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J/53  作者: 池金啓太
二十六話「新たな年度の彼らのそれぞれ」

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結果とアルバム

翌日、明利の医師免許の合否の発表を控え三班の人間は全員落ち着かない様子で一日を過ごしていた


発表があるのは昼、正午を境にネットで発表があるとのことで全員が落ち着かない様子で授業を聞いている


城島もそのことを察しているからか、あまり強く言及することはしなかったが、明らかに授業が耳に入っていないように見えた


何度か注意したものの、さすがに改善されるには状況が変わるまで待つしかないのか、しまいには諦めているようだった


そして、正午


合否が発表される時間が過ぎ、昼休みになった瞬間三班の人間は全員で携帯でネットに繋ぎ、合否発表がされるサイトを閲覧する


はたから見たら異様な光景だっただろう、だが周囲の視線など全く気にせずに静希達は結果第一で携帯を食い入るように見た


そこには合格者の番号が記されている、今年の受験者は十七人、その中の八人分の番号が記されていた


「明利、番号何番?」


「えっと・・・A0006だよ」


その番号を見つけるべく全員が小さな携帯のディスプレイに視線を落とすと、八人分の番号の中に確かにA0006の番号が記されていた


何度も何度も確認し、自分たちの目が間違っていないかを四人で確認した後、全員でガッツポーズをとる


「やったわね明利!国家資格取得よ!今日はお祝いね!」


「あぁ!マジですげえ!いっそ早退して遊びまくるか!?」


鏡花と陽太が明利をたたえていると、静希達の教室の扉を勢いよく開けて先輩である雪奈が足早に駆け寄ってきた


どうやら授業が終わってから即行でこちらにやってきたのだろう


「結果は!?どうだった!?」


上級生が来たことによる奇異の視線などに目もくれず、雪奈はずかずかと静希達の元へと近づいてくると、全員が満面の笑みで応えて見せた


「マジでか!マジでか!明ちゃんおめでとぉぉぉ!今日はうたげじゃあああ!」


「ゆ、雪奈さん苦しいです・・・!」


喜びを全身で体現しているのか、雪奈は明利を強く抱きしめ満面の笑みを浮かべている


今にも万歳三唱しそうな勢いに、さすがのクラスメートたちも何かめでたいことでもあったのだろうかという空気になりつつある中、それらを代表して石動が恐る恐る五人の元へとやってくる


「あー・・・喜んでいるところ悪いが・・・さすがに声が大きいぞ、少し落ち着いたらどうだ?」


「あ、悪い、雪姉落ち着け、お祝いは帰ってからだ、後自分のクラスに帰れ」


ひ、ひどいよ静といいながらも、自分の昼食は自分のクラスにあるのか、雪奈はすごすごと教室から出て行った


場所をわきまえず騒ぎ過ぎたかと静希達は周りにいるクラスメートたちに詫びを入れながら自身も昼食をとるべく弁当を広げだす


「それで、一体何事だ?お前たちがそこまで喜んでいるというのはなかなか見ないぞ」


静かになったとはいえ、さすがにあの状況を見てそれを放置しておくことはできないのか、石動が怪訝な声を出しながら四人を眺める


石動の言うようにあのように歓喜している静希達を見るのは初めてだったのだ


「聞いて驚け、明利が医師免許取得試験に合格したのだ!」


「・・・ほう!それは凄い!」


一瞬呆けた後に石動はその事の重大さが理解できたのか、やや興奮気味に明利の肩を掴む


「幹原!おめでとう!見直したぞ、お前がそこまでの人材だったとは!」


「あ・・・ありがとう・・・私も嬉しいよ」


石動も医師免許を取得するという事がどれほど難関であるかは知っているのか、自分の事のように喜んでいた


そしてそれを聞いていた周りのクラスメートたちも明利が医師免許取得試験に合格したという事を聞きざわつき始めていた


「という事は、幹原は医者になるのか?」


「んと・・・お医者さんになるかどうかはわからないけど、とりあえず免許は貰うつもり、いろいろ手続きとかあるけど・・・」


試験に合格したからすぐにその資格がもらえるというわけではなく、その後にいろいろと手続きやらが必要になるのだ、具体的には資格試験を受験し、合格通知が来てから一定期間以内に所定の機関に書類を申請し、作成、その後提出しなければいけない


ただ今までの苦労が報われたのだ、その程度の工程は無いに等しいものである


「にしてもめでたい・・・!何時頃から準備していたのだ?」


「えっと・・・本格的に準備し始めたのは去年の夏からかな、それまでほとんど独学だったけど、ちゃんとお医者さんに教えてもらって」


自分の能力から得られる情報と、本などで得られる情報だけで学んできた明利が初めて本職の医師から指導を受けたのは去年の夏が初めてのことである


最初は静希の訓練についていっただけだったが、いつの間にか知識も技術も向上し一端の医者になれるだけの技術を取得したことになる


昔から明利と一緒にいた静希や陽太からすれば落涙するほどのうれしさだ、昔は自分たちについて回るだけだった明利がいつの間にかこんなにもたくましくなっていたのだ、その事実を再認識し、嬉しくならないはずがない


明利の医師免許取得の話は噂になり、学年中に広まることになる、もちろんその話は職員の耳にも届き、後に表彰されることになるのだが、それはまた別の話である






「えー・・・それでは・・・明利の医師免許取得試験合格を祝って、乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


