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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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説明会

後日、静希は改めて鏡花たちを家に集めていた、そしてその場にはエドやカレンももちろん同席した、今後の流れについて説明しておくためである


静希、明利、陽太、鏡花、エド、アイナ、レイシャ、カレンの八人の人間、そしてメフィ、邪薙、オルビア、フィア、ヴァラファール、オロバス、リットの六人と一匹の人外がいるというかつてない過密地帯にやってきた鏡花たちは渋い顔をしていた


静希の家にこれほどの人間が集まるのは何時振りだろうかと記憶を探るが、これほどまでに人数が集まったことは未だかつてない


「・・・こうしてみると圧巻よね」


「まぁな・・・普段からして人外の方が多いけど、今回は人間も人外も多いしな」


普段一人暮らし(?)をしている静希からすればこれだけの人間が集まるという機会そのものが稀だ、そして静希の家に来ることの少ない鏡花からすればこれだけの人口密度の中に自分が含まれているという事そのものも稀である


「さて、状況を軽く説明しようと思う、今回の俺たちの目標は奇形関係の事件に関与、及びリチャード・ロゥと何らかのつながりがあると思われる株式会社ガランの幹部の一人ジャン・マッカローネの確保、及び尋問による情報の確保である」


その場にいる全員が静希の言葉に耳を傾ける中、特に今まで深く話に参加していなかった鏡花たちは集中し一字一句逃さないようにしていた


無駄に状況が面倒で複雑になってしまっているため、一つ一つのことを確認しておかなければならないのである


「それにあたり、俺たちは誘拐、及び奇形化事件の捜査を行っているチームと共同で行動することになる、その中に先に述べた企業への物理的な捜査も含まれる、その時にジャン・マッカローネを確保するのが一番現実的な手段である」


ここまでで何か質問はと全員を見渡すと、当然というかやはりというか、鏡花から手が上がっていた


こういう時にしっかりと思考できなおかつ疑問点を浮かび上がらせることができる人間というのはありがたい、話を先に進めやすいし何より自分だけで考えるのではなく別の意見や考え方も出してくれるのだから


「ただの学生の私たちがそんなことに加われるとは思えないわ、今回私達、ひいてはあんたはどういう立場で現場に行くの?」


鏡花の言い分はもっともである、確かに普通ならただの能力者の学生がそんな大犯罪解決の一端を担えるはずもないのだ


「今回、件の二つの事件の裏にいる人間に悪魔の契約者、あるいは悪魔を召喚できる人間がいる可能性があると捜査チームと委員会の方に示唆して、俺の立場を利用して現場に滑り込ませた、だから俺は今回悪魔の契約者として現場に立たなきゃいけないかもしれないな」


「・・・ってことは、あんたはあまりおおっぴらには動けないってことね?」


そういう事になるかもしれないと付け足すと鏡花は額に手を当ててため息をつく、静希が動けないというだけで、いや静希が自分たちの周りにいないというだけで鏡花の負担は倍増するのだ


以前のフランスでの時もそうだったが、静希がいないと何かしらの行動は鏡花を始まりとして動くことが多くなる、無論できないわけではないが負担が多くなるのは事実だった


「そこで今回は俺たち、捜査チーム、エドたちの三つのグループで別れて行動することになると思う、俺たちは主に捜査チームの護衛役に回されるかもしれないけど、そのあたりは現場で何とかする、エドたちは俺たちがまわす情報を元にジャン・マッカローネの捕縛を最優先にしてくれ」


「マッカローネ氏を捕まえて尋問できるだけの環境を揃えればいいんだね、そのくらいならお安い御用さ」


「気を付けるのは犯罪にならないように、まぁぶっちゃければばれないようにやれってことだな、タイミングも重要になるけどそのあたりは後で詰めていこう」


ただ誘拐したのでは犯罪にしか見えなくなってしまうが、もし捜査が入る段階で突然ジャン・マッカローネが姿を消したらどうなるか、捜査している側からしたらマッカローネが逃げ出したと思わせることができる


