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J/53  作者: 池金啓太
二十四話「交錯する幼馴染」

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自分の体

「ところで結局どっちが勝ったわけ?疲労で静希がリタイア?」


「点数だけなら静希君の方が上だけど・・・途中退場ってことは私の勝ち?」


「あー・・・そういう事でいいよ、今日はもう動ける気がしない」


体に蓄積した疲労に静希はその場に寝そべり、コンクリート独特のひんやりした温度を肌で味わっていた


結果的に明利の体では静希の体の運動能力についていくことができないという事がはっきりした


単純に体の動かし方の問題かもしれないが、根本部分が虚弱すぎる


そして体だけではなく、中身もスポーツという分野に向いていないことが発覚した、明利の運動神経、というよりスポーツなどにおける体の動かし方は欠陥だらけだ、それこそ身体能力で圧倒的に劣る自分の体に点数で負ける程に


「お、なんだ静希、へばったのか?」


「あー・・・この体、体力なさすぎだ・・・力が入らん」


一度訓練を切り上げたのか、静希のすぐそばに陽太が笑いながらやってくる、入れ替わった状態を一番楽しんでいるのが明利なら、それを見て一番笑っているのは陽太だろう


昔から静希達の様子を眺めていただけに、この違いに笑いが止まらないようだった


「にしてもそんな顔の明利を見れるとはなぁ・・・今のうちに写メっとこ」


「見せもんじゃないぞこら・・・あぁもうやめろっての」


何とか手を振ってやめさせようとするのだが、陽太がそんな弱弱しい抵抗に屈するはずもなく、悠々と静希や明利の写真を撮影していく


超絶不機嫌そうな明利と苦笑いを浮かべながら困った表情を浮かべている静希を写真に収め、陽太は満足そうにうなずいた


「これが後々いい思い出になるぞ、後で送っておいてやるよ」


「そりゃどうも・・・ほれ、鏡花、さっさとこのバカ連れて訓練に戻れ」


「はいはい、ほら行くわよ陽太」


まるでいつもの事とでもいうかのように襟を掴んで陽太を引きずっていく鏡花を見ながら静希は小さくため息を吐いた


体のだるさが抜けない、疲労感が全身を蝕んでいる、自分の体ではないように体が重い、実際自分の体ではないのだが


「あれだな、明利、これからランニングの距離伸ばそうな」


「え・・・?今のままじゃダメかな・・・?」


「ダメじゃない、実際お前は俺たちの動きについてこれてるけど、有事の事を考えるともう少し体力があったほうがいいと思うんだ、俺らがフォローできない時だってある、体力はあって損はない」


静希のいうように、明利は今までの実習でも静希達の動きについてこれている、彼女の体の使い方が単純に上手いという事もあるかもしれないが静希達が気遣っているというのもある


だがこれから二年になるにあたってもっと危険な実習が行われるかもしれない、そんな時明利の方に気を遣っている余裕が自分たちにあるかと聞かれると、首をかしげてしまう


「この体になってようやく分かった、お前はずっと無理してたんだよな、俺はお前に無理してほしくない、だから少しずつでもいい、体力をつけて無理しないようになってほしい、もちろん俺も一緒に頑張るから」


「・・・うん・・・わかった」


明利自身、ランニングによっての体力強化に異論はないし、何より静希と一緒に行動できるという事から反対する理由はないようだった


それに明利自身、静希の体を使うことで自分の体の体力の少なさを実感したのだろう


このままではいけない


そう言う意識こそが人を変えるきっかけなのだ


そう言う意味では今回の入れ替わりは大きな転機になるだろう、気付けることもたくさんあり、得た物もたくさんあった


あの店が繁盛するのも分かる気がする、どうせならもっと大きな店を構えればいいのにと思ってしまうほどだ


何も恋人だけではない、入れ替わりなどという一見物語の中でしかないようなものを味わえるのだ、話題づくりとしてという意味でも十分に楽しめる内容である、店の規模を考えると予約が必要なのも頷けるほどだった


「さてと・・・そろそろ行くか・・・ちょうど腹も減ったし」


「そうだね、適当にそのあたりを見て時間潰してようか」


鏡花に道具の礼を言った後で静希は軽く汗をぬぐい着替えた後で、明利と共に駅前まで向かうことにした


なにせせっかく入れ替わっているのだ、運動だけではなく様々なことを体感してみたいのである


「お昼はどうする?何か食べたいものある?」


「そうだな・・・この体結構小食っぽいし・・・何がいいか」


明利の体はその体格に見合った食事量しか必要とせず、普段の勢いで食べるとすぐに満腹になってしまうのだ


対して明利は普段の体よりも多くエネルギーを必要とすることから普段より多い食事量に少々戸惑っている様だった


食べても食べても空腹という状態に近いだろう、普段の食べている量が少ないのが原因でもあるのだが、せっかくだからたくさん食べるという事を味わわせるのもいいかもしれない


