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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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彼女の目の中に

「こりゃ忙しくなるね、僕の方でこの口座とその裏を調べてみるよ、今日は帰れないかもしれないからよろしく、アイナ!レイシャ!今日はお留守番だ、シズキのいう事を聞いていい子にしてるんだよ?」


「「了解ボス、いってらっしゃい」」


アイナとレイシャが見送る中、エドはヴァラファールを連れて駆け足交じりにどこかへと出かけて行った、恐らくは調べ物をしに行ったのだろうが、何もそこまで急がなくてもと静希は少し呆れてしまう


そして同時に、画面を食い入るように見つめるカレンにも注意を引かれた


手がかりになるようなものが少しでもあればと探しているのだろう、まだ覚えきれていない日本語と格闘しながら記されている数字と格闘しているようだった


「カレン、この資料の読み込みは俺がやっておくから、お前はアイナとレイシャの相手をしてやってくれるか?」


「え?・・・あ・・・そうか・・・わかった」


集中しすぎて一瞬静希が何を言っていたのかを理解できなかったのだろう、ほんのわずかな戸惑いの表情の後にカレンは後ろで待機しているアイナとレイシャの下へと向かう


これはただの勘でしかないのだが、カレンをこのまま一人にしておくのはよくない気がしたのだ、彼女には悪魔がついているし、彼女の使い魔としてリットも控えている


だがそう言う意味ではなく、彼女のそばに誰かがいてやらなくてはいけない気がした


エドと一緒に行動させたのはいい判断だったと自分でも思うが、少々気負いすぎているのが傍目からでもわかる


カレンの復讐を邪魔するつもりなどさらさらない、だが彼女の目を見ていると今の彼女は何か負の感情が強すぎるように見えるのだ


静希は見ていないが、かつてそれを見たことがある鏡花なら気づけたかもしれない、カレンの目が、かつての明利のそれと似通っていることに


静希が死んだと思って絶望していたあの時の明利の目に、復讐を誓い暴走しかけていたあの時の目に、今のカレンの目は似ている


明利の目を見ていなかった静希はそのことに気付けないながらも、今のカレンが危険な状態にあることまでは把握できた


人と関わることで少しでもこの状態が緩和されれば良いのだがと静希は悩むが、こればかりは本人が折り合いをつけるしかないのだ


自分は大事な人を殺された経験がない、だからカレンたちの気持ちは十分の一も理解できない


カレンと二人で話した時、静希自身が彼女に言った言葉だ


実際は百分の一、もしかしたら千分の一も理解できていないかもしれない、それほど深く重い感情を彼女は抱えている


友人を殺されたエドよりも、その感情は強い、エド自身もそれを感じ取っていたからこそ今までカレンによくしていたのだろう


誰かのために真剣になれる、静希は攻撃的な意味でそれを果たせるが、エドは全く違う意味でそれを果たせる


かつて静希がエドに救われたように、きっとエドは身内に対してならどんなところにいても駆けつけることができるのだろう、彼自身がそう言う性分だからこそ


だがエドでもカレンの中にある負の感情を解消することはできなかったようだ、多少はましになっているように見えるが、まだ彼女の根源に残っている

落ちにくい汚れのように、執着するかのように


「・・・マスター、そろそろ休憩なさった方がよろしいかと、夕食も摂られていませんし」


「・・・あぁ、そうだな・・・今から作るのだるいしなぁ・・・出前とるか」


静希の言葉に耳ざとく反応したのは静希と契約している悪魔メフィだった、静希の家にある出前用のチラシやメニュー表を引っ張り出してすでに何にしようかと悩みだしている


勝手知ったるという言いかたが正しいかとも思ったのだが、今やメフィにとってもこの家は我が家同然であるため、今さらどうこう言うつもりもなかった


「お前らもなんか頼め、今日の夕食は出前だ」


「・・・デマエ・・・?デリバリーの事か?」


そう言えば海外に出前という言葉は伝わりにくいだろうなと思い、静希は言いなおして全員に伝える


適当にメニューを見せてその内容を教えながら各員食べたいものを申し出ると、オルビアが代表して店に連絡した


アイナとレイシャはこういう食事をとるのは初めてだったのだろう、そわそわしながら料理の到着を待っていた


カレンとしてもこんな形での食事ははじめてなようだ、日本食自体あまり触れる機会がなかったというのもあるのだが、チェーン店以外の店で出前があるというのもなかなか珍しいようで少し落ち着かない様子だった


