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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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作戦開始

『なるほど、状況はわかったよ、こっちでも準備を進めておく』


静希は先程得た情報をエドの方にも伝えていた、まだ虚偽の可能性があるという事だけは伝えておいたが、今回のスケジュールはほぼ確定といってもいい内容だ、エドもやることができてうれしいのか、嬉々として後ろにいるアイナとレイシャに指示を飛ばしているようだった


「それで今日の夕方まで索敵網を広げようと思うんだけど、エドたちからしたらどのあたりまでやってほしいとかあるか?そっちのタイミングによって変わるんだけど」


今回の行動範囲と索敵範囲ははっきり言ってエドたちのさじ加減によって大きく変わる、目標の接待の帰りに仕掛けるのか、行きに仕掛けるのか、それとも会社から出たところを狙うのか、それによって大きく変わるのだ

実行するのがエドたちである以上、そのあたりの判断は彼らに任せるしかないのである


『そうだね・・・なんなら僕たちがまた種をまいておくよ?前貰った奴は全部蒔いちゃったけど』


エドたちが行動するというのなら彼らがこの辺りに配置しておいてほしいという場所に置いておくのが一番いい、静希としても楽だしそのほうが向こうとしても信頼できるだろう


「あー・・・確かにそのほうがいいか・・・わかった、追加の種を・・・明利、まだ種あるか?」


「うん、まだ予備があるから大丈夫だよ」


「大丈夫っぽい、今から受け渡しを・・・どうするか・・・見られると面倒だしな・・・」


静希は種の受け渡しについて頭を抱える、また街中で車を拾うという形で遭遇してもいいのだが、これから作戦を行うという事もあって静希には多少意識が集まっているだろう


監視が複数いる可能性を考えると車で遭遇するというのも少し危険である


『それなら二人をお使いに出すよ、君のいるホテルに行けばいいんだろう?そこでメーリに直接貰えばいい、それが無理ならカレンにお願いするさ』


エドが後ろにいるであろうアイナとレイシャにできるね?と聞くと向こう側からは頼もしい言葉が返ってきていた


「お前の所の両腕は本当に有能だな、うらやましいよ」


『はっはっは、彼女たちは僕の大切な社員だからね、いくらシズキでもあげないよ?』


エドの嬉しそうな言葉に静希はつい笑みを浮かべてしまう、自分の育ててきた少女たちが立派になっていくのはエドとしても嬉しいだろう、そしてその子たちが褒められると自分も嬉しいのだ


エドはつくづく教育者向きだなと思いながら静希は息をつく


「じゃあ部屋番号を教えておくから、デリバリーなり清掃員なりに変装して部屋まで来てくれ、頼んだぞ」


『了解した、それじゃあまたあとで』


エドはそのまま通話を切ると、静希は小さく息をついた


「え?なに?結局種はどうするの?」


「アイナとレイシャ、あるいはカレンたちが受け取りに来る、とりあえずそれまではのんびりしていよう・・・俺が外に出て監視の目を引くのもありだな・・・」


静希からしたらエドとのつながりを露呈させたくないために、アイナとレイシャ、カレンたちとの接触自体もあまり見られない方が都合がいい


ただでさえ作戦決行前で緊張感が高まっているのだ、余計な不確定要素を増やすわけにはいかなかった


「ってわけだ陽太、俺たちはまた出かけるぞ、適当にぶらついて買い物だ」


「りょーかい、てなわけで鏡花、明利、先生も、なんか買ってくるもんあるならついでに買ってきますよ」


陽太らしからぬ気づかいに静希はその成長ぶりに少々感動しながらも三人の方に目を向ける


すでにコーヒーやお菓子を食べているのだが、他に何か欲しいものがあるかといわれても微妙なところである


「イタリアって何があったっけ?チーズとかワイン?」


「未成年で酒は基本買えんぞ・・・そうだな・・・香水などが有名だと聞いたが・・・」


「あ・・・じゃあ私はパスタを、美味しそうなの選んできてね」


三人の要望をとりあえずメモで記しておくが、三人ともなかなかに難易度が高い、香水は個人の好みが大きく出るし、明利のパスタに至っては美味しそうなのといっても見た目では全く分からない


