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J/53  作者: 池金啓太
二十四話「交錯する幼馴染」

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お返しと紹介

「えー・・・明ちゃんの医師免許合格を祈って・・・!」


後日、明利の医師免許の取得試験前日、雪奈に引き連れられ静希は近くの神社に合格祈願にやってきていた


雪奈は何を思ったのか賽銭箱に千円を投入し祈りに祈りまくっていた


神様に祈るよりも明利の頑張りを信じたほうが確実だと思うのだが、身近に神様がいて、その力の強さを知っているが故に神頼りの意味を正しく知ってしまった彼女にとってできることは何でもするという心境なのだろう


なんだかんだ静希も千円を投入し明利の試験合格を祈っていた、この姉にしてこの弟ありというべきだろう


明利の試験勉強がすでに詰めの段階に入っている今、静希達にできることはせいぜい祈ることだけである


「これに受かれば明ちゃんはお医者さんかぁ・・・風邪ひいたときに病院行かなくてもよくなるかな」


「普段から病院行ってないだろ、ていうかここ数年雪姉風邪ひいてないじゃんか」


完全なる健康児である雪奈はここ数年風邪と言うものを引いていない、明利の定期的な健康診断という名の同調を行っているというのもあるかもしれないが、単に彼女は体が頑丈なのだ


とはいえ明利が医者になるからといって病院に行かなくてもいいというわけではない、必要な時にはしっかりと設備のある場所に行くべきだし、何より明利は診断や治療はできるかもしれないが薬などを作る技術はないのだ、いやもしかしたらすでに作れるだけの技術を有しているかもしれないが材料も設備もない状態で製薬などできるはずもない


風邪や病気を手っ取り早く治すには薬は必須だ、そう言う意味では明利が医者になっても病院に通う必要はあるように思える


「あの明ちゃんがお医者さんかぁ・・・ちょっと前は考えられなかったよ」


「そうだな、あいつなりに頑張ってたし、たぶん大丈夫だろ」


そう言いながら合格祈願のお守りを購入する静希を見て雪奈は苦笑する


「ていうか、家に神様いるのにそう言うお守りとか買っても平気なの?違う神様のお守り買うと神様同士が喧嘩するとか聞いたことあるけど?」


「へぇそうなのか・・・」


今まで聞いたことがなかった話に静希は小さく感心しながらトランプの中にいる我が家の神に伺いを立てる


『という事らしいが、実際はどうなんだ?』


『別に他の神格のお守りを持っていたからといって喧嘩をするような狭量な神格はいないだろう、特に学業のそれは守り神のそれとはまた別種だ、それにそんな小さなことを気にするような性格ではない』


そんなことで争っていては身が持たんよと邪薙は小さくため息をつきながら鼻を鳴らしていた


どうやら神格としても別にお守り一つでどうこうするつもりはないようだった


神様同士が喧嘩するというと非常に表現が柔らかいが、神格同士が争うという言いかたに変えると急に殺伐としてくる


確かに人間の持ち物ひとつ程度で争っていては面倒なことこの上ないだろう、世間一般が抱いている神様と、静希達が知っている神格という存在、随分とイメージが違うなと思ってしまうのは仕方のないことなのだろうか


「とりあえず邪薙は問題ないみたいだぞ、明日は明利の護衛についてもらうつもりだし、俺らにできることはこれで全部だな」


「そうだね、後は当日電車が止まったりしなければいいけど」


静希は万一に備えて明利に邪薙の入ったトランプを預けるつもりだった


最初は静希達も一緒に試験場まで行くと言ったのだが、明利に断られてしまったのだ


本当ならしっかりと見届けたかったのだが、集中したいという事で断られてしまい、今こうして神頼みに走っているわけである


そして今回能力者用の医師免許の取得試験が行われるのは静希達が住んでいる県の隣の県だった


運よく近場での試験だという事もあり前日に泊りがけでの移動ではなく普通にその日の電車に乗れば間に合う


もっとも人身事故などがなければの話ではあるが


「明利は運があるから、たぶん大丈夫だとは思うけど・・・こればかりはなぁ」


「何が起こるかわからないしねぇ・・・まぁ明ちゃんなら迷うこともないだろうけど・・・」


明利は能力のこともあってか索敵に回ることが多く、その為地図を読むことに関してはかなり自信を持っていた、迷子になったこともないし道がわからなかったこともない


外見が幼いために迷わないか不安になるのも分からなくないが、静希や雪奈が思っている以上に明利はしっかりしている


「明日は帰ってきたらしっかりいたわってあげなきゃね、静、しっかり明ちゃんを癒すんだよ?」


「わかってるって、今まで頑張ってたもんなぁ」


静希と雪奈はちょくちょく明利が医師免許用の勉強をしているのを見てきた、彼女がしてきた努力を知っているからこそ、その思い入れの強さも理解できるし自分も受けているような緊張感がある


