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J/53  作者: 池金啓太
二十七話「所謂動く痕跡」

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見え隠れする不自然

静希や人外たちがそんな会話をした日の夜、静希の携帯に電話が入った


相手は同じ悪魔の契約者であるエドモンドからだった


「あぁ?お前そんなこと調べてたのかよ」


『あぁ、以前君から聞いてからずっと気になっていてね、自分なりに調べていたんだ』


エドとの会話に出てきたのは以前から静希の実習に関わってきた奇形種がらみの事件の事だった


世界各地の奇形関係の研究者が誘拐される事件、そして同じく世界各地の動物園での奇形化事件、エドなりに気になることがあったのだろう、自分のコネを使っていくつか調べ物をしているようだった


『誘拐の方は時間が空きすぎていてほとんどわからなかったんだけど、奇形化の方は例の成分が発見されているからね、その方向から調べることにしたんだ』


「そう言えばこっちの方でも奇形化した動物には幾つか気になる成分があるって言ってたけど・・・」


それは明利が発見したもので、今も調査が進んでいるらしい、城島から新しい情報が入らないために何とも言えないが話が前に進んでいればよいのだがと思ってしまう


『僕の父の会社によく仕事を依頼する薬品会社が、丁度その成分の解析をしているところでね、ほんの少しだけど面白い話が聞けたんだ』


面白い話


一体どういった内容なのかはまだわからないが、実際に調査をしている薬品会社に知り合いがいるというのは大きい、こういう時に人脈というのは必要なのだなと静希はしみじみとエドの人脈の広さに感謝していた


『まだ検証段階で確定ではないけれど、その成分を摂取した動物・・・いやどうやら植物にもなんだけど、ある効果を促進させるらしいんだ』


「ある効果・・・?ひょっとして魔素の吸引か?」


静希の言葉にエドはザッツライトと軽く笑った後でいやぁシズキは話が早くて助かるよと付け足す


エドとしてはちょっとしたサプライズを含めたつもりだったのだろうが、静希相手では、いや先の奇形化騒ぎに関わったものからすれば十分予測できることである


『話を続けるよ、どうやらそれを取り込むと、体内に魔素を取り込もうとする動きを活発化させるらしいんだ、無論個体差があるらしいけど・・・そしてもう一つ、むしろこっちの方が本命って言った方がいいかもね』


魔素吸引までは静希も予想できたが、そこから先の効果となると流石の静希も不明な点が多い


疑問点が多すぎてどれが本命なのかを把握できないのだ、そしてそれをエドは知っている


「その本命とやらは、一体どういう効果なんだ?」


『まぁまぁそう焦らないでくれ、結論から言えば奇形部位をある程度コントロールできる効果があるようだ』


その言葉に静希は頭の中で幾多もの可能性を模索する、奇形部位をコントロールすることができる、もしそんなことがあるなら、あり得るならどんなことが引き起こされるか


「それはつまり、奇形化後の生存率が向上するってことか」


『・・・やっぱりシズキは話が早くて助かるよ、そう、これも確定ではないんだけれど、ほとんどの動植物は生命活動に支障がない部位に奇形化が現れていた、たぶんだけど魔素の動きを何らかの形で誘導するような効果があるのかもしれないね』


その言葉に、静希は自分の右手に視線を向ける


奇形化とはつまり、体の許容量を超えた魔素を注入することで発生するリバウンドのようなものだ、静希の場合はメフィの協力により右腕に魔素を集中して注入したために右手が奇形化した


だが無理やり奇形化させた場合、人外の協力なしに過剰な魔素を入れた場合、そうはいかない


奇形化は良くも悪くも生き物としての本来の動作をしなくなる可能性があるのだ


そこでまず問題なのは、体を実際に動かしている臓器である


心臓、消化器、呼吸器、生きるために必要な臓器が体の中にはつまっている、もしその部位が奇形化したら、例えば心臓が奇形化し、普段と同じように脈を打たなくなったら、それだけでその生物は死に至るだろう