放課後、三班の人間と雪奈は明利の合格祝いをするべく当然のように静希の家に集まってきていた


ひょっとしたら誕生日のそれよりも豪華なのではないかと思えるほどの料理や飲み物に、それを眺める人外たちもさすがに少々驚いているようだった


「いやぁめでたいなぁ・・・明ちゃんがここまで立派になるなんてなぁ・・・」


雪奈は料理をつまみながらしみじみと昔のことを思い出しているようだった、実際明利のことを知っている人間がこの事実を知れば誰もがこんな反応をするだろう


比較的誰でも取得できるような運転免許を取得したのとはわけが違う、普通の人間が受けるだけでも難関な資格を、さらに高難度の状態で合格したのだ、称賛されないわけがない


「これで名実ともに、医療のスペシャリストになれたってわけね、同級生たちの羨望のまなざしを一手に引き受けた気分はどうよ明利」


「え・・・えっとその・・・嬉しいかな」


今までそこまで評価を受けてこなかった明利にとって、恐らく今日が一番褒められ、同時に羨まれた日だろう、能ある鷹はというわけではないが、明利の実力が学年中に知れ渡るのも遠い日ではないだろう


「それにしても・・・あの明利がなぁ・・・」


「あぁ・・・あの明利がなぁ・・・」


「・・・あの明ちゃんがねぇ・・・」


明利の昔の姿を知っている幼馴染三人は遠い日の明利を思い出しながら僅かに涙をこぼしていた、その光景に鏡花は一瞬引いてしまう


「そこまで感動する事なの?いやそりゃすごいことだけどさ」


「んと・・・褒められてる・・・のかな・・・?」


鏡花と明利は三人の反応に少々戸惑っているようだったが、三人は涙を拭って同時に向き合う


「お前はわかってないな、昔の明利がどれだけ情けなかったかを」


「丁度いいからアルバムでも掘り出してみてみようよ、懐かしのあの場面を回想しようじゃないか」


「それいいな、ちょっと待ってろ、今出してくる」


三人の記憶の中にしかない明利の昔の姿、そう言えば昔の写真を見たことがなかったかもしれないと鏡花はいまさらながら思い返し、静希が持ってきた数冊のアルバムを前に少しだけ気分が高揚していた


「えっと・・・明利が写ってて一番古いのが・・・これだな」


数冊のうちの一冊、ちょうど静希達と明利が出会って間もないころの写真のようだった


静希を始め、明利も陽太も雪奈も皆幼く、面影が少し残っているものの今とはかなりかけ離れた姿をしていた


唯一明利は少しだけの変化であったためにすぐわかったが、静希と雪奈に関してはその変化が著しく、ほとんど別人のように見えていた


恐らく撮影しているのは実月か、家族の誰かだろう、実月が写っていないという事はこの写真を撮ったのは実月の可能性が高い


走り回る陽太とそれを追いかける雪奈、そしてそれを眺める、というかそこから距離を置きながら様子をうかがっている静希とその裾を掴んだ状態で涙ぐんでいる明利


今も昔も似たような状況なのだなと思いながら鏡花は別の写真に目を移す


遊んだり昼寝をしていたりと、場所や状況こそ違うもののその全てにほとんど共通していることがあった、それは必ず明利は静希のそばにいて、その服の裾を掴んでいるという事だろう


「・・・明利、あんた本当に昔から静希にべったりだったのね」


「う・・・うん・・・その・・・お恥ずかしい・・・」


ページを進め、歳を重ねるごとにその傾向は薄れているとはいえ、明利は必ず静希か雪奈の近くにいた、しかも裾を掴んでいたり涙ぐんでいる写真ばかりだ


もちろん笑っている写真も多く存在したが、その中でも涙を浮かべながら笑っていたりと、非常に泣き虫な印象を受けた


中でも一番印象的なのは、静希、陽太、明利、雪奈、実月が一緒になって昼寝をしている光景だった


どこかの室内だろう、五人が一塊になってそれぞれを枕にしながら眠る中、明利は静希と雪奈の間で二人により添うように眠っていた、もちろん二人の裾を掴んだ状態で


「懐かしいなぁ、起きた後も明ちゃんが裾を離してくれなくて苦労したっけ」


「そのまま結局お泊りになったんだよな・・・いやぁ懐かしい・・・」


「・・・明利・・・あんたって昔は本当に弱い子だったのね」


「うぅ・・・昔の話はずるいよ・・・!」


いくら体が昔から成長していないと言っても、精神面は昔と違って随分と成長している部分が多い、さすがの明利も子供の頃のことを持ち出されると恥ずかしいのだろう、顔を赤くしてアルバムのページを強制的にめくっていた


「おぉこれは泳ぎに行った時の写真だ、最初明ちゃん泳げなくて泣いてたっけ」


「いやぁ懐かしい、水が怖いって言ってなかなか入ろうとしなかったんだったな・・・」


「結局みんなで頑張って泳ぎを教えたんだったよな、マジ懐かしすぎて泣けてくるな」


次々と明利の恥ずかしい過去が露見していく中、鏡花は改めて明利の評価を見直していた、昔はここまで情けない光景を晒していた明利が、今や班の中で、いや学年の中でも難関な資格を有する唯一の存在になっているのだ


人間何がどうなるかわかったものではないなと鏡花は感心してしまう


そしてそろそろ静希達を止めるべきだろうなと鏡花は羞恥に震えている明利を尻目に、話題を変えることにした


月曜日なので二回分投稿


誤字報告がなかった日なんて何時振りでしょうか、本当に久しぶり過ぎて泣けてきました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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