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J/53  作者: 池金啓太
二十四話「交錯する幼馴染」

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二人の表情

「・・・で?何で私たちは呼び出されたわけ?」


「なんかするのか?」


呼び出されたのはやはりというか当然というべきか、鏡花と陽太だった、特に理由も説明せずに今すぐに静希の家に来てと伝えると、二人は不承不承ながら了承してくれたのである


もしかしたら暇だったのかもしれないと思いながらこの状況に呼び出された二人は変わったことでもあったのだろうかと部屋の中にいる全員を観察している


「やぁやぁご両人、よく来てくれました、まぁまぁ座っておくれよ」


「なんですか気味悪い、あ、明利横座るわよ」


「構わねえよ、適当に座れ」


鏡花が明利の体の横に座ろうとした瞬間、鏡花が凍り付く


およそ普段の明利が使うはずのない表情と言葉と声音に、一瞬思考がフリーズしてしまったのだ


「鏡花ちゃん、陽太君、お茶とお菓子どうぞ」


「・・・静希・・・?何で君付け?てか何その笑顔・・・!?」


いつもの明利のように茶と茶菓子を持ってきた静希、これも明利と同じようにおよそ普段しないようなさわやかな笑顔と言葉と声音に陽太も開いた口が塞がらないようだった


「え?なにこれ、新手のドッキリ?それとも二人ともなんか悪い物でも食べたの?」


「酷い言われ様だな・・・まぁ予想はしてたけど・・・そんなに驚くことか」


「やっぱり初見ではわからないんじゃないかな、外見はそのままなんだし」


鏡花が慌てながら二人を見比べるが、その言葉通り外見に変わりはない、ただ中身が入れ替わっている状態に近いだけなのである


ひとしきり二人が驚いたところで雪奈から簡単なネタ晴らし、そして二人の状況を説明することになった


「はぁ・・・なるほどね・・・じゃあ静希の体を操ってるのが明利で、明利の体を操ってるのが静希と・・・完全に入れ替わってるようなものなのね」


「あぁ、最初俺もびっくりしたよ、何よりこの体凄い不便だ」


入れ替わったことでお互いの不便さを確認しているのだが、明利はどちらかというと身長が高くなったことを喜び、静希はその体の弱さを実感している、この両者によって今回の体験で得た物はそれなりに大きそうである