だが、静希がメフィにそうしてもらったように魔素の動きをある程度コントロールできれば、生命維持に支障のない部位に奇形化を施せることになる


思えば奇形化騒ぎがあった時、大量の動物たちが奇形化した、それこそ九割近い動物が奇形化したのだ、なのに奇形化した結果死亡した動物はほとんどいなかった


無理やり奇形化させればその分体には無理がかかる、あれだけ大量の動物がいて生命維持に支障がある部位が奇形化した動物が一匹もいないというのは明らかに異常ではないのだろうか


静希はその部門の専門家ではないから詳しいことは言えない、だがもし奇形化が体の部位をランダムに奇形化するのだとしたら、内臓器が奇形化しない確率は一体どれほどだろうか


そう考えると、エドの言うように奇形部位をある程度コントロールできるというのも頷ける話である


「エド一つ確認したい、このことはどれくらいの人間が知ってるんだ?」


『どれくらいというのは僕も把握していないけれど、少なくとも今回のことに関わってる研究機関はある程度察知していると思うよ、今はむしろそれに御執心って感じだったね』


恐らくはその知人とやらの反応を見て感じたことだったのだろう、あの反応を起こすことができるという成分を解析し、利用できないかと研究者としての本能がうずいている頃だ


エドもかつては研究者であったためにそれが理解できるのだろう、最も今の彼がどのような感情を抱いているのかは不明だが


『そうそう、面白い話はもう一つあるんだ』


「まだあるのか、それも奇形関係の話か?」


先程から話の内容をすべてメモしていると、エドはどうだろうねと少しだけ迷っているようだった、迷っているというより確証がもてていないと表現する方が正しいだろうか


不確定な情報を静希に伝えるべきか否か迷っているようだったが、決心したのか声を小さくして静希に話しかける


『実は、君から前に起きた誘拐と奇形化事件の二つの事件を聞いたときにちょっとだけ気になることを思い出したんだ、これはあくまで話半分に聞いてくれ、僕もまだ確証がないんだ』


「・・・わかった、続けてくれ」


話半分、恐らくエドもまだ事実を疑っているのだろう、どちらかといえば仮定の話になりそうだ、メモに以降確証なしという一文を書き足した後で耳を傾ける


『さっき話した企業とは別の企業なんだけど、ちょっと・・・その・・・行き先が不明な金が出ているんだ、しかも大量に』


「・・・それって結構な問題じゃないのか?横領とかそう言うのとかってことだろ?普通に犯罪じゃ・・・」


静希は経営のことなどはよくわからないが、行先が不明な金というのは一円だって出てはいけないものではないのだろうかという認識がある


それだけ不透明な部分があるという事だし、もしそれが株式で成り立つ会社なら出資者をだましているようなものだ、普通の会社ならあり得ない


『うん、それがただの横領なら特に気にしなかったんだけどね、その時期が問題なんだ、具体的には誘拐事件の一週間程前』


「・・・ただの偶然じゃないのか?不明金が出たってだけじゃ」


静希の言葉を遮るようにエドはいいやそれだけじゃないんだと付け足して少し声を荒げた


『その不明金は一時的なものじゃなく、継続的に行われてるんだ、その事件一週間前から、今に至るまで、しかもその額は奇形化事件を境に一気に減ってる・・・無関係だと思えるかい?』


奇形研究者の誘拐事件の一週間前から発生した行方不明金、そして奇形化事件を境にその額が一気に減少した


確かに、偶々で片付けるには少々偶然が過ぎる気がする、何か意図的なものを感じざるを得ない


「・・・エド、お前の意見を聞きたい、お前はこの件、どう思ってるんだ?」


『・・・僕個人の意見として、いや僕の仮説はこうだ、何者かが研究者を誘拐、そしてその研究者を一カ所に集めて安全に奇形化を誘発させるような薬を作らせ、その金をこの企業から出させていた、奇形化事件はその最終実験、そしてそれに成功したと判断した首謀者は研究費を削減・・・という感じかな』


エドの仮定に静希は大まか同意見だった、どんな目的があったのかは知らないし、どのような理由があってこんなことをしているのかは不明だが、おおよそ静希が予想していた通りの仮説だ


