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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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新年度初めての

「それでね、いろんな髪型を試してみようと思って」


「そうねぇ・・・明利もなかなか髪伸びてきたし・・・今軽くいじってみる?」


静希がエドと話している間に明利は鏡花に髪型について相談していた


せっかく髪が伸びてきたのだからいろいろと試してみたいと思うのは至極当然の考えだろう、とはいえ今まで髪をあまりいじってこなかった明利がどのような髪形にすればいいかわからないのもまた事実である


「やっぱり束ねるのが手っ取り早いのかな?」


「まぁ基本はそうよね、ヘアゴムならいくつかあるから・・・ちょっとごめんね」


鏡花は明利の後ろに回り込み軽く明利の髪をすいていく、指を軽く髪に通すだけで何の抵抗もなくすり抜けるその触感に鏡花はほほうと感動しているようだった


「さすが明利ね、よく手入れされてるわ」


「そうかな?自分じゃよくわからないよ」


体調管理に関しては静希達の中では明利の右に出る者はいない、体調管理が万全であれば髪や肌も必然的に良質なものに保たれるという事だろうか、普段髪には気を配っている鏡花も驚くほど柔らかくしなやかな髪だった


「これならいろいろ試せるわね・・・まずは・・・っと」


鏡花は明利の髪を軽く束ねていき、自分と同じポニーテールにして見せる


料理をする時などは時折髪を束ねているものの、今明利がしているのとは少し異なる、うなじの部分で束ねるのではなく後頭部に近い場所で束ねることでより馬の尾に近い、まさにポニーテールの形になるのだ


