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J/53  作者: 池金啓太
二十六話「新たな年度の彼らのそれぞれ」

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明利の妙案

「静希、ちょっと時間をくれるかしら、超高圧にでも耐えられるだけの素材と構造を勉強してくるから、試作試験はその時でいい?」


「・・・ひょっとして協力してくれる気になったか?」


静希の言葉に、鏡花は見事に貫通している石板を見てため息をつく


途中まで噴射されていた水圧は確かに高威力を見せていた、石の板を完全に貫通するほどに


これを見せられてさすがに首を横に振るわけにはいかない、静希の攻撃の種類が増えるのは鏡花としてもありがたいのだ


可能ならもっと多彩な、それこそ攻撃だけではなく補助に関しても手数を増やしてほしいがそのくらいは静希も理解しているだろうからあえて口にすることはしなかった


「まぁ、かなり期待できる攻撃であるのは認めてあげるわ」


「そうか、ちなみにどれくらいでできそうだ?」


こればかりは鏡花の勉強と時間次第なのだが、彼女は陽太の指導もしているのだ、それをないがしろにしてまで協力しろとはさすがの静希も言えない


だから空いた時間を見て少しずつこなしていくしかないのだが、鏡花は口元に手を当てて現状を観察する


今必要なのは水を入れておくタンクとノズルへとつなげるパイプ、そして噴射するノズル、大まかに分けてこの三つだ、この三つすべてが高圧に耐えられるだけの材料でなければいけないとなるとそれぞれ調べて構造を学んで試作して、それを繰り返していくことになるだろう


さらに言えば静希が求めているのは液体水素だ、将来的には液体水素を噴射できるだけの環境も整えなければいけない


耐圧だけではない、耐熱、いや断熱機構も必要になってくる、液体水素の温度を維持するために必要なものも考えだすときりがなかった


考えることが山積みだなと思いながら鏡花は小さくため息を吐いた後で指を一本立てて見せる


「一月ね、それだけ時間を頂戴、それで環境と材料は揃えてあげる」


「わかった、任せるよ・・・悪いな面倒かけて」


「本当にね、次は自分だけで何とかできる手札を思いつきなさい」


鏡花は呆れたような表情を作りながら今この場にある試作品をすべて片づけていく


今回は鏡花の協力なしでは成し得ないものであるために協力を要請したが、確かに彼女の言う通り自分の力だけで用意できないようなものでは補充そのものが難しくなる


使用頻度を高めたいのであれば補充が容易でなおかつ攻撃力の高いものを用意するべきなのだろう


結局その日は水圧カッターの効果を見ることはできず、鏡花の協力を取り付けることができたというところまでとなった


静希からしたらそれだけでも十分に収穫はあったが、その分鏡花に借りを作ってしまったことになる


「結局鏡花ちゃんに任せることになっちゃったね」


「そうだな・・・何とか俺だけで準備できればよかったんだけどな」


鏡花たちと別れを告げた後、静希と明利は帰宅するべく並んで歩いていた


鏡花ばかりに任せるのは申し訳ないために自分でも何かしら新しい手段を考えようと思い、今日は明利も一緒に静希の家に向かっているところである


「そもそもあれってメフィさんの能力を見て思いついたんだよね?」


「あぁ・・・明利は見てなかっただろうけど、鋼鉄を軽く切り裂けるだけの威力があったからそれを再現できればと思ったんだけど・・・難しいな」


本当ならメフィの能力そのものを収納すればいい話なのだが、彼女の能力は発現系統、能力を解除すれば消滅してしまうため保存という事そのものができないのだ


逆に言えばメフィが能力を発現し続けているならトランプの中に入れることもできるだろうが、彼女がそんな面倒なことをするとも思えなかった


「今日のあれってメフィさんの能力使って圧力をかけてるんだよね?」


「あぁ、あいつの能力の一つに念動力があってな、それを使って圧力をかけたんだ」


それを聞いて明利は考えだす、単純に疑問なことが一つあったのだ


「あのさ、それってメフィさんに協力してもらってすごく速い弾を撃ちだすんじゃだめなのかな・・・?それだけで大砲くらいに強いと思うんだけど・・・」


明利の言葉に静希は唸りだす、もちろんそれも考えたことがある、だがここでも問題になるのは静希の許容量の問題だ


「一度計算したことがあるんだけどさ、例えば戦車の撃つ砲撃の威力を五百グラムの重量で出そうと思うとマッハ9以上の速度が必要なんだよ・・・弱くはないけど加速法がなぁ・・・」


静希が比較したのは76ミリ高速徹甲弾のデータだ、射出される弾頭部分の重量と初速から運動エネルギーを求め、自分の保持できる五百グラムという弾丸で同等の威力を求めた時にどれほどの速度が必要になるかを計算したのだ


およそ秒速3150メートルほどの速度が出せればその弾丸がもつ運動エネルギーを超えることができる計算結果になったが、その速度はマッハ九以上、そんな速度を瞬間的に出すことができるかといわれると難しいのである


