く権利がある、もし向こうが聞く権利を放棄した場合は、静希の義務だけを達成して帰ればいいだけである


懇切丁寧にいちいち説明して納得してもらおうとは思っていないのだ、なにせ静希がやらせたのは保護などと言葉を濁しているが実質は誘拐と同じなのだから


静希がするべきは事情を説明するだけ、それ以上は関わるつもりなどない、もし向こうがしっかりとした態度で、然るべきことを聞いてきた場合は応じる準備はあるがヒステリックを起こして喚いた場合は放置して監禁が一番安全である


なにせ人質の二人はどのような状況であるかは不明であるものの命の危険があるのだ、下手に外を出歩かせるよりも閉じ込めておいた方が危険は少ない


「もしテオドールの部下が人質を傷つけるようなことがあればどうするつもりだ?」


「その時はテオドールに報いを受けてもらいましょうか、部下の失態は上司の失態と同じですしね」


静希がそう笑うと鏡花は僅かに寒気がする、静希の今回の考えがほんの少しだが分かったのだ


今回静希はリチャード・ロゥの情報を得るために行動した、特に自分たちに疑いの目がかかることがないように、自分たちが犯罪を犯さないように


だからこそ回りくどい真似をしたし、その為の準備もした、そして今回の行動を起こすうえで静希が実際にした犯罪行為と言えば件のジャン・マッカローネを傷つけたことくらいである


他の全ては他人にやらせ、実際に自分が行動して何かを成すという事は一切やっていないのだ


誘拐や人質の確保、そして監禁などもエドやテオドールたちに任せている


自分の手を汚すことなく情報だけを手に入れるために行動しているのだ、こうしていると静希がいかに狡いかがよくわかる


「・・・あんたってきっとろくな死に方しないわね」


「自分でもそう思ってるよ、まぁ老衰はできないだろうな、いろいろ無茶してるし」


静希自身自覚しているのだろう、鏡花に皮肉を言われても全く気にした様子はなかった


自覚しているからこそたちが悪いのだ、性格が悪いという事を自覚している分演技してそれを隠すことも容易にできる


静希のことを今さら疑うつもりはないしそう言う人物だというのも知っているが、エドやカレンがこの小悪党に絶大な信頼を置いているというのが不憫でならなかった


「先生はいいんですか?生徒が犯罪すれすれどころか犯罪そのものをしてるってのに・・・」


「本来なら注意するべきだろうな・・・だがまぁばれないようにすればいいだろう、五十嵐の場合しっかりとコネを作ったうえでやっている、何より犯罪自体が目的ではない、ギリギリセーフラインといったところか」


鏡花だったら一発アウトの所なのだが、城島はどうやら今回のことを黙認する姿勢のようだった、その言葉に静希も満足したのか鏡花に向けて笑みを浮かべながらブイサインをしている


とりあえず鏡花はその顔めがけグーパンチをすることにした









翌日、静希は宣告通りテオドールの部下に連れられて今回巻き込まれたジャンの妻と娘のもとを訪れるべくある建物にやってきていた


エドモンドからスーツを借り、彼女達と交渉するに当たって、まずは形から入ろうと思ったのだが、どうにも服に着られている感が否めない


エドとカレンは似合っていると言っていたがどうにも違和感が拭えないのだ


静希がたどり着いた建物は一見するとただのビルのように見えるが、どうやらここはテオドールの組織が所有しているものらしく、最上階に件の二名を保護しているのだとか


エレベーターで最上階に登ると、エレベーターホールのような場所があり、いくつかの部屋に繋がっている、そしてある部屋の前に二名のスーツの人間が待っていた


「・・・ミスターイガラシで間違いないな?」


「あぁ、相違ない・・・二人は中に?」


「今は落ち着いている、今から二時間ほどは部屋を自動的にロックする、存分に話し合いをするといい、防音も万全だ」


どうやらテオドールは部下にも下衆の勘繰りに近い考えを伝えたらしい、二人の男が下卑た笑みを浮かべているのを見て静希は小さくため息をつく


「一つ言っておくぞ、お前達とその仲間にも伝えろ、中の二人に手を出したらその時は不能にしてやると、これはテオドールにも伝えておけ」


「・・・わかった、伝えておこう」


そう言って男性は二枚のカードキーを静希に手渡した


どうやらこの先に行くにはこのカードがなければ進めないらしい、さらには番号認証も必要なようだった


厳重な監視で何よりだと満足しながら静希は部屋の中に入っていく


部屋の中に入るとソファで二人寄り添うように座っている女性に目が向く


写真に比べると多少の違いはあれど、ほぼ遜色ない


娘の方は現在高校生くらいだろうか、静希と同い年のように見える


女性の方は写真より少し老けているものの、まだ肌艶がよく若々しく見える、日本人女性のそれとは全く違うその外見の変化に静希は少しだけ戸惑った、本当にこの二人がジャン・マッカローネの家族なのだろうかと