「鏡花ちゃん、ちょっと立ってみてくれる?」


「え?あぁ・・・うん、いいけど」


明利の言葉に鏡花はその場に立ち上がる


すると明利はその横に立ち鏡花を見下ろす


「・・・あぁ・・・!鏡花ちゃんよりも背が高い・・・!この光景をどんなに夢見てきたことか・・・!」


明利は幸せそうにしているのだが、対照的に鏡花は凄く複雑そうな表情をしていた


「ごめん明利、嬉しそうなところ悪いんだけど、静希の体と声でちゃん付け・・・しかもその口調でその表情でしゃべられると素直に気持ち悪いわ・・・」


「あっはっは、確かにいつもの静希と違うもんな、すごい違和感あるわ」


陽太はそんな様子を見て笑っているが、鏡花からすれば強烈な違和感は許容しがたい物なのだろう、普段明利がしている表情や動作、口調をそのまま静希がやっているのだから


笑ってみている陽太も許容できるかといえば微妙だが、一日限りの体験だと思えば面白い物である、物は考えようという事だろう


「ずいぶん酷い言いようだな・・・俺ってそんなに普段性格きついか?敵相手にするよりお前らにはずっと優しくしてるつもりだけどな」


「静希はお願いだから明利の顔でゲス顔とゲスい事言わないで、私の中の明利のイメージが崩れる・・・!」


静希が普段するような下卑た笑みを明利がしているだけで、今までの明利の清らかさや儚さが汚されていっているようで鏡花は顔を手で覆ってしまう


見ていられないのだ、清らかすぎる静希、ゲスになった明利、こんなものを見せられて平気でいられるのはごくわずかな人間だけである


「でもなるほどね・・・石動さんに紹介された店がまさかそんな店だったなんて・・・」


「面白そうだな、今度俺らも行ってみるか」


陽太の言葉に鏡花はその店に行った時のことを想像する


陽太の体の中にいる自分、自分の体の中にいる陽太


そして陽太のデリカシーのなさを考慮した時、自動的に答えは見えている


「・・・ごめん、私はその店に行く勇気ないわ・・・」


「えー・・・なんだよせっかくおもしろそうだったのに・・・」


陽太は面白がっているが、これは簡単に許可できるようなものではない、お互いに体の隅々まで知り尽くしている静希や明利だからこそ何の問題もなく入れ替わっているが、未だ生娘の鏡花にはハードルが高すぎるのだ


相手に自分の体をすべて預け、なおかつ体を自由にされるのだ、一体何をされるかわかったものではない


まず間違いなく陽太は胸を揉むだろう、確実といっていいほど揉む、これはもう絶対だ


鏡花だって男性の体に興味がないと言えば嘘になる、だが最初くらいはちゃんとした形で知りたいのだ、そんな入れ替わりなんて状況でその本質を知るなんてまっぴらごめんである


というかなぜこの二人はこうまで自然体でいられるのかが不思議でならない


やはり過ごした年月の違いか、元より互いに抱いている感情のレベルが違いすぎるからか、こうなりたいと思う反面こうはなりたくないなという気持ちも同時に発生してしまっている


まったくもって理解しがたい、そう思いながら鏡花はため息をつく


「で、明日の夕方まではそのまんまなのね?」


「あぁ、明日また店に行って能力解除してもらう予定だ、まぁ今日くらいは背の高さを味あわせてやろうと思ってな」


静希の言葉に鏡花はなるほどねと呟きながら静希と明利を交互に見る


あんな表情ができたんだなと心底驚愕する


そもそも静希が邪笑以外の笑みを浮かべているのを見るのは一体いつ以来だろう、あんな爽やかな笑顔もできたのだなと鏡花は一種の不信感さえ覚えていた


それと同時に眼前にいる明利の体、それを操っているのは静希なのだろうが、まさか明利がこんな表情と声ができたとは思わなかった


いや、声はいつもの明利のそれと全く変わらないように聞こえるのだが、話している内容とその口調が違うだけで数オクターブ低いのではないかと錯覚してしまうほどだ


その表情も、いつも静希が浮かべているような真剣なものや呆れ半分のもの、邪なことを考えている表情まで多種多様


まさか自分の友人である幼い少女がこんな顔ができたのだなと、人間の表情の神秘に感動さえ覚えながら鏡花はその小さな頭を撫でる


「・・・撫でんなっての、明利はあっちだぞ」


「あ、ごめん、なんかつい癖で」


丁度良くなでやすい位置にある頭部を見て、いつものように撫でようとしたのだが軽く払われてしまう


普段の明利なら文句を言いながらも嬉しそうに撫でられるのだが、やはり完全に入れ替わっているという事だろう、鏡花は少しだけ撫でられなかったことを残念に思いながら明利の方を見る


「ねぇ明利、あんたいま静希の体を使ってるのよね?」


「え?うんそうだと思うけど・・・まだ左腕が上手く動かせないけどね・・・」


左腕だけは動かし方が本来のものと違うためにまだぎこちない動かし方しかできていないようだったが、普通に動かす程度のことはできている様だった、精密動作を行わなければ日常生活には困らないだろう


「なんか女の体と違うところってある?違和感とかいろいろ」


「違和感・・・っていうのとは違うんだけど・・・その・・・」


明利は顔を赤くしながら静希の方に視線を向けてくる、しゃべっていいものかと困ってしまっている様だった、なにせ静希の体だ、静希の許可なく話すのはどうかと思えたのだろう


「別にいいぞ、こっちはそこまで違和感ない、唯一あるとすれば背が小さくて力が弱すぎるってことだな」


不意に後ろから抱き着いてくる雪奈を引きはがそうとしても筋力が全く違うために全然振りほどける気がしない、以前よりも筋力はついているはずなのだがそこはやはり付け焼刃、もともとの身体能力の差は覆せないようだ


