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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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嘘の報告

翌日、静希と陽太はあらかじめ決めていた通りに行動を始めていた


最初に向かったのは捜査チームが根城にしているアパートだ、捜査員の一人に連絡を付けて迎えをよこしてもらいやってくると、その空気が以前と少しだけ違うことに気付けた


自分の推測が当たったのかもしれないなと周囲を観察しながら作戦を統括しているデビットの下へとやってくると、彼は僅かに眉をひそめた、その場に静希と陽太しかいなかったのを不思議に思っているのだろう


「その様子を見ると調子はいいようだが・・・女性陣はどうしたのかな?姿が見えないが」


「その報告も兼ねて来たんだよ、実はうちの女性陣二人が調子を崩してな、今はうちの先生が様子を見てる」


静希の言葉にそうかとデビットはつぶやくが何も焦った様子はない、彼女たち二人は最初から戦力としてカウントしていないという事だろう、ここまでは予想通りの反応だった


ここまで鏡花が戦力外という認識を持たれているのも偏に彼女の普通の学生アピールのおかげだろう、ただの学生を演じるのがここまで状況に影響するあたり自分たちが普段どれだけ面倒なことに首を突っ込んでいるかがよくわかる


「それで?まさかそのことを言うためだけに来たわけじゃないだろう?よもやスケジュールを引き延ばしてほしいというんじゃないだろうな?」


「むしろその逆だ、スケジュールを早めてもらいたい、体調不良の今ならあいつらも無理に関わろうとはしないだろう、危ない目には極力遭わせたくないんだ」


静希の言っていることは理に適っている、あくまで鏡花たちがただの学生であるという認識の上では


ただの同級生を危険な目に遭わせたくないから体調不良を理由に、今日中に事を起こしてほしい、そう言っているようにも聞こえるがデビットは少々不敵な笑みを浮かべた


「そうか、私はてっきり君が女性陣に何か薬でも盛ったのではないかと思ったのだが」


「身内にそんなことするほど腐っているつもりはない、で、どうなんだ?」


横にいる陽太がどの口がそんなことを言うんだろうかと内心笑っていたが、それを顔に出すことはなかった


少なくとも静希は三度ほど身内の人間に薬を盛っている、その全てが睡眠薬ではあるが、少なくとも今まで一度もそう言う手を使ってこなかったわけではない


鏡花がこの場にいたら陽太と同じ感想を抱いただろう、この場にいないことが心底悔やまれた


「こちらとしてはスケジュールを早めることは問題ない、今だからこそ言うが今日の深夜にでも決行しようと思っていたところだ」


その言葉に静希は僅かに眉をひそめる、自分の予測はいい意味で的中していたようだ


この状態でスケジュールを早めれば夕方から夜には行動を開始できるだろう


「それじゃあいつ行動を始める?あらかじめ教えておいてくれると助かる」


ここまでくれば細かい時間を隠すような意味はない、静希としても行動開始の時間をわかっているかいないかだけで心構えが一気に変わるものだ


「その前に一つだけ、君たちは今回我々の指揮下に入ってもらう、余計な行動はできないと思ってほしい、異論はないな?」


「あぁ、問題が発生しない限りはむしろ何もしないつもりだ、そっちの手腕をとくと見させてもらう」


デビットたちにとって一番危惧しなければいけないことは静希達が余計なことをして相手側に自分たちの目論見が露見することだ


そう言う意味では静希は悪魔か契約者が出てくるまでは何もしない方が好ましい


その為静希の言葉にデビットは僅かながら安心感も覚えていた


「なら君たちの配置を教えておこう、今回突入する建物から数百メートル程離れた場所にある建物の屋上だ、現場がよく見えるからそこで待機、問題があるようならすぐに駆けつけられるようにしておいてほしい」


「俺たちは現場にいなくていいんだな?」


「構わない、君たちはあくまで保険だ、本来これは私達の仕事だからね」


デビットの言葉に周囲の隊員は満足げな表情を浮かべ、静希は僅かに不満そうに眉間にしわを寄せるが、内心ガッツポーズをとっていた


なにせ自分たちに自由に行動できるだけのゆとりを持たせてくれているのだ、感謝こそすれ不満を言う必要はない


とはいえ契約者としてここに呼ばれているという立場から考えて少々不満そうな表情はしておかなければならないのも、喜ぶような表情を見せてはいけないのも確かだ


全く立場とは面倒なものである


「了解した、せいぜい楽をさせてもらうよ・・・所定の時刻にその建物にいればいいんだな?」


作戦開始の時刻を聞いた後に静希は時間と場所をメモし、ため息をつきながらデビットを睨む、自分が活躍する場面がなくて不満げな演技をしながら


「そうだ、まぁ君たちが楽できるように頑張らせていただくよ」


心にも思っていないようなことを互いに言っているつもりなのだろうが、静希からすれば本心から楽をしたいという気持ちで言葉を交わしていた


面倒など回避できるのであればそれに越したことはないのだ


そして静希が行動するうえでこれほど優位に立てる状況もないだろう


最低限見張りは一人つけられるだろうが、静希と陽太の機動力を持ってすれば十分振り切ることができる


最悪の場合は陽太に囮になってもらい静希だけその場から離脱するというのも十分に可能な状況である


静希が目標を捕縛したときにその場にいるという未来が現実味を帯びてきた中で、静希はもう一つ確認しておくべきことがあるのを思い出す


それはこの捜査チーム全体がジャン・マッカローネに対してどのような行動を起こすかであった


「一つ確認しておきたいんだけど、企業の人間の方にはどういうアクションを起こすんだ?」


「あぁ、言っていなかったな、今日彼は接待でね、夜にある店で食事をすることになっている、その帰りに拘束するという流れだ・・・まぁ君たちは参加しないからあまり関係はないだろうけどね」


