表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十五話「夢見月のとある部屋で」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

822/1032

その鎧の内に

一体誰だ


最初に静希が抱いたのはその疑問だった


あれも未来の自分なのだろうかと考えたのだが、静希はその考えを否定する、何故なら身長がおかしいのだ


現在の自分の身長は百七十六センチ、そして先ほど対峙した自分は今の静希より少し背が高く百七十八から百八十はありそうだった、だが眼前にいる鎧の人間の身長は今の自分より少し小さい、鎧と靴を計算に入れると生身の身長は百七十前半といったところだろう


身長は伸びることはあっても縮むことはほぼない、仮にあっても数センチだ

腰がまがって背が低く見えるのはあり得るが、目の前の鎧は姿勢はよく、腰も曲がっていない、その身長の違いから目の前にいるのは『五十嵐静希』ではないという結論に至ったのだ


ではいったい何者か


自分に関わりのある第三者、自分との縁のある何時かのどこかの誰か


顔も体も全て鎧で包んでいるために誰なのか全くわからない、一体何者だろうか


静希がどう反応したものか困っていると、鎧の人物の方からこちらへと近づいてきた


金属音を響かせ静希の眼前にまで近寄ると、ゆっくりと右手を差し出してくる


握手を求められている、静希はそう感じその手を恐る恐る取ると、二人はぎこちない握手を交わした


手まで金属の鎧で覆われ、その体からは身長と体格以外の一切の情報を得ることができそうになかった、それこそ中に本当に人間が入っているのかさえ


『こいつ何者だ?お前たち何か心当たりあるか?』


自分に無くとも人外達なら何か気づくことができるかもしれないと静希はトランプの中の人外たちに意識を飛ばすが、人外たちは皆難色を示しているようだった


『見たことないわね、鎧自体も初めて見るわ、身長もシズキより低いし・・・』


『別人という事なのだろうが、一体どのような縁がある存在か・・・シズキの子孫かもしれんぞ?』


『可能性はありますが、現状では判断しかねます、顔を隠しているという事は少なくとも未来から来た人物であるというのは間違いないのではないでしょうか』


未来から来た何者か、未来だというのに鎧に身を包むというのはどうなのだろうかと思えるのだが、もしかしたら能力の一種かもしれないと静希は考えていた


鎧の色は黒、そう言う種類の金属なのだろうか、そこまで装甲は厚そうではない、動きやすいように細工が施されているようだが、静希もこのような形の鎧は見たことがなかった


所謂西洋鎧や東洋の甲冑とはまた違う、だがどこか完成した一つの形として成り立っている


こちらが思考しているのに気付いたのか、鎧の人物は静希から手を離しゆっくりと後方へと移動する


何をするつもりだろうかと思えば、鎧の人物は一礼した後、後ろに手を回し何かを取り出すような動作をして見せた


次の瞬間静希は目を疑う


鎧の人物が取り出したのは、剣、それがただの剣であるなら驚くこともなかった、だが彼が手にしているのは自分が所有しているのと同じ、五十嵐静希の剣でもあるオルビアだったのだ


『・・・あれってオルビアよね』


『・・・私に間違いありません・・・ですがなぜ・・・』


『彼奴はシズキの縁あるものではなく、オルビアに縁あるものなのか・・・?』


人外達の考察は当たらずとも遠からずなのかもしれない、だがあの対応、一度離れてから礼をし、その後に剣を抜いたあの行動、それはオルビアではなく静希に向けられたものだと察する


『いや・・・たぶん俺に縁があると思う・・・オルビアはそのきっかけじゃないか?たぶんあいつは、俺が死んだ後の新しいオルビアの主だ』


一体いつの時代か、どこの誰か、そんなことはさておき、自分と同じようにオルビアから選ばれた人間なのだという事は理解できる


そして彼は、いや男性かどうかも定かではないが、鎧の人物はこちらにある種の敬意を抱いている、それが深い物かどうかは知らないが、剣を抜いた後待っている様子を見るとこちらが抜くのを待っているのだ