ただ鏡花程髪が長くないために少々小振りになるが、それもまたにあっていると言わざるを得ない


「へぇ、なかなかいいじゃない、今まで髪型いじらなかったのがもったいないくらいよ?」


「そうかな?自分じゃよくわかんないや」


明利が首を後ろに向けるのだが、自分の頭を自分で見ることができるはずもなく、パタパタと髪が左右に振れる中、普段と違う髪形をしているのに気付いたのか石動がやってくる


「なんだ幹原、髪型を変えるのか?」


「物は試しってやつよ、イメチェンって感じかな?せっかく伸びたんだしね」


髪を軽くいじっているその姿に興味を引かれたのか、石動も明利の後ろに回ってその髪に触り始める


明利の髪の質の高さに驚いたのか、石動はゆっくりと撫でるようにその髪に触れていた


「下手に結うと痛めてしまいそうなほどきめ細かい髪だな・・・」


「まぁ明利なら大丈夫だと思うけど・・・こういうのもいいんじゃないかしら」


そう言いながら鏡花は明利の髪形を再び変えていく、今度は結ぶ場所を後頭部から側頭部に変えたサイドテールだ、これもまた新鮮で似合っている


相変わらず明利からは見えないが鏡花は手鏡を貸してやり明利にも見えるようにしてやるとさらに髪型を変えようとしていた


「ならばこういうのはどうだろうか、少し手間だが・・・」


そう言うと石動は慣れた手つきで明利の髪でシニヨンを作っていく、見た目団子のようになった独特の髪形である


「もう少し長ければ側頭部に両方作れるのだがな、今は後頭部に一つで我慢だ」

「へぇ、上手いものね、結構髪をいじったりするの?」


「普段私たちは化粧などはできないのでな、こういう髪形をいじるのばかり上手くなってしまった」


何とも情けないがなといいながら石動は手際よく明利の髪形を変えていく


明利のきめ細かい髪を傷つけることがないように慎重に、そして素早くいろんな髪型を試していく


ただの結びから編み込みまで、まるで髪を布のように見立てて綺麗に作り上げていくさまは一種の職人のようにも見えた


「こういうの見てると私も別の髪形やってみようかって思うわよね・・・」


「望むのなら試してみるか?清水程髪が長ければもっと髪で遊べるだろう」


髪で遊ぶというのもまた妙な表現ではあるが、他の髪形を試してみるというのも一つの手である


明利は肩甲骨少し下程度までだが、鏡花は腰まで届くのではないかというほどに長い髪をしている


普段はいつも髪を束ねているためにそこまで気にはならないが、髪を下ろすとその長さが際立つのだ


「どうせならそうだな・・・ふむ、こういうのもいいのではないか?」


石動は鏡花の背後に回り彼女の髪も軽くいじり始める、長い髪を三つ編みにしていくと長い尻尾のような三つ編みが完成する


これだけ長いと解くのも大変そうではあるが、今はそんなことは抜きにしてこの髪型を楽しもうとしていた


「へぇ、こういうのもできるのね・・・ちょっと陽太、どうよこれ?似合う?」

せっかく髪型を変えたので陽太にも見てもらおうと近くで寝ていた陽太を起こして自分の姿を見せると、陽太は寝ぼけながらその姿を視界に入れる


「・・・ん?なんか鞭みたいなのがついてないか・・・?」


「鞭とは失礼ね、綺麗な三つ編みじゃない?」


元がしなやかで長い髪をしているために三つ編みにしても問題なく揺れ動く、その為ちょっと首を動かすと陽太の言うように鞭のようにしなるのだ、一種の武器のように見えなくもないのが何とも悲しいものである


「まぁ陽太に感想を求めたのがまず間違いだったわね、服装も変えたほうがいいかしら」


「・・・その髪型だったらチャイナ服とか似合うんじゃね?ゲームとかのキャラでいるし」


ほうほうと陽太の意見を聞いた後でそれを脳内でメモしている鏡花、きっと家に帰ったらチャイナ服を作るのだろうと明利と石動は二人の様子を眺めていた


「ようやく終わった・・・ってなんかすごいことになってるな」


電話を終えた静希が戻ってくると三人の髪形はかなり変化しており、普段の三人と見比べると別人なのではないかと思えるレベルまで達していた


この短期間でよくもここまで変わったものだと感心してしまう


「これどうやったんだよ・・・後ろで結んでるのはわかるけど・・・」


明利の髪に触りながら静希はその髪型がどうやって作られているのかを確認しようとする


後で結んでいるのは確かなのだが側頭部あたりから三つ編みのような形で結び目に向かっている、一種の冠にも見えなくもない形に静希は少しだけ驚いていた


普段髪を結ばない明利とは全く印象が異なる、髪型一つでここまで印象が変わるとは驚きである


今までは見た目小学生のようだったのだが、今は少しだけ大人びて見えるのだ

こういっては何だが、髪型がここまで重要だとは思わなかったのである、本当に少し変えるだけで見た目や印象ががらりと変わるのだ


「明利はそうしてると大人びて見えるけどね、こっちはどうよ」


「・・・そっちはツインテールか?また違った印象だな・・・」


普段ポニーテールにすることの多い鏡花だが、ツインテールにするとその印象がまた変わる、少し強めな表情をするといかにも勝気な女子高生という印象になってくる


「・・・で、石動は一体どうなってるんだこれ・・・?」


「言ってくれるな・・・自分でも不思議でならないんだ」


三人の中で一番妙な髪形になっているのは石動だ


所謂『盛る』という髪形だろうか、頭頂部から上にめがけるように髪を編んでいきまるでどこかの戦闘民族のようになってしまっている


仮面のせいで表情は見ることはできないが、恐らく非常に複雑な表情をしていることだろう、彼女自身何故こんな髪型になったのかわからないようだった


「悪ふざけの産物ってわけか・・・まぁ二人はよく似合ってるよ」


「ありがとう、でもこれはやっぱり実用的じゃないね」


「そうね、セットに時間かかるし、何より頭がつかれる気がするわ」


「こちらは頭が重くなった気分だ・・・」


髪型に実用的も何もないような気がするのだが、静希としても彼女たちが言いたいことは理解できる


静希達は主に運動、あるいは戦闘を行うことが多い、その為動きにくかったり少しでも違和感を覚えるというのは死活問題なのだ


明利や鏡花はまだしも、石動のように明らかに目立つ髪型はそれだけで邪魔になるのである、髪型はおしゃれや個性の一部ではあるが、時と場所をわきまえることが必要であるという事である