「ねぇシズキ!ついでにデザートなんかも注文しない?これとか美味しそうよ?」


「お前は本当にいつも通りだな、こんだけ頼んでまだ足りないってか、今日はもうだめだ」


メフィのいつもと変わらない言葉に静希は辟易しながらも、一つ思いつくことがある


信頼できる悪魔に託したほうがいいような気がしたのだ、自分が直接言うよりは多少摩擦も少ないだろう


何より、これは静希が言うよりメフィが言ったほうが説得力があるような気がしたのだ


ブーイングしているメフィを掴んで近づけると静希は小さくつぶやくように話しかける


「メフィ、デザート注文してやるから一つ頼まれてくれるか?」


「・・・?頼み?」


わざわざ小声で話すあたり、何か秘密の頼みごとなのだろうと察したのかメフィも小声で話し始める


静希はそれを言い終えると同時にオルビアに追加の注文をさせることにした






静希達が注文した料理が届くと、テーブルには様々な料理が並べられ食卓を彩っていた


日本の食事自体に慣れていないカレンたちにとってはどれも見慣れない食事だったが、それら全て店で作られた確かな味を誇る物ばかり、それぞれ美味しく頂いているようだった


静希達が食事をしている中、メフィはカレンと契約している悪魔、オロバスを呼び出していた


近くには邪薙とオルビアの姿もある、この場にいる人外全員が集まる中、オロバスは若干の緊張を強いられていた


なにせこの場にいる人外は四人のうち三人が静希の手勢、よもや自分に何かするつもりではないかと勘繰っていたのだ


もっとも、その勘繰りは徒労であるとすぐに理解することになる


なにせ三人いる人外たちすべてが携帯ゲーム機でゲームをしながらオロバスに意識を向けているのだ


オロバスは悪魔だ、たとえこの場に三人の人外がいたとしてもその未来を読めないほど未熟ではない、そしてその未来を読んだ結果この場にいる人外が、いやこの家の中にいる全員が自分にもカレンにも危害を加えるつもりがないことを悟る


「オロバス、あんたがあの子と契約してから、あの子は何か変わった様子はあるわけ?」


「・・・唐突ですね、変わるも何もあの子はずっとあの調子ですよ」


それはオロバスが初めてカレンにあった時から、カレンがまだ今の名前ではなかった頃から、オロバスが召喚されたときからずっと変わらなかった


いや、変えられなかったというべきだろうか


「これはシズキからの頼まれごとなんだけど・・・まぁ一種の忠告みたいなものよ」


「・・・忠告?シズキが?」


なぜ静希が自分に忠告などするのかと気になったが、静希が直接自分に何かを言うより、同じ人外がそれを言ったほうが何かと勘ぐられずに済むと思ったのだろう


静希なりの気遣いを感じとり、オロバスは小さく息をつく


「して、どんな内容の?」


「・・・あの子、カレンがもし今回の件の最後まで、いえすべてが終わってもあの調子でいるなら、注意しなさい、きっと取り返しがつかないことをする」


静希はカレンの目を見てそれを感じ取った、かつての明利のそれと似た目を、静希は別のところで見ていたのだ


それは、自らが愛する娘を生み出そうとした医者、泉田順平


狂気に染まったその瞳に、ほんのわずかではあるが似通った何かをカレンの瞳から感じ取ったのだ、だからこそ静希はメフィを通じて彼女と契約している悪魔、オロバスに忠告をした


カレンを彼のようにしてはいけない、そう感じたのだ


「シズキは確証も保証もないって言ってたけど、確かにあれはまずいと思うわ、明らかにとらわれ過ぎてる・・・あんたも気づいてるんじゃないの?」


長年生きて人間と契約してきたメフィからすれば、カレンのそれは一種の妄執といってもいい部類に入る、少なくともプラスではない感情の渦、それらは時として危険な思想を作り出すのだ


