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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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それぞれのやるべきこと

「・・・エド、お前の意見が聞きたい、俺の推測を聞いてどう思った?」


『・・・確かに筋は通っているように思えるね・・・ただ企業そのものが関わっているとなった場合、今の状態ならまず間違いなくトカゲのしっぽにされるだろうね・・・まぁ僕たちにとってはそれは大した問題ではないかもしれないけど』


静希やエドたちが目的としているのはあくまで情報であって今回の一連の事件の根本的解決ではないのだ


企業の方が仮にジャン・マッカローネを切り捨てたとしても、そこから情報が得られるのであれば静希達からすれば問題ないのである


無論彼自身がただの橋渡し役であることも考えられるが、企業の中でも幹部に位置している人間がただの橋渡しであるとは考えにくかった


『ともあれ最短で明日っていうのは僕も同意見だ、こっちで他にできる行動はあるかな?』


「・・・じゃあアイナとレイシャにもう一仕事頼みたいんだけど、今回あの二人は目標には接触してないんだよな?」


『あぁ、近くを通り過ぎたりはしたらしいけど直接接触はしていないらしい』


最後の確認をとったうえで静希は本題に入るべく口を開く、今回の行動の肝になるかもしれない内容だ


「あの二人にまた行動してもらうかもしれないんだけど、構わないか?」


『へぇ、君のお眼鏡にかなったのかい?あの子たちも随分と信頼されたもんだね』


エドの声は抑揚が強くなっている、自分の教え子が頼りにされているという事が嬉しいのか僅かに声が高くなっているのも把握できた


『それで一体何を頼むんだい?そこまで難しくないことだとありがたいんだけど』


「あぁたいしたことじゃない、俺たちが行動開始の雰囲気を察したらそっちに連絡を入れるから、その時に目標と接触して狙われているかもしれないっていう情報を流してほしいんだ」


『・・・あぁなるほど、あえて泳がせるつもりだね?』


エドは静希の提案をほぼ正確に把握していた


静希達が行動する、あるいはその直前に目標に情報を流すことでアクションを強制的に誘発させようとしているのだ


逃げようとするもよし、仲間に連絡しようとするもよし、何かしらアクションを起こそうとしたところをエドたちが誘拐する


人間慌てた時の行動が一番分かりやすいのだ、保身に入るものもいれば諦める者もいる、今回の目標がどちらに動こうと、相手が混乱している時であれば誘拐も容易だろう


『どれくらいの情報を与えるべきかな?あの二人に流させる内容だと大したものは流せないよね?』


「そうだな・・・あなたのことをさっき聞かれましたとか、大人が数人、あなたを探していましたよとか、そんな感じじゃないか?」


情報を伝えるのが警戒されにくいアイナとレイシャであるという事を考えると大した情報は伝えることはできないだろう


大人が数人何者かが自分を探している


そう聞いて慌てることがあるならやましいことをしている証拠でもある、何かしらの悪事を働いていればもしかしたらという心理が働くのだ


そしてその状況で静希は同時に動くことになるのだ、もし金銭のなんらかの取引がばれたらどうなるか、そう考えればおのずと行動は限られるだろう


『なるほど・・・効果があるかはさておき現実的だね、わかった伝えておくよ、君直々の依頼だって言えば彼女たちもやる気を出すだろうさ』


「そうだといいけど・・・まぁ頼むよ、あの二人がダメならどうにかして情報を漏らしてくれればいいから」


静希がやろうとしているのは、現場を混乱させるような行為である、自分たちが動きにくい今、順調に捜査チームに動かれるとエドたちの遂行率が低く

なってしまうのだ


その為目標であるジャン・マッカローネには多少の不確定要素を含んだ行動をとってもらう必要がある


だがだからといってそのまま逃げられたり、対策されてしまうようなタイミングでは意味がない、今回は本当にタイミング勝負の作戦なのである


「細かいタイミングはそっちに任せるけど、いいか?」


『任せてくれ、僕たちが動きやすいように多少細工はするさ、そっちも気を付けて・・・あぁそれと、君の小さい彼女に伝えておいてくれるかい?きちんと種はまき終えたって』


「了解した、何から何まですまないな」


静希の謝罪にエドは笑いながら気にしないでくれよといいながら別れの挨拶を告げて通話を切った


通話が終わったことで静希は一息つくと今まで取っていたメモを見返して思考を広げていく


「一応話は進みそうなわけ?」


「まぁな・・・まだ確定できないから後は奴さんの行動次第ってところか・・・明利の索敵用の種はまき終わったって言ってた、今のところ俺たちのできる準備はほとんど終えたことになるな」