そんな女子たちの髪形を眺めていると、明利と鏡花が静希の頭を注視しているのに気付く、より正確に言うのなら静希の髪に注目しているようだった


「・・・なんだ?」


「いやね、どうせだからあんたも髪型変えたら?」


「うんうん、いろいろ試してみようよ」


試してみたらといわれても静希はいじれるほど髪が長くない、ワックスなどを持っていればそれなりに髪をいじることもできたのだろうが、生憎静希はそう言う類のものはつけていなかった


「俺の髪なんていじりようがないだろ、短いんだから・・・ってなんで俺を拘束する?」


無理だという前に明利と鏡花は静希を半ば無理矢理に椅子に座らせ軽く拘束する


そしてその背後には髪を特盛にされた石動が指を鳴らしながら仁王立ちしていた

嫌な予感がする、そしてその予感はまず間違いなく的中するだろうことが予想された


「ふふふ、短くとも髪などというものはいくらでもいじれるのだ、任せておけ、それなりに心得はある」


そう言いながら石動は静希の髪を触っていく


明利のそれとは全く違う少し硬い髪質に、やはり男はこういう髪質が多いのだろうかと思いながら石動は確認するように全体の髪の流れを確認していく


「ふむ・・・癖は無いが・・・独特な髪だな、跳ねるわけではないが、妙に自己主張があるというか・・・」


「それ絶対褒めてないだろ・・・あんまり痛くするなよ?」


いくら静希といえど髪を引っ張られれば痛いし、不快に思ってしまうものだ


石動は慣れた手つきで静希の髪を全体的に触っていくと、側頭部のあたりで軽く髪を結び始めた


鏡花が作っていたような大きな三つ編みではなく、本当に小さく短い三つ編みだ、髪型のアクセントにするのだろうかと思っていると、今度は逆の髪に髪留を装着される


「ここをこうして・・・ふむ・・・こちらの方がいいか・・・」


男子の髪をいじるというのは初めての経験だったのか、石動は少々苦戦しながら静希の髪形を徐々に変えていく


「なんか変になってない?こっちをもうちょっと編んだ方が・・・」


「いやこちらを編むと頭皮が見えやすくなってしまうここはこのままの方が」


「でも今のままだとバランスが・・・」


女子の髪と男子の髪では勝手が違うのか、静希はなすが儘になりながら髪型をいじられ続けている


完成形がどうなるのか心配だったが、その心配は杞憂に終わることになる、結果的に言えば完成するよりも早く授業開始を告げるベルが鳴ったのだ


結局髪を元に戻す暇もなく静希達はそのままの髪形で授業を受ける羽目になったのである


嫌な予感は的中するものだと、静希は再確認するとともに、一番妙な髪形をしている石動にわずかながらに同情するばかりであった


年度が替わり、静希達の学年が変わってから初めての校外実習、その内容の発表の日、今までと同じように班長達が呼び出され教室に空席を作った状態で静希達は待機していた








一年間の実習を乗り越えているという経験から、浮ついている生徒は少ない、しかも一年生の補助に回っていたために、今回自分たちの出番はないという生徒も多いために教室は普段の日常さながらの光景が広がっていた