「・・・どうせだからもっかい祈ってくる、なんか不安になってきた」


「・・・俺もやっとこ・・・二回もやっとけば平気だろ」


血がつながっていないにもかかわらず、この二人の行動は本当の姉弟ではないかと思えるほど同じだった、その場に明利がいたらきっと苦笑していたことだろう


明利の代わりでトランプの中にいる人外たちが呆れ交じりに苦笑していた









明利の医師免許取得試験も無事に終了し、やってきたホワイトデー当日、静希と陽太はそれぞれ自分が作ったクッキーを砕けないように袋に入れて学校にやってきていた


静希は鏡花と石動、そして東雲姉妹に渡す分を、陽太は鏡花と石動、そして明利と雪奈に渡す分を持ってきたのだ


静希はすでに朝ランニングをした後に二人に本命のお返しを渡し終えていた、そのこともあってか今明利はとても機嫌がよさそうである


「というわけで鏡花姐さん、お返しのクッキーだ!ありがたく食らうがいい!」


「・・・ふぅん、どれどれ」


陽太が作ったという事で少々警戒しながら袋を開け、その中を見ると中からは芳ばしい香りが漂ってくる


幾つかの種類のクッキーは砕けることなくその形を維持し、視覚的にも鏡花を楽しませている様だった


「へぇ・・・案外うまくできてるじゃない」


「ふふん、俺だってやろうと思えばこのくらいお茶の子さいさいだっての、見直したか?」


得意げに胸を張っている陽太に笑みを返しながらえぇ、見直したわといいながら鏡花はその一つを口に入れる


サクッという音と共に噛み砕かれたクッキーは鏡花の口の中に甘さと芳ばしい香りを充満させていく、彼女が口にしたのはチョコの入ったクッキーだった、その為クッキーの中に仄かに混ざるカカオ独特の苦みが広がっていた


「うん・・・美味しいわ、こんなのよくできたわね」


「まぁな、静希と一緒に作ったんだ、なかなかのできだろ?」


そう言うことは言わなくてもいいのよと口にしようと思ったが、陽太が自分のために頑張ってくれたのだ、これ以上何か言う必要はないだろうと受け取ったクッキーを口にしながら鏡花は微笑む


クッキーの形は単純な円や四角、ひし形や星型もあれば、花のような形をしているようなものまで様々だった


「お、なんだもう渡してたのか」


「おはよう鏡花ちゃん、それ陽太君のお返し?」


いつものように二人で登校してきた静希と明利に二人はおはようとあいさつした後で陽太の作ってきたクッキーを見せびらかす


「ほい、こっちは明利にだ、ありがたく食えよ?」


「わぁ、ありがとう、大事に食べるね」


「それじゃ俺からは鏡花にだな、味わって食えよ?」


「はいはいありがと、にしてもあんたこんなの作れる技術あったのね、料理はともかくお菓子作りができるなんて知らなかったわ」


陽太が静希と一緒に作ったという事を言っていたため、静希が陽太に教えたのだと思っているのだろうか、静希は苦笑しながら陽太と視線を合わせる


「あー・・・まぁちょっと指南してもらってな」


「指南って、誰に?明利とかじゃないでしょ?」


さすがに渡す相手に菓子作りを学ぶという考えは鏡花にもなかったのだろう、そして明利以外に自分たちの知り合いの中で菓子作りができるような人間がいないという事も把握済み、そんな中静希達がいったい誰に教わったのか鏡花は疑問に思っている様だった


なにせ静希の周りにいる女性は一癖も二癖もあるような人間ばかりだ、雪奈を始めとして明利も自分も城島も少々癖が強い、そんな中で料理、それも菓子作りができるのは明利くらいのものだ、鏡花も少し位はできるが誰かに教えられるほどうまいというわけではない


「覚えてるかな、前に世話になったカエデさん、あの人のところで教わってきた」


カエデ・・・カエデ・・・と名前を何度か反芻した後で鏡花は思い出した、思い出してしまった、あの強烈な外見をしている喫茶店の店主を


そしてクッキーをもう一度口に含み、やはりおいしいことを確認すると複雑そうな表情をした


「なるほどね・・・まぁ喫茶店やってるくらいだからそのくらいできてもおかしくないか・・・むしろ良くあの人の所に行く気になったわね・・・」


「まぁ、外見は確かに面喰うけど慣れればいい人だぞ?経験も積んでる、常識もあるしな」


外見に慣れればいい人、それはおよそ普通の人間に対して向ける評価ではない、というか静希はどうしてこう外見が少し普通とかけ離れた人間と交友が深まっていくのか謎である


それにあんな外見をしている人間が常識があるというのはいかがだろうか、鏡花としては強烈に否定したい衝動に駆られるが、個人の趣味趣向にとやかく言うのは失礼だと感じ口に出すことはしなかった