静希の言葉に明利は索敵されている部分の確認を始めることにした、持ってきていた地図を取り出して索敵されている場所に印をつけていく


そこはジャン・マッカローネの自宅周辺と、自宅から勤務している会社までの通勤ルートとその周辺、及び企業ガランのビル周辺のようだった


目標が動くと思われる場所全てに索敵網を敷いた当たり、エドの思慮深さがうかがえる、今回のことに関しては随分と慎重に動いているようだった


「ほとんどってことはまだやることがあるってことね?」


「一応な・・・まぁこっちはこれからの交渉になるだろうけど」


そう言って静希は携帯を取り出して電話をかけ始める、相手は先程話題にも上がったテオドールだった


何回かのコール音の後に通話が繋がると、一瞬で静希の雰囲気が学生のそれとは違う得体のしれないものへと変貌する


『なんだ、俺の勤務時間はすでに終わっているんだがな』


「お前にまともな勤務時間があるとは驚きだよテオドール、真っ当じゃない組織でも労働基準とかあるのか?」


『働いている以上は規則があるのが基本だ、学生には難しかったかなミスターイガラシ』


軽く言葉のジャブを飛ばしたところで静希とテオドールは互いに小さく眉間にしわを寄せた


『それで一体何の用だ?こんな夜更けに・・・子守歌でも歌ってほしいのか?』


「冗談言うな、どうせお前のことだ、ある程度状況は知ってるんだろ?」


静希を目の敵にしているテオドールのことだ、ある程度こちらの事情を把握しているとみて間違いないだろう


そして電話の向こう側から聞こえてきた舌打ちが、その考えが当たっていることを如実に語っていた


『自分から首を突っ込んでおいて、俺になにをさせようっていうんだ?まさかまた死体を用意しろとか言うんじゃないだろうな』


「安心しろ、たぶんそれは無い・・・今回の事情を知ってるなら話は早い、今回俺があまり自由に動けない状況になりそうでな、ちょっと横やりを入れてほしいんだ」


手助けをしろという内容の話ならまだしも横やりを入れろという頼みにテオドールは一瞬何を言っているのかわからなかったようだが、静希の状況を改めて思い返した時にその行動の意味を理解した


頭の回転が速いのはありがたいことなのだが、それがこの男となると静希からすると脅威でしかなかった


『なるほどな・・・お前が自由に動けるだけの隙を作れと、そういう事か』


「あぁ、俺のいる場所の近くで仕事があるならついでに騒ぎを起こしていいぞ、生憎俺はノータッチだけどな」


たとえ騒ぎが起こったとしても静希はそれに関わるつもりはない、ただ単に抜け出せる口実があればいいのだ


犯人に対する干渉だろうと、捜査員に対する干渉だろうと気にする必要はなかった


『・・・確かにそのあたりにはそういう仕事がいくつかあるが・・・こっちにもスケジュールってものが』


「お前らのスケジュールを正しく守ることと、俺に恩を売ること、どっちが重要だ?」


静希の言葉にテオドールは一瞬言葉に詰まる、恐らく彼の頭の中では損得勘定が高速で行われているのだろう、どちらがより高い利益を望めるか、少なくともテオドールの中で大きな損はない、なにせスケジュールを少々はやめればいいだけなのだから


