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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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お話の内容

「ちなみに確保した後はどうするの?監禁場所は?」


「監禁だなんて随分と物騒だね、ちょっとお話しするだけさ、そこまで大層ではないけど防音設備が整ってる場所を用意してあるよ」


ただのお話に防音設備はいるのだろうかと鏡花は不安を覚えてしまう、荒事をするつもり満々なんじゃないかと思えてならないのだ


静希がその場にいないことを願うばかりである、鏡花の脳裏には船の上で狂気にも似た笑みを浮かべた静希の姿があった


かつての同級生相手に行われる、残虐極まる行為、一種の私刑ともとれるような、拷問にも似たあまりにも強引で攻撃的な誘導尋問


鏡花は城島のそれを見ていないために静希の行った光景しか思い出せなかったが、あの時のことは今でも思い出せる


静希を敵に回した人間はあのようになるのだという、一種の強迫観念をあの場にいた全員に植え付けたあの行動


もし今回のこの場に静希がいたら、きっとあの時の再現になるのではないか、鏡花はそう感じていた


静希は敵と認定した相手に慈悲などはかけない、今回の目標も情報を引き出すための道具程度にしか見えていないだろう


相手が人間であり、なおかつ自分に直接危害を加えていないという点を考慮すれば多少人道的な行動に出ることは予想できるが、もし情報提供を拒むのであればどうなるかわかったものではない


「そのお話の最中にはあの子たちは混ぜないでくださいね?教育上よろしくないんで」


「ハハハ、あんまりひどいことはするつもりはないけど・・・まぁそうだね、その方がいいかもね」


エドとしてももしかしたら血なまぐさいことになるかもしれないという事を理解しているのだろう、鏡花の言葉を否定するようなことはしなかった


横にいるカレンもそのことに対して特に何かを言うという事はしない、彼らにとって情報を得る事こそが至上目的であり、それ以外は些事に過ぎないのだ


やはり契約者という人種はどこか頭のネジが飛んでいるのだろうかと思いながら鏡花は小さくため息をつく


「あぁそうそう、君たちにこれを渡さなきゃと思ってたんだ、はいこれ」


「ん・・・?なんですかこれ」


「イヤホン・・・?いや音楽プレイヤーですか?」


鏡花と明利に手渡されたのはイヤホンの接続された薄い機械、一見すれば音楽プレイヤーと相違ないそれを手に取り鏡花と明利は目を丸くしている


「円滑な情報共有のために必要なものさ、まぁ簡単に言えば通信の中継器だね、君たちの携帯と同期すればその電波で会話できる、携帯を媒介にするから電池を結構消耗するのが難点だけどね」


エドの説明に手に収まっている小さい機械をよくよく見てみるとその機械にはマイクも取り付けられているようだった


つまり携帯で電話しているように見せないために、それっぽい中継器を用意したのだろう、形が音楽プレイヤーそのものであるために偽装するには必要な道具かもしれない


携帯と同期させ通話状態にしておくことでイヤホンとマイクを通じて会話ができるようになっているらしい、最低限の会話をする分には十分な機材のようだった


集音性がどの程度あるのかは不明だが、怪しまれずに会話をするには最適ともいえるだろう、普通に音楽を聞きながら歌詞を口ずさみ歩いている人もいるくらいだ、それが日本語ならなおさらわかりようがない


「わかりました、今夜チェックもかねてお電話します、これを付けて情報を流せばいいわけですね?」


「まぁそう言う事だね、場合によってはこっちのフォローをしてもらうこともあるかもしれないけれど」


「任せてください、大したことはできないかもしれませんけど」


鏡花は謙遜していたが彼女の能力は市街地においても多大な成果を発揮する


街という周囲が変換できる材料に満ち溢れているうえに、そもそも道幅が狭いような街中であれば容易に行き止まりは作れるし迷路だって簡単に作れる


その能力の性質上、街中での行動は苦手な明利と違い、攻撃も防御も補助も万能な鏡花は、こういったフィールドでもパフォーマンスをおとすことなく活躍できるのだ


「とりあえず僕がしてあげられることはこれで全部かな、他に何か要望はあるかい?」


何か要望、といわれても実動部隊はエド達であるために、むしろこちらの方が何かした方がいいのではないかと思ってしまうのだが、この辺りは彼の人となりが見え隠れする瞬間である


自分がどうしてほしいではなく自分にどうしてほしいのかを聞くあたり人の好さが覗えた


とはいえ実際にエドにやってほしいことなど思い浮かばない鏡花は少し考え、車の外にあるイタリアの街を眺めた後で口を開く


「じゃあそうですね、イタリアのお土産とか教えてほしいです」


「ハッハッハ、そんなことでいいのかい?わかった、存分に教えてあげよう・・・といってもぼくも数えられる程度しか来たことがないから大したことは言えないけどね」


海外を飛び回るエドもまだイタリアには数えられる程度しか来たことがないようだったが、今回初めてイタリアを訪れた鏡花たちからすればそれでも十分すぎる程だった


買うべきものは何か、有名なものは何か、どこにいればどういうものが売っているか


エドは様々なことを鏡花と明利に教えてくれた、純粋な親切心からだろう、本筋からまったく関係のない話ではあったが嫌な顔せずにいろんな話をしてくれた


どちらかというとエド自身もこういう話の方が好きなのではないかと思えるほどだった


やはりこの人には荒事は似合わないなと思いながら鏡花と明利はエドの言葉に耳を傾けていた







鏡花と明利がエドの話を聞いていると鏡花の携帯が震えだし、着信を知らせていた


相手は静希のようだった、そろそろ合流したほうがよさそうだという事を察し、とりあえず通話を開始する


「もしもし?そろそろ時間?」


『あぁ、もうそろそろ一度ホテルに戻ろうと思ってな、どこかで合流しようと思ったんだが、今どこだ?』


静希の言葉に鏡花はあたりを見渡すが、外からこちらが見えない以上、こちらからだって外は見えない、それにどちらにしろここの言葉を読むことができないのだ、場所が書いてある標識などがあっても伝えられない


