あの日出会ってから
一年生の初めての校外実習が行われている頃、静希達は大きく欠伸をしていた
教室の半分は空席、なにせ二年生の半分が一年生の実習の補佐として行動しているのだ
その為補佐役を命じられていない静希達のような学生はいつも通りの週末の授業を行っているのだが、ほとんどの生徒がいない中新しい単元に進むわけにもいかず復習という形で授業を受け、半分近い授業が訓練に費やされることになった
金土日と三日間で行われる実習、その初日である今日に行動をしている学生たちが多い中こうしてのんびりとしている静希達は緊張感の欠片もなく授業を受けている
時折教師がそんな緊張感のない様子を見て注意するのだが、自分たちの実習にはまだまだ時間がかかるという事もあって今から高い緊張感と集中を維持しろという方が無理なのも理解しているのだろう、強く指導するという事は無かった
一年前、丁度自分たちが緊張しながら行った初めての校外実習、今思えばあの日あの時メフィに出会ってから静希の奇妙な人外への出会いが始まったのだ
そこまで考えてそう言えばメフィと出会ってもうすぐ一年だなと思い至り静希はトランプの中のメフィに意識を向ける
『なぁメフィ、お前今なんか欲しいものとかあるか?』
『はぁ!?シ、シズキ?一体どういう風の吹き回し?』
唐突に話しかけられただけではなく、いきなり何か欲しいものがないかと聞いてきたことに驚きを隠せなかったのか、動揺しているのが声からでもはっきりわかる
そんなにおかしなことを言っただろうかと静希が内心首をかしげる中、それを聞いていたオルビアがなるほどと呟く
『メフィストフェレス、マスターは貴女と初めて会った日を祝おうとしているのではないでしょうか?そろそろ出会って一年になるのでしょう?』
話にしか聞いていないが初めての実習の時に二人が出会ったという事は知っているオルビアがそう言うと、静希もそういう事だと呟く
めでたいかどうかはさておいて、一年という節目を迎えたことに対して何かしら催しをしても罰は当たらない、それがたとえ静希の人外との出会いを元にしたものであったとしても
『お前と会ってもう一年だしさ、なんかお祝いとかしようと思ったんだけど、嫌か?』
『嫌じゃないけど・・・それだと私もなんかシズキにしてあげなきゃいけないじゃない?それだと不公平かなって・・・』
契約を重んじる悪魔にとって、それがたとえ好意からの代物だとしても何かを無償で受け取るというのは憚られるのだろう
所謂ただほど高いものはないという精神に近い物がある
もちろん彼女としても嬉しいようだったが、静希が何かをくれるというのなら自分としても何かする必要があるのではと感じるのもまた必然だった、受け取るだけ受け取って素知らぬ顔ができる程彼女は薄情ではないのだ
『お前がそんなことを気にするとはなぁ・・・でもせっかくだしなんかなぁ・・・』
出会って一年、たったそれだけの間にあったことは数知れないし何より静希としても忘れるわけにはいかないものばかりだ
それらを乗り越えてきた仲として何かしらの形を残したいと思っていたのだが、メフィとしてはただでそれを受け取るというのはいやなようだった
対等契約、静希とメフィが交わしている契約であり、両者は互いに対等であり、互いを所有し所有される関係にある
一方的な命令もなければ、どちらかが納得のいかない条件を作るのはご法度であるという暗黙の了解が敷かれている
だからこそ特別な何かをしようとしている中、メフィだけ何もしないというのは彼女の悪魔としての矜持が許さないのだ
『だがメフィストフェレスよ、せっかくシズキが祝い事をしてくれるというのにそれを無碍にするというのはどうなのだ?』
『わかってるわよ、私だって嬉しいんだから・・・そうね・・・ちょっと時間頂戴、何かできないか考えてみる』
『そうか?じゃあまぁ考えておいてくれ』
静希とメフィが初めて会ったのは日曜日だった、日にち的にはずれがあるがその日に祝うのが丁度いいだろう
それまでにメフィが何かしらの代価を思いつけばいいのだが
そんな静希のトランプとの会話が終わると、明利が静希の方に視線を向けているのに気付く、どうしたのかと思っていると視線を向けているのは明利だけではなく鏡花もだった
「あんた何話してたわけ?なんか企みごと?」