それに運動エネルギー=破壊力というわけでもない、実際にはもっといろいろな要素が必要になってくる


さらに速い物質というのはそれだけ空気抵抗を受ける、しかも軽ければ減速もしやすく威力も減衰しやすい、長距離への攻撃はまず無理と見ていいだろう


「それにそこまでどうやって速度を出すかも問題だからなぁ・・・どうしたもんか・・・」


「・・・静希君、もしかしたらだけど、それだったら上手くいけばできるかもしれないよ」


明利の言葉に静希は目を丸くする、帰宅するよりも早くまさか明利から妙案が出ることになるとは思わなかったのである


静希は家につく間にその説明を聞きながら何度も頷いていた





「確かに、さっき言ったメーリのやり方ならできないことはないわね・・・ちょっと時間はかかりそうだけど」


自宅に帰り人外たちが思い思いの場所に配置したところで静希と明利はメフィに先程説明したことが実際に可能かどうかの伺いを立てていた


メフィ曰く、可能だとのことだった


しかも場合によってはマッハ九も目ではないほどの速度が出せるという、無論時間はかかるが


「なるほど・・お手柄だ明利!まさかお前からこんな名案が出るとは!」


「えへへ・・・役に立てたなら良かったよ」


明利は嬉しそうにしているが、実際明利が提示した方法は上手くいけば自宅でもできるような手法だったのだ、それこそ暇があれば作り出せるようなものだった


方法を考えると時間がかかるのは仕方のないことだが、その威力は期待できる


なにせうまくやればマッハをいくらでも超えていけるかもしれないのだ


「これはあれだな、明日鏡花姐さんに発注しないとな・・・」


「なんだか鏡花ちゃんにばっかり頼ることになってるけど・・・」


「これはすぐできるだろ、弾と作成用の道具が一つあればいいんだから」


また鏡花に借りができることを考えると確かに心苦しいが、これは一回作ってしまえばあとは静希だけでも十分補充できる、今から作るのが楽しみになってくるほどである


「ねぇシズキィ・・・私へのご褒美は無いの?今日頑張ったんだけど?」


「あぁそうだったな、確かに今日は頑張ってくれたしな、何がいい?何でもとは言わないけど多少ならオーケーだぞ」


新しい攻撃法が次々浮かんでくることで静希はだいぶ機嫌がよくなっているのか、ノリノリでメフィに要求を聞いている


「本当!?じゃあその・・・今度新作のゲームが出るんだけど・・・」


「いいぞいいぞ、それくらいならどんとこいだ」


「本当に!?じゃ、じゃあ邪薙たちとも協力プレイしたいからいくつか追加でとか・・・だめ?」


「いいぞそのくらい、みんなへのご褒美ってことで買ってやるよ」


まさか静希の機嫌がここまで良いとは思わなかったのか、ダメもとで提案してみたらそれが通ってしまい、言った張本人であるメフィは驚いてしまっていた


一年間一緒に過ごしてきてこんなに機嫌のよい静希を見るのは初めてかもしれない、よほど手段が見つかったことが嬉しいのだろう


「ちょっとメーリ、シズキがこんなに喜んでるの初めて見るんだけど・・・」


「う・・・うん・・・私もこんなに喜んでるのを見るのは久しぶりだよ・・・」


メフィと明利が内緒話をしている間、静希は散財はおやめくださいと注意するオルビアの言葉を聞きながらもメフィへの頼みを叶えるべくネットで注文を開始していた


明利が今まで見た中でもトップ三に入るほどに今の静希は機嫌がよさそうだった


よほどうれしいのだろうがここまで喜んでいるのを見ると少し不安にもなってしまう


そんな時来客を知らせるインターフォンが鳴り、オルビアが対応するとやはりというか当然というか雪奈がやってくる


「やっほー、静、それに明ちゃんもいたか・・・ってどうしたのあれ」


雪奈は部屋に入るなり超絶機嫌がよさそうな静希を見つけて怪訝そうにする


静希との付き合いが一番長い雪奈でもあれほどに機嫌のよい静希を見るのは初めてなのか、明らかに不信感を抱いているようだった


「おぉ雪姉、いらっしゃい」


「あぁ・・・うん・・・お邪魔します・・・」


笑顔の静希に雪奈はいったん距離をとりながら部屋の中に入り、メフィと一緒にいる明利の方に駆け寄る


「で、どうしたのあれ?」


「うん・・・ちょっといいことがあって」


「トランプの中の攻撃手段を作る算段が付いたんだけど、それで喜んでるのよ」


大まかな説明で雪奈はなんとなく状況を察したのだろう、なるほどねと呟いて静希の方を見る


オルビアは先程からずっと静希に考え直すように嘆願しているが、別にたまにはいいじゃないかと妙な寛大さを見せている静希にはねのけられてしまっている


オルビアの言葉も耳に傾けないほどに機嫌が良いとなると流石に異様な光景だ、オルビアはしょんぼりしながら明利達の元にゆっくりとやってきた


「申し訳ありません・・・私ではマスターを止めることができませんでした」


「あー・・・自分で言っておいてなんだけど・・・なんかごめん」


元はといえばメフィが出した要求なのだが、この状況を見ていると流石にやり過ぎだったかなと申し訳なくなってくる


珍しいメフィの謝罪も見れたところで雪奈は近くでわれ関せずと座禅を組んでいた邪薙を引っ張って自陣に加えていた


「わんちゃん神様もなんとか言ったほうがいいんじゃないの?静があんなになってるけど」


「良いことがあったのなら喜ぶ、何も不思議なことはないだろう・・・まぁ奇妙な光景ではあると思うが」


邪薙も少し静希の様子がおかしいことはわかっているようだが、そこまで強く干渉するつもりはないようだった


「メフィストフェレスはともかく、これを機になにかお前達もシズキに願い事をしてみてはどうだ?今なら叶えてくれるかもしれんぞ」


邪薙の悪魔のような言葉にその場の全員が戦慄する、神様なのにここまで誘惑的な言葉を述べるのもどうなのだろうかと思いながらも、各々その身に秘めた欲望と常識を秤にかけて迷っていた


結局、明利と雪奈は欲望に負け静希に幾つかお願いをしに行ったのは別の話である


そしてそれを見てオルビアが再び嘆いたのはさらに別の話である


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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