意識をエドたちが行う誘拐、拘束、尋問という事実からマッカローネの逃走という方向へと向けることができるのだ、そうすれば証拠も隠滅しやすい上に、捜索という名目で静希達も動きやすくなる


あくまでまだ机上の段階だが、計画としては練り固めておいて損はない


捜査チームと完全に結託できるかまだわかっていない以上、自分たちだけでも行動できるだけの作戦を考えておくべきなのだ


「静希、今回は大野さんたちは来ないの?」


「あぁ、今回は呼ばれてないし呼んでないと思う、まぁ詳しくは知らないけど」


「なんだ、軍と共同ってわけじゃないのね・・・でその捜査チームとはどの程度まで協力できるの?」


鏡花の言葉に静希は腕組みをして首をかしげてしまう、そのあたりの話は城島に一任しているために静希はまだ詳しく知らないのだ


実際どの程度までこちらを手伝ってもらえるのかは不明である、なにせ本来ならこちらが手伝う側なのだ、向こうがこちらの都合を理解してくれるとは思えない


悪魔の契約者だから優遇する、なんてことはしないだろう、なにせ今回は悪魔との戦闘がメインではなくあくまでも犯罪者たちの捕縛と誘拐された研究者たちの救出がメインなのだ


そのあたりは城島と話し合ったうえで確認もしなくてはならないだろうが、少なくともあまり当てにしてはいけないのは確かだ


「捜査チームの協力や支援に関しては無いものと考えていいだろうな、俺たちが上手く動いて自由になれる機会を作るしかない」


静希の言葉に鏡花は大きくため息をつく、本当に面倒だなという風に思っているのだろう、事実静希だってそう思っている、本当だったらさっさとジャン・マッカローネを捕まえて情報を吐かせたいところなのだ、有事でない限りそれができない現代社会が酷くもどかしく感じる


「なぁ静希、そんな面倒なことしないで直接縛り上げちゃだめなのか?もうそいつが関わってるのは間違いないんだろ?」


「・・・まぁそうなんだけどな・・・いろいろと面倒なんだよ、国際問題とか企業関係とか・・・」


陽太の言うように何の関わりも柵もなく直接マッカローネを捕縛できるのであればどれだけ楽だろうか、だが実際そうはいかないのが現代社会の複雑さと言うものである


なにせジャン・マッカローネはただのサラリーマンだ、裏でいろいろと金を回してはいるかもしれないが現段階では表向き何の罪も犯していない人間である


そんな人間を突如誘拐、しかも訊問したとあっては確実に面倒が巻き起こる、具体的には企業のある国イタリアから、そしてその企業そのものから苦言を強いられることになるだろう


そうならないために合法的に、あるいはばれないようにいろいろと手を回しているのだ、自分たちの手が後ろに回るのだけは勘弁したいところなのである


「クラスに気に食わない奴がいて、何も手回しをしないで殴るか、それとも根回ししてそいつを悪者扱いしたうえで殴るか、それによって殴った人間の心象も変わってくるってことよ」


「あぁなるほど、そういう事か」


陽太専用の翻訳機能を有した鏡花の説明は今日も輝いている、陽太にもわかりやすいように身近なたとえができるというのは才能の域に達している


さすが鏡花と言わざるを得ないが、今はその話は置いておくことにする


殴ること自体は状況しだいによっては善行になるという事を陽太が理解しているあたりらしいというべきか


「とにかくそういう事だ、多少面倒でも手順を間違えるわけにはいかない、他に何か質問は?」


周囲を見渡すと今度はカレンが手をあげた、どうやら彼女もしっかりと思考ができるタイプの人間のようだった、今まで鏡花以外に思考が得意なタイプがいなかったために貴重な人種といえるだろう


「もし万が一、悪魔、あるいは契約者との戦闘になった場合、どう動けばいい?」


「・・・その場合は俺が対応する、エドやカレンたちの目的はあくまでジャン・マッカローネの確保だ、こっちに人員を割くようなことはしなくていい・・・それにそんな事したらお前たちがいるってばれかねないからな」


今回はメインで動くのは静希達ではなくエドたちになるのだ、むしろ静希達は捜査チームの目をくらませるための囮でしかない、エドたちが裏で動いてマッカローネを確保できるかどうかにかかっているのに余分な戦力を割くだけの余裕はないのだ