デビットの言葉にそれもそうだなと呟いた後で静希は内心ほくそ笑む、十分すぎる情報が得られた、静希より自分たちが優位に立っているという事を勝手に勘違いしているために口が軽くなっているのだ


静希達の目的が事件の解決ではなく、ジャン・マッカローネの捕縛であるという事を知らないでいるために仕方のないことでもあるが、情報を簡単に口に出すというのはこちらとしてはありがたい限りだ


向こうとしてはこちらは一応味方という立ち位置であるためにそれも仕方がないことだろう、静希達からすれば捜査チームはただ利用するためだけにいる都合のいい存在であるという、その認識の違いがこの状況を生んでいると言っても過言ではないだろう


「それじゃ時間までは適当に時間を潰してるよ、あいつらの様子も見なきゃいけないしな」


「了解した、お大事にと伝えておいてくれ」


デビットの言葉を背に受けながら静希と陽太はその場を後にする、建物からは車でホテルまで送ってもらい、静希と陽太の部屋にたどり着くと同時に二人は大きくため息をつくと同時に軽くハイタッチする


「なんかスゲー上々じゃねえか?今までにないくらいスムーズに事が運んでる気がするぞ?」


「あぁ、これから先が不安になるくらいに順調だ・・・うまくいってるのにその方が不安になるっていうのも妙な話だけどな」


今までが自分たちの思い通りにならないことばかりだったためか、静希も陽太も今の状況に戸惑いにも似た何かを感じていた


自分たちの思い通りにならないのが普通だったために、今回のような普通ではない、自分たちの思い通りに動く事態に非常に違和感を覚えているのである


「とりあえずうちの女王とお姫様に報告しに行くか、あいつらにも関わってくる話だし」


「よっしゃ、腹痛のお二人の所に行くか」


静希と陽太はひとまず情報をまとめてから仮病の二人と下へと向かうと、部屋の中には何やら芳ばしい香りが漂っていた


その香りがコーヒーのものであると気づくのに時間はかからなかった


「あら、おかえり、早かったわね」


「・・・おいおい、腹痛の人間がコーヒーなんて飲んでていいのか?しかもケーキまで・・・」


静希が鏡花と明利の座っているテーブルに目を向けるとそこにはケーキとコーヒーが置かれている、一応腹痛という体で仮病を患っておきながらこの状況はさすがにまずいのではないかと思えてならなかった


「先生がせっかくだからってごちそうしてくれたの、近くのケーキ屋さんで買ってきてくれたんだよ」


「いいな美味そうじゃん・・・せんせー!俺も食いたいっす!」


「食いたいなら適当に買って来い、もう私は買いに行かんぞ」


どうやらこのケーキとコーヒーは城島が振る舞ったものらしい、普段の彼女からは想像もできない気づかいだが、女子二人は非常に嬉しそうにケーキを頬張っている


外国の菓子だけあって甘そうだが、その為に口直しともいえるコーヒーを飲み幸せそうにしている


「優雅な一日の始まりだな、仮病をしてる人間とは思えん」


「いいじゃない、どうせ私たちにできる事なんて裏方だけなんだし・・・で?何か収穫があったの?」


鏡花の言葉に、まぁ一応なと答えながら静希は今日得られた情報を鏡花たちに教えていく、今回の行動の主軸ともなるエドモンドにもこのことを教えておかなければいけないだろう


静希の話を一通り聞いた後で鏡花は口元に手を当てて唸り始める


「んんん・・・店で接待ねぇ・・・その場所が特定できればかなり有利に話を進められそうね」


「そうだね・・・または情報を流させて接待をギリギリのところでキャンセルさせるってのもいいんじゃないかな?向こうのチームを混乱させられると思うよ」


鏡花と明利の案に静希もおおよそ同意だった、今回の場合行動を共にしている捜査チームよりも早く目標を確保することが絶対条件になる、そうなると先回りするか相手の予定を変更させるかの二択しかない


「エドにあらかじめ話を伝えておいてよかったな、ちょっと危ないぞってことがわかれば、接待くらいは中止にしてくれるかもしれない」


静希の言うように事前にエドに伝えてあった情報漏洩の件がこれで活きてくるかもしれない、情報を伝えるタイミングと、伝える内容さえ工夫できれば上手く相手をあせらせることができるかもしれない


上手く事が運べば、捜査チームの裏をかいて、向こうが事態に気付くより早く目標を確保できる


まずはエドにこのことを伝えるべきだろうなと静希は伝えるべきことを頭の中でまとめ始める


「静希君、今のうちに索敵範囲を広げておいた方がいいんじゃないかな?そのほうが楽になると思うんだけど」


「そうだな、その接待する店とやらも特定しておいた方がいいだろうし・・・やることが増えてきたぞ」


やることが増えたと言っておきながら静希の顔は笑っている、やることがないよりはあったほうが静希にとってはいいのだ


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