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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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あの時来た場所で

「へぇ、ずいぶん急な話ね、もう帰っちゃったんだ」


「あぁ、風呂上りにいきなりだったよ」


後日、事前ブリーフィングを控える中静希はエドたちが帰ったことを班員たちに伝えていた


時刻は昼食時、教室内が騒めく中、静希は少しだけ残念そうにしながら明利が作ってきた弁当を口に含む


「雪奈さんがすごく残念そうにしてたよ、アイナちゃんとレイシャちゃんがいなくなって寂しいって」


「あー・・・あの人小さい子とか好きだもんね」


この発言だけ聞けば雪奈はただの幼女趣味の人間のように聞こえるが、子供好きと言い換えれば些か犯罪の香りは消せる気がするから不思議である


傍から見ていた静希からしてもあの二人は雪奈によくなついていたように思える、そしてその監督役をしていたカレンもそれなりに打ち解けられたのではないかと思える


あのような場で雪奈の存在はとても貴重であることがわかったのはある意味収穫だった


「まぁ俺らはまたすぐに会うことになるかもだけど・・・問題はあの二人がどうなるかだよなぁ・・・」


「留学の件だっけ?結局どういう話になったのよ」


静希もアイナとレイシャの留学の件は詳しくは知らないのだ、あれから城島にそれとなしに聞いてみたのだが、あまり多くは教えてもらえなかった


ただ一言、それはあいつ次第だろうなといわれただけである


あいつというのがエドのことを示しているのはわかる、ただどういう状況なのかまでは理解できなかった


必要なものがあるのかそれともやらなくてはいけないことがあるのか、そのあたりは城島とエドしか知らないのだろう


「先生はあんまり教えてくれなかったんだよなぁ・・・なんか問題があるからあえて教えなかったのかもしれないけど」


「まぁ無闇に期待を持たせるよりはましってことかしら・・・あの人も難儀よねぇ・・・」


エドは正直に言えばかなり苦労している人種だ、研究者になったかと思えば犯罪者扱いされ、いつの間にか悪魔の契約者になり幼女を携えて今まで誰もやってこなかったことをやろうとしている


半ば自分からそれを行っている節はあるが、苦難の道を進んでいるのは確かである


「まぁあいつなら何とかするんじゃないか?結構要領はいいし」


「もし留学することになったら静希の家に住むんでしょ?明利としてはどうなのよ、彼女として心配なんじゃない?」


「あはは、流石にあんな小さな子に嫉妬はしないよ、私も様子を見に行くし」


何やら小さな子というところを若干強調したように思えたが、身長に関していえば明利はそろそろ抜かれるのではないかというところまで来ている


留学の手続きなどが終わった時にはすでにその身長は抜かれているかもしれないのだ、そう思うと涙せずにはいられない


「それにあの子たちがいると私が抱きつかれる事が少なくなるから助かるんだ、毎度毎度抱きつかれるのも結構大変なんだよ?」


「・・・あー・・・なるほど、身代わりってわけね」


毎回毎回雪奈をはじめとする人種に抱きつかれている明利からすれば自分の代わりになる人間が増えるというのは助かるの一言らしい


抱きつかれるというのはなかなかに疲れる上に暑苦しい、一度明利の体でそれを経験している静希からすると明利の言っていることは割と真面目な内容であることが理解できた


静希が明利の体になったのは三月の末だったが、まだ春の陽気になりかけの時期であったのにもかかわらず強烈な暑苦しさを感じたのだ、あの時ほどひと肌がこれほど熱いものだったと感じたことはない


ついでに言えば、最悪呼吸が苦しくなることもあり得るのだ、日常的に抱きつかれている明利からすると死活問題ともいえるかもしれない重要課題でもある


「そういやあの子たちって留学するとなると何年生になるわけ?詳しい歳って知らないけど」


「そういやそうだな、あいつら何歳なんだろ・・・小学生なのは確定だろうけど・・・」


日本人と違い外人の年齢は外見から見分けがつきにくい、というより静希達が日本人の顔に慣れ過ぎているせいで外人の外見から年齢を割り出すことに慣れていないのだ


少なくとも明利より小さいことからそれなりの年齢であることはわかるのだが、詳しい年齢はエドしか知らない、もしかしたらエドも知らないかもしれないのだ


「明利があの身長の時小学校の・・・真ん中あたりだったから・・・それよりは下かな」


「明利を基準にするのはやめたほうがいいんじゃない?たぶん当てにならないわよ?」


「鏡花ちゃん?私だって子供の頃はちゃんと成長してたんだよ?」


明利の言葉に鏡花は本気でえ?と疑問符を飛ばしていた、今より小さい明利の姿が想像できなかったのもあるが、明利が身長が伸びている姿を想像できなかったのだ


なにせ鏡花と出会ってから明利は一ミリも身長が伸びていないのだ、その反応も仕方がないと言えるだろう


「鏡花の反応ももっともだろ、てか鏡花は子供の頃どうだったんだよ身長は」


「私はまぁそこそこよ、少なくとも平均に近いくらいだったと思うわ」


陽太の質問に鏡花は意気揚々としながら答える、平均というがその平均すら届かない明利からすればうらやましいことこの上ない存在といえるだろう


明利は鏡花になにやら視線を向けながら拝むように手を合わせる


「・・・何やってんの?」


「えっと・・・なんかご利益とかあるかなって思って」


「・・・ないからやめなさいっての」


身近に自分より背の高い女性がいるから拝みたくなるのはわからなくもないが、鏡花からすれば明利のそんな奇行に涙せずにはいられなかった、どうにかして彼女の身長を伸ばしてやりたいと思うものの、それが難しいのも十分に理解しているのだ