だがその損の無さこそがテオドールを踏みとどまらせていた、上手い話に飛びつくほど危険なことはないと理解しているのだ


『一応聞いておくが、他に条件でもあるのか?こちらに有利すぎるような気がするが』


「条件らしい条件って言えるか微妙だが、俺たちが怪しまれなければそれでいい、隠密重視・・・しかも期日は最短で明日、俺の合図でスタートしてくれるとありがたい」


静希がそう告げるとテオドールの大きなため息が受話器越しでも聞こえてきた


静希自身無茶なことを言っているというのは理解しているのだ、いきなり明日に面倒事を引き起こしてくれといわれてはいそうですかと了承するような人間はいないだろう


「無理ならそう言え、別の手段を考えるだけだ」


『・・・残念ながら可能だ・・・全く面倒な・・・確認しておくが、お前たちが関わっていることはどこか別の組織にもつながっているのか?』


どうやら静希の動向はある程度把握しているようではあるが、今回の背景にある企業の関係までは把握していないようだった


調べが甘いと言われればそこまでだが、むしろ静希の動向を調べつづけているあたりはやはり静希が警戒するに値する人間だというところだろうか


「さぁな、そこまで教える義理は無い、というか俺たちも今それを調べているところだ、現地の人間に束縛されると動きにくくてな」


『なるほど・・・こちらとしては問題ない、方法はこっちで勝手に決めるぞ』


「あぁ、開始の合図をする連絡先だけこっちによこせ、タイムラグが少ない方で頼むぞ」


注文の多い奴だなと文句を言いながらテオドールは何やら調べ始め、シズキに携帯の番号を複数教える、恐らくはこの辺りにいるテオドールの配下の人間の連絡先だろう


これがあるかないかで今後の展開が随分と楽になるかもしれない


混乱が大きくなればそれだけ静希は動きやすくなるのだから


『この借りは大きいぞ?あぁそうそう、うちのお転婆姫がお前に会いたがっていたぞ?適当に相手をしてくれるとこちらとしてもありがたいんだが』


「何で俺みたいなのに会いたがるんだか・・・高貴な人間の考えることはわからんな」


全くだよとテオドール自身も辟易しているようだったが、静希としては多少時間をとる程度であれば問題はないと考えていた


イギリスの王室の人間とパイプを作っておいて損はない


面倒なことには巻き込まれるかもしれないが、その分十分すぎる程プラスに働くことが多いだろう


何よりあのお転婆な姫様がどのように成長しているのかも気になる、どうせなら明利もつれて会わせてやりたいくらいである


そんなことを考えたうえで静希はテオドールとの通話を切った


「随分と楽しそうに電話してたわね」


「そうでもないって・・・とりあえず準備については大体済んだってところか・・・」


ひとまず前準備に関してはできることはやった、後は明日以降にどのように動くかが問題になるだろう


事前の動きもほとんど決めた、できるだけの手は打った、最善とまではいかないが今できるほとんどのことは終えたつもりだ、それこそ後は体を休めるだけである


「向こうは了承したか?」


「えぇ、どういう手を取るかはさておいて陽動くらいにはなってくれるかと思います、後は俺たちが当日どれだけ上手く立ち回れるかってところですね・・・」


どれだけ立ち回れるか、それは確かに静希達の手腕にかかっている、だが現時点では問題ないと考えているのか城島はそれ以上何かを言うことはなく数回頷いてからそうかと呟いた


城島としてもこれ以上手を打つことはできないと判断したのだろう、静希としては助言の一つでも欲しかったところだがこういう場面であまり教師を頼るというのもよくない気がするのだ


「でもよ、実際何時動くかわからないんだろ?それまで何してりゃいいんだよ」


「・・・俺と陽太は可能な限り現場近くか、あるいは本部近くの方がいいだろうな、鏡花たちはホテル、あるいは企業の近くあたりか・・・班を分けるのはちょっと不自然かな・・・?」