時間を潰すためにはちょうどいいかもしれないが、少々難儀しそうなお使いだった


「んじゃ行ってくる、仮病人たちは大人しくしてろよ」


「はいはい行ってらっしゃい、車に気を付けてね」


子供じゃないんだからと突っ込みたくなるが静希はその言葉を口に押し込んだままホテルから出ることにする


周囲を散策するために移動を始めるのだがやはりというか当然というか、静希と陽太に視線が絡みつく


「囮に出て正解だったな・・・絶対一人じゃないだろこれ・・・」


「なんだかピリピリしてんな、普通の街に合わない感じの空気・・・隠す気あんのかこれ?」


それなりに経験を積んだとはいえ一応学生である静希達にもばれるような監視の仕方、恐らくこれはばれてもいいのだろう、むしろばれることに意味があるのだ


自分たちはお前達を見ているぞとはっきりと突きつけることで余計な行動はするなと言っているのだ


あえて口に出さないあたり立場というものが見え隠れしているのがわかる、なんとも面倒なものだと思いながら静希と陽太はとりあえず買い物を済ませることにした


静希達が買い物を済ませている間に、アイナとレイシャが鏡花たちが待機しているホテルに侵入し首尾よく種を受け取ってから数時間、静希と陽太は手はず通りに集合場所の建物にやってきていた


建物の屋上からは今回捜査チームが突入する建物がよく見える、静希と陽太は万一のことを考えて仮面を装着しその場に待機していた


周囲は夕方という事もあってかオレンジ色に染まっており、いつでも行動開始できるように準備だけは整えていた


「この時間だとそろそろ会社が終わるころか?向こうの仕事開始もそろそろかもな」


「かもしれないな、向こうに関しては完全にタイミングも任せてるし・・・あとはうまくいくかは運次第ってところか」


静希達の行動開始は捜査チームの如何によって変化するが、エドたちの行動開始はこちらよりも目標の行動を優先にすることにしたのだ


といっても誘拐するというわけではなく、情報漏洩や場所の決定といったことも全て向こうに任せている、その現場に立ち会えないのが心苦しい限りだが、エドとカレンならば問題はないだろうと確信していた


「俺らはどうする?問題なく状況が終了したらそのまま解散か?」


「・・・状況が終了しそうならちょっとした面倒を起こしてもらう、そのまま離脱してエドたちと合流だ、その時はお前に囮になってもらうかもしれないからそのつもりでな」


今回は静希とエドが合流することを目的とした陽動作戦だ


テオドールの配下の人間が何らかの形で面倒を起こす、そこに静希が駆けつけるという名目でこの場を離れるのだ、その際に能力を使うと目立つ外見をする陽太には監視の目を引いてもらうのだ


「オーライだ・・・何が起こるかは起こってからのお楽しみか?」


「そうだ、その方が自然な演技ができるだろ?実際俺たちにとっても面倒事かもしれないけどな」


テオドールのことだ、何かしらの面倒事を引き起こすに違いない、少なくとも自分たちが一方的に頼んでいることだ、多少の嫌がらせのようなものがあっても何ら不思議はないのだ