研究者を捕まえるだけで終わるはずがない、捕まえた後、何かを作らせるために誘拐したと考えるのが自然だ


だが研究というのは金がかかる、研究者の衣食住だけではなく、使用機器、使用薬品や材料、そしてそれらを運用できるだけの施設


挙げればきりがないほどに用意するものが存在する、エドの言うように一気に額が減ったというのは奇形化騒ぎによってその成分がほぼ安全に奇形化を促すことができるという効果を有していると確定づけた可能性が高い


『シズキ、君はどう思う?』


「・・・ほとんど同意見だ、だけど一つ引っかかることがある、安全に奇形化を促すってことは、たぶん最終的にはそれを人間相手に使うってことだろ?俺らみたいに人外を連れていないと奇形化しても意味がない、どうしてそこまで奇形化に固執する?」


以前日本ではエルフの協力の下人体の奇形化実験が行われた、その結果被験者は死亡している、普通の人間では人外の協力なしに奇形化は不可能であるという事実を突き付けられた瞬間だ


静希はメフィという信頼できるパートナーがいるからまだいい、だが仮にただの人間が奇形化したところで能力を強化できる術は今のところ人外の協力を得る以外にはない


研究者を拉致し、企業から金を出させ、あるいは自主的にだし、時間をかけて遂行する


ほとんどの人間にとって無駄とも思える行為をなぜそこまでの苦労をして行うのかが理解できないのだ


『・・・そうか、シズキは日本のそれしか知らないんだったね、実は日本以外でも結構いろんな国で人体の奇形化の研究は行われているんだ、日本が失敗したことで及び腰になった国もいくつかあるけれどね』


「・・・ってことは、まだ奇形化に対する執念がある奴ってのがいるってことか」


『そこに付け込んだのか、それともそのものなのかは僕にもわからないけど、無関係ってことはまずないと思うよ』


奇形化に対する執念、それは言ってみればエルフに向けての対抗心のようなものだ


ただの能力者では発動できないほどの大能力、それを発動できるが故に強い力を有するエルフ、もちろんエルフの待遇は国によるのだが、ほとんどの国がエルフは強力な戦力として扱われる、ただの能力者では太刀打ちできないからこそ


だが自由に奇形化することができ、誰でもエルフ級の能力を発動できるようになれば今までのようなエルフの存在価値、そして希少価値は失われることになる


この事件の引き金を引いた人物が一体誰なのか、何が目的なのかはわからないが関わりがあるような気がしてならない


確かにこれは面白い話だなと思いながら、静希は自分が書いたメモに目をおとす


「でもエド、お前よくそんなこと調べられたな、そう言う情報ってほとんど部外秘だろ」


静希が言うように、金の動向などというものは本来ほとんどが部外秘だ、株式会社なら株主総会という形で金額の動きなどを明記するのかもしれないが、肝心なところは隠すのが企業のやり口である


所謂良いところだけを見せておくという事だ、騙すのとは少し違い、真実だけを書くことが重要な面倒な手法ではあるがマイナスイメージの付きにくいという利点がある


そんな情報をどうやって仕入れたのか、静希は純粋に疑問だった


『はっはっは、まぁいろんな会社に関わってるといろいろとコネができるのさ、敵の敵は味方じゃないけど、いろんな企業にもそれぞれの思惑とかがあってね、そう言うのを上手く利用しているんだ』


「なんていうか、お前たくましくなったな、初めて会った時が嘘のようだ」


それは褒められてるのかな?とエドは笑っているが、静希からしたらエドのこの変化はとてつもなく大きなもののように思えた


静希とエドが初めて会ったとき、静希の目からはエドは頼りない男性として映った、典型的とは言わないものの研究者らしい人間だと思ったものだ


だが今のエドはどうだろう、社会の荒波にもまれた結果か、それとも悪魔の契約者となったことでの心境の変化か、かつてとは比べ物にならないほどの胆力を有しているように思える