静希がトランプの中の人外と話すときの癖を知っている鏡花と明利はどうやらそれを見抜いていたのだろう、また厄介ごとなのではと危惧している鏡花と純粋に何を話しているのだろうと気にしている明利、二人の態度の違いに苦笑しながら静希はどう答えたものかと頭をひねる
「いやたいしたことじゃない、あいつと会ってもうすぐ一年だろ?だから何かしらお祝いでもしようかと思ってな」
静希の言葉にそう言えばそうねと鏡花が考えだし、もう一年経つんだねと明利が感慨深くうなずく
二人としてもなかなかに思い入れ深い一年だっただろう、そして面倒事の始まりともいうべきメフィとの出会いを祝うという事に二人は特に反対するわけではないようだった
「あんたってそう言うところマメよね、誕生日もしっかり覚えてるし」
「まぁな、こと管理とかに置いては一家言持ちだ」
収納系統の能力者は基本的に自らの持っているものを管理することが大前提であり、もっとも重要なことでもある、そう言う意味では把握能力に関しては他の人間よりも優れている点が多いのだ
静希の収納能力は弱いとはいえ入れているものを把握する力は必ず必要なものの一つだ、昔から培ってきた静希固有の特性ともいえるだろう
「でもそうね・・・お祝いかぁ・・・あいつって何あげると喜ぶのよ」
「・・・さぁ?」
首を傾げた静希に鏡花は肩を落とす、毎日のように一緒にいてもう暮らし始めて一年になるというのにメフィの好きなものというのは静希も知らない
今メフィがはまっているものはゲームなどの娯楽だが、それは好きなものとしてカウントされるのだろうかと思えてしまうのだ
メフィは飽きっぽい、いつかゲームにも飽きる日が来るだろう、その為何か別なものの方が良いのではないかと思えるのだ
「さぁって・・・あんたが知らないんじゃ何も用意しようがないわよ?」
「いやだってあいつ飽きっぽいし・・・ただずっと使えるような物よりは一回こっきりのなんか消耗品的な奴の方がいい気がするんだよな・・・」
「なるほどね、それじゃあまたケーキでも作ろうかな、それともたまには和菓子の方がいいかな?」
消耗品でメフィが喜びそうなものというとやはり甘いものという印象が強いため、洋菓子か和菓子のどちらかに二極する、明利としてはどちらも作れるためにそこまで苦労はしないのだが結局食べるのは静希だ、あまり甘すぎないものが好まれる
メフィが自分自身で飲んだり食べたりできるなら話が早かったのだが、送られるものはすべて静希の味覚を通じて味わうのだ、いや正確には別に静希でなくともよいのだがメフィは静希の味覚を使いたがる
その為メフィが代価として食べ物を求めた時は必然的に静希がそれを食すことになるのだ
一年前に比べ体重が増えたかもと思うこともある、その分運動量は増やしているが、最近体重を測っていないためにどうなっているかは全く分からない
ともあれ、メフィに与えるものが単なる食べ物で、それなりに豪華なものだと静希が食べきれない可能性があるのだ
その為ある程度は物品であるほうが好ましい
「でもあいつって最近はゲームもはまってるわよね?今やってるのは戦略ゲームだっけ?」
「あれを戦略ゲームといっていいのかは微妙だけどな・・・しかもネトゲだ、課金しないで時間だけを消費することに楽しみを見出したらしい」
人間と違って時間はいくらでもかけられる悪魔からしたら時間をかければかける程優位になるようなゲームは彼女にとって得意分野なのだ
もちろん時間をかければその分飽きるのも早いかもしれないが、そこは彼女の気分次第である
「ていうかあんたからあげるだけ?あいつからはなんかないの?」
「さぁな、なんか考えておくとは言ってた、なんか一方的にもらうのは嫌らしい」
悪魔としての契約云々の話は鏡花にとっては全く分からないためにそう言うものなのかしらと首をかしげている
普段のメフィの言動を考えると貰えるものは貰っておこうと言いそうなものだが、静希に対しての事だけは特殊なのだろう、そう無理矢理に納得することにした
「一年経過してあいつとの生活はなんか変わったわけ?なんか昔と全然変わってない気がするけど」
「そうだな、基本あいつはだらけてばかりだぞ、まぁ娯楽が増えている気がするけどな」
メフィの名を口にしないでの会話も成り立つ中、静希はメフィと出会ってからの生活を思い返していた
自由気ままに過ごすメフィは思えば確かに何も変わっていない、テレビを見てネットをして、ゲームをして、そして今はようやく静希の手札の一つを作るのを手伝うようになった