「え・・・えっと・・・女の子の体と違ってがっしりしてるし、力も強いし背も高いし、えっと・・・歩くときにちょっと・・・あの・・・あれが・・・」


明利が言いづらそうにしているのを見て鏡花はなんとなく彼女が言いたいことを察することができた、その視線が股間に向いていればわかってしまうと言うものである


「あぁなるほどね、確かについてるもんね、そりゃ普段と違って歩きにくいかも」


「静希のってでかいからな、それなりに邪魔になるんじゃね?」


「陽太余計なこと言うな、あぁもういい加減離せ雪姉!」


「うへぇ!このすごい違和感・・・!でもそれがいいかも・・・!」


普段なら明利に抱き着いているとなすすべなく体をよじるだけなのだが、こうして全力で拘束から逃れようとする明利は新鮮なのだろう、雪奈は腰に手を回しながら明利の体を逃すまいと抱き着いている


鏡花はというと恥ずかしそうにしている静希の体、そしてそれを操っているであろう明利を見ながらため息を吐いた


本格的に気持ち悪い


静希が微妙に内股になって口元に手を当て、目をそらすようにしながら顔を赤くしている


こんな静希の状態は見たくなかったと本気で思いながら鏡花は項垂れる


一方陽太はこの状況を見ながら大爆笑している、一体どこがどう面白かったのか理解不能だが、一周まわって笑えてくるのは確かである


「あんたたちはこの状況見てどう思うのよ、契約してる身としては複雑なんじゃない?」


鏡花は部屋にいる人外たちに目を向けるが、彼らはそこまで気にしていないようで唸りながら互いに顔を合わせていた


「私は別に面白いからいいけど?むしろこの状態が結構気に入ってるわ、あとでいろいろと試したいことがあるし・・・!」


「守るものが少し変わったくらいでは特にどうも思わん・・・奇妙だとは感じるがな」


「私はマスターに尽くすのみ、この状況にあったとしても主への忠誠は変わりません、少々変わった一面が見れた、と思っております」


三種三様な返答に鏡花は額に手を当てて呆れてしまう


やはり人外は自分たちのようなまともな人間と違って解釈や考え方が違うのだ、当然と言えるがそこは人ならざるものである以上仕方がないと言えるだろう


「なぁ明利、その状態で軽くいじってみ、面白いことが起こるぞ」


「え!?えぇ!?い、いやだよそんな事・・・!まだ日も高いし・・・!」


「ほほう、性教育かい?お姉ちゃんも参加しようじゃないか」


「余計なことしてみろ、お前ら顔面に催涙ガスぶちまけるぞ」


そんな会話を聞きながら鏡花は内心訂正する、この場にまともな人間は自分しかいないのだという事を、そしてそんなことに今さら気づき、大きくため息を吐いた


「そう言えばあんたたち明日はどうするわけ、まさか家でじっとしてるの?」


今日はこのまま静希の家でのんびりしているのだろうが、せっかくの休日に、しかもせっかくのこんな状態で何もせずダラダラしているのはもったいないのではないかと思えてしまう


鏡花の言葉に静希と明利は互いに顔を見合わせると、同時に唸り始める


「どこかに行こうかとは考えてるんだけどな、そもそもどこに行こうか何をしようかまったく決めてなくてな」


「せっかくだし、どこかで遊んだりしてみたいとは思ってるんだけど、こういう状態だからどこがいいかなって悩んでて・・・」


こういう状態、体が入れ替わる状態などそうそう味わえるものではない、店に行けば虎杖に同じように能力をかけてもらえるかもしれないが、その場合は店内のみでの行動に制限されてしまうだろう、自由に動けるのは今日と明日だけだ、このチャンスを活かさないわけにはいかない


とはいえ体が入れ替わるなどという稀有な状況、どのように楽しめばいいのかわからないのも事実だ、なにせ普段の行動と何もかも違う、それこそ日常生活だけでもここまで違和感と不便さと感動を覚えているのだから、何か特別な行動をすればそれだけの物を得られるだろう


