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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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外道

静希がジャンの治療を終えると同時に、エドが写真に写っていた人物の名前を調べ終えたのか部屋の中に入ってきた


それぞれの名前と住所、さらには通っている学校まで調べ上げたようだ、この短期間ではそれが限界だったようだが、今の状況においては十分すぎる


「現在は奴と連絡を付けることは可能か?」


「・・・無理だ、いつも向こうから一方的にかかってくる、しかも毎回違う番号だ・・・恐らく毎回適当な電話を拝借しているんだろう・・・」


向こうからかかってくる、そしてそれが今もなお続いているのであればまだ手はある、ここは少々面倒ではあるが搦め手を使うしかないだろう


「確認するが、最近奴から連絡があったのは何時だ?」


「・・・先週だ、融資する金額についての内容だった」


先週という事はまだ連絡が来る可能性は十分にある、可能なら逆探知できる機械を仕掛けてどこにいるかだけでも確認したいところだ


となるとこのままジャン・マッカローネを現地の捜査チーム、及び警察機関に引き渡すのはまずい、そうなると確実に情報はそこでせき止められてしまう


情報を手に入れるためには彼を自分の手の届くところにおいておくのが最も確実だ、とはいえ彼は今追われている状態だ、どうしたものかと悩んでしまう


だがまず最初にするべきことは決まっている


静希は一旦この場をエドとカレンに任せ、変声機を取り外した後で部屋の外に配置してある装置を携帯に取り付けて通話を開始する


『もしもし?ひょっとしてうちの部下をやっちまったか?』


「お生憎、そっちは別働隊に任せてる、今かけたのは別件だ」


電話したのはテオドールだった、今回行いたい目的を達成するためには最適な人選と言えるだろう


蛇の道は蛇、荒事はこういう輩に任せるべきなのだ


「今から言う人物を保護してほしい、いいか、あくまで保護だ、傷一つ付けるなよ?」


『おいおいどういう風の吹き回しだ?まさか人助けか?』


テオドールは若干嘲笑混じりに静希に対して言葉を返すが、静希は小さくため息をついてから舌打ちをする


「バカ言え、人質にするんだよ、お前の家族は俺たちが保護している、だから言う事を聞けっていう風にな、家に行く場合、監視や盗聴の可能性があるから十分注意しろ」


『俺はまだやるとは言っていないぜ、そう簡単に人を誘拐しろだなんてこと』


「俺のことを殺しかけたどっかの誰かさんを無事帰国させてやったのはどこの誰だったか・・・思い出させてやろうか?」



静希の言葉にテオドールは一回舌打ちをした後、笑いながらそうかそうかと呟いてしぶしぶ了承した


静希が貸した借りはそれほどまでに大きいものなのである


画像のデータと名前をテオドールに送り通話を切ると静希はため息を吐いた

ジャン・マッカローネの家族を確保しておくのには二つの意味がある、一つは先程言ったようなジャンにいう事を聞かせるための駒、そしてもう一つは言葉の通り、保護するためである


どういう方法でかは知らないが、リチャード・ロゥは彼の家族の現状を知ることができている、それが監視カメラなのか、それともただ単に人間を使っているのかは不明だが、ジャンにとっては家族こそが大きな重荷になってしまっている


だからこそリチャード・ロゥという魔の手から遠ざける必要があるのだ


人助けなどというような高尚なものではない、静希はまた小悪党じみた行動をとっているに過ぎない


相変わらず自分は小悪党だなと自嘲気味な笑みを浮かべながら静希は再び変声機を装着し部屋の中に入る


「ジャン・マッカローネ、今我々の仲間が君のご家族を保護した」


「・・・なんだと・・・?」


保護


その言葉に彼は一瞬期待したような声を出すが、その言葉が決していい意味ではないという事を察したのか悔しそうに歯噛みする


「お前の妻と子は我々の手の中にある、これでリチャード・ロゥの魔の手からは逃れられたという事だ」


「・・・きれいごとを・・・!次はお前達に金を融資しろとでもいうのか・・・!?」


いいやそんなことはしないとはっきりと告げた後で静希はジャンの髪を掴んで上を向けさせる


「お前は俺たちに情報を提供し続けてもらう・・・リチャードから連絡があった時、その情報をすべて我々に回してもらう・・・いわばスパイの真似事だ」


「・・・それを私がするとでも・・・?!」


「するさ・・・もしお前が言う事を聞かなかったらその時は、美しい妻と可愛い娘が少々可哀想な目に遭うだけだ」


楽しそうな静希の声にジャンは歯ぎしりをしながらこの外道がと呟いている

これで彼はもう自分たちに逆らえない、逆らうことができない


この男は家族のために会社の金を横領したのだ、情報を流すくらいのことは簡単にして見せるだろう


彼の今までの行動が、彼が情報源として信用に足る人物であるという事を物語っている、家族のためならこの男は人だって殺すだろう、それほどの男だ


近くにいるエドは苦笑しているが、カレンは静希のことを強く睨んでいた


恐らく静希が人質をとったという事実が許せないのだろう、だが今はそんなきれいごとを言っている余裕などない、得られる情報を確実なものにするためには汚いことの一つや二つしなければならないのだ