静希達からすれば動きやすいように配置を分けておくべきなのだが、捜査チームの人間からすれば都合のいい位置にそれぞれが配置されているのは不自然ではないかと思ったのだ


ただの学生が偶然丁度いい位置を、わざわざ班を分ける形で行動している、第三者から見れば待ち構えていたとみられても何ら不思議はない


「じゃあさ、私と明利が体調崩してホテルにいるってことにすればいいんじゃない?どうせ私たちはホテルで待機の可能性もあったんだし」


「あー・・・それでいいか・・・腹でも下すか?」


「それって実際にお腹壊した方がいいかな?それとも演技だけ?」


「そこまでする必要あんのか?先生になんか口添えしてもらえばよくね?」


陽太の言葉に全員の視線が城島に集中する、教師としては生徒が仮病を使うというのは多少問題があるのかと思ったが、その予想に反して城島の反応は悪くない


「必要なら連絡くらいはしてやるぞ、腹痛であれば突然動き出したとしても『治ったから行動開始した』と言い訳もつくからな」


城島からすればそこまで仮病という事に対する嫌悪感は無いのか、淡々とした態度だ、もしかしたら昔自分も同じ手を使ったことがあるのかもしれない


なんにせよ城島が反対せず、むしろ協力的であるのならありがたい限りである


向こうの行動基準としては静希が行動可能であれば問題はないのだ、鏡花と明利はむしろおまけ程度にしか思われていないのだから自由に動けるようになると思えば楽なものである


「お腹壊すとか何年振りなのかしら・・・まぁ仮病なんだけどさ」


「私もすごく久しぶりかも・・・普通に能力で調整しちゃうからただの風邪も最近引いてないし・・・」


鏡花は日々の生活や栄養状態から、そして明利はそこに加えて日々能力を駆使して体調を管理している、この二人は基本的に風邪というものとは縁がないのだろう


定期的に明利が体調を調べている静希と陽太も同じように風邪というものには縁がない、インフルエンザの予防注射位は受けているが、ただの風邪というものは幼いころに引いて以来まったく無縁だったのだ


「どうせなら久しぶりに本当に腹壊してみたらどうだ?仮病ならぬ本病ってやつで」


「あんたね、エドモンドさんたちのフォローもしなきゃいけないってのに本当に体調崩してどうするのよ、それに明利がいればすぐに治せるじゃない」


陽太の言葉に呆れながらため息をつく鏡花に対して、腹痛の種類にもよるけど・・・と少々頼りなさげにしている明利が困ったような表情を浮かべている


明利の能力で治せるものには限界がある、明利の能力は同調と強化による応急処置レベルの治癒機能しか持ち合わせていない


本人の免疫や自己治癒能力、内臓器の機能を強化することで治療を行うために、その方法以外での治療ができないのだ


無論明利が蓄えている薬学などの知識を駆使して治療できる範囲を限りなく広くしているために普通の医者以上に治療速度は早いだろう


もっとも、今回においては実際に腹痛を起こしても静希達には何のメリットもない、強いて言えば久しぶりに病人気分が味わえることくらいだろうか


わざわざ苦しい思いをしたいと思うほど鏡花は特殊な趣向は持ち合わせていないために陽太の案は完全に却下することにする


城島に協力してもらえるのだから本当に腹痛を起こす必要などないのだ、それに鏡花はともかく明利は索敵に集中しておいた方がいい、余計な痛みで集中を乱す必要性はどこにもない


「じゃあ俺と陽太は一度本部に行ってそのことの報告ついでに向こうの動向を探ってくる、お前たちはホテルで待機、動くことになったら連絡するよ」


「了解、まぁ大変だろうけど頑張りなさい・・・陽太、静希をしっかり守るのよ?」


「任せとけって、鏡花も明利も、エドモンドさんのフォローしっかりな」


「うん、頑張るよ」


それぞれやるべきことと行動内容が具体的になってきたところでその日は休むことにした


時差ぼけをなくすためにもしっかりと休息はとっておいた方がいい、明日何があるかもわからないために疲労は少しでも取り除いておきたかった


いつ行動するかわからないというわずかな焦燥感を覚えながら、静希達は眠りにつくことになる


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


先日の生放送の動画が上がっていたので見てみたら、本当に紫炎先生が宣伝してくださっていた・・・


感謝・・・!圧倒的感謝・・・!


これからも稚拙な文章ではありますがお楽しみいただければ幸いです

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