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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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話の内容

「それで、ブリーフィングは何時何処でやるんですか?」


「今週末、場所は警視庁本部だ」


その言葉に静希は一瞬苦い顔をする、なにせ以前自分が殺人犯扱いされたときに侵入した場所だ、あまりいい思い出は無い


「ブリーフィングの内容に関しては詳しくは聞かされていないが、当日来るメンバーは一応把握している、捜査をしているチームのリーダーと、その補佐、そしてその部下が二人の合計四人だ」


つまりは四人同士でブリーフィングを行うことになる、恐らくはトップとその補佐、そして現地で実際に活動している現場の声を反映させるために二人の部下を連れているのだろう


世界で行動している人間が日本に来てくれるというのだからこちらとしては感謝するべきなのだ


「ところでその四人って日本人ですか?」


「いや、三人は外国人だ、四人の内一人だけが日本人だな、まぁお前達なら会話は苦労しないだろう」


お前達、というよりは静希がいればという方が正しいだろう、オルビアの簡易翻訳があれば大抵何処にいても会話だけには困ることがない


そして数いる捜査官の中で日本人がいるというだけでも十分ありがたい、世界規模で捜査をしているのだ、日本だけではなく被害にあった国全て、あるいはそれを調べるための機関が動いているのだ、多国籍になるのは承知していることでもある


「警視庁かぁ・・・行きたくないなぁ・・・」


「あんたにとってはいろいろあった場所だもんね、まぁ今回は我慢しなさい」


事情が事情であるために断れないのがつらいところではあるが、静希だって好き好んで警察に顔を出そうとは思わない


特に一度は捕まっている身である、警察という存在の印象はあまり良くないのだ


普通に生活していれば警察の厄介になるようなこと自体稀有かもしれないが、静希の場合その稀有な事態が強烈に記憶に残っているのである


こればかりは一朝一夕で拭えるものではない


「とりあえずはそういう事だ、詳しくはブリーフィング当日に質問しろ、何か質問は?」


「今のところは特に・・・当日は先生も同席するんですよね?」


鏡花の質問に城島は当然だとため息をつきながら答える、彼女としても貴重な週末をわざわざ潰したくはなかっただろう、だが実習のためとなると仕方がないという部分もある


特に今回のことは事前確認や通達が重要になってくるような内容だ、多少の面倒は甘んじて受け入れるべきだと判断したのだろう、もはやあきらめのような感情が渦巻いているのが静希達にも理解できた


「にしても捜査チームのトップが出てくるなんて、そんなに大事にするべきことかしら」


「それだけ連中も慎重になりたいんだろうさ、特に相手に悪魔の影が見え隠れしていればなおさらな・・・五十嵐の存在も大きいだろうが、そのあたりは察してやれ」


大規模な事件だっただけにその捜査自体にもかなり力が入っている、被害が大きかっただけに投入している人員も時間も桁違いなのだ、その解決の糸口ともなれば気合が入るのも仕方がないだろう


成功に繋がることであればどんな事だろうと全力で取り組む、それが悪魔の契約者との事前打ち合わせだろうと変わりはないようだ


その姿勢は静希としても好感が持てるのだが、空回りしないことを祈るばかりである


「にしても今年に入ってから急に海外に行くことが多くなったわね・・・どっかの誰かさんのせいで」


「悪かったって・・・今後も多くなるとは思うけどな・・・相手が日本中心に活動してくれてりゃもっと楽だったんだろうけど・・・」


静希達の都合など知ったことではないというかのように、リチャード・ロゥは世界的に活動している


それが何の害もないことであれば喜ばしいことなのかもしれないが、その行動によって多くの被害が出ているのだ、これ以上看過はしていられない


ただでさえ面倒事ばかり起こしている人間が、世界的に事件を起こしてなおかつ悪魔の召喚法まで知っている、これ以上面倒を増やさないためにも早期解決が望まれるのだ


とはいってもそれが儘ならないのも、同時に鏡花たちに迷惑をかけているのも事実、こればかりはどうにもうまくいかないものである


「とりあえず各員いつでも海外に飛べるように準備だけはしておけ、事態が急変しないとも限らん」


「了解です、今日はこれで終わりですか?」


「あぁ、私はこの後用事があるので失礼する」


城島が用事があるというのは少々珍しい、もしかしたら婚約者である前原の事かとも思ったのだが、彼女の表情が浮かないところを見るとどうやら違うようだった


「ちなみに何の用事っすか?前原さんすか?」


「・・・残念ながら違う、どこかのバカが連れてきた留学生の件でな、まったくあちらこちらと忙しいことこの上ない」


城島が一瞬静希に視線を向けて大きくため息をつく、用事というのはまず間違いなくエドとアイナとレイシャのことだろう


我ながら面倒なことを持ち込んでしまったものだと申し訳なくなるが、今のところ頼りになるのが城島しかいなかったのだ、仕方ないとはいえ頭が上がらない


城島としても頼られること自体は悪い気はしていないようだが、少々忙しいようでため息が止まらないようだった


頼りになる大人が身近にいるというのはありがたいが、頼りすぎるのはやめたほうがいいかもしれないと静希は少し反省することにした








「なるほど、じゃあ事前ブリーフィングが終わるまでは日本にいたほうがいいのかな?」


静希は帰宅後、今度あるブリーフィングのことをエドに告げるが、この反応には首をかしげていた


「どうだろうな、お前らにも仕事の都合とかあるだろうし無理にとは言わないよ、決まったこととかは俺がメールとかで伝えればいいわけだし」


実際エドたちが滞在できる期間にも当然ながら限りがある、エドたちは一応社会人なのだ、仕事を放り投げていいはずはないのである


「実行するあたりにはまた休みをとってもらうかもしれないんだし、今のうちに働いておいて有給とりやすい状況にしておくってのも大事だぞ?当日仕事で行けませんじゃ話にならないしな」