エドが日本を去り、静希達は事前に城島から通達を受けていた通り週末に警視庁へと赴いていた


目的は今回の奇形関係の事件の事前ブリーフィングである、静希にとって苦い思い出のある場所であるために、あまりいい顔はしていなかったがこれも仕方のないことと割り切るしかない


「ここにくんのも久しぶりだな、去年以来か」


「そうね、まぁ今回はビクビクする必要もないでしょ」


「びくびくしてなかった奴がよく言うよ・・・正直いい思い出は無いけど・・・」


「前回は状況が状況だったからね・・・」


静希が犯人扱いされて以来の来訪に三班の人間は正直どう反応したらいいものか迷っているようだったが、今回は自分たちは客に近い立場だ、そう邪険に扱われることもないだろうと半ば高を括っていた


「ほらお前達、突っ立っていないでさっさと行くぞ」


「あ、はい」


静希にとってあまりいい思い出のない警視庁というこの場所に引率という形で城島も同行していた、実習の前段階という形での話なのだから半ば当然かもしれない


静希達からすれば大人である城島がいてくれるというだけで幾分か気が楽だが、実際は自分たちがほとんど行動しなければいけないのだから困ったものである


「ところで先生ってここによく来るんですか?なんか歩き慣れた感じですけど」


「・・・そこまで多くは無いがな、まぁ数えられる程度だ・・・二、三回も来れば構造くらいは覚えるだろう?」


城島自身そこまでここに足を運んだ経験はないというが、その足はまっすぐ目的地である会議室へと向かっている


数えられる程度というが一体何回来ているのか気になるところである、それを聞いたところで何の意味もないことは静希も鏡花も理解しているが


「今回国岳さんはどれくらい関わってるんですか?ある程度橋渡しになってくれると楽なんですけど」


「あいつはこの件に深くは関わっていない、無論全く関わっていないわけではないが、そこまで協力を要請できるとは思えんな」


静希は今回重要な証拠でもある資料を国岳を通じて調査本部へと送ってもらった、今回の件に国岳が深く関わっていたのであればそれなりに目をかけてもらえたかもしれないが、そこまでを求めるのはさすがに酷と言うものだろうか


「とはいえ、最低限の情報提供くらいは可能だろう、今日のブリーフィングが終わったらいろいろと情報を貰えるようにこちらから打診しておこう」


「ありがとうございます・・・今回は一層面倒な内容になりそうですね」


なにせ今回は他国にも被害が出た事件が絡んでいるだけに情報の重さも今までの比較にならないほどである


少しでも情報が外部に漏れれば計画が破たんすると言っても過言ではないために捜査員たちもかなり神経質になっているだろう


そんな中に表向き学生の自分たちが入っていかなくてはいけないのだ、これが面倒でなければ一体何が面倒なのだろうかと問いたくなるほどである


そんなことを考えながら廊下を歩いていると静希はある人物とすれ違う


以前どこかで会ったことがあると思ったのもつかの間、その人物は静希の前で歩みを止めその顔をじっくりと観察し始めた


静希はその顔に覚えがあった、それもそのはずだ、その男は以前静希が犯人に仕立て上げられた一件で出会ったことのある警視総監その人だったからである


「君は・・・確か五十嵐君だったか?」


「・・・お久しぶりです、その節ではお世話になりました」


お世話になったというのは一見すれば挨拶の常套文句だが、この状況からすれば互いに皮肉でしかない


彼もそのことはわかっているようで苦笑しながら静希とその周りにいる鏡花たちに視線を向けると小さく息をつく


「今回は堂々と入ってきたようだね」


「えぇ、今回はただの一般市民として来ていますから、隠れたりする理由も必要もないですし」


これも皮肉めいたものだが、静希からすればこれほどありがたいことはないのだ、堂々としていられるというのは非常に楽なのだ、当然と言えるだろう


「・・・今は構わないが、あまり羽目を外しすぎ無いように気を付けなさい」


「・・・ご忠告痛み入ります」


軽く挨拶を交わした後、警視総監はそのまますれ違う形で静希から離れていく


ここに来るとわかった時にもしかしたら会うことになるかもとは思っていたが、まさか本当に会うとは、さすがの静希も少しだけ肝が冷えた


お偉いさんに会うのは半ば慣れたものだが、それでも組織のトップに立つ人間というのはある種の風格のようなものを携えているために何度会っても慣れることがない


プライベートならまだしも仕事中に出会うとその雰囲気は普通の人間のそれとは一線を画す、静希からすればあまり会いたくない人物の一人である


「挨拶も済んだところで、そろそろつくぞ、それぞれ心の準備をしておけ」


「・・・了解です」


先程大物と会っただけではなく、これから実習のことについて話さなければならないのだ


気が重いがこればかりは仕方がないと割り切るしかない


たどり着いた会議室の扉を城島がゆっくり開くとその奥に何人かの人影を見かけることができる


この部屋から実習が始まるのだなと、静希達は全員気を引き締めた


引き続き予約投稿


一応明日まで予約しようと思ってます、万が一という事があるので


これからもお楽しみいただければ幸いです

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