『未来のどこかの誰かか・・・なるほど、同じオルビアの使い手として負けるわけにはいかないな』


自分自身ではない第三者と出会えるとは思っていなかったが、これも何かの縁だ


きっとこの出会いには意味がある、同じ剣を持ったものがこうしてこの場で出会う事には確かな意味がある


そして相手は礼を持ってこちらに接しようとしているのだ、ならばこちらも同じように礼をもって相手に報いるべきだろう


静希は一礼したのちに懐に手を入れ、オルビアをトランプから引き抜く

言葉で語らえないのであれば、剣で語る


この場所において唯一の伝達手段だ


先程の未来の静希とはまた違う、未来の静希は自分の成長の度合いを示すために剣を握った、そして静希はそれに応えた


だが鎧の人物は自分が何者かを教えるためではない、相手にとっては恐らく、自分と会って戦ってみる事こそが目的なのだろう


自分が死んだ後、オルビアの所有者となったのなら、恐らくオルビアがこの場所に鎧の人物を導いたのだ、きっと意味がある、それが静希のためなのか、それともオルビアを持つ鎧の人物のためなのか、それともオルビア自身のためなのか


だが自分が信頼する剣が導き出した結果であることはまず間違いないだろう、静希は自分の握る剣に一瞬視線を向けてから剣を構えた


静希が集中し剣を構えると、鎧の人物も構えに入ったのだが、その構えは静希のそれとは全く違うものだった


静希はほぼ正眼に剣を構え、動きやすいように少しだけ腰を落とした構えだが、目の前の鎧の人物のそれは全く違う


剣を片手で持ち、体で刀身を隠すように後ろに持ってかなり腰を落として前傾姿勢をとっている


まるで今から突っ込むぞというのを体で体現しているようだった


まず確定で自分の未来という事はなさそうだった、なにせ一度自分で確立した型を変えられるほど静希は器用ではない、何よりあそこまで前傾していては後方に下がることができない


最初から逃げるつもりなどないという事だろうか


どちらにせよ剣を受けてみればわかる、身体能力強化か、あるいは別の能力か


先程背中からオルビアを抜いたが、鎧の人物の背中をよく見ていなかったために単に鞘があっただけかもしれないために収納系統かどうかも分からない


完全に後手に回っているなと思いながら構えを続けて警戒していると、何かを合図にしたのか勢いよく鎧の人物がこちらへと駆け出す


遅い


先程静希に立ち向かってきた未来の静希に比べるとかなり遅い、だが鎧を身に着けた状態で考えるならむしろ速い方だろう


金属音をまき散らしながら勢いよく向かってくる様は、視覚的に恐怖を呼び起こさせる


後に引いていた剣を思い切り叩き付けるように振りかぶり、静希めがけて振り下ろす


だが静希はその程度の事では恐怖で身が竦んだりはしない、なにせ何度も雪奈の剣を受けたり、一度は死にかけている身だ、この程度では驚くことさえもない


振り下ろされた剣を軽く受け流しながら、そのまま斬り返す、丁度胴体部分を切るように刃を当てたのだが、鎧があるからか、その人物はそのまま剣を受けながら走り抜けた


剣を当てた自分の手がわずかに痺れる、固いものにそのまま刃を当てた時の感触は久しぶりだった、とはいえまさか全く避ける気がないとは思わなかっただけに少々意外だった


よほど鎧の耐久度を信頼しているのだろうか


そしてそのまま走り抜けた鎧の人物は、速度を落とすことなく方向転換し、再びこちらへと疾走してくる、このままこれを繰り返すつもりかと静希は再び剣を受け流した後で、今度は後ろから強烈な蹴りを入れる、しかも背にではなく、走るため動かしている足に向けて