ニート悪魔などという表現が似合う彼女は昔から変わっていない、というより静希よりも何倍も生きてきているのだ、たった一年くらいで変わるとも思えない
現代において娯楽の数は昔と比べると何十倍にも増えている、ジャンル的にはそこまででもないが、一つのジャンルにおいてかなり細分化されており時間がいくらあってもやりつくすことができないほどだ
メフィにとっては飽きることない堕落の時間を味わえることになる、それが良いことなのかどうかはさておいて、静希としてもむやみに暴れないのであれば良いと思っていた
「途中からあんたあいつのことを危険視しなくなったしね、それだけ信頼してるってこと?」
「ん・・・まぁ信頼っていうのかは微妙だけど、そこまで危険な奴じゃないってのはわかったし、手間のかかる奴だってのは今も思うけど・・・」
静希としてもメフィのことを素直に褒めたり評価するのは憚られるのか、難しそうな表情をしながら頭をひねっている
鏡花の言うように、いつからか静希はメフィのことをそこまで危険視しなくなった
以前は一緒にいるだけで心臓を握られているような圧迫感を味わっていたのだが、途中から慣れたのかその感覚がなくなったのだ
それからと言うもの、メフィの存在は悪魔という圧倒的強者から面倒くさいもう一人の姉のような存在に近くなった
身近に残念な姉貴分がいたからか、そう言った面倒くさい女性の扱いは手慣れていたためにいつの間にかメフィの扱いが悪魔から人のそれに近づいていったのだ
そしてそんな存在になったからこそ、誰かにメフィのことを伝える時に良いイメージを伝えにくかった
自分が思っている以上にメフィはダメな部分というか、適当なところが多すぎる
無論悪魔として契約を果たすときにはきっちりと決めるのだが、私生活がだらしなさすぎるのだ、そう言う二面性を知ってしまっているだけに静希としては素直に褒めにくい
仮にいいところが浮かんできても、でも、だけどという否定が思い浮かぶのだ
恐れるべき悪魔をそんな風に思ってしまっている時点で自分もずいぶん毒されてきているなと思い返し、静希は額に手を当ててため息をついてしまう
「なるほどねぇ・・・だからメフィはあぁして頭をひねってるんだ」
その日の授業を終え帰宅しいつものように人外たちが飛び出した後で、いつものように雪奈が静希の家にやってくると珍しい光景を見ることができた
普段ならゲームやテレビに夢中になっているメフィは、何故か宙に浮きながら何か考え事をしているのだ
あまり見ない光景に雪奈は不思議がっていたが静希の説明に納得した様で茶を飲みながら懐かしむように目を細めた
「そうか・・・メフィに会ってからもう一年かぁ・・・早いもんだなぁ」
「本当ですよね、雪奈さん、お茶お代わりどうぞ」
雪奈と同じく当然のように静希の家にいる明利も一年という時間の流れをしみじみと感じているのか、湯呑と急須を持った状態で小さく息をついている
まだ二十にもなっていないのにこんなに時間の流れの早さを実感しなくてもよいのではないかと思えるが、そこはスルーしておくことにしよう
「そういやメフィに会ったのが一年ってことはわんちゃん神様と会ってからももうすぐ一年になるわけか」
「そうなるな、といってもメフィストフェレスより数日のずれがあるが」
邪薙に初めて会ったのはエルフの村での騒ぎが発端だった、実習が終わって一週間経ったかどうか位の時期だったと記憶している
「オルビアちゃんは海外交流の時だっけ?五月くらい?」
「はい、ですので私はさらに一か月ほどのずれがありますね」
オルビアと会ったのは五月の頭、ゴールデンウィークの最中にあった海外交流会の時だった、向こうの能力者専門学校の生徒の案内でクルージングをしていた際に嵐に巻き込まれ遭難、孤島に流れ着き、そこで出会った
思えば途方もないことをしてきているなと思い返しながら静希はよく生きていられたものだと感慨深くなってしまう
「この家が騒がしくなってからもう一年経つんだね、もうこの感じに慣れちゃったけど」
「そうですね、皆さんがいないとなんかちょっと寂しいかも」
二人の言うように、静希の家には人外が三人もいる、一年前までは静希の一人暮らしだったのにいつの間にか増えに増えて四人と一匹の一世帯家族のようになってしまっていた
そこに普段からやってくる明利や雪奈を加えるとさらに人数は増える