するとエドが気を利かせて地図を取り出し、一番近くの目立つ建物を指さした


鏡花は眉間にしわを寄せながら何とかその文字を読もうとする、やはりというべきか当然というべきかその言語もイタリア語だったが、何とか解読して静希に伝えると、どうやら向こうでも苦労して地図を読んでいるようで二、三唸るような声が聞こえてきた


「えぇそう、じゃあそこに集合ね、それじゃまたあとで」


「どうやらおしゃべりはここまでのようだね、名残惜しいが仕方がないか」


エドの軽い言葉を流しながら苦笑していると、車がゆっくりと動き出しその小さな駐車場から移動を始める


エドの示した場所に着いたのはすぐのことだった、車で走って十分も経過していない


「それじゃあシズキによろしく頼むよ、僕が一緒にいると警戒されるだろうから会えないかもしれないからね」


「伝えておきます、あの二人にもよろしく伝えておいてください」


「また今度お会いしましょう」


鏡花と明利が礼を言ってから車を降りると、名残惜しさなどもなく車はそのまま走り去った


ただのタクシーの偽装をしているためにこれもまた仕方のないことだろう、静希との集合場所で下車した鏡花たちがその場で待つこと数分、静希と陽太が買い物袋を手に持った状態でやってきた


「おう、お疲れ様、そのなりを見る限り『お話』ができたみたいだな」


静希達とは対照的に何も買った形跡がない鏡花たちに静希は笑みを浮かべる、無事にエドと合流できたという事を喜んでいるのだろう


事が順調に進んでいるのはよいことではあるのだが、これから先のことを考えると鏡花は少々気落ちしていた


「まぁそうね、いろいろとお話ししてきたわ・・・っていうかあんたらの後ろ、まだついてきてたのね」


静希がやってきたことで再び少し遠くから見られている感覚を覚えながら鏡花は僅かな不快感を表した


てっきり静希の事だから見張りを置き去りにして移動しているものとばかり思っていたが、どうやら今回は見張りを引き連れる形で街を徘徊していたらしい


「まぁ必要以上に怪しまれないためには引き連れるのも必要だろ、変に警戒されるのも厄介だしな」


「まぁわかるんだけどさ・・・ずっとついてこられるとちょっと嫌じゃない?」


静希としては余計な警戒をされたくないというのも本心だが、鏡花の言うことも理解できるのかまぁしょうがないなと苦笑してしまっていた


誰かにずっと後を付けられ、監視されていることを好む人間などごく少数でしかないだろう、少なくとも静希はそんな部類ではない、無論一緒にいた陽太も同様である


だが余計なアクションをして鏡花たちの方に目を向けられては今回の企みが御破算になってしまう、それに比べれば静希達が若干の不快感と共に買い物をしていた方が何倍もましなのである


「何度荷物持ちをしてもらおうと思った事か、どうせ後ろで監視してるならちょっとくらい手を貸してくれてもいいのになぁ」


「あぁいうのは監視対象にばれた時点でアウトなのよ、まぁそう言う意味ではさっさとばらしてあげるのがあの人のためなのかもしれないけど・・・」


通常とは違いすぎる経験を積んでいるとはいえ、学生に気配を感じ取られるような監視では意味がないのと一緒だ、完全に気配を断てるか、あるいは遠方から監視できる人材を配置したほうが良いのではないかとも思えるが、わかりやすい監視の方が静希達にとってはありがたいのだ


その分こちらを見ている目がわかりやすいという事でもあり、それの対策もしやすくなる


鏡花たちの方に監視がいかなかったのは幸運だっただろう、これでもし彼が振り切られるようなことがあれば代わりの監視がつけられて無駄に厳重な体制になっていたかもしれないのだ


「で、その荷物は一体何よ?なんか買ったわけ?」


「おぉよ、どうせ暇だったしな、見てくれ、いろいろ買ってきたから」


そう言って陽太が見せる袋の中にはイタリアの特産らしき食べ物がいくつも入っていた


どうやらスーパーや土産物屋を回っていろいろ買って来たようだった、食べ物以外入っていないのがなんとも陽太らしいと言ったところか


「案外この辺り買い物できるところが多くてな、時間ができたら服とかも見に行こうぜ」


「・・・私でも着られる服あるかなぁ・・・」


服といわれると明利にとっては死活問題なのがサイズである、日本人なら基本小さい人用の服も用意してあるが、基本背が高くスタイルのいい人が多い外国、しかも白人の多い圏内では明利が着ることができる服があるかどうかも定かではないのだ


もし買った際にはサイズの調整くらいはしてあげようと鏡花がほろりと涙を流しているなか、静希と陽太は苦笑するしかなかった


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