根本部分は変わっていないのかもしれないが、かつてのような弱弱しさにも似た様子は今のエドからは感じられない、どこか自信に満ちているようにも思える


『ところでシズキ、このことはあまり多くの人には話さない方がいいと思うんだ』


「まだ確定じゃないからってことか?」


静希の返答にエドはそうだよと答える、確かにエドは先の話を話半分に、しかも彼がした仮定の話だと言っていた、証拠もなければ確証もない、今あるのはあくまで状況証拠のみなのだ


仮にその企業が何らかの形で誘拐と奇形化騒ぎに関わっていたとなれば大問題だが、その確固たる証拠がないのだ、変に吹聴してもいいことなどないのはわかりきっている


『僕はシズキを信頼しているからこうして話したけれど、周りの人間まではわからない、もしどこかからこの話が漏れて尻尾を掴めなくなるのは嫌だろうからね』


その言葉に静希は何故エドが先程言うかどうか迷ったのかという事を理解した


人の口には戸が立てられないのと同じように、どこからこの話が漏れるかわからないのだ、もし静希がどこかでこの話をして誰かがそれを聞いていて、そこから漏れることだってあり得る


そうなった時、その情報がエドの言う企業の耳に入らないという保証はない、そうなったら証拠を隠滅される可能性だってあるのだ


それを危惧して、エドは迷ったのだろう


「・・・わかった、信頼のおける人間にだけこのことは伝えることにする・・・こっちでもいろいろと調べてみるよ、あくまでさっきの話とは無関係って形でな」


『それがいいと思うよ、僕の方でもいろいろ調べてみる、何かわかったら追加で教えるよ』


悪いなと付け足すと、向こう側が少し騒がしくなる


騒音の中に聞き取れるのは高めの子供の声だ、恐らくアイナとレイシャだろう、何を騒いでいるのかまでは聞き取れないが、何かあったようだ


「なんだか賑やかになってるな」


『あはは、いやはや、彼女たちもなかなかどうして一人のレディだからね、思うところがあるらしいんだよ、あー・・・ちょっと待っててくれるかい?』


そう言ってエドは受話器から離れると小さく二人を注意する声が聞こえてきた


一体何が理由だったのかは不明だが、喧騒の原因は二人にあるらしい、あの大人びた二人からは想像できない光景があるのだろう


恐らくエドには心を開き、ありのままの自分を見せているからこそそういう事が起きるのだと察すると、静希は小さく笑う


静希と会っていた二人は所謂余所行きの、猫を被った状態だという事だ


借りてきた猫のようと表現するのは少し間違っているかもしれない、むしろ背伸びしたい子供の猫というべきか


『ごめんごめん・・・で、なんの話だったっけ?』


どうやら二人への注意を終えたのか、エドが苦笑交じりに受話器に戻ってくると静希は思わず笑ってしまう


「ん?お前の所は楽しそうだなって話だよ」


『あはは、いやいやそんな話じゃなかっただろう?』


冗談だよと静希は笑いながらそう言うと、エドは恥ずかしそうに、そして気まずそうに返す言葉を考えているようだった


だが反論できるだけの材料がないのか、彼自身楽しいと思っているのか、それ以上何かいう事はなかった


『冗談はさておき・・・シズキ、気を付けてくれ、誰かが大きな何かを企んでいるのは間違いない、どこに誰の目があるかもわからないからね、どうか気を付けてほしい』


「それはむしろこっちの台詞だけどな、お前の方がこっちとしては心配だ・・・あぁでもカレンがいるから安心か?」


カレン・アイギス、エドの会社に勤めることになったかつてのエルフ、悪魔の契約者、彼女がいればエドの身は安全だろう、少なくとも悪魔の契約者が二人もいるのであればおいそれと手を出せる状況ではないのは確かだ


『おいおい、彼女は確かにしっかりしてるけどさ、僕の方が頼りになるだろう?』


「どうだかな、もっとしっかりしてくれよ?社長殿」


静希の軽口に、君からそう言われるのは悪い気分はしないねとエドは笑っている


相変わらずの何とも言えないカリスマに、静希は笑みを浮かべ、件の企業の名前を聞いたあとでエドに別れを告げた


十月から毎回四千字分投稿することになりました、今回は誤字報告が五件分溜まったので六千字分投稿です


細かいルールなどは活動報告をご覧ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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