「にしても最近海外来ること増えたよな・・・こっちとしちゃ嬉しいんだけどさ」


「あー・・・巻き込んでるこっちとしては心苦しい限りだな・・・」


「いや別に俺は全然いいんだけどさ、まぁ鏡花の奴はちょっと気の毒かもな、俺らに関わってからずっと面倒続きだろ?」


「俺らっていうか俺に関わってからだな」


鏡花の災難が始まったのは静希に関わってからであると断言できる、自分でやっておいてなんだが初対面でナイフ刺したり爆発起こしたりといろいろと無茶をやっている


しかも静希が関わることは良くも悪くも普通とはかけ離れたものばかりだ、今まで比較的まともな人生を送ってきた鏡花からすればその負担は計り知れないだろう


「一年以上面倒事に関わってきたけど、たぶんこれからも海外に行くことは多くなるぞ?その場合お前たちは別にした方がいいか?」


「冗談ぬかせよ、お前が一人で行ったら明利とか雪さんはどうするんだよ、絶対しわ寄せが俺の方に来るじゃねえか、お前の女はお前が面倒見ろ」


陽太の言うように静希が単身で海外に行くようなことがあれば明利は非常に心配するだろうし何より雪奈も文句を言うだろう


明利がいれば静希は危険な行動をとれないというのがわかっているのか、雪奈は明利が一緒ならどこに行っても問題ないという風にとらえているようだった


その為に単身でどこかに向かったときにはきっと陽太達にグダグダと文句を言い続けるのだろう


そう考えると陽太達も一緒に連れて行ったほうが幾分かましな気がする


「できるなら雪さんたちの班も一緒に行っちまえばいいじゃんか、その方が味方も増えるし、何より楽だぞ?」


「さすがにそれは・・・まぁ今さらか・・・確かに雪姉や熊田先輩がいるのは楽になるだろうな」


一時期行動を共にしていただけに静希の中で熊田の評価はかなり高い、雪奈の能力は昔からよく知っているし連携するのも慣れたものだが、熊田の能力もかなり優秀だ


明利とは別のベクトルでの索敵能力の高さと攪乱や攻撃もできる応用性の高い能力、班に一人は欲しい人材といっても過言ではないだろう


雪奈たち三年生の実習は難易度の高いものが多い、その為に雪奈たちに静希の目的とする内容の実習を宛てがって、その補助として向かえば何の問題もなく一緒に行動できるだろう


無論その分雪奈とそのチームメイトたちを危険にさらすことになる、さすがに何の相談もなしにそんなことはできないなと思いながら静希は行動の選択肢の中にその考えを入れておくことにする


「にしても熊田先輩とか懐かしいな、たまに廊下とかですれ違うぞ、相変わらずだったけど」


「あの人も結構苦労してるみたいだな、索敵も補助もできるから実習では忙しいらしいぞ」


熊田は雪奈の所属する班のほぼ中心人物といっても過言ではない役割を担っている、索敵もそうだが頭脳労働も、そしてまとめ役にもなっているのではないかと思われる


後衛の人間は頭脳労働も含めた活動が主になる傾向が多いが、雪奈の班は前衛が二人に後衛が二人、雪奈と気が合う後衛の井谷は頭脳労働が得意とは思えないためにあの班の頭脳は主に熊田が担っているのだろう