「ではジャン・マッカローネ、確認しよう、我々のために情報提供をしてくれるかな?」


静希ができる限り優しく下卑た声を出すと、彼は観念したのかちくしょうちくしょうと呟きながらも口を開く


「・・・わかった・・・協力する・・・お前達に奴の情報を流してやる・・・!だから家族には手を出すな・・・!」


怒りのせいで声を震わせながら、彼はそう告げる、静希はそれに満足し彼の意識を喪失させるべく用意していた睡眠薬を投薬した


「・・・シズキ、どういうつもりだ」


ジャン・マッカローネが意識を喪失した後、静希達は変声機を取り外し、部屋の中で各々仕事にとりかかっていた


その中でカレンが静希に咎めるような瞳で食って掛かったのだ


「・・・どう、というと?」


「無関係な人間を人質に取るなんて、何を考えている、お前はそこまでの外道だったのか?」


カレンの言葉に近くでそれを聞いていたエドは静希に視線を送りながら苦笑し、アイナとレイシャも不安そうにその様子を眺めている


カレンと静希が喧嘩をするのではないかと思っているのだろうが、その不安は杞憂に終わるだろう


「じゃあどうしろと?こいつの家族はリチャードに目を付けられてる、用済みになったらいつ排除されてもおかしくない、保護するのはなんらおかしくない流れだろう?」


「なら保護だけにとどめればいい、何故あんな言い方をする?人質にせずとも助けたという事実があればこの男は協力してくれたかもしれないじゃないか」


カレンの言うことは正しい、この男なら助けたという事実と、今まで脅されていたという過程から静希達に喜んで協力してくれたかもしれない


だが、かもしれないではだめなのだ


「カレン、今まで脅されていた相手に、自ら進んで関わろうとするような奴がどれだけいると思う?」


「・・・それは・・・」


静希が懸念していたのはそこだった、仮に無償で助けたとして、本当に自分たちに協力してくれるのか、もし静希が彼の立場だったら助けられたら礼を述べ、謝礼を払い、その後は関わりたくないと切実に願うだろう


これから携帯などに連絡が来るのなら、その携帯などを渡してしまえばもう関わる気も起きないだろう


この男がリチャード・ロゥに復讐してやると思うほど気概溢れる人物であるならそれもよかったかもしれないが、この男は良くも悪くもただの無能力者だ


家族のため、そう思ってその身の中にある勇気を奮い立たせ今まで犯罪にもなる行為を続けてきたのだ


「・・・だがそれでは彼があまりにも不憫だ・・・彼は被害者だぞ?」


「・・・そうだ、こいつは被害者だ、今までも、そしてこれからも被害者であり続けるんだよ」


静希のその言葉にカレンは訝しむように静希の顔をのぞき込む、その顔はほんのわずかながらに悲痛な表情をしていた


「こいつはリチャードに脅されて金を引き出していた、その事実があれば罪は軽くなるだろう、会社にはいられなくなるかもしれないけどな・・・」


彼がやっていたのは紛れもなく犯罪だ、だが脅されて、しかも私利私欲のために使ったのではないのなら、罪は軽くなるかもしれない


ただ会社の金を使ったという事で今いる会社にはいられないだろう、それでも、社会的にはまだ首が繋がっている


「そして俺たちに脅されてるという事実があればこいつは動ける、仮にリチャードに情報を漏らしていたとばれたとしても、その背後に俺たちがいるとわかれば、あいつの矛先はこいつじゃなくて俺たちに向く・・・こいつは利用されたただの被害者、それでいいんだ」


そこまで聞いてカレンはようやく気付く、何故近くにいるエドが何も言わずに苦笑しているのか、そして何の疑いもなく従い続けているのか


ただ助けただけではないのだ、静希はジャン・マッカローネのその後も案じている、自分が加害者になってもいい、それでもいいから彼を被害者のままでいさせようとしている


「君が・・・いや、我々が悪者になって、この無能力者を守るという事か?」


「利用するって言ったほうが正しいぞ?それにリチャードがこいつを見逃すとも限らないんだからな」


いくら自分たちが背後でジャン・マッカローネを操ることになるとはいえ、リチャードは見逃さないかもしれない


だからこそ、静希はテオドールに保護するように命じたのだ、傷一つ付け無いように


ひねくれている


以前エドが静希をそう評価したが、その意味がカレンにも少しだけわかった気がした


静希は素直に人助けなどしない、善人ではないから、無償での人助けなど絶対にしない


人助けをするのは、その必要性を感じた時だけ、それが静希の言葉だった


本当に素直じゃないなとカレンは僅かに笑みを浮かべてしまう


エドが笑みを浮かべるのも納得だ、そうして彼は救われたのだから、そして同じようにカレン自身もそうして救われた


静希が言うところの、その必要があったからそうしただけ、目的達成の過程でそうしただけ


「・・・なんかおかしいこと言ったか?」


「いや・・・君に付いてきて正解だったと思っているだけだ」


カレンの言葉に静希は眉間にしわを寄せながら首をかしげる、彼女の気持ちはきっとエドでなければわからないだろう、ひねくれ者に助けられた者同士でなければ


「だがそうなると彼を引き渡すわけにはいかなくなるが・・・どうする?」


「そこは俺が上手くやる、餌を用意すれば連中も食いついてくるだろ、後処理は任せていいか?この人はきっちり確保しておいてくれ」


「あぁ、こっちに任せておいてくれよ、ひねくれ少年」


エドが笑みを浮かべながらそう言うと、静希はため息をついてその額めがけて軽くチョップを当てた


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