一瞬バランスを崩したのか、前方に転がるが、そのまま体勢を整えて再び走り出す


恐らくはあのような形で戦うことに特化しているのだろう、転んでも速度を落とさないように即座に立て直しができる、静希のように耐久力のない人間ではできない方法だ


鎧を身に纏うというのは考えたこともあったが、静希の身体能力を考えるとなかなか難しい、だが眼前の存在を見るとこのような形もあるのかと感心してしまう


三度こちらへと斬りかかる鎧の人物の剣を受け流し、そのまま走り去るのかと思いきや今度は足を止め、受け流された剣をそのままの勢いで再び静希に斬りかかってきた


戦い方を変えてきた、今のままでは静希を打倒できないと判断したのだろう


横薙ぎに振るわれた剣を軽く受け止めるが、全身の体重を乗せた一撃に受け止めた手がしびれる、鋭さなどではない、鈍く重い一撃、雪奈などでは持ちようのない、重さのある一撃だ


本来オルビアに無い重さをカバーするために、全身を使って叩き付けるようにすることで一撃の強さを変える、静希も数度ほど行ったものだが、どれも上から叩き付けるような形で成し得たものだ


ただの横薙ぎの一閃でそれができるだけの身体能力を目の前の人物は持っているのだ


体だけではなく、恐らく鎧自体の重さもその強さの一端を担っているのだろう、面白い戦い方だ、雪奈に言わせれば隙だらけだと失笑されるかもしれないが、これはこれで一種の戦い方でもある


一撃を防がれてなお、鎧の人物は猛攻を止めなかった


剣を、拳を、脚を、全てを使って静希に一撃入れようと全力でこちらを攻撃してきている


静希はそれらすべてを受け流し、受け止め、回避し、反撃する


だがその反撃はすべて強固な鎧によって防がれてしまっていた


この状態では埒が明かないなと判断し、静希は攻撃の後反撃せずに左腕で鎧の人物を掴もうとした


だがその瞬間、かなり過剰な反応を示しながら鎧の人物はこちらから距離をとった


その反応に静希は笑みを浮かべる、恐らくは戦う上でオルビアから事前に静希の左腕に関しての情報を受け取っていたのだろう


なにせ静希の左腕は霊装、思うように動くその腕は岩だろうと人の骨だろうと簡単に握りつぶすことができる、警戒するのは至極当然だ


だがそれなら話は早い、この状態では思うように埒が明かないというのなら、別の状況にして思うように埒を明けよう


静希はまるで鎧の人物と同じように、右手で持った剣を体の後ろに隠し、左腕を前に突き出すように構えた、そこまで前傾姿勢はとっていないが、左腕を警戒している相手からすれば攻めにくい形になるはずである


そして静希の構えの変化に、鎧の人物は警戒を強めたのか、先程まで攻めつづけていたのを一度やめ、静希との距離を一定に保とうとしていた


そこまで怯えるものだろうかと思ったのだが、恐らくオルビアがこんな風に伝えたのだろう


捕まったら、そこで終わりだと


間違いではないが、せっかくなのだ、近づかなければ始まらない、それにせっかく未来からご足労頂いたのだ、見せられるものはすべて見せ、見れるものは全て見たいところである


静希は笑みを浮かべた後一気に駆けだした、先程とは立場が逆になっている形である


とはいえ相手は鎧があったからこそ無謀な突進ができたが、静希にそんなものはない、あるとしたら霊装を使った治癒能力だけだ


再現するかのように思い切り体重を込めて剣を叩き付けると、相手もまるで静希の動きを再現するかのように完璧に受け流して見せる


さすがに防御の方法は教えていたようだなと予想通りの動きに対し、相手は初撃の静希のそれと同じように斬りかかってきた


読み通りの動きに静希は体を反転させる際回し蹴りの要領で相手の足をひっかけ、バランスを崩させると強引に体を相手の懐に捻じ込み反撃の剣を止める


鎧の人物はその状態が危険であると判断し、離れようとするが、遅い


静希の左腕はすでに、鎧の人物の片腕を掴んでいた


鎧の人物の顔に自分の顔を近づけ、邪笑を浮かべながら睨みつけると、静希は左腕を駆動させ強引にその体を持ち上げ、思い切り地面に叩き付けた


金属音が辺りに響く中、静希はその腕を離すつもりはなかった、一度掴んだのだ、なら離す理由は今のところはない


剣は防げる、殴られたところで問題はない、今気になっているのはこの人物の詳細だ


顔を隠しているから誰かはわからないし男か女かもわからないが、せめて日本人か否かくらいは知りたいところである


鎧を引きはがすことができればそのくらいはわかるかもしれない、せめて肌の色さえ確認できれば


変装されていたらそこまでだが、確認するだけの価値はある


静希は掴んでいる鎧を握りつぶし、ひしゃげさせようと力を込めるとその異様な力に気付いたのか鎧の人物は勢いよく立ち上がり腕を体ごと振り回すようにして静希の体を揺さぶる