そんな中で静希達は妙に物々しい、なにせこの実習の内容報告があったらすぐに日本を発つのだから


「陽太、忘れ物は無いな?」


「おうよ、着替えにパスポートにその他もろもろ、準備万端だ」


「私も大丈夫だよ、準備はばっちり」


これから海外に行く人間にとって準備は必要不可欠である


陽太や鏡花はそこまでではないが静希と明利は事前準備が必要なだけにその準備には余念がなかった


特に今回索敵の能力も活用するかもしれない明利は種の準備を怠りなく進めていた


逆に言えば今回はそのくらいしか役に立てる場所がないと判断したのである


武器を持ってくることも考えたのだが、今回自分は目立たない方がいいだろうと明利は意図的に何の武装も持たずにやってきていた


それぞれ荷物は城島のいる職員室に預けているために彼らの近くにあるそれは日常のものと変わりない


静希達のような変則的な実習に出かける班はごく一部でしかないのだ、学年を探しても一つあるかないか程度である


話によると実習の日時が一日延びた班がいくつかあるらしいが、出発からして変則的なのは珍しいそうだ


初めて校外実習をした時はこの待つ時間でさえ心臓が飛び出るのではないかと思うほどに緊張していたものだが、今となっては多少の事では動じなくなっている気がする


それが単純な経験によるものか、ただ面倒事に慣れただけなのか、どちらなのかは静希達には判断できないことだった


少なくとも去年より成長しているのは確かである


思えば去年に比べて随分と他のチームも落ち着いているものだ、やはり一年の経験値というのはバカにできないものである


あの時自分たちが感心していた二年の先輩の二人のような表情ができているのだろうかと静希は自分の顔を触りながら少しだけ感傷に浸っていた


それぞれが思い思いに教室の中で時間を潰していると、扉が開いて城島と各班の班長達が教室内に入っていく


「あー・・・二年になって一年の補助をしていない奴らは今年初めての実習だ、気を引き締めてかかるように、難易度が上がっていたり上がっていなかったりとそれぞれではあるが、無事に実習を終えるようにしろ、以上解散」


城島の声とともに教室内が一気に騒がしくなる中、静希達は手荷物だけ持って即座に移動を開始していた


行動は早い方がいい、飛行機の時間は決まってしまっているがそれまでに確認できる内容はいくらでもあるのだ


「ところで鏡花、今回貰ったのってダミーの内容か?」


「そうよ、一応頭に入れておく?」


「いやいいや、どうせどうでもいい内容だろ?それよりさっさと職員室行くぞ」


まずは預けていた荷物を持って空港まで移動する必要がある、城島も引率してくれるが今回は城島の出番はかなり少ないだろう


実際に動くのが静希達ばかりだ、そして目標に対しての接触は静希達ではなくエドたちが担うことになる


目標と関わることがないとはいえ静希達も遊んでいていいわけではない、実際に戦闘だって行われるかもしれないし、何より今までとは少し種類の違う現場だ、気を引き締めていかなければいけないのは確かである


なにせ自分たちが関わるのはまだ未解決の事件であり、多くの人間が解決しようと躍起になっている事件なのだ、そんな現場に投げ出される時点で少々ハードルが高いが、そんなことはいまさらである


静希達からすれば高いハードルはいくつも乗り越えてきた、くぐってきたという方が正しいかもしれないがその方法はどうあれ、そのハードルを越えてきたのは事実である


一応鏡花からダミーの実習内容を見せてもらうが、静希が予想した通りほとんどがどうでもいい内容だった


一体どこから引っ張ってきたのか、半ばボランティアにも近く、何より依頼者が団体ではなく個人からのものである


個人の方がいくらか都合が利くという事だろうか、一体どこの誰かは知らないが名前だけ貸したという事もあり得る


こういう手続きも必要なのだなと感じながら静希達は城島の待つ職員室にたどり着いた


「来たか・・・準備はできているか?」


城島の言葉に、荷物を受け取った静希達は引き締めた表情のまま頷いて返す

全員の顔を見た後で小さく息をついてから城島も荷物を持って口を開いた


「では、これより二年A組三班の校外実習を始める、各自気を引き締めろ」


「「「「了解です」」」」」


全員の声に城島は満足したのか、四人を引き連れて移動を開始する


初めての実習から一年以上、自分たちの成長を実感するいい機会でもある


あの時の自分達では想像できなかった場所に、今立っている、それだけでも十分成長の結果ではあるが、静希が求めているのはそんなものではない


去年雪奈が立っていた場所に自分たちが近づけているか、気になるところではあったが静希はひとまず目の前の実習に集中することにした


評価者人数が330人になったのでお祝いで1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


ちょっと諸事情で一日くらい反応が遅れながらの投稿になってしまっています、ご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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