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J/53  作者: 池金啓太
二十六話「新たな年度の彼らのそれぞれ」

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二年生

四月、人々の出会いと別れの季節でもあり、日本では新たな年度が訪れる月でもある


暖かくなり、生き物たちも人間もようやく過ごしやすい日和になったと冬の別れを惜しみながらも喜ぶ中、彼らはそこを歩いていた


桜が舞い散る学校の一角、クラス分けが発表される場所、そこに二年生になった五十嵐静希と幹原明利はいた


「今年も同じクラスだね」


「まぁ半ばわかってたことだけどな」


同じ班だった彼らは当然のように同じクラスに配属されていた、そこには清水鏡花と響陽太の名前もしっかりと記入されていた


「あ、なんだもう来てたの」


「はよーっす」


静希達を見つけたのか、鏡花と陽太が並んでこちらへと歩いてくる、もはや見慣れた光景に苦笑しながら静希と明利もおはようと二人に挨拶を返してみせた


「私達何組?」


「A組だったよ、みんな一緒にな」


五十嵐静希、清水鏡花、響陽太、幹原明利


かつての一年B組一班の人間は皆、二年A組へと進級していた


春に出会い、夏を楽しみ、秋を乗り越え、冬を迎え、そしてまた春にたどり着いた


一年の経験を積んだ静希達、そして鏡花と出会って一年が経過したことになる


「またあんたたちの世話を私がしなきゃいけないのね」


「今年もよろしくおなしゃす鏡花姐さん」


「本当にお疲れ様です鏡花姐さん、午後茶どうぞ」


「またよろしくお願いします、ふふ・・・大変だろうけど、頑張ってね」


もはや見慣れた三下演技に鏡花はまったくもうと呆れているようだったが、その表情は決していやなものではなさそうだった


彼女としても、今この場が心地いいと感じているのだろう、迷惑をかけている身としては心苦しい限りだが、それもまたチームとしてのあるべき姿といえなくもないのだ


「それじゃさっさと行きましょう、遅れたら先生になんていわれるかわかったもんじゃないわ」


「賛成だ、たぶんまた城島先生だしな」


静希の立場上、手慣れた城島が担任教師をするのはすでに分かっていた、実習の上でも担当をしてくれないと今後やりにくくなるだけなのでその方がありがたいが、彼女の教育指導を受けることになることを考えると少しだけ頭が痛かった


二年生の階にたどり着き、A組と書かれている表札を見つけ中に入ると、こちらに視線が集中する


「あ、なんだお前らうちのクラスかよ」


そんな中、聞いたことのある声が聞こえてくる、その出所を探すとそこには以前行動を共にしたこともある樹蔵がいた、近くには上村と下北の姿もある

もしやと思って近くを探してみると、丁度クラスに入ってきた、いや戻ってきた石動が目に入る


そしてそれは相手も同じだったのか、おぉと声をあげながらこちらへと駆け寄ってきた


「五十嵐、清水に幹原に響も、まさか同じクラスになるとは、これから一年よろしく頼むぞ」


「あぁ・・・まさかお前たちがいるとはな・・・良いんだか悪いんだか・・・」


静希は石動と握手すると、それぞれ出席番号順に席に着くことになった

といってもまだ先生が来るまでには時間があるため、一カ所に集まって歓談することにした


「石動さんたちが一緒のクラスとはね・・・こりゃ優秀班は難しいかな・・・?」


「そもそも一年の補助をするチームもあるんだ、優秀班に選ばれるかどうかも怪しいもんだけどな・・・」


二年生になると実習はいくつかの種類に分かれる、班を分割し一年生の補助をするタイプ、普段通りの実習を行うタイプ、そして三年生を補助するタイプの三種類である


一年生の補助は班の各員が高い能力を保持し、なおかつ単独でも班へ貢献できるような人員でなくてはいけないために、静希達は難しい


その為可能性があるとすれば今までの通りか、三年の補助という形での行動である


石動達がどのような方向になるのかはまだわからないが、彼らならどこに行っても優秀な成績を残すだろうと静希達は確信していた


「って言ってもよ、負けるつもりはないんだろ?なぁ鏡花」


「当然よ、取れる時はトップをとる、狙えるものは狙って損は無いもの、負けるつもりなんてさらさらないわ」


やはりエリートとしてのプライドでもあるのか、鏡花は妙に優秀班にこだわりがあるようだ


無論静希達だって優秀班に選ばれたいという気持ちがないわけではない、人外たちのことがなければ素直に優秀だと公言されたいものである


本当に人外のことがなければの話だが


「陽太、静希、明利、今年もよろしくね、たくさん迷惑かけるかもだけど」


笑みを浮かべながらの鏡花のらしくない言葉に、三人は驚きながらも苦笑してしまう


「お任せください女王様、我ら身を粉にして尽力いたしましょうぞ」


「まぁ、迷惑かけるのはこっちかもしれないけどな、いろいろ頼むよ班長」


「手助けできるかどうかはわからないけど、一生懸命頑張るよ」


静希達の班の強みは連携、個々の力だけではなく、それを掛け合わせることで真価を発揮する


良くも悪くも、鏡花はこの班をまとめるに足る班の長へとなりつつあるという事に、彼女自身気付いていなかった


「全員席に着け、出席をとるぞ」


扉を勢いよく開け入ってきたのはやはりというか静希達の担当教官の城島美紀だった


前髪を少しだけ分けて片目だけ見えるようにしているが、相変わらず額の傷は完全に隠れて見えない状態だった


髪型を変えたのは何かしらの心境の変化があったからか、あまり城島の目を見慣れていない生徒は若干たじろいでしまっている


教師にしては鋭すぎる眼光故に無理もないことだが、一体なぜ髪型を変える気になったのか気になるところである


「あー、二年A組の担任をする城島美紀だ、何人かは前のクラスでも担当した奴らがいるが、優しくなると思わないように、厳しく指導していくつもりだからそのつもりで、それじゃあ出席をとる、順次返事をすること」