合計六人と一匹、実習などで陽太と鏡花がやってくれば八人と一匹になる、こんなに大量の人数を入れたことなど高校になるまではなかったことだ
この雑多な状況に慣れてしまったため、確かにいきなり一人になると寂しさにも似たものを感じるかもしれない
「ですが明利様、いずれマスターとお二方が婚姻を結ばれるのであれば生まれてくるお子方のためにも、私どもは身をひそめることになると思われます」
「・・・そこまで先のことを考えなくても・・・でも・・・そうなる・・・のかな」
何時か生まれる子供、まだ結婚もしていないのにそんなことを気にするのもどうかと思うのだが、実際生まれてくる子供にとって人外たちは刺激が強すぎる
この中で唯一まともなのはオルビアと使い魔のフィアくらいのものだ、それでもオルビアはただの人にしか見えないために一緒に暮らすのであれば多少なりとも言い訳を考える必要があるだろう
思えばそこまで先のことを考えたことがなかったために、今こうしているからこれからもこうしていられるという認識でいたが、実際はもっといろいろと考えるべきなのかもしれない
「オルビアの意見には賛成だが、幼い時、そしてしっかりと成人した後ならば姿を現しても問題はないと思うぞ、我々は何も危害を加えるような存在ではないのだ、話せば理解することはできるだろう」
人外の中で最も強面な神格が言うと如何せん説得力に欠けるが、邪薙の言うように静希の周りにいる人外は約一名を除き静希達に危害を加えたことなどは無い
その為しっかりと教育した後であれば問題はないのではないかと思えるのだ
「じゃあ赤ん坊のころまでなら大丈夫かな?会ってみても覚えることは無理だろうし」
雪奈の言うように赤ん坊の頃であればだれに会っても覚えることなど無理だろう、記憶の片隅に残るかもしれないが、犬顔の大男に世話をされたなどといっても夢か幻でも見たのだろうと思われるのが関の山だ
「なるほど、赤子は夜泣きが酷いと聞きます、そう言う時は我々が協力いたしましょう、子育てとは皆で協力し行うものであるとどこかの書物で読んだ記憶があります」
「赤子の世話か・・・やったことなどはないがシズキ達の子ならば見てみたいな、しっかりと神として祝福でも授けてやろう」
「あんたが子供の前に出たら間違いなく泣かれるわよ、そこは自重しなさいね」
先程まで頭を悩ませていたメフィが一度考えることをあきらめたのか、ふわふわと宙に浮きながら静希の頭上にやってくる
先程の会話も大まかにではあるものの聞いていたのだろう、ため息をつきながら苦笑していた
「む・・・自分の顔については自覚している、だが女子供は犬が好きだろう、この顔でもさしたる問題はないと思えるが?」
「図体がでかいってだけで圧迫感を与えるのよ、子供にとっては怖いでしょうよ・・・っていうかそんな先のことまで考えないでよ、このままだと子供の名前まで考えだしそうで嫌になるわ」
メフィの言葉に話に夢中になっていたという事に気付き、明利達は苦笑してしまう、先の話をするというのは何でも言えるから面白いのだ、その分第三者から見ればみっともなく映ることもあるが、当事者からすればかなり真剣な内容であることも多い
静希達の場合結構真面目な内容だっただけに夢中になってしまったのだ
「そう言えばメフィ、静にあげるものは決まったわけ?」
先程までずっと頭を抱えていたメフィがこちらにやってきたことで考えがまとまったのかと思ったのだが、メフィはため息をついて首を横に振る
「ダメ、全然思いつかないわ、そもそも私がシズキにあげられるものって大体が行動なんだもの、物品をあげるって言っても私基本何も持ってないしさ」
「あぁなるほどね、だったら静に何かしてあげればいいじゃん、今までしてこなかったような事」
プレゼントやお祝いというと何かをあげるという行為であるという認識があったのか、物品を持っていないメフィにとっては何もあげられるものがないと思っていたようだが雪奈の言葉に再び悩み始める
「なるほど、その手があったか・・・んんん・・・でも何をすれば・・・」
メフィが悩みに悩んでいると、雪奈はいいことを思いついたのか宙に浮いているメフィを引っ張って耳打ちする
その表情からあまりいいことではないような気がするのだが、それを聞き終えたメフィはそれいいわね、とかなり乗り気な様子だった
一体どんな入れ知恵をしたのだろうかと静希と明利が顔を見合わせて首をかしげている中、メフィは行動を起こすべく部屋にあるものをいくつか漁りだす
