彼らの目的
「それで、この建物は?」
「ここは博物館の一角だね、調べてみたんだけど大した展示物がない代わりにセキュリティが酷いらしいんだ、一般人でも簡単に専用区画に入れるようなレベルで・・・映ってるのはここの人間でない可能性が高いね」
「ただ取引の場所として使っただけってことか」
これで場所から個人の情報を割り出すことができれば話が早かったのだろうが、そこまで簡単にはいかないようだった
だが静希には一種の確信があった、画面に映っているこの仮面の男がリチャード・ロゥ、あるいはそれに限りなく近い誰かであることを
「シズキ、君はこれをどう見る?」
「まず間違いなく何らかのつながりがあったんだろ?ただの奇形関係の事件かと思ったらどうなってんだか・・・悪魔、奇形化、リチャード・ロゥ・・・なんだか妙なワードが増えてきたな」
まさか自分が追っているリチャード・ロゥの手がかりがこんなところで入手できるとは思ってもみなかった
まだガランという企業と奇形化騒ぎの関連性については確証はないが、その裏にリチャード・ロゥの姿が確認できたというのなら話は別だ、今すぐにでも現地に行って確認を済ませたいところである
リチャードが一体何の目的でこの件に関わっていたのか、いやあるいはこの件をなぜ起こしたのかと言い換えることになるかもしれない
どちらにせよ、点と点が線で繋がってきている、何かがあると静希の中の警鐘が鳴り響いていた
「わざわざ第三者を中継役にして受け渡ししたってことはそれなりに警戒してる・・・この映ってる奴がリチャード、あるいはそいつの側近みたいなもんとみて間違いないだろうな・・・このガランって企業の調べはどれくらい進んでる?」
「まだまだってところだね、金の行方に関しては不明瞭なところが多すぎるよ、今回のことだって彼を追えばそれがわかるかと思って調べただけだったんだから」
エドからしてみれば興味本位で調べていた誘拐と奇形化事件の手がかりから、かつて自分がまきこまれた召喚事件の手がかりがつかめるとは思っていなかっただろう
これを幸運というべきか、不幸というべきかは意見が分かれるかもしれないが、静希やカレンとしてはありがたいの一言に尽きる
「ちなみにこの映像は何時のものだ?最近か?」
「一週間前のものだね、だからもうこの場にはいないと僕は見てるよ」
エドが一瞬だけカレンの方に視線を向ける、なるほど、カレンが焦っているのもよくわかる、その場に自分の敵がいるとわかっていながら動いてはいけないのだ、焦燥感と悔しさが湧きでていることだろう
とはいえ彼女自身不用意な行動をとればせっかくの手がかりが失われることも十分に理解しているようだ、だからこそこうして静希との情報共有を優先した、これから先どう動くかを決めるために、確実に手がかりをものにするために
「直接そのジャンってやつに聞くしかないか・・・この中継役の奴は適当にそこら辺で雇った奴だろうし・・・」
こういう取引などで足がつかないようにするためにはその日限りの人間を使うのが最適である、そう言う意味ではこの中継の男性を捕まえても意味がない
ここで重要なのはジャン・マッカローネとリチャード・ロゥだ
「金の流れさえつかめれば、公的に動くことも可能かもしれないけど・・・」
「それに関してはこっちでも話を進めてある、早ければ今日か明日にでも情報が来るんじゃないかな・・・とはいえどうするか・・・イタリアの企業だろ?どうやって接触するか」
公的に警察などの機関が動いた時点でリチャードは姿をくらませる、それと同時に証拠の処分もしてしまうだろう
可能なら極秘裏に、誰にも気づかれないようにジャン・マッカローネと接触し彼から情報を引き出したいところである
これが犯罪組織や国家機関であればテオドールや静希の立場を利用して接触することもできたかもしれないが、ただの企業となるとどう接触したらいいものか困ってしまう
なにせ何も悪いことをしていないというのが前提の状態なのだ、悪いことをした時点で証拠を消されるとみて間違いない、となると事を荒立てないような真っ当な目的がいるだろう
「どうにかして企業内部に潜り込んでジャン・マッカローネを確保して、軽くお話ししてってところだな・・・その方法が問題なんだけど・・・」
軽くお話し、静希のお話というのはつまりは尋問、度を越せば拷問に近くなる、ただ楽しく歓談をするという事はまずないだろう
「・・・強引に誘拐ではだめなのか?そのほうが手っ取り早い」
「俺は犯罪者になるようなことはしたくないんだよ・・・面倒も起こしたくないけど・・・どっか別の所と合同で動いた方がいいかもしれないな・・・」
静希達だけで動くのではなく、どこか別の組織と合同で動けば少しは楽に動けるようになる、ただその場合完全に共同で動く必要がある、変に目的が違ったりすると足の引っ張り合いをしてチャンスを不意にすることだってあり得るのだ
とはいえどうするべきか
自分たちと目的を同じくしている人間や組織は確かに存在する、召喚事件や奇形化事件の解決のために動いているチームはいくつかあるだろう、だがその中で自分が信頼できる相手がいるかと聞かれると微妙なところである
自分たちに火の粉がかからずに、なおかつ確実にジャン・マッカローネを確保できるような手があればよいのだが
「シズキ、少々いやらしい手になるけれど、企業と接触する手がないわけじゃないよ」
「本当か?どんな?」
