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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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二日目の三班

「確認とれた、一応あの二人は気配くらいなら感じ取れるらしいぞ、明日接触してみるってさ」


電話でエドと話していた静希が上機嫌にこちらへそう報告するとひとまず鏡花は胸をなでおろす、これで自分たちがいるかどうかも分からない悪魔の影におびえる心配はなくなったわけである


どちらかというとその心配がなくなるというよりはある程度覚悟が決まると言ったほうが正しいかもしれないが


「今日はエドモンドさんたちはこっちに来ないわけ?」


「あぁ、接触は明日にしたいってさ、今日は都合が悪いらしい・・・っていうかこっちに気を遣ってるな」


静希達が今日こちらに来ているという事を彼は把握している、その為今日は早く休めるようにと気を回したのだろう


眠気が襲い掛かっている静希達からすれば素直にありがたい配慮である


「感じ取れるっていっても一瞬ちょっと会ったくらいじゃわからないでしょ?どうするのよ」


「そこはうまいことやるだろ、カレンとかが付き添って軽く演技くらいするんじゃないか?」


いくら人外たちの気配がわかるとはいえ、接触してすぐにその気配を察知できるほど鋭敏な感覚を持ち合わせるのは難しい、それが人の多い日中となればなおさらである


人も音も少ない夜間であれば距離があっても察知できるが、日中となると近づいて少ししないとその気配はあいまいになってしまうのだ


静希なら確信を持つのに十数秒から数十秒は要するだろう、アイナとレイシャが静希よりも鋭敏な察知能力を持っていることを期待するばかりである


「目標との接触は?相手の移動ルートとかも把握してるわけ?」


「ある程度は確認してるらしい、朝、昼、夕方の三回の接触を試みてみるそうだ、タイミング的に言えば夕方が好ましいらしいな」


朝は通勤、昼は昼食で移動していることになり、時には時間に追われていることだってあり得る、そう考えると帰宅時間である夕方であれば多少気持ちに余裕ができ、時間を稼ぐことが容易になるかもしれないのだ


日本であれば夜遅くまで残業している人間を数多く見受けられるのだが、海外では残業をするというのはあまり見られないことらしい、エドたちからすれば帰宅時こそが最大の機会といえるだろう


「そんなに心配しなくても、あいつらならうまくやるって、今回のこれですべて決まるんじゃないんだ、ただ周囲か本人に悪魔がいるのか確認するだけ」


そう言い鏡花を安心させようとしている静希は、正直この確認だけで完全に安心できるというものではないと気づいている、いや鏡花自身気付いているのだ


この確認はあくまで本人か契約者が自らの体に悪魔を宿していた場合にのみ有効な手であると


つまり、エドやカレン、そして以前の東雲風香のようにその体に悪魔が宿っていれば気配でそれを察知することができるのだが、能力で収納してしまっていると気配を察知できないことがあるのだ


静希の能力はまさにその典型である、人外を収納できる能力者が契約者になっていた場合この確認は意味がない


不意打ちを受けにくくなるという意味では確認する意味は十分あるし、確率的にはかなり安全の方に傾くことになるのは間違いないのだ、やって損はないだろう


「今回私たちがどう行動するかにかかってるっていうのに・・・行動が制限されてるってのはつらいわね・・・」


「まぁ明日は街をうろうろするけど、もし見張りが一人だけなら二手に分かれるのも手だな、たぶん向こうは俺の方に見張りを付けるだろうから」


静希の戦力的重要性と今回の鏡花たちが行った徹底的なただの学生アピールを考えればもし二手に分かれたのならまず間違いなく静希の方に見張りを付けるだろう


明日になってみない限りわからないが、もしそうなら鏡花と明利には別行動してもらって索敵の準備とエドたちとの打ち合わせをしてもらうのもありだ


「二手に分かれるってことは、私と明利、静希と陽太ってわけかたかしら?」


「そうなるだろうな、戦力になる方とならない方、まぁ向こうの勝手な印象だろうけど」


そう言う具合に印象を操作しておいたために、静希達はそうでもないが鏡花たちの方はそこまで窮屈な思いをすることはないだろう、もちろん相手の出方次第だし、こちらの行動次第でどうとでもなるだろうがまだ活発に行動するべきタイミングではない