二人を見た後で静希は部屋の内装を確認する、天井には照明、床はカーペットが敷かれており家具もほとんどのものがそろっているようだった


そして自分が入ってきた扉を見るとどうやら内側からも鍵を使わなくては扉が開かないようにできているらしい


しかもキッチンや冷蔵庫まで完備しており、日常生活を送るには何の問題もないようだった、扉の横にはインターフォンのようなものもついており、恐らくそこからいろいろな用件を伝えられるのだろう


近くには貨物用のエレベーターのようなものがあるが、これも先と同じように鍵がなければ開かないようにできているようだった


窓もついてはいるが本物の窓ではなく、外の映像を映しているだけの液晶画面のようだ


通常の手段では逃げ出すことなどできない、誰かを監禁するにはもってこいという事だろう


「・・・どなたですか・・・?」


「・・・初めまして、先日すでに伺っているでしょうが、あなたたちに今回の件の事情を説明に参りました」


二人が座っているソファの対面にある椅子に腰かけると、静希は表情をわずかにやわらげる、まずは自分に敵意がないという事を示すべきだろう、今回はただ事情を説明に来ただけなのだから


騒がれても迷惑なだけだ、ここは穏便に済ませようと静希は二人に向き合う


「事情を説明する前に一つだけ確認をさせてください、旦那さんのお名前を聞かせていただいても構いませんか?」


「・・・ジャン・・・ジャン・マッカローネです・・・」


唐突に名前を聞いてもすぐにその返答をするあたり、恐らく嘘は言っていないだろう、この二人は純粋に恐怖を抱いている、この状況下で嘘を吐くほどの胆力は持ち合わせていないだろうことがうかがえる


「ありがとうございます・・・では今回のことについてお話しさせていただきます・・・端的に言えば、あなたたちをここに招いたのは『保護する』というのが一番の目的です」


「・・・保護する・・・?あんなに無理やり連れて来ておいて何を・・・!」


どんな連行のされ方をしたのかは知らないが、恐らくそれなりに乱暴な運び方をしたのだろう


テオドールに後で文句を言わなければならないと思いながらも静希は表情を崩さない


「事情を説明する時間も惜しかったのだとご理解ください、お二人はそれほど危険な状態にあったのです、とはいえ怖がらせてしまったのは事実です、どうかお許しください」


そう言って静希が頭を下げると、妻と娘は顔を見合わせて静希の話を聞く体勢になろうとしていた


静希が真摯な対応をしているという事と、自分たちがそれほどまでに危険な状態にあったという言葉に興味を示したのだ


未だマイナス方面での興味だが、少なくとも静希の話を聞くだけの状態には移行できたようだった


どうやら恐慌状態からは抜けられているようだ、一晩時間を空けたのが丁度良いクールダウンになったのかもしれない、静希からすれば好都合だった


あとはどれだけ今回の事態を理解できるか、そこがネックになるだろう、とりあえず静希は本題から話すことにした


「まず、何故あなたたちが危険な状態にあるのか、そのことからお話ししようと思います、端的に言えばあなたたちは命を狙われています」


命を狙われている


チープな言葉だがそんなことを言われて冷静さを保っていられる人間は少ないだろう、誰もが冗談として受け取るか、あるいは動揺するかの二択である


目の前の二人に関しては動揺の色の方が多いようだった


「・・・命・・・何故私たちが・・・!?」


「それも今からお話しします・・・その理由を話すにはまず旦那さんの、ジャン・マッカローネの行ったことについて話さなければなりません」


自分たちの命が狙われている、そして話題が夫であるジャンの話に移ったからか、彼にも危険が及んでいるのではないかと考えた妻は顔に手を当てる


「あの人は・・・あの人は無事なのですか?」


「・・・はい、我々の手のものがすでに保護しています・・・とはいえ少々事情が込み入っていますが」


ジャン・マッカローネの場合、単なる保護というよりは監視の意味合いの方がずっと強い、なにせ貴重な情報源だ、傷つけるわけにも、ないがしろにするわけにもいかないのである


