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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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期間限定

「エド、お前の仕事っていまどれくらい忙しい?」


「え?そうだな・・・まぁそれなりかな、差し迫った案件もないし、少なくとも毎日あっちこっちに飛び回るってことはないよ」


でもどうしてそんなことを?とエドが首をかしげる中、静希はアイナとレイシャの方を見る


ゲームを嬉々としてプレイしている二人を眺めたうえで静希は唸り始める


「あの二人も結構日本語達者になったし・・・エドの仕事の拠点を日本にすれば、期間限定でも喜吉学園の方に通わせられるんじゃないかって思ったんだけど」


そうすれば俺たちも面倒見れるしなと付け足してそう提案するとエドは口元に手を当てて悩みだす


その手があったかとエドは本格的に悩んでいるようだった


エドが日本語を覚えた際に、アイナとレイシャもきっとこれから必要になるだろうと日本語はしっかりと教え込んだ、その為日常会話なら問題なくこなせるのだ


そして何より日本のこの場所なら静希をはじめとする知り合いが何人かいる、見知らぬ土地で唐突に学校に行かせるよりかは幾分かましなのではないかと思えるのだ


「学校に通い続けるかどうかはさておき、きっかけにはなると思うぞ?その先あの子たちが学校に通いたいっていうならそれもいいだろうし」


「なるほど・・・確かに一度学校っていう場所を経験させるのはいいアイディアかもしれないね・・・」


エドとしてもまんざらではないのか静希の意見を真剣に考えているようだった


何事も実際に経験してみなければ物事の善し悪しなど付けられるはずもない、本当に将来のことを考えるのであれば学校と言うものを実際に体験するのが一番手っ取り早いのだ


実際住む場所などは静希の家くらいなら十分に都合できるだけの広さがあるし、学校からもそれなりに近い、知り合いでもあるしエドの仕事を日本中心にすれば問題なく目に届く範囲における


「まぁ、お前とあの子たち次第だけど、必要なら俺が先生の方に相談するぞ?」


城島ならそのあたり現実的なアドバイスをすることができるだろうし、何より信頼できる教職者だ、どうする事が子供のためになるのか、またどのようにすればよい影響を与えられるかなど、真剣に考えてくれるだろう


「・・・その相談は僕が直接するべきだと思うよ、可能なら近々会える日を都合してくれると助かるかな」


アイナとレイシャの保護者はエドだ、相談や交渉をするのであれば自分が行くべきだと思ったのだろう


実際城島と話す際には必ずエドと話す場を作らなければならないのだ、そう言う話は早い方がいいだろう


静希も日本の教育の制度について詳しく知識があるというわけではないため大きなことは言えないが、留学という形くらいであれば問題ないのではないかと思える


一週間、あるいは二週間くらいなら学校に通うこともできるかもしれない


あの二人にとってその時間が何かしらのきっかけになればいいのだが


「話し合いの場は俺が用意するけど、あの二人が通うのに必要なものはお前が用意しなきゃいけないんだぞ?住む場所くらいは提供するけどさ」


「それだけで十分ありがたいさ、これから能力者たちを育てることを考えれば、こういう事はいつか超えなきゃいけないことだしね、今のうちに予行演習しておいて損はない」


能力者の孤児を育て、一人前になるまで育てる、言うのは簡単だが容易なことではない


その難関の最初の課題といってもいいだろう、エドとしてもやる気を出しているようでどうしたらいいか、何を考えるべきかを頭の中で反芻させているようだった


「時にシズキ、君の通ってる学校はどんな授業をするんだい?参考までに聞いておきたいな」


「それってアイナとレイシャの年代の話か?それとも俺たちの年代の話か?」


どちらかといえば前者かなとエドが言うと、静希は昔の記憶を引きずり出そうと頭をひねり始める


なにせ十年近く前の話だ、今さら思い出そうなどとしてもうまくいくかは定かではない


「国語算数理科社会・・・保健に家庭科、それに訓練と・・・あと何があったかな・・・?」


「その訓練っていうのは具体的には何をするんだい?走ったりするのかい?」


静希は再び記憶を呼び起こそうと頭を抱えてしまう、自分は昔どんな訓練をしただろうかと記憶を探っているのだ


最近の記憶が衝撃的過ぎて昔の記憶が薄れつつある、その為具体的にどんなことをやっていたかといわれると非常に困るのだ


「とりあえず基礎的な体力をつけることと・・・あとは季節によっては水泳とか、あと軽い組手みたいなのはやったな・・・対人訓練?それに能力を使った訓練もやったな・・・」


実際どんなものだったか、その行動に何の意味があるのか、そこまで静希は詳しく覚えていないためにかなりあやふやな部分はあるが、エドはなるほどねと呟きながら幼い能力者の方へと目を向ける


「あの二人にはどんな訓練をさせてるんだ?」


「実戦に限りなく近い形でやっているよ、時折ヴァルが教官になってくれる、対人訓練はあまりやっていないかな・・・」


あの年齢で対人訓練を行うという事態が特殊かもしれないが、最低限な体の動かし方くらいは学んでおいて損はない、静希もそこまで得意ではないが最低限の徒手空拳は習得しているのだ