腕だけではその動きを押さえこむことができずに、静希は上下左右に揺さぶられてしまう、どうやらもともとの地力は相手の方が上手らしい、とはいえこのまま黙って振り回されているわけにもいかない


静希は振り回される中で左腕を動かし強引に彼我との距離をゼロにすると足をかけて再び地面に叩き付ける


だが相手もそれを予測済みだったのか叩き付けられる勢いのまま、片腕に持っているオルビアを静希の首めがけて突き立てようとする


体をのけぞるようにして避けると、今度は腹部めがけて蹴りを放ってきた、これはさすがによけられず、直撃すると自分を握っている腕を今度は逆に絡ませてこちらの動きを封じようとしてきた


左腕に関しては力比べでは勝負にならないが、全身での勝負ではこちらの分が悪い


それを察すると静希は掴んでいた腕を解放し、回し蹴りをその体に当てて強引に距離を作った


静希が握っていた鎧は僅かに歪み、鎧本来の形とは違ったものになっていた

オルビアを所有しているだけあって、それなりに体術は身に着けているようだ、もっとも静希のそれとは系統が異なるもののようだが


再び腕で掴んでもいいのだが、それでは同じことの繰り返しになる可能性が高い


せっかくこのような場を設けられたのだ、どうせなら違う事をして反応を見たいところである


そこで静希は、今までやったことがない構えを試すことにした


それは、雪奈が普段使っているものである


速い一撃と斬撃を誇る、静希がいつも受けている剣撃を放つためのそれである


それを見た瞬間、眼前の鎧の人物が僅かにたじろいだ


静希自身この構えをするのは初めてのはずだが、どうやら鎧の人物はこの構えを見たことがあるらしい、恐らくはオルビアが見よう見まねでやって見せたのか、それともこれから先で身に着けたのか


どちらにせよ静希が使うのは初めてだ、筋力も技術も能力を使った際の雪奈には遠く及ばない、とはいえ新しい反応を見ることができたのもまた事実である


毎日毎日受けている剣だ、使ったことがなくとも体が知っている、何度も見て感じているのだ、どう動かせばいいのか、どう動けばいいのかくらいはわかる


あえて右手ではなく、左手でオルビアを握っているのは、この剣に集中させるためである、こうすれば相手も剣に集中してくれるはずである


そして予想通り、構えを変え、正眼での防御態勢に入った、どこから剣を受けても平気なようにまっすぐと構える静希のそれに近い


左腕を限界まで早く駆動させれば、雪奈の一撃に近づけるだろうが、恐らくその後が隙だらけになるだろう、腕の重さと速さに体が振り回されるのだ


相手が受け止めるかそれとも受け流すか、あるいは反応できるかどうか、それによって次の反応も変わってくる


静希は深呼吸した後で、集中を高める


そして次の瞬間勢い良く踏み込み左腕を加速させる


放たれた剣はまるで居合のように横薙ぎで相手の顔めがけて襲い掛かった


とっさの反応でそれを受け止めたものの、そのおかげで腕の速度は落ち、静希の体が腕に振り回されることは無くなった、そしてまた再び剣を左腕で振るう、何度も何度も、相手が受け切れなくなるまで


そしてその瞬間は訪れた、とっさの判断で逃げることなく踏み込んできた鎧の人物、剣を防御ではなく攻撃に使うべく静希の顔めがけて突き立ててきた

互いの体がぶつかる中、静希のオルビアは完全に空振りし、鎧の人物の持つオルビアは静希の体に傷をつけることに成功していた


日曜日+誤字報告五件分受けたので合計三回分投稿


ようやく忙しさがひと段落しそうです、今週の木曜日がピークですかね


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