「んじゃがっつりと食べに行くか、洋食和食中華・・・どれがいいか」


「最近中華食べてないね、そう言えば駅前に美味しいラーメン屋さんがあるんだって」


「んじゃそこにするか、よし、出発」


そんな会話をしながら静希はすっかり忘れていた、昨夜自分を襲ってきた雪奈を縛ったまま家に放置してきていることを







日が傾きかけてきた頃、静希と明利は虎杖の店を訪れていた


「いらっしゃ・・・あらあなたたちね、どうぞこっちへ」


受付の女性、虎杖の妻は静希と明利のことを覚えていたのか二人を奥の事務室に通してくれた


そして内線で虎杖を呼び出すと数分してから事務所に虎杖がやってくる


「やぁ二人とも、どうだった?入れ替わった気分は」


仮面の奥からでも表情がわかるほど楽しそうな声を出す虎杖に、静希は苦笑してしまう


「まぁ悪いものではありませんでしたよ、もう一度やろうとは思いませんが」


「私は楽しかったです、背が高いっていいなって思いました」


これでまた背を伸ばす楽しみが増えたと言うものですと明利は意気揚々としているが、果たして本当に身長を伸ばすことができるかどうか、それは本当に神のみぞ知ると言うものである


「それじゃあ能力を解除するよ、また目を瞑って楽にしてくれるかい?」


虎杖の言葉通り目を瞑り、体から力を抜いていくと、能力をかけられたときと同じく意識が暗転していく


そして目を覚ました時、最初に思ったのは、あぁやっぱりかと言うものだった


感覚のない左腕、そして右手の触り心地の違い


目を開けて辺りを見回し、自分の体を見てみるとそこには慣れ親しんだ自分の体がそこにあった


左腕を動かす感覚を思い出すも、もはやその感覚では自分の左腕は動かないという事を悟り、静希はいつも通りの霊装の動かし方で、左腕を動かす


「あー・・・あー・・・戻ったか・・・」


自分の声を確認した後で静希はようやく体が元通りになったことを実感し、ゆっくりと項垂れる


疲れた


肉体的には疲れていない、精神的に疲れたのだ


普段とは全く違う視点と運動能力、それだけで多大な負荷が静希にかかっていた、あれがいつもの明利の視点だと思うと申し訳なささえ浮かんでくる


いつもよりずっと高い建造物、周りの全てが自分に対して圧力を放っているのではないかという錯覚と、どれだけ歩を進めても、急いでも、徐々においていかれる焦燥感、あれは一種の恐怖すら感じる


背が低いとあれほどまでに精神的な圧迫感を受けるとは思わなかったために、いろいろな意味で新鮮な一日だった


「ん・・・あ・・・静希君・・・」


そして少ししてから明利も目を覚ましたのか、ゆっくりと体を起こし周囲を見回す、そして立ち上がりいつもの自分の目線になったことを確認したのか、大きく落胆していた


「うぅ・・・小さい・・・もう私ずっと静希君の体でよかったよ」


「いやそれだと俺が困るからな・・・まぁこれから背が伸びることを期待しようぜ」


たぶん伸びないだろうなと、無慈悲なことを心の中で思いながら静希は明利の頭を撫でる


明利はその手に自分の頭や頬を擦り付けて今はそれで満足するようだった


「ねぇ静希君・・・これからも定期的にこのお店に来ちゃダメかな・・・?」


「・・・背の高さが病みつきになったのか?」


静希の言葉に明利は頷く、認めたくないのだろうが、自分よりはるかに高い目線を味わってしまってはもはや今の身長には満足できないのだろう


なにせ静希と明利の身長差は三十センチ、ちょっとした踏み台に乗っている状態に近い、もっと言えば竹馬に乗っている状態といってもいいだろう


高さがあるせいで不安定に感じるかもしれないが、そこは自分より何倍も頑丈な静希の体が支えてくれる、明利は高い目線と体でいろいろな体験をし、高い身長の憧れが強くなったのだ


確かに店に来れば何度でもこれを味わうことができるのだから、別に静希としても断る理由はない


それに静希としても、久しく忘れていた左腕の感覚を思い出すことができた、時折ああして腕の感覚を思い出すのもいいだろう


「体は戻ったかい?どこか違和感があったりする?」


「いえ、今のところはありません」


「そりゃよかった、何かあったら店に連絡してくれ、原因を究明するから」


人間の電気信号をそのまま他者の体に転送するなんてことをやってのけているのだ、それなりに弊害があってもおかしくないが、静希達の体には何の違和感もなかった


ただ単に能力を解除したというだけではないだろう、何らかのアフターサービスのようなものも行っているのではないかと思われた


「体を戻してすぐはあまり急な運動をしないように、意識と体のずれがあるからね、明日朝起きて問題がなければ大丈夫だと思うよ」


「ありがとうございました、おかげで貴重な経験ができましたよ」


虎杖に礼を言いながら二人が頭を下げると、笑いながら頭を軽く掻きつつそりゃよかったよと告げて事務室から出て行く


だが忘れてたと言いながら部屋から再び顔をのぞかせて静希と明利の方を見る


「今度はお客様として来てくれるとうれしいよ、できれば友達とかにも宣伝しておいてくれ」


「はは・・・わかりました、丁度いいのがいるんで連れてきますよ」


パッと思いついたのは陽太と鏡花だ、あの二人も今回のこれを味わっておいて損はないだろう、いろいろとおもしろいことになりそうだと思いながら静希と明利は虎杖の店を後にすることにした


日曜日なので二回分投稿


引き続き予約投稿中です、反応が遅れるかもしれませんがご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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