明日はまだ準備期間、余計な横槍さえなければデビット率いる実動部隊も無為に動こうとはしないだろう


静希が懸念しているのはその横槍の部分でもあるのだ、もし静希達が認識していない第三者からの介入があった場合どう動くかである


現状こちらの戦力は十分すぎるほどに存在するが、不意打ちを受けた場合はその戦力が多少削られることだってあり得る


それが現地の捜査チームであれば良いのだが、静希達の中の誰かがその被害を受けてしまうと大きな打撃となる


なにせ静希を含めた悪魔の契約者三人と、その事情を知る数少ない人間なのだ、ここで失うわけにはいかない


とはいえいるかどうかも怪しい敵の陰におびえていて何もできなくなるようでは話は前に進まないのも確かである


幸いにして鏡花は悪魔との接触に多少なりとも心得がある、それにその能力のおかげか逃げる隠れるという動作も得意だ、明利と組ませれば仮に契約者が唐突に現れても逃げおおせるくらいはできるだろう


あとはどれだけタイミングよく目標を捕縛できるかである


カレンの能力を使えば相手の動きの先読みは容易だ、捕縛さえしてしまえば無能力者である以上、情報を探る程度であれば問題なくできる、問題は捕まえるまでの過程なのだ







情報をある程度まとめた翌日、時差ぼけなどもあってなかなか辛い朝になったその日、静希達は宣言通り周辺の街を歩くことにした


日本人、しかも子供という事で道行人の目を少々引いたようだが、静希達は特に気にせずこの街を観光気分で歩いていた


自分たちにずっと張りつくようについてくる視線に気づいていることを除けば、本当にただの観光だっただろう


「予想通りといえば予想通りね、一人かしら?」


オルビアの自動翻訳を切った状態で日本語で話しながら歩く中、鏡花がまったく表情を崩すことなくそうつぶやく


「うん・・・今のところ確認できてるのは一人だけだよ」


鏡花が自分たちがあるいている道筋と、感じる視線の感覚を元に割り出したのに対し、明利は周囲の人間に気付かれないように種をまき、自分たちを監視している人間の数を特定していた


人手が足りないような中で不確定要素の一つである静希達に余計な戦力を割くわけにはいかない、割ける人員はせいぜい一人か二人程度だと予想していたが、見事に的中した形になる


「どうする?別れて振り切るか?」


「・・・エドモンドさんの方はどうなの?確認はとれた?」


「いや、朝は無理だったみたいだ、後のチャンスは昼と夕方だな」


ジャン・マッカローネの周囲に悪魔がいるか否かを確認するチャンスは少ない、それをものにしてもらうためにエドたちには頑張ってもらいたいものである


その前に静希達は最低限できることはしなくてはならない


可能なら鏡花もエドたちに合流させたいところだが、見張りがいては余計な人間に会うわけにもいかない


「とりあえず昼までは一塊で動きましょ、そこから先は二手に分かれてって感じでいいんじゃないかしら?」


まだ静希達が動き出して一時間といったところだ、そこまで歩き回っていないのに二手に分かれたのではこの行動に何かしらの意味があるのではないのかと疑われかねない


食事をしてそれぞれ行きたいところへ行くという流れを作ったほうが自然に見えるのは確かである


「にしても、学生とはいえ仮にも契約者と一緒にいるような人間に対して見張りが一人とはねぇ・・・」


「そう言うなよ、悪魔と戦闘経験がある奴自体珍しいんだ、そう言うやつと一緒にいるのがどれだけ大変かわかってない奴の方がほとんどだろ」


静希の場合はかなり特殊な部類ではあるが、悪魔の契約者と一緒にいると大抵は面倒に巻き込まれる、少なくとも鏡花たちは必ずと言っていいほど巻き込まれてきているし、エドと一緒にいるアイナとレイシャもほとんど巻き込まれていると言っても過言ではない