だから静希がオロバスに忠告をしておいてくれと頼んだとき、メフィは驚かなかったし拒むつもりもなかった、もしかしたら頼まれなくても言ったかもしれなかったからだ


それほど、カレンの負の感情は強い


「・・・気づいてはいます、けどあの類の感情は時間とともに解決させるしかない、最低でも数年、ひょっとしたら数十年はかかる・・・それほどのものです」


「・・・だからといってあのままにしておくのは捨て置けないわ、少なくともあの子がシズキに協力している以上、勝手なことをされるのも、危険なことをされるのも困るのよ」


それは単純に静希が危険な目に遭うかもしれないからという利己的な考えだ、メフィは別にカレンがどうなろうと知ったことではないし、カレンが何をしようと関与するつもりはない


だがその行動の結果静希が危険に晒されるのであれば話が別だ、メフィは静希と契約している、静希のためだけに行動する、それ故に今のカレンは彼女からしたら危険すぎるのだ


なまじ復讐となる対象がいるからこそ彼女が抱える負の感情は衰えることなく育ち続けている、そして彼女の近くにいるリットがさらにそれを加速させているように思えた


「もし万が一があった場合、あんたが責任もってあの子を止めなさい、そうならないようにシズキも頑張るって言ってたけど限界があるわ、あの子に一番近いところにいるのはあんたなんだから」


「・・・わかっていますよ」


オロバスはそれをできるだけの力は十分に備わっている、だからこそやろうと思えばそれができるだろう


だがカレンが心の底からそれを願ったとき、オロバスは彼女を止めることができるだろうかと心の中に疑問を感じていた


「本当ならヴァラファールと一緒にこの話をしたかったんだけどね・・・まぁいないものは仕方がないわ」


「メフィストフェレス、貴女の契約者は、シズキは、もしカレンが危険なことをしたらどうすると?」


それはあくまで仮定の話だ、カレンが静希のいう取り返しのつかないことをしたらどうするか、その答えはメフィは聞かされていなかった、意図的だったのかそれとも何の意味もないのかはわからないが、それでもメフィはその答えを用意できた


「シズキの敵になるような行動なら、あんたたちに未来はないわ、でもそうじゃないなら、たぶん見えないふりをするか・・・あるいは助けてくれるんじゃない?」


あくまでメフィの考えの一つでしかないが、静希だったらそうするだろうと、メフィはそう思っていた


今まで静希がやってきたことを思い返して得た静希の感情と思考のトレース、これが正しいかどうかはメフィ自身まだ自信がなかった






人外達がそんな話をしている中、静希達は食事を続けていた


日本食に慣れない外国人の客人を抱えて静希はスプーンやらフォークやらを彼女たちに提供すると同時にその料理が一体どういうものかを彼女たちに教えていた


店の料理というもので日本食を食べるのは初めてなのか、彼女たちは大いに喜んでいるようだった


エドが動いている以上自分が余計な動きをするわけにもいかず、今後のことについて考えるにしろ情報が少し足りない


といっても後は証拠だけなのだが、今後どのように動くかはそれ次第だ


まず最初に相談する相手はまず間違いなく城島になるだろう、そして城島を経由して国岳、そして可能なら町崎に連絡し協力を仰ぎたいところである


二人のどちらかが奇形化事件の捜査をしている機関とのパイプがあれば話が早い、各機関と協力して可能な限り摩擦を少なくしてジョン・マッカローネを捕え、情報を確保したい


これがただの奇形化事件という事なら、静希は情報提供し各機関にその役目を任せていたのかもしれないが、その背後にリチャード・ロゥの影が見えた時点で話が変わる


自分からこの件に関わり、今度こそその尻尾を捕まえなくては


自分だけの問題ならまだいい、だがすでに多くの人間を巻き込んだ問題になりつつあるのだ、目の前にいるカレンもその一人である


確実に手を進める中で、彼女が一番危うい存在といえるだろう


リチャードに関わっているかもしれないというだけの理由で召喚実験に首を突っ込もうとしたほどだ、今は落ち着いて行動できているがこの先リチャードに近づくにつれどのように行動するか静希にも予測できない