エドの言葉に静希は声をあげてしまう、カレンもエドの方に注意を向け彼の案を待っている
「そこまで大した手じゃないし、それにこの手は自作自演をするみたいなものだ、正直良策とは言えないよ?」
「ダメかどうかはさておきとりあえず聞かせてくれ、どんな手だ?」
実際に使えるかどうかは聞いた後で判断すればいい、この場の停滞を打ち破るような策であればなおさらいいし、そこから新たに策が生まれるかもしれない
そう言う意味ではこの発言は非常に貴重なのだ
「えっと・・・前に僕が言ったときに知り合いからこの企業のことを教えてもらったって言ったよね?そこからある噂を流せばいいんじゃないかなと思ったんだ、具体的には企業への妨害やらテロといった内容の」
「・・・随分過激だな・・・それでどうやって俺たちが・・・」
そこまで言って静希は思いついた、恐らくエドが考えているであろう内容の事柄を
それは静希だけではなくカレンも同様だったようだ
「なるほど、護衛か、あるいはその事案の解決役として潜り込むということか」
「そう、あくまで護衛役として近づいて、誰か悪役になってもらってマッカローネ氏を誘拐して情報を引き出す、その後で護衛役になっている人が救助に来ればいい」
エドの案にカレンはそこまでマイナスイメージを持たなかったが、静希は少々この案に難色を示していた
内容自体は悪いものではない、角が立たないようにするには確かにこれが最良のような気がするのだが、問題はそこまでに至る過程だ
テロの予告などしようものならそれだけで逮捕される対象になる、そんなうわさを流すだけでも重罪なのだ
さらに言えば多数能力者などいる中でどうやって自分たちを護衛役に任命させるのかという問題もある、簡単なように見えてまだクリアする課題は山積みなのである
とはいえ案自体は悪くない、悪役側と護衛側が結託していれば情報収集が済んだ時点で確保することだってできるし、口裏を合わせてアリバイを作ることもできる
そうなるとやはり第三者の協力が不可欠になる、静希やエドたちだけではこの動きは難しいのだ、他者から見てつながりがないと思われるような関係でなければならない
「俺が向こうに行く理由としては校外実習があるからそれを利用できるかもしれないけど・・・イタリアか・・・またテオドールに借りを作ることになるけど・・・それにどうやって向こうを動かすか」
向こうとは今回の目標である企業ガランである、どんな形であれ自分たちに依頼をさせるのだ、何かしらの外的要因がない限り護衛の依頼などしないだろう
その理由をどうやって作るかが問題なのだ
「やっぱり噂程度じゃ動いてくれないかな」
「当たり前だけど脅迫状程度じゃどっかに護衛の依頼とかはしないと思うぞ?なんかもっと具体的でインパクトのあるものじゃないと」
それこそ極端なことを言えば爆破などが挙げられるが、爆破などを予告すれば護衛ではなく解除が目的になってしまう、それこそ自分たちの出る幕は無い
「金銭面の証拠が押さえられればもう少し大々的に動けると思うけど・・・なんだったら奇形関係の調査機関も巻き込んで演技してもらうかい?」
「それができれば結構楽だけど、もし向こうに悟られたらなぁ・・・信頼できる人がそのチームの中にいればいいんだけど・・・」
そう考える中で静希は一人心当たりがあったのを思い出す、もっとも奇形化事件に関しての調査をしているかどうかはわからないのだが、一人いるのだ、信頼できそうな人物が
国岳、城島のかつての班員で今は警察機関に勤めている、その仕事は国内外問わず多くの事件を扱っていると聞く
もしかしたら今回の事件にも絡んでいるかもしれない、となれば調査機関にも食い込んでいる可能性は高い
もっとも証拠も何もない状態では相手も動いてくれないだろう、まだ実月の調査結果を待つしかないが、一度城島に話をして相談する必要があるかもしれない、無論完全部外秘で
「僕たちだけじゃまだ話を進められそうにないね」
「とりあえず目的は決まった、情報を集めて動けるだけの条件を作ろう・・・カレン、一人で突っ走ったりするなよ?」
「わかってる、慎重に行かないといけないってことは十分に」
今一番怖いのは単独行動に出られて何もかもを不意にすることだ、せっかく手に入りそうな手がかりを無に帰してしまうのは絶対に避けなければならない
エドを始めアイナやレイシャにも視線を送りカレンの動向をしっかり見張ってもらうことにする
この中で一番この事件に関しての思い入れが深いのはカレンなのだ、可能なら今すぐにでも飛び出したいくらいだろう
だがそれは抑えてもらわなければならない、彼女自身の勝手な行動ですべてが水泡に帰すようなことは避けたい、そして彼女自身もそのことを理解しているのだろう、動き出しそうな体を強靭な精神力で抑え込んでいるように見えた
「とりあえず今日はここまでにしよう、お前ら今日泊まるところは?ないなら布団位用意するけど」
「いいのかい?じゃあお世話になろうかな、ヴァルたちもなんだか話に花が咲いているようだし」
エドの視線の先にはゲームをやっているメフィとそれを見ながら何やら意見を交わしているヴァラファールとオロバスの姿がある、人外たちでそれぞれ積もる話もあったのだろう、随分と白熱しているようだった
これが新ルールの一回分の量です、新ルールあげてから数日たってようやく一回だけの分が出せました
これからもお楽しみいただければ幸いです