そう言う人種が所謂『ただの学生』や『ただの子供』の部類からは外れてしまうことくらい想像できないのだろうか


それとも静希達のしていたただの学生の演技が真に迫っていたからか、自分たちに振り分けられた見張りの少なさに鏡花は少々呆れているようだった


契約者という存在が稀有であるために、そもそもマニュアルなども存在していないのだろう、何より静希をはじめとし日本人でしかも学生というのが相手の油断を誘っているのかもしれない


油断大敵とはよく言ったものである、見た目や年齢で推し量れるほど静希達契約者は甘い存在ではないようだ


「二手に分かれた後はどうすればいいわけ?目標周辺に行くのはさすがに止められるでしょうし・・・」


「エドと合流して今後の流れを決めておいてくれ、たぶん車かなんかで移動してると思うから、連絡先は明利が知ってるから連絡とりながら合流してくれ」


可能ならそのまま協力してやってほしいけどさすがに無理だろと、静希はある程度は割り切って行動しているようだった


今回自分たちが行動している場所を周りに見られるというのはそれだけで意味合いを変化させかねないのだ


例えば二手に分かれた先で鏡花たちが誰かしらに会っていた場合、現地の捜査チームに要らない警戒を与えかねない


今までやってきた鏡花の普通の学生アピールもすべて裏目に出ることだってあり得る、その為にエドとの接触は見張りも少なく、人通りも多い今を置いてないのだ


無論夜になって静希達が宿泊しているホテルにエドたちを呼んでもいいのだが、できる限り早く今回の主要人物である鏡花たちとエドたちを合流させておきたいのである


静希と陽太は今回はほとんど行動は拘束されることになってしまう、比較的自由に動ける鏡花と第三勢力であるエドが積極的に協力していくのがベストなのである


「あんたたちは?男二人で寂しく買い物でもしてるわけ?」


「なんか嫌な言いかただな、まぁ食べ歩きと、ちょっと街の構造でも把握しておくよ・・・もしかしたら見張り振り切るかもしれないけど」


見張りがどの程度の実力を持っているか定かではないが、静希達に簡単に振り切られるような腕ではむしろこちらが困るのだ


鏡花たちから視線を外すためには静希の方に注意を向けておきたい、適度にアクションを起こして鏡花たちの方に目が向くだけの余裕をなくしたいのである


囮役はそれなりにこなしてきた静希と陽太ではあるが、味方に対して囮を行うことになるとは思っていなかっただけに複雑な気分である


実習という形で外に出ている以上仕方のないことではあるのだが、もう少し静希の自由に行動できる内容だとありがたいと思うばかりである






「あぁそうだ・・・あぁ、食ったら別行動・・・そうそう・・・あぁ見られないように頼む・・・そこから先は鏡花に一任してある、上手いこと協調してやってくれ、頼むぞ」


適当な店に入って昼食をとりながら静希はエドにこれから先の流れを大まかながらに話していた


こういう時にエドが日本語を習得していてくれて助かった、電話をしたところで普通に会話できるのだから周囲に気を配る必要がない


周囲の人間に聞こえないように最低限の警戒はしているがその必要もなかったかもしれない、昼時の喧騒が静希の声を簡単に覆い隠してしまっていた


「今回は俺は大手を振って動けそうになくてな・・・悪いが確保の方は任せたよ」


『あぁ構わないよ、確保したら・・・そうだね、どこかしらで合流して一緒にお話ししたいところだけど・・・まぁ難しいようならこちらですべてやっておくよ』


一緒にお話し、その言葉の意味を正しく理解しているのは恐らく静希と一緒に行動を共にしてきた鏡花たちだけだろう


エドは『お話し』などと言葉を濁したが、やることは尋問、あるいは拷問のそれに近くなるのだ、相手が素直に口を割った場合はその限りではないが、まず間違いなく血が流れることになるだろう