だからこそメフィを通じて忠告させたのだ、それがうまく運ぶかは静希も分からないが、できることはしておかなければならない


カレンがもう少し、本当にもう少しでいいから復讐以外のことに目を向けてくれればいいのだが、彼女のことはエドに一任してある、静希が適当に対応して悪化させたら目も当てられない


人と関わるのは難しいなと静希は米を口に含みながらため息をつく


自分にできることは限りなく少ない、何もかもできるようになりたいとまでは言わないが、こういう時、自分が役立たずであるという認識が強くなる


「ミスターイガラシ、この後はどのようにすればいいでしょうか?」


食事を終え、食器の片付けも済んだ後、アイナとレイシャがピシリと起立状態を保ちながら静希の次の指令を待っていた


エドに言われた静希のいう事を聞いていい子にしていろという命令をしっかりこなすつもりのようだった


といっても正直やることがない、なにせ今できることといえば武器の手入れくらいで、静希ができることも、また彼女たちがやるべきこともないのだ、だからこそやきもきしているのだが


視線の先にいるカレンを見て、静希は小さくうなずく、どうせやることがないのだ、何もないなら作ればいいだけ、そして何かするなら楽しんだ方がいい


「ではアイナ、レイシャ、お前達に一つ指令を与える、これは必ず遂行するように」


「「サーイエッサー!」」


何とも子供らしい敬礼に笑みを浮かべながら静希は視線をカレンの下へ向ける、彼女が何を考えているにしろガス抜きは必要だ、自分にそれができないのなら他の誰かにやってもらえばいいだけの話である


「ではカレンを引き連れて入浴してこい、体の汚れを落として眠る準備をすること、手段は問わない、では命令を復唱せよ」


「「了解しました!ミスアイギスと共に入浴、その後就寝準備を行います!」」


アイナとレイシャは敬礼の後一瞬顔を見合わせてカレンの下へと駆け寄る、二、三話しかけた後で半ば強引にカレンを引っ張って静希の家の浴室に連れていくことにしたようだった


「ミスターイガラシ、リットはどうしましょう」


「ん?あいつは男だから一緒はまずいだろ、俺が入れておくよ、お前たちはさっさと入って来い」


「シ、シズキ・・・これは君の計らいか・・・?一体何を」


「はいはいさっさと行きましょう」


地力ではカレンに勝てるはずもないが、子供に風呂に一緒に入ろうと誘われてカレン自身無碍にできなかったのだろう、致し方なしという表情をしながら二人について行っていた


残されたのは静希とリットのみ、人外たちはまだ別室で話をしているようだった


ある意味好都合かもしれない、このリットという使い魔のことを静希は全く知らない


彼がどんな能力を持っているのかも、そして意識があるのかどうかも


「こうして二人だけになったけど・・・何を話したらいいのか」


もしかしたらただの独り言になるかもしれないが、それでも静希は話しかけた、それが必要だと感じたからだ


リットはすでに死んだ人間だ、死んだ後、オロバスの手によってカレンの使い魔となった


人間が使い魔になった時どんな反応をするのか、どんな形で使い魔になるのか静希は知らない、きっとメフィも知らないだろう、だからこそ試せることは試すのだ


病床に伏した人間も、他人の語り掛けにより症状が好転することもあると聞く、もちろん限られた例の一つではある、そんなに都合のよいことがそうそう起きるはずないのだ


だからといって何もしないというのも暇を持て余すだけだ、ならば独り言交じりにでも、この目の前の少年と言葉を交わそうと思ったのだ


「初めましては少しおかしいか、五十嵐静希だ、お前の姉さんと仲良くさせてもらってる、名前が変わってるけど、そこは勘弁してやってくれ」


静希の方をまっすぐ見つめながら、リットは口を開かない、だがどこかを、何かを見ているのはわかった、だから静希はそのまま自分のことを話すことにした


それが意味があるかどうか、例えなかったとしても、静希は言葉をつづけた


誤字報告を五件受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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