霊装の下へ
「ふぅん・・・じゃあ明日その霊装を見に行くんだ」
翌日、いつものように訓練を行っている鏡花と陽太と一緒に軽く運動がてら訓練にやってきた静希と明利と雪奈、明利と雪奈が準備運動をしている間に静希は鏡花に大まかな事情を説明していた
「あぁ、明利と雪姉も来るけど、お前たちはどうする?」
「私はパス、霊装はもうこりごりよ」
そう言いながら手を振って同行を拒否する鏡花、そう言えば鏡花もあの時霊装にとらわれていたなと思いだし仕方ないなとそれを了承する
となると、結局行くのは静希と明利と雪奈の三人になりそうだった
「それはそうと、そのことはちゃんと先生に伝えてあるんでしょうね?無断でそんなことしたら教育指導されるわよ?」
「昨日のうちにメールで伝えたよ、まだ返信ないけどそのうち反応するだろ」
結局、城島に連絡したもののその返信は昨日のうちに返ってこなかったのだ、そこまで夜遅くではなかったのだがタイミングが悪かったのだろうかと静希自身首をかしげたものである
静希の言葉にそれならいいわといいながら鏡花は地面に両手両足を固定されている陽太の方に目を向ける
今陽太は鏡花によって作られた拘束具のようなもので両腕両足をがっちりと押さえられてしまっている、一体何の訓練をしているのかと聞くと、どうやら昨日一瞬だけ作り出した炎の鎧を作り出す訓練らしい
普段の陽太の炎の固体化を使おうとすると槍を作るときの癖と相まって腕に炎を集めがちなためにああして腕に炎が集まるのを防いでいるのだとか
「この前の事といい、あんたが自分から面倒事に首を突っ込むなんてね、心境の変化でもあったわけ?」
「いや今回は大丈夫だろ、村端さんの紹介だし何よりもう話がついてるらしいし」
そうだといいけどねと鏡花はため息をついている、確かに前回のそれと違い、今回の話はそこまで怪しい点はない
事前に静希から村端の情報を聞いていた鏡花としても、村端がそこまで警戒する人物ではないのは把握済みだ
だからといって静希が関わるような事案だ、すんなり終わるとは思えないのである
静希は良くも悪くも面倒事を引き寄せる、しかもそのレベルが毎回高い、巻き込まれる方としてはたまったものではないのだ
霊装に嫌な思い出があるから行きたくないというのももちろん本音だが、彼女の勘が警鐘を鳴らしているのである
危険なことになるかもしれないから行くな、と
今までいっしょに行動していれば静希が関わることの七割近くが面倒事であることなどすぐにわかる、今回も多分その類の事なのではないかと鏡花は睨んでいた
とはいえ静希自身、今回のことは断るという選択肢が最初からなかったように見える
なにせ静希の左腕にあるヌァダの片腕を譲ってくれた張本人からの頼みだ、静希からすれば大恩のある人物である、そんな人の頼みを断れるほど静希は恩知らずではないのだ
「そう言えば今日は石動と東雲姉妹は来てないのか?」
「えぇ、石動さんは別件で用事、風香ちゃんは筋肉痛だってさっき優花ちゃんからメールが来たわ」
いつの間にメールアドレスを交換したのだろうかと思いながらも、ほぼ直接指導した静希は苦笑してしまっていた
そこまで激しい動きをしたつもりはないのだが、やはり子供にはまだ厳しかっただろうかと反省してしまう
「能力の訓練してるはずなのに筋肉痛なんて聞いたことないわよ、なんとなくやってたことは想像つくけど」
「お恥ずかしい限りです、でもいつか役に立つって・・・たぶん」
確証はないのねと軽口をたたいていると、準備運動を終えた明利と雪奈が静希達の元へとやってくる
「終わったよ、そんじゃ始めますか」
そう言う雪奈の手には剣が握られている、これから静希と雪奈は毎日やっている剣術の訓練を行おうとしているのだ
「オーライ、鏡花は明利の体力強化を頼む、一番いいメニューを作ってくれ」
「はいはいわかったわよ、それじゃ明利、軽くジョギングから始めるわよ」
「了解」
静希と雪奈が広い場所に移動するのを見た後で、鏡花と明利は陽太のいる場所がすぐにわかるように演習場をぐるぐると走ることにした
軽くジョギングをする程度の速度で走っていると静希達のいる方向から金属音が響き渡ってくる
静希と雪奈の剣撃は遠目で見てもなかなか見切れない、正確には見切れないのは雪奈だけだが、防御に関しては静希は雪奈に勝るとも劣らないものがあるように見えた
左腕の駆動にもなれたのだなと安心しながら鏡花は明利を引き連れて走る
そこまで体力がないようには見えないが、恐らく静希が言っているのは全力を出せる時間が短いという事だろう、今は力をセーブしているからこそ楽に走れているが全力を出した時どうなるかを考慮に入れてトレーニングメニューを組む必要がありそうだった
「・・・ったくもう・・・私はコーチじゃないってのに」
そう言いながら鏡花の顔は笑みを作っている
口では文句を言いながらも、本心ではそこまで嫌がっていないのだ
翌日、午前中に静希、明利、雪奈は移動を開始していた、最寄り駅で下車した後三人は近くの店で昼食をとり、住所を頼りに慣れない街を歩いていた
「いやぁこういう事言うとあれだけど、慣れない街に来るってのもなかなかいいもんだね」