何を探しているのだろうかとのぞき込むと
「ダメ!見ないで!これは内緒なの!」
といって何も見せてくれなかった
そしてメフィは静希達のいるリビングから静希の寝室へと向かっていった
何をするつもりだろうかと心配になるが、とりあえず経過を見守るしかないようだった
「いやぁ、我ながらなかなかいいアドバイスしたんじゃないかな?」
「いったい何言ったんだよ、変な事じゃないだろうな?」
「それは大丈夫、安心しなさいな」
雪奈のアドバイスという事で静希からしたら不安しかないのだが、せっかくメフィが何かしらやる気になっているのだからそれを止めるのも忍びないと思い、とりあえずは放置しておくことにする
本当に何を言ったのか、メフィがこもっている部屋から何やらものが落ちる音やら何かが破ける音が聞こえてくる
今日自分はあの部屋で眠ることができるのだろうかと一抹の不安を抱きながら静希は非常に複雑な心境だった
「メフィがあそこまで考えてるんならわんちゃん神様やオルビアちゃんも何かしらお返しを考えないといけないかな?せっかくだし」
「ん?もしや我らの一年の節目にも何か祝い事をするつもりか?」
「あー・・・まぁメフィだけやるってんじゃ不公平だし、やるつもりではいたけど、お前らはお返しとかは別にいいぞ?あいつがあそこまで拘ってるのは契約に引っかかるからだし」
お前らとは別にそこまで厳密な契約はしてないしなと静希が付け足すが、邪薙とオルビアとしてはメフィだけお返しをするのに自分たちだけもらうだけというのは承服しかねるのか、腕組みをして悩み始めてしまった
「マスターにお仕えしている身としては祝っていただけるだけで身に余る光栄ですが・・・確かに私からも何かお返しをするべきかもわかりませんね、どうしたものか・・・」
「ふむ・・・こちらは一つできそうなことがあるからそれで手を打つとしよう、オルビア、もし悩むのであればお前もユキナに助言を乞うべきではないか?」
邪薙の言葉にオルビアの視線が雪奈の方へと向く、だがその視線を静希が遮った
「雪姉のアドバイスはやめておけ、たぶんだけどろくなことにならない」
「そ・・・そんな・・・では私は一体どうすれば・・・!」
雪奈からのアドバイスは直情的でなおかつ短絡的ではあるが、目的に対しての最短距離を行く内容が多い、それを採用するかどうかはさておいて聞いておいて損はないと思っていたのだ
だが自らの主である静希にそれを遮られたせいでオルビアは自分で考えなくてはならないのではないかという強烈なプレッシャーをかけられることになっていた
「オルビアさん、なんだったら私も一緒に考えるよ?」
「め、明利様・・・!ありがとうございます、これほど心強い友軍はありません!」
オルビアからしたら明利が天から伸びる救いの手のように見えただろう、明利は雪奈と違って常識的かつ現実的なアドバイスができる人間だ、多少消極的なのは否めないがオルビアにとっては最も適したアドバイザーとなるだろう
静希に遮られてしまった雪奈は不満なようで先程から静希の背後でずっとブーイングをしている、自分がどれだけ危険な思想を叩き付けるかがわかっていないようだった
以前の明利の時もそうだったが、雪奈の意見は本当に最短距離を走りすぎるのだ、その結果オルビアが暴走するようなことがあったら目も当てられない
結果的に雪奈のアドバイスが良い方向に働くこともあるが、今までがそうだったからといってこれからもそうであるとは思えない
所謂諸刃の剣のようなものだ、成功すれば得られるものは大きいが失敗すれば失うものも多い
ただのお祝いにそんな御大層なものを求めていないのだ、本当にささやかなものでいいのだ、邪薙やオルビアはそうでなくても毎日のように静希の生活に貢献してくれているのだから
「マスター、待っていてください、きっとマスターのご期待に添えることのできるものを用意してご覧に入れます!」
「あー・・・うん、期待してる」
静希の気持ちとは裏腹にオルビアはやる気満々だ、一体どんなものを持ってくるのか想像もできないが、好きにやらせておいた方がいいだろう
せっかくやる気になっているのだ、静希としてもそれを止めるつもりはなかった
誤字報告を20件分受けたので五回分投稿、残りの四回分です
これで九月は最後、明日から新しいルールでの投稿スタートです
もし忘れたらごめんなさい
これからもお楽しみいただければ幸いです




