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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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エドモンドたちの内緒話

「なるほどね・・・ひとまず了解よ、こっちはこっちでやっておくからそっちもちゃんと仕事しなさいよ?」


「了解了解、とりあえずは頑張るよ」


昼食を終え二手に分かれると静希達の予想通り見張りは静希と陽太の方についてきているようだった


予想通りに動いてくれるというのは非常に楽だ、余計な手間も省けるし何より手間が減る、鏡花と明利も見張りの視線がなくなったことで安心したのか若干表情が柔らかくなっているようだった


「後は適当に動いて、しばらくしたらエドモンドさんに連絡入れましょうか、その時は明利、頼むわよ?」


「うん、このまま索敵はしておくね、今のところ見張りは静希君達の方に行ったみたいだけど」


静希と陽太と別れた明利と鏡花は移動しながら種を街のところどころに配置し、自分たちの後ろからやってくる人間を索敵しようとしていた


今のところ自分たちの後ろからついてくるような人間はおらず、見張りも全く見受けられない


超長距離から監視されていた場合は感じ取れないかもしれないが現段階では自分たちに向けられる強い視線は感じない


仮に遠くからこちらを監視していたとしても乗り物や複雑な道を経由すれば振り切るのは容易だ、身近に見張りを配置しないあたり、本当に自分たちの重要度は低いのだなと鏡花は判断し、三十分ほど移動した後でエドモンドに連絡を入れてもらう


「にしてもいい感じの車って言ってたけど、どんなのかしらね?」


「高級車・・・?でも目立つのはダメだし・・・普通の車かな?」


車にあまり詳しくない二人としてもいい感じの車というのは少し興味がある

抽象的過ぎて全くイメージできないが、現状況においていい感じなのか、それともセンス的な意味でいい感じなのか


今まで乗った車が実用性重視なものばかりだったために、鏡花と明利の頭の中には防弾だったり装甲がついていたりと物騒な内容しか思いつかなかった


しばらく待っていると鏡花と明利の前に一台のタクシーが停車した、別に手はあげたりしていないしタクシー乗り場というわけでもないのだが突如停止し開けられた扉に驚いていると、中からカレンが顔を出した


「お嬢様方、御機嫌はいかがかな?もしよければドライブでもどうだい?」


「カレンさん、タクシーで来たんですか?」


「お、お邪魔します」


まるでナンパのようなカレンのお誘いに苦笑しながら車の中に入ると、運転席にはサングラスをかけた男性が座っている、その男性の顔に二人は見覚えがあった


「さてお客さん、どちらまで行きましょうか?」


サングラスを外して顔を見せると、そこにいたのはエドモンドだった、笑顔を浮かべながら二人を見るその姿はいつもの調子と全く変わらない


どうやらいい感じの車というのは、隠蔽性という意味での良い感じという事らしかった、通常の車もそうだが、タクシーであれば一般道には余るほど移動し続けている、その為怪しまれることも少ないし、何より自分たちがタクシーから乗り降りても何の不思議もない


考えたものだと感心しながら鏡花は薄く笑う


「そうですね、じゃあちょっとしたお話ができるような場所までお願いします」


「わかりました、それじゃ発車します」


タクシーの流儀のようなものに合わせてエドモンドは車を走らせる、イタリアの街を車の中から眺めながら明利は運転席と助手席にいる二人に目を向けた


「あの、アイナちゃんとレイシャちゃんは?」


「彼女たちは別行動中、目標にどうやって接触しようか悩んでいるところね、接触に関してはあの子たちに全部任せてあるから」


カレンの言葉に鏡花は若干の不安を覚える、あの二人が優秀なのは鏡花も知るところではあるがあの子たちはまだ子供だ、重要ともいえる確認をあの二人だけに任せていいものだろうか