そう考えると熊田の凄さがよくわかる、索敵もして補助もして司令塔もこなして、こちらで言うところの明利と鏡花と静希の役割を一人で行っているようなものだ


あれはあの人の才能なのだろうなと思いながら静希は目を凝らす、視線の先には作戦開始の合図が送られていた



「・・・始まるみたいだな」


「いよいよか・・・一応向こうに知らせておくぞ」


陽太が鏡花たちの方にメールで作戦が開始されたことを知らせると、静希は身を隠しながら双眼鏡で人質と犯人のいるであろう建物を監視し始める


辺りが暗くなり始めている中、その薄暗闇に紛れて何人もの人間が建物を囲うように散開しているのがわかる


壁を伝い、入り口を抑え、窓のそばに張り付き、屋根の上に立って突入を待っているようだった


そして何の合図もなくそれは起こった


全員がまるで示し合せたかのように同時に動き、そして建物の中から白い煙が一気に噴き出してきた


一瞬火でも起こしたのかと思ったが、その煙の色からして発煙系のグレネード、あるいは能力を使ったのだと察した静希はそのまま静観の構えを突き通すことにした


「煙を使って視界制限して一気に制圧するつもりみたいだな」


「そうみたいだな・・・なんかチカチカ光ってるし、フラッシュバンみたいなのも使ってるんじゃね?」


今回の目的はあくまで犯人の確保と誘拐された研究者の救出だ、完全に不意打ちしなおかつ無事に全員を確保しなければならないためにより高度な連携が求められる


耳を澄ますとほんのわずかに銃声のような音が聞こえたが、それも一発二発程度、それ以外の発砲音は聞こえず完全な静寂に戻っていった


何人の犯人が見張っていたのかはわからないが制圧は順調に進んでいるように思える


だが次の瞬間、建物の窓から一人の男が窓ガラスを破りながら飛び出してきた


逃走しようとしているのだろうが、外には控えの捜査員が待ち構えており能力と体術の合わせ技ですぐに拘束されていた


「ずいぶん静かだな・・・あぁやって戦ってるってのに」


「あぁいう戦闘に特化してるんだろ、特殊部隊の動きに似てるけど、それとはまた別物みたいだな」


実際に軍の部隊で指導を受けた静希にはその違いを理解することができた、静希が指導を受けたのは隠密行動とその射撃についてだが、彼らの場合は射撃をせずに目標を確保し続けている


つまり極力銃を使わない隠密行動だ


体術と能力を駆使し、完全に音を消した状態での作戦行動、その為に最初に視覚情報を消すべく煙幕や閃光手榴弾などを用いて相手の行動選択肢を削っていっているのだ


完全に訓練され、熟練された動きだ、静希のそれとは比べ物にならないほどに精密で何より早い


相手の音に自分の音をすべり込ませるような技巧を彼らは有しているのだろう、何人いたかもわからない犯人たちが拘束されていく中、静希は僅かに眉をひそめていた


「一応契約者はいなさそうだな・・・俺の保険の意味はなくなったわけだけど」


「このままじゃ自由に動けないよな・・・面倒事起こしてもらうのか?」


協力体制にいる人間が優秀すぎるのも考え物である、自分の出番がなくては自由に行動できなくなってしまうのだから


だからこそ面倒事を起こしてもらうわけだ、自由に行動するためには仕方のないことである


「一応鏡花の方に連絡しておいてくれ、これから面倒起こして自由に動けるようにするからって、たぶん向こうもすでに動き出してると思うから」


作戦行動が始まった時点ですでにエドモンドたちが動き出していると思ってまず間違いないだろう、静希もそろそろ単独行動をとるべき時間帯である


とはいえ一応は犯人や研究者たちの確保が建前上メインの依頼であるためにこちらをないがしろにしすぎるわけにはいかない、多少遅れ気味になってしまうのは仕方のないことだろう


「んじゃ連絡するぞ、さてどんな面倒事が起こるやら」


静希がテオドールの部下の人間に通話をかけると、数秒してから向こう側と繋がる音がする、そして三秒通話が繋がったかと思うとすぐに切れてしまった


ただ連絡をするだけ、所謂合図だけのつもりだっただけにこれで問題ないのだが一体何をするのかくらいは教えておいてほしかった


とはいえもし英語やイタリア語で話された場合静希は理解できないから意味はなかったかもしれないが


どんなことが起きるのだろうかとあたりを見渡していると、丁度捜査チームが突入した建物の外に何人かの犯人が並べられているところだった、建物内は煙が充満しているために外に避難しているのだろう、その中には研究者らしき人物たちの姿も見受けられる


救出と犯人確保は無事終わったようだと安堵していると、建物を縫うように高速で黒塗りの車がその場に急接近してくる


一体何だろうかと理解するよりも早く、建物の外に並べられていた犯人の一人が車の中にいた何者かに掴まれそのまま連れ去られた


「おいおい、あれまずくね?」


「・・・まさか・・・!あぁちくしょうそう言う事か!」


静希は即座にフィアをトランプの中から取り出して能力を発動させる、陽太もそれを見て状況が変わったことを察知し能力を発動した


フィアを高速で移動させるのと同時に静希はテオドールに連絡をする、今回の事の確認をするためでもある


もしこれがテオドールの仕業でなければそれはそれで面倒なことになるため仕方のないことである、何でこうも何回も連絡しなければいけないのだと悪態をつきながらコールをすること数回、向こう側から機嫌がよさそうなテオドールの声が聞こえてきた


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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