表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

854/1032

連行

「あの二人に例の件を教えなくていいのか?」


「随分と楽しそうにしているが・・・」


「まだ確定していないからね、現実にそれが叶うのであれば、二人に話すつもりだよ」


アイナとレイシャが雪奈とする学校の話に夢中になっている間に、静希とカレンは二人の保護者であるエドに伺いを立てていた


本人たちがやる気を、もとい興味を持っている以上エドとしては可能な限りそれが叶うようにセッティングしたいところである


無論用意しなくてはいけないものが多いのもまた事実だが、決して不可能ではないだろう


「いやぁ、彼女があの子たちと会ったのはいいタイミングだったかもしれないね、今までいないタイプの人間だったし」


「・・・そう言えばそうだな、何気に前衛タイプの人間とは会ったことがなかったのか」


今まであったことがないタイプの人間というのは二人にとっては新鮮だったのだろう、全く見ず知らずではあったとはいえ、静希の姉貴分という事もあって警戒する必要がないというのも理由の一つだったのかもしれない


雪奈はいい意味でアイナとレイシャに変化を与えたと言っても過言ではない、我が姉ながら恐ろしい影響力であると言わざるを得ないが、静希としてもこの変化は喜ぶべきことだった


「そういやさ静、この子たちは今静の家に泊まってるんだよね?」


「そうだけど、それがどうした?」


現在静希の部屋や両親の部屋、そしてリビングを使って四人を泊めている状況ではあるがそれに関して雪奈がどのような関心を持ったのかはさておき、静希としてはあまりいい予感はしなかった


「この子たちさ、うちに泊めちゃダメかな?可愛いし抱き着かせてくれるし」


「・・・それは・・・どうなんだ?」


許可を得るのは自分にではなく保護者であるエドにとるべきだ、彼女たちが本当に雪奈の家に泊まりたいと思っているかはさておき、それを許可できるのはこの中でエドだけである


「僕としては構わないよ、アイナ、レイシャ、君たちはどうだい?ユキナの家にお泊り会がしたいのかい?」


「はい、せっかくですから友好を深めたいです」


「お泊り会がしたいです、もっとお話ししたいです」


この反応に雪奈はじゃあ決まりだと言いながら二人を両脇に抱きかかえる、その姿はさながら人さらいのようだ、抱えているのが小さな女の子というのも犯罪の色を濃くするのに一役買っている


「待ってください、お泊りするならいくつか持って行かなくては」


「歯ブラシにパジャマに、いろいろ必要です」


「いいよいいよ私のお古を貸してあげるから、さぁ行くぞ幼女諸君」


有無を言わさずに連行されていくさまはまさに誘拐というにふさわしいだろう、雪奈のご機嫌な様子に静希としてはため息を吐かざるを得なかったが、エドとしてはそこまで悪い状況でもないらしい


「いいのか?あの人のことだから相当弄り回すぞ?」


「いい経験だよ、大人の女性に絡まれるのも早いうちから慣れておいた方がいい、それにあの子たちがあんなに警戒していないのも珍しい、初対面とは思えないほどだよ」


カレンとも先程話したが、雪奈は本当に裏表がない、そして何より子供という生き物、というか小さくかわいい生き物に目がないのだ


動物的な意味でもそうかもしれないが、特に小さな子にはつい抱き着く癖がある


その餌食になっているのは主に明利だったのだが、今日はたまたま静希の家にいない、明利の代わりなのだろうがあの二人が無事に明日の日を拝めるか少々不安である


「でもなぁ・・・正直不安だ・・・」


「そんなに不安だったらそうだね・・・カレン、君もお目付け役としてユキナの家に行ってきてくれるかい?」


「・・・私が?」


唐突の振りに彼女も予測できなかったのか、不思議そうな、というより理解できないという表情をしている


お目付け役という形なのであれば静希こそ適任ではないかと思えたのだ


「同じ女の子同士、交友を深めておいで、こっちは男同士で友好を深めておくよ」


「あら、じゃあ私とオルビアもあっち行ったほうがいいの?」


「お前たちはうちにいろ、余計に不安になる」


女子会もどきの形になりそうな時メフィも動こうとしたが、そこは静希が制止する、雪奈が暴走するよりもメフィが暴走する方がよほど怖いのである


カレンはエドの言葉に不承不承ながら納得したのか、準備を整えてから移動することにしたようだ


「そうだ、彼女は何か嫌いなものはあるだろうか、一泊させてもらうなら食事くらいは作ろうと思うのだが」


「大体何でも食べるよ、精一杯美味しいものを作ってやってくれ」


雪奈に好き嫌いは無い、山で動物を狩ってそれをそのまま食べるような人だ、好き嫌いなんて繊細な概念は雪奈には無いように思える


それを確認したカレンは荷物を持って隣の雪奈の家へと向かう


妙な話になったものだと思いながらインターフォンを押した後、静希の言葉の意味を、その不安の意味を理解することになる


その後、カレンはアイナ、レイシャと同じように雪奈にまるで手籠めにされたかのような状態になるが、それはまた別の話である








静希をはじめとする二年A組三班は城島に集められ多目的室にやってきていた


一体何の話だろうかと確認するまでもない、今度の校外実習の話だった


「あー・・・すでに五十嵐からある程度話は聞いているかもしれないが、今度のお前達の実習内容が決定した、今日はその事前通達と今後の予定を伝える」


本来ならば校外実習がある週に告げられるはずの内容を、その前の週である今に告げるという事はそれなりに理由があるという事は静希達もなんとなく察していた


何より静希から実習の内容、というより組み込まれるかもしれない内容を知らされていた鏡花たちからすれば何の驚きもない事態といえるだろう


「お前たちは奇形関係の事件を捜査しているチームと合同で今回行動することになる、その中でお前たちが何をするかはそれぞれわかっているとは思うが、現時点で何か質問はあるか?」