「それって・・・大丈夫ですか?あんな小さい子たちに・・・」


「もちろん最低限の助言はしたさ、後はあの子たちがどう動くべきか、自分で考えて行動する、放任しすぎてもいけないけど、過保護すぎるのも問題でね」


エドモンドの言葉はまさに父親のそれである、自分の子供の教育環境に関してどうしたらいいかを悩み結論を出した男の言葉だった


一瞬、エドモンドと自分の父の姿が重なり、鏡花は首を横に振りながらカレンの方に目を向けた


「せめてカレンさんがついて行ってあげたほうがよかったんじゃ・・・あの二人だと万が一の事態に対応できませんよ?」


「そのあたりは問題ない、何よりあの子たちが自分たちでやりたいと言い出したんだ、成長を促すためにはこういうのも必要なのだろうさ」


カレンとしてはアイナとレイシャの教育に関しては口を出すつもりはないのか、自由な行動を推奨しているようだった


教育者として、同時に保護者としてはそれで正しいのかもしれないが現場を任された責任者としてはどうなのだろうかと思えてならない


あの二人のことを信頼していると言えば聞こえはいいが、丸投げしているととられても何の不思議もないのだ


この二人に限ってそれは無いと思うが、多少の心配は残ってしまう


今回は自分たちの安全もかかわってくるのだ、保身に走るつもりはないとはいえもう少し気を引き締めてほしいと思うのも当然と言えるだろう






「という事で、ひとまず私たちが得ている情報はこんな感じです・・・結構面倒な状況になってますね」


鏡花は運転しているエドと助手席にいるカレンに現在の状況を大まかに説明し終えると大きくため息をつく


「今のところ私たちの戦力は静希、陽太、私、明利、エドモンドさん、カレンさん、アイナちゃんにレイシャちゃん、その中でまともに動けないのが静希と陽太です」


「ふむ・・・目標の捕縛は彼ら抜きという事か・・・こちらとしては問題はないが・・・」


カレンは目を伏せて考え始める、彼女の連れる悪魔が見せた予知の内容と比べると若干の矛盾を孕んでいるように思える


静希はまともに動けないはずなのに、目標を捕縛した状況に於いてその全ての予知で静希の姿がそこにあった


どうやって彼が動いたのか、恐らくはそのあたりは彼の手腕か、あるいは何らかの外的要因がそうさせたのだろうか、どちらにせよ自分たちが行動することに変わりはない


「現地のチームは今のところ、表向きは協力的ですがはっきり言ってこっちを利用しようとしてるのが見え見えです、あまり協力はできないかと・・・」


「まぁそうだろうね、過剰すぎる戦力、それに加えて学生、勝手な行動をしてもらわないように、必要な時だけ働いてもらえるようにするにはそうするのが一番だから」


「むしろ完全に拘束されていない分まだいい、こうして話せるだけの時間が確保できたのは君たちの手腕か?」


手腕かどうかと聞かれると微妙なところだが、そこは静希と鏡花がやっていた学生アピールがいい形で功を奏したというべきだろう


相手が自分たちを軽視してくれたおかげでこうして話せるのだ、油断させるというのは本当に重要だなと鏡花は実感する


「まぁ、向こうが油断してくれたからっていうのもあります、問題は静希達の行く現場と私たちが関わる現場に契約者がいるかどうか、それと第三勢力が来るかどうか・・・それによって行動を変えなきゃいけません・・・」


鏡花たちが直面している事態においてはいくつもの派閥が存在している、相手側、つまりはリチャード側がどのような構造をしているのかは知らないが、こちら側だけでも大きく分けて三つのくくりが作られる


まずリチャードの足がかりが欲しい静希達契約者組、そしてそれに巻き込まれる形で協力している鏡花たち、研究者の保護と犯罪者の捕縛を目的としている、今回表向き協力することになった捜査チーム


同じ方向を向いているように見えて、実際は全く違う方向を向いているのだ、協力すると言っても目的が違うのだから限界がある


「随分と頭を抱えているようだな」


「そりゃもう、捜査チームの中にも協力的な人がいるかも分からないし、もしかしたらその人たちの中に裏切りが出ないとも限らないし・・・情報を得たいってだけなのにてんてこ舞いですよ」


物事を深く考える鏡花としては三つ巴ともいえるこの状況はなかなかに頭痛の種となっているようだった、同じ獲物を狙っているというのに協力しなければいけない、敵の敵は味方などといえば聞こえはいいかもしれないが、問題はその敵を協力関係にある相手より先に確保しなくてはいけないことだ、しかも秘密裏に


これだけでも面倒だというのにこちらの戦力は万全ではない、涙が出そうなほど面倒な状況である


「ハハハ、ずいぶん難しく事を考えるんだね・・・君が思っているほど世の中は難しくないさ、結局のところ、そこにあるのは敵か味方かそれ以外だけ、たった三つだけだ、単純なものさ」


「・・・随分と簡単に言いますね・・・それに敵味方はいいとしてもそれ以外って何ですか・・・」


「そのままの意味さ、敵でも味方でもない、利用できるだけ利用して、邪魔をするなら排除する、そう言うわかりやすくドライな関係っていえばいいかな?」


簡単に排除するなんて言葉が出てくることに鏡花は正直驚いていた、エドは温厚で優しい性格だとばかり思っていたために、そんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ


小さな少女二人を育てる人間とは思えない言葉を聞いて鏡花は少々苦笑してしまう


「なんだか静希みたいなことを言うんですね、悪影響受けてませんか?」


「ハハハ、酷い言われ様だね・・・でもそのほうがいいよ、優しいだけじゃ何もできやしない、目的のためには手段は選ばない・・・そう言う考えは大事だ」


目的のために手段は選ばない、確かに静希が言いそうな言葉だ、実際今まで静希はそうしてきた、彼自身が今まで弱い能力を苦労して使ってきたという事を考慮に入れても静希は行動とその選択に躊躇がない


躊躇をしていられる余裕なんてないというのが静希の口癖だった、最近は聞かなくなったが、恐らく今でも静希の根底にはその言葉があるのだろう


そして手段は選ばないと言いながら、肝心なところは、特に味方に対しては気を配っている、自分の安全はないがしろにすることが多いのにもかかわらず


「・・・私達や静希は、エドモンドさんたちにとっては味方ですか?」


「そうだよ?僕にとって君たちは味方さ、シズキがそうであるように、僕もそうでありたい、助けられたからこそ助けたい、これは救われた人間にしかわからない考え方かもね」


救われたからこそ、エドは静希を救いたいと思っている、そして彼はそれを実践した、だからこそ静希はエドを心から信頼するようになった、エドの行動が静希の信頼を勝ち取ったのだ


救われたからこそ救うのだ、静希は毎回、それは目的達成のために必要な工程なだけだったと言うだろうが、救われた本人にとってはそれは何にも代えがたい希少なものだった


エドも、カレンも、静希から差し出された手を今も鮮明に思い出せる、もがいていた時にそこから脱出できるだけの手段を用意し、引っ張り上げてくれたあの手を


「エドモンドさんが静希みたいになるのは嫌ね・・・普通に悪人みたいになりそう」


「本当に酷い言われ様だね、僕はシズキの様にはなれないさ、僕にはシズキの様な機転も頭の回転もないからね」


エドは苦笑しながら笑っているが、実際彼は静希の様になりたいとは思っていないのだろう、静希のような行動力と考え方を見習うことはあっても、それを自分が真似ようとは思っていないようだった


あくまで、そう言う考え方や姿勢が重要で、必要なことであるという事を理解し、実践しているだけなのだろう


「キョーカはどうだい?シズキのそばにいるとなかなか見習うべきところはあるんじゃないかい?」


「あー・・・まぁ、行動に関してはそうですけど・・・考え方は危なすぎます、時折怖くなりますよ」


「そうは言いつつも鏡花ちゃんって結構静希君の評価は高いよね」


明利の言葉に鏡花はつい言葉を詰まらせる、反論しようとしてもその言葉が思いつかないのか口を開閉しながら唸り声を上げている


「ハハハ、なんだかんだ言っても高評価みたいだね」


「ちが・・・高評価っていうか・・・下手に優秀なのが性質悪いんですよ、表向きはまともですけど、実際のあいつはかなりの危険人物ですよ?それこそ日本の中でも五指に入るくらいの」


そう、鏡花が静希に高い評価を下しているのは純粋に静希が優秀だからだ、今まで解決してきた事件の難易度からしても、そして彼自身を見て来ても、それは明らかだ


問題は優秀だからこそ厄介であるという点である


鏡花が日本の委員会に所属していれば、まず間違いなく静希に何らかの首輪をつけるだろう、制約でも何でもいいから静希の行動を制限できるようなものを付けるべきだ


今は学生という身分であるためにある程度は行動を制限できているが、これで彼が大人になった時どうなるか鏡花には想像もできない


だが今のまま静希が成長していき、やがて大人になった時、恐らく首輪をつけることは誰もできなくなるだろう


首輪をつけようとしても、それから必ず逃げるような面倒な存在になるだろう


優秀であるが故に、始末することもできない、さらに言えばコントロールすることもできない、そんな人間がいたところで厄介なだけだ


優秀であるが故に扱いに困る、鏡花の中での静希のイメージは概ねこんな感じである


「五指っていうのは凄いね、それは客観的な意見かい?」


「いえ・・・私の主観です・・・あいつの本性を知ってる奴って結構少ないですし・・・」


静希の本性というと、知っている人間はかなり限られる、同級生でもそういないのではないかと思われる


実際に面倒事を片付けていく中で静希の本性を知っているのは、幼馴染と同じ班の人間、そして引率の城島くらいのものだ


委員会の人間は恐らく静希の本性を知らない、だからこそ情報を秘匿し、静希がただの学生として生活できるように取り計らっているのだろう、ただ巻き込まれ、悪魔の気まぐれで契約させられてしまった哀れな学生、その程度の認識なのだろう