相手にとって幸いだったのは医師免許を持っている人間がすぐ近くにいてくれるということくらいである、それで苦痛が和らぐことは決してないだろうが


「一時接触はどうなりそうだ?やっぱり夕方の方がよさそうか?」


『そうだね、一応ばれないように断続的に確認してるんだけど、やっぱり時間に余裕があるときとなると帰宅時かなぁ・・・』


ジャン・マッカローネの周りに静希達と協力している捜査員が目を光らせている以上常に彼を監視していればまず間違いなく発見され警戒対象にされてしまう


その為エドも工夫して偶然を装って彼の姿や行動を確認することで発見されにくくしているようだった


何度も何度もやればさすがにばれてしまうかもしれないが一日二日程度で露見するほどではないだろう


「ちなみに、カレンはなんて言ってる?予知で何かしら見えたか?」


『ん・・・やっぱりここ数日の未来はかなり変動しやすいみたいなんだ、何回か見直してもらったんだけど毎回違う未来が見えたらしい』


近い未来あるいは単純な事象であればあるほど変えやすく、その分何回も見直す必要があるのだが、今回の場合は事象が複雑すぎて秒単位で未来が変動している可能性があるのだ


要するに、未来を確定、また変動するためのポイントが無数に存在しているという事だ、静希達、捜査員、エド達、そして背後にいる人間達、こうしてみるだけで目標であるジャン・マッカローネの周囲がいかに面倒な構図を保っているかがわかる


予知の能力は良くも悪くも万能ではない、特にオロバスの能力の場合、訪れる確率の高い未来を優先的に見せているために予知を知らない人間のちょっとした行動でその光景が変わってしまうこともあり得るのだとか


『だけど一つだけその未来に共通しているところがあるらしい、その先では目標は捕縛されているってところだ、そして近くには君がいる』


「・・・俺か・・・俺は動きにくいはずなんだけどな・・・」


未来予知によって何度見直しても、場面や光景が変わることはあれどジャン・マッカローネを拘束し、さらに静希がその近くにいるという未来は変わっていないようだった


あらゆる未来は幾多のポイントを通過してある条件の未来へと収束する、それはつまり静希が目標を捕えているという事実である


その先にどうなるかはまだわからない、だが幾分か気が楽になる報告だった

もちろんその予知を聞いたところで手を抜くつもりは毛頭ないが


むしろ今回動きが制限されるであろう静希がその場にいるという事はエドたちが何かしらの不都合か、事情により行動できなかった可能性もあるのだ


そう考えると自分が行動することが増えたという事にもなる、良い報告なのだが静希としてはあまりいい報告とは言えなかった


『ひとまず伝えるべきことはそのくらいかな・・・また何かあったら連絡するよ、今日は夜に君たちの部屋に行けばいいのかな?』


「あぁ頼む、明日以降が本格的に動くことになりそうだからその打ち合わせもしておきたいしな、ばれないように頼むぞ?」


静希の注意にエドは笑いながらわかっているさと言ってのけ、そのまま通話を終了する


カレンとオロバスの予知のことは興味深いが、それを踏まえたうえでどうするのかを考えるべきだった


まずは鏡花と明利をエドたちに合流させること、そして事前準備でもある索敵網を敷くために工作活動をいくつか行う必要がある


考えることが山積みになっている状態で昼食をとっていると、鏡花がため息をつきながらいつの間にか寄っていた眉間のしわをつつく


「昼ごはんの時くらいは美味しそうに食べなさいっての、演技演技」


「あー・・・そうだったな、すまんすまん」


明利と陽太は何も気にすることはなく食事をしているが、頭脳労働を含めた静希と鏡花はどうしても考えていることが顔に出てしまいがちだ、今回に関してはほとんど演技で誤魔化しているとはいえ、なかなかに疲れる作業であることは否めない


「とりあえず先方とは話はついたのね?」


「あぁ、お前たちが分かれた後周囲を確認したうえで回収するそうだ、いい感じの車を用意してくれてるらしいぞ」


良い感じというのが一体どういう感じの車かどうかはさておき、偽装しやすいという意味であってほしいと願うばかりである


若干不安になりながらも鏡花は静希の言葉を信じ、この場は昼食に集中することにした


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


一回ミスったけど気にしないで変更しました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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