五十音順で読み上げられる中で、静希と石動の席がものすごく近いことに気が付く


五十音順だと五十嵐と石動は同じア行の名字であるためある種仕方のないことだろう


クラスの中には何人も見知った顔がいる、小学校からずっと進級してきた人間がほとんどなのだ、当然と言えば当然だがクラス替えでまったく新鮮味がないというのも複雑な気分だった


全てのクラスメートを読み上げると、城島は教卓の上にボックスのようなものを取り出した


生徒たちが何だろうかとざわついていると城島が手を叩いて全員を静かにさせる


「あー・・・今から各班の班長は前に出てこの中にある紙を引け、それがお前達の班番号になる、このクラスでは全員一年次と同じ班での行動になるからそのつもりでいろ」


班番号、以前静希達は一班だったがあれはクラスの中で一番早く決まったからという理由に他ならない、今度は最初から班が決まっているために班の番号をくじ引きで決めるようだった


各班の班長総勢十名が前に出てボックスの中をのぞき込む、中には折りたたんだ紙が入れられているようで、それを各員引いていくようだった


班長同士で誰から引くかを決めると、順々に手を入れ中にある紙を一つずつ手に取っていく


鏡花の番がやってきて手をボックスの中に入れ、その中から一つ手に取るとその紙には三と書かれていた


静希と陽太、そして明利にそれを掲げて見せると三人とも頷いて反応して見せる


今日から鏡花率いる班は、二年A組三班となることになる


「全員引き終えたな、ではこの後始業式がある、それぞれお行儀よくしていろ、なお今日は始業式を終えたら能力検査と連絡事項で終了になる、さっさと終わらせたければテキパキ動け、以上、移動開始」


相変わらず必要事項だけ述べる城島の言葉に全員が起立して移動を開始する、それぞれ班ずつで固まり談笑をしながら動く中、静希達も例に漏れず班で集まっていた


「今年は三班か、また一班の方が良かったな・・・」


「くじなんだから仕方ないでしょ、別に何班だって同じよ」


鏡花の言うように班の番号で序列が決まっているわけではないためにそこまで気にするような事ではないが、今までずっと一班だったために多少の違和感は拭えない


それも数か月もすればなれるだろうと思いながら静希達は始業式が行われる場所へと移動する


偉い人の話というのは総じて長い、今年もやはり校長の話は長いなと思っている間に始業式は終わり、毎年の能力チェックが行われた


先日能力の成績表も一緒に返されたばかりのためにそこまで目新しい情報はないが、陽太に関しては能力の成長は著しかった、なにせ鏡花の指導を受け続けていたのだ、一年前とは全くの別人といってもいいだろう


始業式と能力チェックを行った後で再び教室に戻ると、教卓の前で城島が腕を組んで待っていた


待たせてしまったのだろうかと全員が手早く席に着くのを確認すると城島はクラス全体を見渡してから口を開く


「お前たちは今日から二年生になった、班によっては一年生の指導、あるいは三年生の補助に回る者もいるだろう、それらを踏まえたうえで今まで以上に危険な実習についてもらうこともある、全員気を引き締めて日々の生活を送るように、以上、今日は解散」


城島の手早い話を終え、クラスの人間は一気にざわつき始める


先生の話が短いと本当にありがたいなという声が聞こえる中、帰宅する生徒たちには混じらずに静希達は四人集まっていた


その理由は、陽太と鏡花にある


「さあ鏡花、去年のリベンジだ、今年はぎゃふんと言わせてやるぜ」


「はいはい、妄想はそこそこにしなさいよ、単独で私に勝とうなんて十年早いのよ」


その様子を見て静希と明利は互いに顔を見合わせていた


何でこの二人は年度初めからこんなに睨み合っているのだろうかと、この二人付き合っているのではないのかと思いたくなってくる


「どういう状況?」


「去年陽太君が鏡花ちゃんにやられちゃったじゃない?そのリベンジだって」


静希は一年前の光景を思い出す、確かに陽太は鏡花にほぼ一方的にやられていた、あれが初めての生首状態だったなと思い返し懐かしくなる


なるほど、あの時の借りを返すという事かと静希は納得するのだが、陽太が鏡花に勝っている光景が想像できないのだ


仲間として戦う分には陽太と鏡花の能力の相性はとてもいい、だが敵となるとどうなるかは去年証明されている通りである


一対一で陽太に勝ち目はない、すでに決着が見えているのではないかと思えるこの対決に、静希も明利もどうしたものかと少し悩んでしまっていた


七回分の内の残り二回分を投稿


今回から二年生編がスタートです、長かった、本当に長かったです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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