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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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大切なお話

ジャン・マッカローネが目を覚ましたのは、アイナとレイシャが退室し、静希達がすべての準備を終えてから十分ほど経過してからの事だった


地面に固定された椅子に縛りつけられ、目隠しをされた状態で目覚めた彼は最初自分がどうなっているのか、そしてどういう状況なのか全く理解できていないようだった


「ここは・・・何も見えない・・・なんだこれは・・・!?」


意識がはっきりしてきたためか、自分が縛られ、なおかつ目隠しもされているという状態であると気づいたのか彼は僅かに身をよじらせて逃れようとするが、完全に固定された椅子と頑丈に縛られたロープはびくともしなかった


ただの人間の力で抜け出せるようにはできていない、そしてその状況を見たうえで静希はエドの方に視線を向ける


全ての段取りを整えたのはエドだ、一番最初に彼に話を聞く権利はエドにこそあるとその場の全員が理解していた


「ジャン・マッカローネだな?」


「誰だ!?一体何の真似だ!?」


唐突に聞こえてきた機械で無理やりに変声された不自然な声に驚き怯えながら、彼は声のした方を向こうとする


目元が隠れているために正確な表情は見えにくいが、かなり動揺しているのが見て取れる


「いくつか聞きたいことがある、正直に答えてくれれば手荒な真似はしないと約束しよう、今からする質問に正直に答えろ」


「いったいどこの誰だ!?姿を見せろ!何を企んでいる!」


自分の言葉を聞いているかも怪しい態度に、エドはお手上げのポーズをする、こういった尋問は舐められたらその時点で負けだ、そこで静希はエドとカレンに視線を送ってから前に出る


そして目隠しが取れないようにジャン・マッカローネの髪を掴み思い切り上へと引っ張る


そして彼の腹に拳銃を突きつけた


「もう一度言う、正直に答えれば手荒な真似はしないと約束しよう、今からする質問に正直に答えろ、それ以外に余計な口は利くな、わかったな?」


「あ・・・わ・・・わかった、わかったから・・・頼む・・・殺さないでくれ・・・!」


自分の腹になにがつきつけられたのか察したのか、先程までの威勢はどこへやら、冷や汗を垂れ流しながら震え始める


さすがに死にたくないのか見えてもいないのに周囲の様子をうかがうようにあたりをきょろきょろしながら誰かが声を出すのをただ待っていた


「もう一度確認する、ジャン・マッカローネ本人で合っているな?」


「・・・そ・・・そうだ・・・」


すでに所持品から彼が本人であることは確認済みだが、最初は軽めの質問の方が彼も答えやすいだろうという計らいだろうか、エドは声を少しだけ和らげながら彼に声をかけ続ける