それに現地での召喚に関しての情報もなければ、悪魔がそこにいるという情報も上がっていない、さすがに油断できる情報ではないにせよ、悪魔が一体ならばまだ相手どることはできる


「万が一戦闘になったらその騒ぎに乗じて目標を確保する動きでもいい、そのあたりはおいおい決めるけど、戦闘に加わる必要はない、いいな?」


「・・・わかった、目標確保に集中する」


情報がいち早く欲しいカレンとしてもわざわざ戦闘に加わって余計な手間をかけるより一つのことに集中できるほうが楽だと考えたのだろう、静希の指示に意見することもなくこれからのことを思考し始めているようだった


彼女の悪魔オロバスがもつ予知の力を使えば最善のタイミングで最高の仕事ができるだろう、彼女とエドの連携がうまくいくかどうかはさておき、この二人に任せておけば問題はないと思える


問題なのはむしろこっちの方だ、誘拐された研究者の方に回されるか、それとも企業の方に回されるかわかったものではないのだ


リチャードが発見された場所から察するに前者に回される可能性が高い、そうなるとほとんど別行動になると考えていいだろう


「ねぇ、その誘拐された人がいる場所と目標のいる企業って場所が離れてるの?」


「ん・・・エドの資料では結構離れてるな、二、三十キロってところか」


二、三十キロ、車で移動して一時間もかからない距離だが、歩行換算で言えばかなり距離があるように思える


静希の使い魔であるフィアの移動能力を駆使すれば三十分かからない程度で移動できるだろうが、協力体制をとるにはあまりにも遠い距離である


「同時進行で作戦が行われることを考えると、事前情報を与えるだけになりそうね・・・あとは個々の状況判断次第ってところかしら」


「そうなるな・・・エド、互いの位置と聞いてる音を拾えるような機械って用意できるか?小声でよければ簡単な指示位とばせると思うけど」


「ん・・・知り合いを当たってみるけど・・・その距離で通信できるかな・・・携帯に取り付けられる集音マイクの方がまだ現実的だね」


無線機器というのは小型になればなるほど通信可能距離は短くなる、その為隠しておけるようなものとなると通信可能距離は一キロがせいぜいなのである


もっと大型のものなら問題ないが、エドの言うように携帯を媒介にしたマイクを取り付けたほうが確実である


「方法は任せるよ、とにかく互いの声と状況がわかるようにしてくれれば、必要ならいくらか費用も出すぞ?」


「冗談、年下から金をせびるような趣味は持ち合わせていないさ、それにもしかしたら会社の備品の中にあるかもしれないしね」


あちこち飛び回ったり広い倉庫の中でやり取りをするうえで通信機器というのは必ず必要になる、そう言う意味ではエドの父親の輸送系の仕事で通信機器を持っていても不思議はない