実際事前準備ばかりに気を遣って本番で役に立たないのでは静希のいうように話にならない、実際に動いてくれる人材がいるかいないかだけで状況は大きく変わってしまうのだ


「んん・・・じゃあミスジョウシマにいろいろと話を聞いたら一度引き上げるかな、いろいろ準備もしたいし」


「話し合いって明日だっけか?先生も忙しそうにしてたよ」


いろいろ必要なものや資料を用意するのに大忙しなのだろう、前例がないわけではないだろうが、アイナとレイシャの場合少々特殊な事案であるために資料集めにも苦労しているようだった


エドとしても必要なものがわかり次第、自分たちの本拠地に戻っていろいろ準備が必要なものがあるだろう、一度帰るというのも十分選択肢としてはありだ


「せっかく時間を作ってくれているんだ、いろいろと勉強しようと思ってるよ」


「まぁそれは任せるけど・・・問題はあっちだよ」


静希が視線を向ける先にはすっかり雪奈と打ち解けたアイナとレイシャ、そして二人を見守るカレンがいた


四人はそろってゲームに興じており、なかなかに白熱しているようだった、仲良くなるというのはとても良いことなのだが、仲良くなりすぎるというのも困ったものである


「んん・・・あの状態の彼女たちを引き離すのはちょっと酷な気がするなぁ・・・」


「そこは社長なんだから、ちゃんとメリハリを付けなきゃいけないんじゃないのか?プライベートと仕事はしっかり分けないといけないとか言っとけば平気だろ」


せっかく仲良くなれたというのに引き離すのが気の毒というのはわかるが、こればかりは仕方がないともいえる、なにせエドたちは日本に滞在できる期間にも限りがあるのだ


限りあるその時間に多くの体験をさせるということ自体はエドも賛成するところではあるが、離れにくくなるというのも少々考え物なのである


「まぁ正直に言えば、あの子たちがいなくても仕事自体は問題ないんだけど・・・私生活の方はちょっと支障が出るなぁ・・・」


「・・・あぁそう言えばお前あの二人に起こしてもらってるんだっけか」


あの二人は雪奈に対して自分たちはキャリアウーマンだと言っていたが、エドにこのような発言をされる当たり役には立っているようだがそこまで重要な仕事は任されていないのだろう


技術が伴ってもやはりそこはまだ子供という事だろうか


それよりなにより問題はエドの私生活である、あんな子供に毎朝起こしてもらっているというのは大人としてどうなのだろうかと思えてならない


「これを機に子離れしたらどうだ?毎朝自分で起きる生活を目指して」


「無理無理、あの二人に起こされないと僕の一日は始まらないよ、少なくとももう一人で起きられる気がしないね」


エドの自信満々なセリフに静希はため息が止まらない、自慢するような事柄ではないだけに静希としては頭が痛かった


二回り近く歳の離れた子供に起こされる大人というのはどうなのだろう、親と子という関係からすれば何も不思議はないのだが、エドたちには何の血縁関係もないのだ


血縁関係なしに姉弟の関係を築いている静希がいう事ではないかもしれないが、本物の親子のようになっているだけに問題が起きるのではないかとも思えてならない


「・・・一応確認しておくけど、お前本当にロリコンじゃないだろうな?」


「心外だなぁ、それはむしろこっちの台詞なんだけどね・・・」


幼女と同じような体つきをしている明利を恋人にしている静希


幼女を教え子として教育し、我が子同然に愛情を注ぐエド


見比べた時にどちらがより危険度が高いかといわれると静希としては首をかしげるばかりだが、第三者視点から二人を見ているカレンからすればどちらも同じく危ない存在であるのに変わりはなかった


自分は普通だと信じたいと思いながらも、小さい女の子が楽しそうにしているところを見ると穏やかな気持ちになるのも確かだ


そして自分の中にある感情を必死に否定しようとしているのかカレンは何度か首を横に振ってゲームに集中することにする


静希とエドは互いに自分がロリコンではないことを証明しようと議論しているが、その様子を見ていた雪奈とアイナ、レイシャは首をかしげていた


「なんか盛り上がってるね、なんの話だろ」


「真剣な表情をしていますからきっとお仕事の話でしょう」


「随分と熱心ですからきっと大事なお話なんでしょう」


「・・・大事・・・そうだな、大事なお話だな・・・」


ゲームをやっている中で唯一二人の会話を耳に入れていたカレンは三人の反応にどう対応したものか困ってしまっていたが、三人ともふたりの会話に入ろうとしなかったために誤魔化すことはできたと信じたいところである


よもや自分がロリコンではないという議論を行っているとは夢にも思わないだろう


自分はなぜこんな男たちについていこうと思ったのかと割と真剣に後悔したカレンだった


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