悪魔こそ厄介で手出しできない状況だと思っているのかもしれないが、むしろ警戒するべきは悪魔ではなく静希なのだ


静希は下手な悪魔よりも厄介な存在であると知っているのは自分くらいのものである


「シズキがすごいのはそこだと思うよ?これだけ大掛かりに行動することがありながら、彼の本質を知っている人間は限られている、シズキは内と外の割り切りが激しいんだろうね、内側には甘いけど外側にはとことん厳しい」


そう言う意味では君はシズキに信頼されているんだよとエドは笑う


信頼という言葉を使われると、鏡花だって悪い気はしない、だがその分、静希は自分にとって遠慮が少なくなり面倒事に巻き込む比率が上がることにもなる


エドの言うように静希は内と外の割り切りが激しい、身内にはとことん気を遣うし優しく接するが、敵対する人間には容赦がない、それは今までも何度も見てきた光景だ


静希の内側に入れたことが鏡花にとって幸運だったのか、それとも不運だったのかは正直判断に困るところだった


鏡花にとって静希はかけがえのない友人となっている、彼のおかげで陽太とも恋仲になれたと思っているし、恩を感じることはあれど疎ましく思ったことはそれほどない


だが、もし自分が静希とそれほど仲良くなく、周りのクラスメートたちと一緒に静希達を眺めていたら、どうなっていただろうか


そう思ったときに先程エドモンドが言っていた、敵か味方かそれ以外かという言葉が思いつく


自分は今静希の味方だろう、そして静希の敵は静希が殺意を向ける相手だ、ではそれ以外はどうだろうか、それこそ他のクラスメートたちと同じように、遠くもないけど近くもない、眺めるだけのそんな存在


面倒に巻き込まれることもないが、きっと静希の本性を知ることもなく一生を終えることになるだろう


そう思ったとき、彼の内側に入れ込めたのは運がよかったのかもしれないと思い始めた


ほとんどの人間が知らない、本性に近い静希の姿を見れているのだ、たぶん何も知らないその他大勢よりは少しだけ得だろう


「僕やカレンは・・・さっきも言ったけど救われたから救いたいと思うし力になりたいと思う、所謂何か面倒が起きなきゃ信頼されなかった人間だけど、君は日常を重ねることで信頼された、そう言う意味では君たちが少しうらやましいかな」


僕たちには真似できないからねと付け足しながらエドは薄く笑みを浮かべる


エドたちは何かあった時に静希を救うと誓った、だから何かあれば静希のために行動するが、日常的に近くにいる鏡花たちは何かをするわけでもなく、日々の行動とその性格的な意味から静希に信用されている


それは普段近くにいないエドたちは絶対にできないことだ


自分は実はとてつもなく幸運なのかもしれないと思いかけて、最初にナイフで刺されたことを思い出し、やっぱりそんなこともないのかもと鏡花の頭の中はぐるぐると堂々巡りをし始めた


「さぁ、内緒話には最適な場所だ、料金はつけにしておくよ」


「あらそう?なら出世払いにしておいてもらえるかしら」


エドの軽口を軽く流しながら鏡花は車から外を見渡す


車が止まっているのは駐車場のようだった、とはいえ周囲の建物の配置のせいか通りから内部を把握することは難しく、車の窓の遮光性もあって誰がどこにいるのかも分からないようにできるようだった


表通りから離れているというのもあるだろうが、建物の間と間の隙間を利用したかのような駐車スペースであるために利用者はあまりいないようだ


建物と地面の隙間からは雑草が生えている個所もあり、お世辞にも手入れをされているとは思えないような空間がそこにはあった


内緒話にはうってつけの場所である


「さて、それじゃあ話をしようか、今回の目的はジャン・マッカローネを捕縛し、情報を得る事、参加できそうなのは僕たちとキョーカとメーリ、間違いないね?」


「えぇ、さっき言った通り、こっちの人たちに睨まれてますから・・・」


鏡花の言葉に一瞬エドはカレンの方に目を向ける、彼女が見たという未来のことはエドも承知している、だからこそ静希が参加しないという事実に少しだけ驚いているのだ


とはいえ静希ならたとえ牢獄の中に入れられていたとしても必要に迫られれば出てくるだろうとエドは確信しているために現在の状況とカレンがオロバスに見せられた未来が矛盾しているとは思わなかった