「ガランという企業に勤めている、これも間違いないな?」


「・・・そうだ、あってる」


「今日は接待があったようだがキャンセルしたようだな、相手は誰だ?」


「・・・取引先の営業・・・昔から付き合いのある人だ・・・」


滞りなく質問に答えていく中、エドは静希とカレンの方に視線を向け小さくうなずく


「・・・お前は、会社の金をどこかに横流ししていたな?」


「・・・っ!」


先程まですらすらと受け答えしていた口が急に噤まれる、擬音が出ているのであれば『ギクリ』という音が出ていただろう、それほどまでに露骨な反応だった


「答えろ、どこに横流ししていた?」


「・・・・・・」


答えたくないかとエドがつぶやいた後に、静希はゆっくりと近づき一本の釘を取り出して太もものあたりに押し当てる


そして一気に叩き付けるのではなく、ゆっくりと、ゆっくりと加圧していく


「答えてくれないとこちらとしても手荒な手段をとらなくてはいけなくなる・・・答えてはくれないだろうか?」


「・・・な、流していた・・・!あい・・・相手は・・・し、知らない」


知らない相手に会社の金を流すなどという事はあり得ない、明らかに嘘であることを察した静希は再び力を加え釘を太ももに少しずつめり込ませていく


強烈な痛みが襲い掛かっているのか、野太い悲鳴が部屋の中に響く中、エドが彼の肩をやさしく叩いて囁くように声を出す


「お前には話を聞きたいだけだ、これ以上手荒な真似はさせないでくれ、誰に、何故金を流した?」


ここはもっとも重要なところだ、以前確認したあの仮面の男が静希達の探し求めるリチャード・ロゥだった場合、さらに情報を引き出すことになる


もしも別人の可能性が有力であるなら、それはそれで後を追わなくては面倒なことになるだろう


「・・・か・・・金が必要だと言われた・・・だから流した・・・」


「何故?会社の金を横流しするなんて相当の理由がなければできないだろう・・・何故そんなことを?誰に流した?」


「・・・・・・・・・・い・・・言えない・・・!」


その言葉に全員が眉をひそめた


言えない、それは答えないという事でも答えられないという事でもない、自分にはそれを言うことはできないという事だ


その言葉に静希は釘をさらに加圧し、皮膚を突き破り肉をゆっくりと貫いていく


服から血がにじむが彼の口からは悲鳴が聞こえるだけで一向にその理由を吐くことはしなかった


二本、三本と足に刺さっていく釘が増え、その度に悲鳴を放ち苦痛に顔を歪めるなか、彼は一向に話そうとしない


全身からは脂汗が滲み、苦悶の表情を浮かべ、息を荒くしながらも答えられないという回答を繰り返すばかり


ただの無能力者がこの反応はおかしい、口止めにしてもビジネスにしても命がかかっているような状況でここまで強情になれるだろうか


何か事情がありそうだと静希は彼の所持品を少々物色することにした


ともあれ、言えないという事は何かしら面倒な手順を踏まざるを得ない、エドは一旦切り口を変えることにした


「お前が会社の金を流した期間の初めと終わりに二つの事件が起きた、研究者の誘拐、そして世界的な動物の奇形化、このことについては何か知っているか?」


「・・・?・・・知らない・・・動物の方はニュースでやっているのを見た程度だ・・・」


息を荒くしながらもそう答えた彼の反応を見てエドとカレンは両者ともに嘘はついていないと判断した、恐らく彼はこの事件に関しては関与していない


先程まで言い淀んでいたのに自分が応えられることには素直に答えようとしている


命が惜しいからか、それとも何かしらの思惑があるのか


静希が私物をあさっていると彼の財布から一枚の写真が見つかる、どうやら家族で撮った写真のようだ、奥さんらしき女性と、小さな子供が写っている


それを見て静希はあることを思いつく、何故この男は自らが危険にさらされているというのに質問に答えようとしないのか


そして先ほど何故彼は沈黙するのではなく『言えない』と言ったのか


静希はエドとカレンにハンドサインで交代するように指示するとジャン・マッカローネの近くに歩み寄る


足を痛みが襲っているのか、脂汗が滲んでいる、息も荒く、僅かに体は震えている、後で治療をしてやるべきだろうと思いながらも静希は口を開いた


「リチャード・ロゥを知ってるか?」


静希がその名を口にした瞬間、この部屋の中の緊張度が一気に増した


順序などをすべて置き去りにして放たれた本題ともいえるその単語に、エドは目を見開き、カレンは僅かな殺気さえ滲ませている


そして何より反応したのは目の前にいるジャン・マッカローネだった


体を一瞬だけ大きく硬直させ、息を荒くし、体の震えが大きくなっているように見える


どうやら当たりのようだった


エドとカレンに目くばせすると、静希は二人に見えるように先程の家族写真を見せた


そして二人に携帯の画面を向け、この二人の名前を調べてほしいという旨の文章を見せる


するとエドは親指を立ててゆっくりと部屋から退室していった


この写真と彼の反応から、カレンも大まかな事情を察したのか僅かながら殺気を収め、同情にも似た視線を向けていた


だが静希はまだ同情しない、同情するには早すぎる


「答えろ、お前は大切な誰かを人質にとられているのか?」


「・・・・・・」


目隠しされた状態でもわかる悲痛な表情とこの沈黙を、静希は肯定として受け取った


恐らく彼はただの一般市民だったのだろう、だが何者かに脅され、金を要求された


どのような内容かはわからない、そして先ほどリチャードの名前に反応したところを見ると何らかの形で関わっているのはまず間違いないだろう


「綺麗な奥さんと可愛らしい娘さんだな・・・危ない奴らに狙われていないといいが」


「・・・妻と娘には手を出すな・・・!」


滲み出るような怒りに震える声に、静希は確信する、彼は脅されているだけなのだと


とはいえ会社の金を横領し、なおかつ世界的な規模の犯罪にわずかながら加担してしまった以上、見過ごすわけにもいかない、何とかして情報を確実に引き出さなければならないだろう


「なら答えろ、お前は誰に金を流していた?大事な家族を傷つけられたくなければ早急な返答を期待する」


静希の物言いにジャン・マッカローネは歯噛みしながら怒りに震えていた


近くにいるカレンも静希の言い分にわずかながら思うところがあるのだろう、少々不快そうにしていたが目的達成のためだと割り切っているようだった


「・・・先程・・・名が出た・・・仮面の男・・・名前はリチャード・ロゥと名乗った・・・!」


ようやくしっかりとした答えが出たことで静希はカレンと視線を交わし、同時に頷く


これで聞くべき情報がさらに増えたことになる


「・・・そいつと出会ったのは何時頃だ?今何をしているかわかるか?」


「・・・今何をしているのかはわからない・・・出会ったのは去年の八月ごろ・・・研究所を構えるから融資しろと一方的に持ち掛けてきた・・・」


ジャン・マッカローネはぽつぽつとその時の話をし始めた、突然現れたその仮面の男はジャンの立場を利用して会社の金をバックボーンに研究をしようとしていたのだという


最初は彼も断ったが、次の日に送られてきたのは自分の家族の写真と、その行動パターン


そしてその次の日には知り合いの写真だった、そしてその写真が送られてきた次の日、その知人は変死した


そしてさらにその次の日、次はお前の家族だというメッセージと共に、リチャードは現れた


警察に連絡すれば命はない、いう事を聞かなければお前の家族は死ぬと脅され、ジャンは渋々彼の言う事を聞いた


会社にばれないように金銭をごまかし、発表する資料も内部に記載する資料も何もかも改竄した


実月に見られたのは、その改竄が及ぶ前のデータと支出表だったのだ


そしてリチャードは三月の奇形化事件をきっかけに音信不通になったのだという


だがいまでも定期的に、家族の写真が送られ続けているのだという、まだ家族は狙われている、その強迫観念から、彼はリチャードに従わざるを得ない状況にさせられていたのだ


「送られてくる写真とかに何かしらの情報は?」


「・・・わからない、警察は頼れないが・・・一応すべて保管してある・・・私が知っているのはこれがすべてだ・・・!」


憎々しげにそう答える彼の声を聴きながら静希は思考を巡らせる、考えることが増えたこともあるが、面倒が増えてしまったのだ


仕方がないなと呟きながら静希は彼の足に刺さったままの釘を抜いて応急処置を施した


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