実戦では何が役立つかわかったものではない、考えうる限りあらゆる技術を習得しておいて困ることはないのだ


「んん・・・やっぱり実際に学校に通わせてあげたいね・・・今回のことで何とか考えが変わってくれればいいんだけど」


「ハハハ、頑張れよ、お父さん」


静希とエドが笑っていると台所の方から明利とカレンの声がする、どうやら食事ができたらしい、ゲームをやっているアイナとレイシャも呼んでとりあえず夕食にすることにした








「・・・で、私の所に来たわけか」


「はい、具体的な意見が聞きたくて」


翌日、静希は早速城島にアイナとレイシャのことを聞くべく職員室に足を運んでいた


お前は何でそう毎回毎回めんどくさい内容を持ってくるんだろうなと軽く呆れられたが、こればかりは静希の特性なのだろうと諦めるしかない


「で、実際のところ二人の留学は可能ですか?不可能ですか?」


静希の言葉に城島は口元に手を当てて悩み始めてしまった、こういう手合いの話が今までなかったわけではないだろう、イギリスの専門学校とも懇意にしていることから留学か、あるいはそれに近しい活動は今まであったと考えて然るべきである


もっとも、今問題になっているのはそこではないのだが


「そのエドモンドの教え子とやらが留学を行うにはまず踏むべき手順、手続き、そして条件がある、それをクリアすれば一定期間ではあるがこの学校に迎え入れることはできるだろう」


「・・・条件、ですか」


当然ながら、学校に留学させるためには必要な手続きをいくつもこなさなくてはならない、いくらアイナとレイシャが日本語が達者であるとはいえ日本の人間ではないのだ


専門学校に通わせるためには必要不可欠な事柄が多すぎる


「まず一つ、これは最低限必要なことだが、まず国籍を持っているか否か、話によるとエドモンドの教え子の二人はどこぞから連れてきた身元不明の人間だと聞く、そんな二人が国籍を持っているかどうか」


「それは大丈夫だと思います、エドが手元に置いている以上、何かしらの手段でどこかしらの国籍は持っているかと」


エドの性格からして、彼女たちを一人前にしたいというのだから最低限必要な権利などはすでに用意していると思っていいだろう、その国籍などが一体どこなのかはわからないが


ともあれ留学するために必要な項目のうちの一つはクリアしたとみていい、無論まだまだ大量に必要な事項が存在するのは否めない


「次にどの学校に通っているかだ、個人での留学というのもできなくはないが、学校からの紹介状などがあるとこちらとしても了承はしやすい、奴の立場を利用するのもありだが、お前達からすればそれはあまり望むところではないだろう」


城島の言う立場が悪魔の契約者としてのものであると気づくのに時間はかからなかった、つまりは委員会や喜吉学園そのものに借りを作る形で半ば強引に留学の手続きをするという事だ


委員会としても悪魔の契約者に恩を売りたい気持ちはあるだろう、それが子供二人の短期留学というだけなら安いものである


もしどうしようもない場合、エドは喜んでそのくらいはするかもしれないが、同じ契約者である静希からすれば止めたいところである


「そのあたりはエドと話し合って決めましょう、必要とあらば知人に頼んで推薦状を書かせます」


「・・・そうか・・・まぁそれはいいとしておこう」


知人というのはテオドール、あるいはイギリス王室のセラのことである、あの二人なら多少面倒なことを頼んでも首を縦に振ってくれるだろう、無論イギリスという国に借りを作ることになるが、その程度なら必要経費である


それにもしかしたらエドの方で何かしら手を打っているかもしれない、あれで案外抜け目のないところがある、静希が余計な気を回すまでもないかもしれない


「次に住所、まぁこれに関してはお前の所に住めばいいからいいとして、期間、それにエドモンドの説明と条件の提示・・・あぁあと能力検査も必要だったか・・・それに・・・」


城島は静希への説明も忘れてあれもこれもと頭の中にある事柄を無心で口に出しているようだった


一つ一つメモを取っているとはいえ相手がこちらに理解させるためにしゃべっているのではないとなると追いつくのが精一杯である


とりあえず必要な項目がまだ山ほどあるという事だけは理解した静希は次の話題に入ることにした


「で先生、一度エドと二人で、あるいはアイナとレイシャを連れた状態でその条件などについて話す機会を作っていただきたいんです」


「それはまぁ構わんが・・・それこそあまり期待はするなよ?書類等は私が用意できるが、手続きを終えてなお留学できるかどうかはエドモンドにかかっているのだからな」


「はい、それは承知しています」


少なくとも一時期は大学の研究所で研究者として働いていたのだ、最低限の手続きや申し込みなどは問題なくクリアできるだろう


むしろ問題なのは手続きの後の話だ、一見出所不明な少女二名をどのような形で留学させるのか、委員会も学校もバカではない、どこの誰ともわからない人間を学内に入れるとは思えないのだ


それこそ学校からの推薦状などがあれば話が早い、なにせ学校の推薦という形で来ている以上、断ればその学校との関係性も悪化することになるから承認はされやすい


その上学校からの推薦を受けているのであれば身元の確認などは保証されているようなものだ、学校同士の友好関係と安全面から考えても留学程度なら問題ない


問題なのはアイナとレイシャが通信教育とエドとカレンによる自宅学習状態であるという事だ、日本国籍を持っていて能力者だというのであれば委員会に登録さえすれば学校に通う義務が生じるために話は早いが、エドたちが日本国籍を持っているとは考えられない


となると、あの二人をどのようにして留学させるかという問題に直面するわけだ、実際エドも何かしら考えがあるだろうが、どうしたものかと静希も頭を抱えてしまう


自分で提案しておいてなんだが前途多難だなとため息をつく


あの二人が一人前になるうえで必要なことであるとはいえ、子供のために大人が奔走するのは世界共通のようだ


エドが本格的にお父さんのようなポジションになっているのは半ば仕方がないのかもしれなかった


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