エドの言うように備品であれば借りるだけで済むのだ、金銭的な問題が発生しない分いくらか楽だと言えるだろう





「大まかな流れは以上だ、後は城島先生から資料を受け取り次第詳細を詰めていくことになる、今の時点で何か気になることはあるか?」


その後も説明を続け、大まかな現状の説明と目的を話し終えた静希は周囲を見渡す、先の質問と回答で大体の流れ自体は全員が理解したのか、質問の類は上がらなかった


「よし、それじゃあ今日はここまで・・・って結構遅くなっちゃったな」


静希が時計を見るとすでに時間は七時を回っていた、放課後から集まって説明を始めたためにそれなりに時間がかかってしまったのだ


「あーあ・・・結構時間食ったわね・・・外もう真っ暗じゃない」


「案外時間かかるもんだな、静希、俺鏡花送って帰るから、後よろしくな」


「あぁ、夜道に気を付けてな」


陽太がいればそんな心配はいらないだろうが、一応鏡花だって女の子である、しっかりと送ってやらなければ危険だろう


それにしても一緒に帰る姿もなかなか様になっている、付き合い始めてからまだ二か月程度しか経っていないようだったが、それなりに距離は近くなっているようだった


「明利はどうする?今日はうちで食べていくか?」


「ん・・・そうだね、今から帰っても遅くなっちゃうし」


明利もやる気になっているようで料理をしようと台所に向かっていた、そんな中カレンが立ち上がり明利の後を追いかけた


「すまない・・・メーリといったか・・・?私にも料理を手伝わせてほしい」


「え?いいですけど・・・」


明利はちらりとこちら側を見る、静希に助け舟を求めているのか、それとも同意を求めているのか、とりあえず静希は軽く説明するために台所へと向かった


「こいつのことは知ってるよな?カレン・アイギスだ、エドたちに手料理を振舞いたいんだとさ」


「・・・あぁ、そういう事ですね!わかりました!」


自分の説明で何かを感じ取ったのか明利は笑顔になりながらカレンを迎え入れた、何か勘違いしているような気がしないでもないが、今はいいだろう


明利の交友関係が増えるのはいいことだし、カレンの視野が広がるのもまた良いことだ、止める理由などない


「オルビア、二人の手伝いをしてやってくれるか?」


「かしこまりました、お任せください」


二人にとって話しかけやすい女性が間に入ったほうが話も進むし作業も捗るだろう、オルビアは二人の手伝いをするべく台所へと向かっていった


「・・・彼女にいったい何を言ったんだい?料理だなんて初めてのことだ」


「ん・・・まぁあいつの視野が広がるようにアドバイスをな・・・少しはましになってくれるとありがたいんだけど・・・」


エドとしてもカレンのことが気がかりだったのか、料理をしている姿を見て感慨深そうにしている、今まで復讐にしか目を向けてこなかった彼女が少しずつ他のものに目を向けようとしている


喜ばしいことだろう、人間の生きる目的が復讐だけなんて悲しすぎる、エドはそれを実感しているからこそカレンの変化が嬉しかった


「アイナ、レイシャ、今日はカレンの手作り料理だぞ」


「・・・心配です・・・焦げたりしてないでしょうか?」


「・・・不安です・・・美味しくできるでしょうか?」


二人してカレンの料理に随分と不信感を抱いているようだったが、そこは料理が趣味だと言われてきたカレンだ、恐らく不味い料理を出すようなことはないだろう


とはいえこの二人がこういう反応をするあたり、本当に今まで料理をしてこなかったのだろうという事がうかがえる


逆に今まで何をしてきたのかが気がかりなくらいだ


「ねぇシズキ、今回私たちの仕事は無いと思っていいのね?」


先程まで静観を貫いていたメフィが人外たちの輪から外れて静希の元へと飛翔してくる、気になることでもあったのか、それとも確認か、静希の首に腕を回して抱きつくようにしてきた


「あぁ、悪魔が出てこない限りお前の出番はないな・・・退屈か?」


「退屈というより・・・シズキが私以外の奴ばっかり頼りにしてるのが気に入らないわ」


「なんだよ、やきもちか?」


メフィの言葉に静希はつい苦笑してしまう、まさか悪魔である彼女がこんな言葉を言うとは思っていなかったのだ


「なによ、私だって悪魔だけど女よ?自分の男が他の連中に目移りしてたらやきもちの一つも焼くわよ」


「はいはい、いざとなった時一番頼りになるのはお前なんだ、その時は頼むぞ?」


静希にこういわせたかったのか、メフィはその言葉を聞いて満足した様でニヤニヤしながら宙に浮き、再び人外たちの輪に戻っていく


メフィの扱いは手慣れてきたが、あのような反応をしたのはこれが初めてかもしれない


メフィも変わりつつあるのかもと思っていると、エドが少しだけ意外そうな表情をしていた


「どうした?そんな変な顔して」


「え?あ・・・いや、シズキはメフィストフェレスの扱いに慣れているんだなって思って」


「そりゃ一年も一緒に暮らしてれば慣れるっての、お前だって今度の八月で一年だろ?昔に比べればましになってるって思うところはあるだろうに」


静希の言葉にエドは思い出しながら難しい顔をしていた、どうやらエドの方は静希の所と比べそう話が簡単ではないようだった


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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