それが良いことか、悪いことかはやってみないことにはわからないが


「こういう時は運動とかしてみるといいんじゃない?せっかく体が入れ替わってるんだし、特に明利は静希の体のスペック確かめてみたいでしょ?」


「私はそうだけど・・・静希君は?私の体は正直そこまで運動が得意ってわけじゃないし、楽しめないんじゃ・・・」


静希の体と比べた時、明利の体のスペックはそれこそ子供と大人並の違いがある、最近は明利の地道な努力により体力こそ増しているものの、静希のそれとは比べるまでもない


明利は普段よりも性能のいい体を使えて満足できるかもしれないが、静希は普段よりも数段性能の悪い体を使わなければいけないのだ、自分だけ楽しんで静希が楽しめないという状況は明利も望むところではない


「まぁ確かに・・・明利の体じゃねぇ・・・」


「一度味わってみるか?この体凄いぞ、何よりお前に見下ろされるってのが強烈だな」


普段の身長であれば静希は陽太以外に見下ろされることはないのだが、今は鏡花にも見下ろされている始末だ、身体能力、筋力的な意味だけではなく身長的な意味でも明利は他の人間より劣るところが多いのだ


体がコンプレックスというのも頷ける話である


「とはいえ確かに体を動かしたいってのはわかるな・・・もしかしたら明利の体でも俺が動かせば少しはましになるかもしれないし」


「え?そんな事ってあるの?」


「確かに、あり得る話ね、明利運動のセンスないし」


人間の身体能力はあくまで体を基盤とするが、その動かし方においてはその精神によるところが大きい


例えば走り方一つをとっても、正しい走り方を知っている人間とそうでない人間では同じ筋力を持っていても差が出てしまう


知識と経験と、体を思う通りに動かせるだけのセンスが問われるのだ


明利ははっきり言ってそのセンスが壊滅的なのだ、走るという事に関しては昔から授業などでやっていたし、ナイフの動きに関しても雪奈から最低限の指導を受けていたからそこそこ扱えるが、それ以外のことに関しては壊滅的といっていい


逆に言えば、たとえ本来の自分の体よりも数段スペックの高い静希の体を使っていたとしても、その使い方を心得ていなければ宝の持ち腐れなのである


「いっそのこと二人で勝負してみるといいんじゃないか?身体能力かその動かし方か、どっちが勝つか」


「いいなそれ、どうせなら負かしてやろうか」


「む、静希君?私の体で静希君の体に勝とうなんて百年早いよ、運動音痴なのは私が一番よく知ってるんだから」


それは自慢するような事ではないのではないかとその場にいる全員が思いながらも、明利は胸を張っている


明利の体では静希の体に勝てない


確かに一見そうだ、体格も筋力も、身体的な部分で明利が静希に勝っていることなど一つもありはしない


本来なら負けるはずがない勝負だ、見ていて悲しくなるほどに勝機のない勝負だ


「じゃあ明日ちょっと学校で遊んでみる?いろいろ道具とかは用意してあげるわよ?」


「本当に?じゃあ鏡花ちゃんお願いしていいかな」


「わかったわ・・・やっぱその顔で言われると鳥肌立つわね・・・」


未だ静希の体が明利の口調で話すことに対して違和感が拭えないのか、鏡花は笑みを浮かべながらもその顔をひきつらせている


そんなに普段の自分は笑顔を浮かべないだろうかと鏡を見ながら自分の顔をのぞき込む静希、確かに普段の表情からしてあまり機嫌がよさそうではない

眉間にしわを寄せているというわけではないが、真顔が基本からして僅かににらみつけるような感じになっている


意図しながら笑ってみるとどうだろう、普段明利が絶対浮かべないような歪んだ笑みが出来上がる


自分はこんなに笑うのが下手だったのだろうかと、新たな一面を発見しながら鏡を持ったままため息をつく


そして鏡花と話しながら爽やかな笑みを浮かべている自分の体を見て再度ため息をつく、こんな形で知りたくなかったと重ね重ね思いながら


誤字報告が十件分溜まったので三回分投稿


今度新しいルールに変えようかと思っています、まぁもう少し誤字が落ち着いたらですが、一応投稿数が増えるように計らうつもりです


詳細が決まったら活動報告の方にあげようと思いますのでご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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