「そうですね、新鮮っていうか、いい気持ちっていうか・・・あとでさっきあった駅前のパン屋さんに行ってみませんか?すごくいいにおいしてましたし」
「・・・なんて言うか緊張感ないな二人とも・・・」
霊装の担い手に会うというのにあまり二人は緊張していないようで、普段来ない街の探索程度の感覚でいるようだった
それに対して静希は多少なりとも緊張している、なにせほとんど接触例のない存在に会おうというのだ
悪魔や神格という存在にはもう慣れた、だが霊装の担い手となるとそうではない、なにせ具体例が村端しかいないのだ、城島の友人という事もあって彼女は静希に好意的だったが、それ故に他の担い手がどんな存在なのかを測る尺度とはなりえない
戦いに行くわけではないと頭では理解しているが、どうにも心が落ち着かないのだ
「まぁ私たちは静の付き添いだからね、邪魔にならないようについていくだけだよ」
「私達もちゃんと霊装のことをチェックしておくよ、後で報告書作るときに手伝えるかもしれないし」
二人の中でここまで同行の意識の違いがあるとは思わなかったが、自分一人ではないという点では心強くもあり不安でもある
万が一のことを考えるなら二人は置いてくるべきだったかもしれないが
そんなことを考えていると雪奈は静希の心象を察したのか笑いながらその背中を軽く叩いてくる
「大丈夫だって、いざって時には私が盾になるから、静は安心して調査しなさい」
「その場合盾になるのは俺の仕事だっての・・・再生能力もない生身のくせに・・・しかも今日刃物持ってきてないんだろ?」
静希のいう通り雪奈は今日刃物を携帯していなかった、元より常日頃から刃物を持っていること自体がおかしいのかもしれないが、自分たちのことを見知った人間のいる街での行動ではないという事で雪奈は刃物の携帯をやめていた
つまり今日の雪奈は完全に普通の人間と変わらないという事になる
「いざってときは静の刃物を借りるよ、まぁたぶん大丈夫だって、そう気張りなさんな」
雪奈はあっけらかんとしながら笑みを作っている、彼女の勘がそう言っているのか、それとも特に何も考えずにこの態度なのか、どちらにせよやはり前衛型の人間はこういうタイプが多い
「今回も邪薙を預けるかなぁ・・・」
「静希君、守ろうとしてくれるのは嬉しいんだけど、あんまり私たちに預けたら邪薙さん拗ねちゃわないかな・・・?」
明利の言葉にそう言えばそのあたりはどう思っているのだろうかと、トランプの中にいる邪薙に意識を向けた
『どうなんだ邪薙、俺以外の対象を守るように言われるのってあんまり気分良くないか?』
『いや?むしろそれだけ信頼されているという証でもある、自らの守りをなくすというのは褒められたことではないが悪い気はしないな』
邪薙としては、静希の性格を知ったうえで明利達を守れるというのが誇らしいようだ
なにせ静希は明利や雪奈の優先度が自分より高いのだ、言ってしまえば自分より守りたい存在を邪薙に預けているという事でもある、確かにそれは信頼されている証ととっても遜色ないだろう
『そう言われると私が信頼されてないみたいじゃないの?シズキ、今回のメーリたちの護衛は私がやろうかしら?』
『お前誰かを守るとか一番向かない能力と性格だろうが、お前は俺のそばにいろ』
静希の言葉にメフィは不満を漏らしながらも、傍にいろと言われたのが嬉しかったのか上機嫌になっていた
案外というかやはり単純な性格をしているなと実感していると、トランプの中でオルビアが何やらそわそわしていた
『・・・マスター、私はどのように』
『お前は常に俺と一緒にいろ、お前がいないと落ち着かない』
『・・・御意』
オルビアもオルビアで、自分のことを近くにおいてくれることが嬉しいのか、満足したような声を出している、恐らくその表情は満面の笑みだろう
彼女もなかなかにわかりやすいなと感じながら静希達はようやく目的の場所に到着することができた
その建物は一見マンションのように見えるのだが、どうにも様子がおかしい
マンションの形は単なるボックス型ではなく、西と東の二つの棟からなっており、その間を連絡通路のようなもので繋いでいるように見えた
何がおかしいかというとマンションの一部分だけがやたらと古いのだ、具体的には西棟だけが改修されずに残っているように見える
恐らく建築物の耐久性の問題から一度改修したのだろうが、何故西棟だけそれを行わなかったのだろうか、単に金銭的な問題だけとは思えない
とりあえず件の担い手と接触するために管理人のいるであろう一階の管理人室を訪ねることにした
「すいません、先日連絡した村端の代理の者ですが」
名前を告げると、管理人室にいた男性はどこかに電話をかけ始める、すると数分後、奥の方から一人の女性が現れた
「初めまして、古賀と申します、本日はようこそお越しくださいました」
誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿
ようやく誤字数が少なくなってきた、二十に届かないならまだ行けるなというダメな方向でのメンタルの成長が見え隠れしている今日この頃
これからもお楽しみいただければ幸いです