「なぜこのような事態になったのか・・・その始まりはジャン・マッカローネが犯罪行為に加担したことです」


「・・・あの人が・・・?そ・・・そんなことあの人がするはずありません!」


定型句ともとれる否定の言葉を受けながら、静希はゆっくりと首を横に振る


確かに静希が実際にあったあの男なら、普通の状態であればそのようなことはしなかったのだろう


だが事情が事情なのだ、あれほどの男がそうせざるを得なかった状態だったのだ


「平時であればそうだったのでしょう・・・ですが彼はそうせざるを得ない状態にさせられていたのです・・・早い話が、人質を取られていたんです・」


「人質・・・いったい誰・・・まさか・・・?」


人質と言われて事情を察したのか、彼女は貧血にも似た症状を出したようでふらふらしながら静希に視線を向けている、娘はそんな様子を見て寄り添って支えようとしているが、こちらは静希に向けて若干の敵意のようなものが含まれているように見えた


「はい、人質とはあなたたち二人の事です・・・ご主人の下にあなたたちの写真と、脅すような文面が送られてきて、否応なしに従わされたのだと聞いています」


「・・・その犯罪行為とは・・・一体何なんですか・・・?」


自分たちのせいで主人が犯罪に加担したという事実を受け入れられそうにもないのか、その内容を確認しようと何とか静希にそう言うと彼女は体をわずかに震わせたまま耳を傾けていた


対して静希はどこまで話したものだろうかと悩んでいた、誘拐事件に関しても奇形化事件に関してもある程度報道規制がされている事件だ、話したところで納得してもらえるかどうか微妙なところである


とはいえ嘘を言うことはないだろうと、とりあえず概略だけは話すことにした


「簡単に言えば、誘拐とテロまがいの行為です・・・ご主人の場合は実行犯に金銭的な援助をした形となりますが・・・その時に会社の金を横領したのです」


「・・・そんな・・・その事件では・・・その・・・死者などはでたんですか・・・?」


「・・・自分もそこまで深く確認しているわけではありませんが・・・死者は出ています・・・少なくともかなりの数が」


それは静希が直接かかわった誘拐事件のことだ、樹海の実習の時、奇形研究者である平坂が攫われる際に部隊の人間が数名犠牲になっている


静希だけではなく他の世界各地で起こった事件でも少なくとも人的被害は出ているだろう


「・・・そのことを・・・主人は・・・」


「知らないでしょう・・・こちらで事件を追っていた際にようやくたどり着いたことです、脅してきた犯人が伝えるとも思えません・・・体よく利用されただけでしょうね」


利用されただけ、そして何より自分の夫が自分の意志で犯罪行為に加担したのではないという事実に安心したのか、それとも自分たちのせいでそんなことになったと思ったのか、妻は涙を浮かべていた


「それで・・・主人は・・・私たちはどうなるのですか?」


「・・・今のところご主人は犯人と繋がる手がかりです、情報提供をお願いすると同時に、身辺の警護を行っています、そして犯人に危害を加えられないようにあなた方も厳重に保護させていただきます・・・なので申し訳ありませんが事件が解決するまでは外出などもできないと考えてください」


「・・・学校も行けないの?」


「・・・はい、自宅学習などになると思います・・・外に出るだけで危険なので、どうかご理解ください」


外出すらできないという状況に不満はあるようだが、現在の状況は正しく理解できたのだろう、二人は不安そうな顔はしているが、とりあえず危害を加えられることはないと理解したのか少しだけ安堵しているようだった


とはいえ実際に証拠がないのも事実だ、未だ静希に対する疑いの目は無くなっていない


「あの・・・主人に会うことは可能でしょうか?」


その言葉に静希は眉をひそめる、現在ジャン・マッカローネはエドが確保している、ここに連れてくることも可能だろうが、その場合少々面倒なことになる


この場に連れてくるのではなく、この二人を移動させるべきか、あるいはこの建物のどこかに面会用の部屋を作らせるか、どちらにしろ今すぐというのは難しい


「今すぐに、というのは難しいでしょう・・・現在ご主人は事情聴取や手続きなどに追われています・・・電話でならば少しは時間が取れるかもしれません」


「ではお願いします!主人と話をさせてください!」


その言葉に静希は小さく息をつきながら携帯でエドを呼び出す、どんな話をするかはともかく電話では通訳が働かない、ある程度エドに事情を話してもらう必要がありそうだった


文字数が3,000,000字超えたので一応お祝い投稿、1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


文字数が一定に届いても物語の進行速度が遅いからそこまで嬉しさはない今日この頃


これからも稚拙な文章ではありますが、お楽しみいただけたのなら幸いです

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