城島の問いに鏡花が挙手する、こういう場で質問するのは静希か鏡花しかいないのだ


「目的はいいんですけど、表向き私たちはどういう実習内容になってるんですか?まさかそのまま捜査協力とかじゃないですよね?」


「もちろんだ、表向きは実習内容は改変してある、海外の地域住民の食性と人口密度の調査・・・とかそんな内容だったと思うが、こっちのはダミーの依頼だから無視して構わない」


今回は静希達の動向そのものを隠す必要があるためにわざわざ偽の依頼まででっち上げて行動する必要があるらしい


相手に行動が知られないようにするためとはいえ随分と物々しい状況になってきたものである


「実習の期間はどれくらいですか?」


「今回は少々特殊になるかもしれんな、事前ブリーフィングを数日後に予定している、それを終えたら実習期間中に現地へ、そして現地のチームと合流して最終確認、その後実行という流れになる、ブリーフィングの如何によっては早まることも、逆に長引くこともあり得る」


そのあたりは状況次第でどうにでもという事だろう、いかにも現場仕事という感じである


実際予定通りにならないことなどいくらでもある、今回の場合は対象が二つもあるのだから確実に長引くことになるだろう


逆に言えば、長引けばそれだけ静希達にとってはチャンスが増えることになる


エドとカレンが介入しやすい形になれば御の字だが、そう上手くいくかどうかは静希達の采配にかかっていると言っていい


「今回大野さんたちは来れないんですか?」


「あいつらは一応軍人だ、今回は動けないだろうな、お前たちが主導で動くしかないだろう」


大野と小岩がいればエドモンドとの共闘だけではない第三勢力として行動させられたかもしれないが、今回は事情が事情なだけにどんな些細な内容だろうと情報が漏れるかもしれないような内容は排斥する流れのようだった


世界的に起きた事件なだけにかなり神経質になっていると思っていいだろう


「その捜査チームとの合同でってことでしたけど、具体的に私たちのポジションは?雑用ですか?護衛ですか?」


「メインは護衛だ、といってもチームがいくつか別れるらしいから実際何処に配属されるのかはブリーフィングまではわからん、まぁ五十嵐を中心に清水と一緒に上手いこと流れを作れ」


今回静希達がこの話に食い込めたのも、情報の中に悪魔の契約者、あるいは悪魔自体を召喚できる人材が向こうに存在しているという事を知らせたからに他ならない


いわば静希達は万が一のための保険なのだ


調査を進める段階で悪魔などが出没した際に対応するために静希達は現場へ向かうのである、実際に調査自体を手伝ったり、それに対して考察したりすることは今回静希達には求められていない


実際に悪魔がいるかもしれないが、今回悪魔は二の次、目標はジャン・マッカローネである


無論現場にリチャード・ロゥが姿を現した場合はそちらを最優先で片付けるべきだが、まず間違いなく現場にはもういないだろう


目標を確実にとらえるためには、ある程度行動の自由が必要になる、自分たちを武力あるいは保険としか思っていないのであれば、少々その認識を改めさせる必要があるのだ


都合よくつかわれるままでは、自分たちの思うようには動くことはできないのである


「先生たちはついてくるんですよね?」


「当たり前だ、とはいえたぶん私はホテルで待機という形になるだろうな、あまり戦力としての期待はしない方がいいだろう」


どのような形であれ校外実習という学校の授業の一環として行うのだから教師である城島が同伴しないわけがない


とはいえ彼女は一教師でしかないためにそこまで今回のことに介入するつもりはないようだった、介入できないと言った方が正しいかもしれないが


「ちなみに、これは独り言だが、お前たちが現地でどこの誰と協力関係にあろうと、見逃すというのが向こうの考えらしい、要するにお前達に借りを作りたくないという事だろうな」


「・・・あー・・・なるほどそういう事ですか」


悪魔の存在が完全に否定できない今回、実習という形で静希達を引っ張ってくるのはいいが、その関係で静希を始め委員会や日本そのものに借りを作らないようにしたいというのが向こうの考えなのだろう


お前達が違法行為をしていても自分たちは無視するから今回の協力はお互いに貸し借りなしにしようという事だ


こちらとしても半ば強引に捜査に加えてもらう立場だ、むしろ好待遇といえるだろう


もしかしたら城島か国岳あたりが気を利かせたのかもしれないが、そのあたりは静希達にはわかりようのないことである


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