自分たちが予定を決め行動するのと同じように、静希も同じように予定を決め行動する、彼の場合それが少し無茶が多いように見えるだけだ


「君たちだってそれほど自由に動けるというわけではないんだろう?実際君たちがやることは情報の提供くらいかな?」


「そうですね、派手に動くとそれだけ今後が動きにくくなりますから、私達は裏方に回ります、それでお願いしたいんですけど、目標の行動範囲に明利の種をまいておいてほしいんです」


鏡花が促すと明利はマーキング済みの種が入った袋をエドモンドに手渡す


かなりの数があるようでその袋はしっかりとした重みをエドの手に伝えていた


「用意できるだけの数を持ってきました・・・それを蒔いてくれればある程度は索敵できます」


「それはいい、索敵に予知、情報収集系の能力が二つもあれば怖いものなしだね」


エドモンドの言うように情報収集系の能力者が現段階では二名いる


マーキングを施した生物の周囲を索敵できる明利と、特定の未来を見ることができるオロバス、この二人がいれば大体の事態は戦闘すらせずに解決できるのではないかと思えるレベルだ


ただ戦うだけがすべてではない、戦う前にすべてを終わらせることができるのが能力の奥深さである


「私達は目標の近くに行くことはできないので、お二方にお願いします、それ以外の部分のマーキングは私達が進めておきますから」


「了解した、責任もってこれをばらまいてくるよ、これがあるか無いかで随分と違うだろうからね」


普段明利の能力の恩恵を受けている鏡花たちからすれば、索敵というものがどれほど重要かがよくわかる


なにせ見ているわけでもないのに周囲の状況を把握できるのだ、ゲームなどでも相手の位置がすぐにわかるような状況であれば非常に楽になるのと同じように、現実でも相手の位置がわかるだけでも随分と楽になるのである


逆に相手の位置が全く分からないとひどく苦労することになる、索敵が十分ではない状態で歩き回ることの精神的圧迫感を味わったことのある鏡花からすると索敵こそ重要な項目であることはもはや確定的なのだ


戦いにおいて情報は何よりも優先される、現在の状況を把握できる索敵と、未来の情報を確認できる予知、情報戦においてこれほど優位に立てる能力もないだろう


「場所を確認したらすぐにそちらに連絡します、静希曰く向こうが動くのと同時に活動開始したほうが楽になるという事でしたけど」


「そうでしょうね、人間同時に事が起こるとどうしても処理能力が落ちるもの、複数の事案を同時に起こすことでこっちに目が向かないようにしてるんでしょう」


カレンは静希の思惑をほぼ正確に理解しているようだった、簡単に言えば静希はエドたちに疑いの目が向かないようにしているのだ


自分が何らかの形で関わっているグループに捜査のメスが入れば、次は自分に捜査の手が及ぶのではないか、その心理を逆手にとり誘拐する


つまりは今回の目標であるジャン・マッカローネが逃亡したように見せかけるという事だ、そうすれば唐突にいなくなってもどこかから情報が漏れ、逃げているのではという考えになるため、誘拐されたという方向へは思考が動かない


問題はタイミングだ、同時すぎてはいけない、あくまでその情報が回ってからいなくなったというのが好ましいのだ


「だとしたら、あえて目標に情報を流して泳がせるというのも方法としてはありだね、慌てふためいたところを偶然通りかかったタクシーで颯爽とエスコート、うん、悪くないよ」


どんな理由があるにせよ、通りがかったタクシーに乗ることは何ら不思議なことはない、それがどこに行こうと乗った客を目的地まで送り届けるのがタクシーの仕事なのだから


今回の場合タクシーは客の思うように動かないが、その点は些細な問題である


今回重要なのは周りの目を引かないという点だ、見られないのではなく意識されないことこそ重要で、日常のそれに近ければ近いほどに第三者からは認識されにくくなる


潜むというのは何も身を隠すだけではないのだ


誤字報告を十件受けたので二回分(旧ルールで四回分)投稿


この旧ルールの表示は今年いっぱいで終わりにしようかな、二か月も書けばさすがに慣れるでしょ


これからもお楽しみいただければ幸いです

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