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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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村の長

「この部屋をお使いください、それでこの後はどのようなご予定で・・・」


通された部屋は客間というだけあってしっかりとした内装だった


フローリングの床に大きなテーブルと座布団、二つの部屋を分けることができるように襖もついていた


電気も通っているようでスイッチなどの現代的な物もきちんとある


「依頼人のところにあいさつに向かいます、石動、案内は任せたぞ」


荷物を置いて即座に行動を始める城島に全員が返事をして同じく動き始める


城島がいら立っているのが手に取るようにわかる


すぐにでもその怒りを発散したいと言っているようだ


「あ・・・五十嵐さん達どこかへ?」


様子を見に来たのか、風香が客間にやってくる、ちょうど入口ですれ違う形で互いに気付いた


「あぁ、依頼があるからそっちの方にな」


「だったら私も・・・」


「風香、五十嵐を困らせるな、おとなしく待っていなさい」


「・・・はい」


石動にたしなめられた風香はおとなしく引き下がりリビングの方へと走っていった


「さっさと行くぞ、時間が惜しい」


確かにすでに日は落ち、周囲は夜の姿へと変わっているが、城島が急いでいるのはなにも時間のことだけではないだろう


苛立ちをすぐにでも爆発させないとどこに飛び火させてしまうか分からないと言った様相だ


「長の住まいはあそこです、首を長くして待っておられます」


「そうか・・・あの古狸が・・・」


長い前髪の切れ目から見えたその眼は明らかに殺意を込めた瞳だった


元より目つきがいい方ではないが、今の城島を誰かに見せたらその場で警察を呼ばれそうな勢いだった


「せ、せんせー!怖いっす」


「先生、さすがに殺気出し過ぎです・・・これじゃ何しに来たのか分からないですよ?」


「おっと、すまんな」


まさか陽太と鏡花にたしなめられるとは思っていなかったのか、城島は口元を押さえてにやりと笑って見せた


だがその顔ですらまだ怖い


「だいたい何でそんなにいらついてるんですか?なんかありました?」


「何かなんてものじゃない、こんなに腹が立っているのは久しぶりだ」


何がそんなにと静希が尋ねると、城島はさらに眼光を鋭くする


「先ほどの東雲の父親の言葉、ご苦労様と言っていたな、おそらく無意識で言ったのだろうがそれならそれで気に入らん」


「なんで、別に変なことじゃ・・・」


「ご苦労さまとは一般的に上の人間が下の人間に対して使う言葉だ、仮にも娘の恩人に向けていう言葉ではない」


それを聞いて静希は気付く


エルフの大人は人間を見下すことがある、エルフは人間が進化した種であり、人間はエルフより劣る生き物であると思う節がある


無論、東雲の父親に悪気はなかったのだろう


だがその悪気のなさも、城島の神経を逆なでしていた


「つまり連中は無意識に悪気もなく人間を自分達より下だと判断しているということだ・・・!あぁ胸糞悪い!」


「こ、怖いです、先生」


「だめだな、先生明らかにスイッチ入っちゃってるよ・・・」


「まるで雪姉の戦闘時みたいだ」


「的確な例えだな五十嵐、確かにそっくりだ」


「二人とも首を落とされたいか?」


「「滅相もありません」」


静希と熊田が同時に両手をあげると雪奈も殺気を抑え、城島の横に立つ


どうやら城島だけでなく雪奈もかなりいら立っているようだった


「珍しいな、お前がこうも苛立ちを表しているのは」


「仕方ないだろ、ずっと敵意を向けられてるんだ、村中からここまで睨まれたら苛立ちもするっての」


これじゃ喧嘩売られてるようなもんじゃんかと吐き捨てながら雪奈は一瞬だけ眼光を鋭くした


「すまない、村のみんなはなぜか外部の者が来るといい顔をしないんだ・・・」


「石動ちゃんが気にすることじゃないけど、さすがにこれは・・・」


「深山の言うとおりだ、こんな村にいちゃいらつきもする、だがもっともっといらつくイベントがまだ残っているぞ」


長のいるというひと際大きな屋敷の前について城島は臆すことなく中に入っていく


城島が慣れた足取りで奥の部屋に行くと、そこには悠然と座る一人のエルフが座っていた


「まったく、不躾な訪ね方をする人間だ」


「お久しぶりですな長殿、いやさ数日ぶりですかな?」


城島はどうやら先日の東雲風香の事件のついての示談で面識があるらしく、部屋の奥で座っているエルフに話しかける


「貴様を見ていると腹が立ってくるよ城島先生よ、できるのならその顔見たくなかったが」


その声は張りがなく、よくいる老人の声と何ら変わりない


服の裾から見える手のひらもしわが増え、骨と皮だけとなっている


仮面も他のエルフと変わりのない紋様の描かれた物をつけている


てっきり長という物だから豪華な物をつけていると思ったのだが、どうやらそういう意味で仮面をつけているわけではないようだ


「我々を呼んだのは貴方です、どういうことなのか詳しく聞かせていただかなければ帰ることもできませんよ」


「戯言を、すでに見当がついているだろうに」


「さて何のことやら」


どうやら城島としては徹底的にエルフの長とやりあいたいようだ


すでに静希の目配せで全員部屋の隅へと退避し正座で二人の様子を眺める


二人がにらみ合うこと数秒、長の視線が静希達へと向く


「その子らが東雲の娘を助けたという生徒たちか」


「はい、一年B組一班四名とその補佐二年二名です」


「ではその子らの誰かが?」


「何のことでしょうか?口にして頂かなくてはわかりかねます」


再度二人の視線がぶつかる


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