「そう言えば明利、あんた医師免許試験どうだった?」


「うん、監視の人がすごい多かったよ、不正行為をしないようにっていう事と、あと面接も何度かあったんだ、そこでも専門知識の質問だとかされてびっくりしたよ」


能力者が試験を受ける際は基本的には不正行為を防止するように監視がつく、もっとも監視したところで完全に防げると言うものではないし、何よりそこまでの手間をかける試験そのものが稀なのだ


例えば静希達が学校で受けるような試験では、能力の違いによって配られる答案や解答が違っていたりする、遠視の能力を持つ樹蔵などはその筆頭と言っていい、周りが同じ問題をやっている中一人だけ違う問題をやっていることもあるという


普通の試験ならその程度でいいのだが、明利が受験したのは国家資格に関わる試験だ、試験の内容を変えるだけではなく不正行為がないように入念に対策し、同時に人となりを見るために面接も行ったらしい


能力者が国家資格を持つというのはそれだけ大変なのだ、特にそれが命に関わることならなおさらである


「それじゃ俺は石動にも渡してくるよ、陽太も行くか?」


「そうだな、んじゃちょっくらいってくる」


午前の授業が終わり、昼休みになったタイミングで静希と陽太は席をはずし隣のクラスへと移動する、隣のクラスは何というか自分のクラスとはまた別の独特の空気がある、そんな中相変わらず特徴的な外見をしている石動を見つけることができた


生身の人間の中に仮面をつけた女子がいるというのはやはり目立つ、良くも悪くもエルフというのは人の目につくという事だろう


「石動、今いいか?」


「ん、おぉ五十嵐に響、どうした?」


どうしたなどと口では聞いているものの、その声はわずかにはずんでいる、恐らく多少なりとも期待しているのだろう、その期待にこたえられるかどうか微妙なところだが静希と陽太は持ってきた包みを取り出す


「はいよ、バレンタインのお返しだ」


「味わって食え」


二人から渡された包みに石動は小さくおぉと声を漏らす、どうやら少なからず感動しているようで昼食を食べる前に包みを開けて中を確認していた


包みから覗くクッキーを見て再度声を漏らし視線を包みの中から静希達へと移す


「これはもしや手作りか?」


「まぁ一応な、学校が終わったら風香と優花にも渡しに行く予定だ」


「手作りとは・・・まさかお前たちにこんな才能があるとは思わなんだ、ありがたく頂くことにしよう」


仮面の上からでも彼女が微笑んでいるのがわかる声で石動は二人に礼を言う、仮面をつけているのに表情がわかるというのもなかなか稀有な存在だなと思いながらとりあえず期待には応えられたようだと静希と陽太は内心ガッツポーズをする


「そうだ五十嵐、一ついいか?」


「ん?どうした?」


自分たちのクラスに帰ろうとした静希を呼び留める石動が一枚の紙を取り出す、そこには何やら店の広告らしきものが載っていた


「実は私の知り合いがこの辺りで店を出すらしくてな、ちょっとした占いというか、まぁカップル向けのものなんだが、良かったら幹原と今度行ってみてやってくれ、私の紹介だと言えば安くしてもらえると思う」


「へぇ・・・これ何屋だ・・・?占い・・・?いや相談?」


そこにはカップルの悩みを解決するだの相手のことをさらに深く知るためにだのいろいろ書いてあるが、何屋であるのかは書いていなかった


広告としての意味があるのか定かではないが、そこには店を出す場所の地図が記されている、駅から少し離れた場所だ、立地がいいとは言えないが、悪いというほどの場所でもない


「お前の知り合いってことはエルフか?個人で店を出すってのは凄いな」


「これが案外好評らしい、時によっては予約が必要なほどになるようだが・・・如何せん私は恋仲になる相手に恵まれなかったのでな、行ったことがないのだ」


なるほどそれで俺たちにかと小さくため息をつきながらとりあえずその広告を受け取っておくことにする


値段も手ごろだしそこまで遠くもない、今度の休みに行ってみる価値はあるかもしれないなと思いながら静希と陽太は石動に別れを告げ自分たちのクラスに戻っていった


「へぇ・・・石動さんの知り合いの店ねぇ・・・これ結局何屋なのよ」


自分のクラスに戻り早速先ほど貰った広告を明利と鏡花に見せたところ、興味を持ちながらも鏡花は少々訝しんでいた、何より何屋であるのかが判別できないのだ、カップルを対象にしているという事はそういう類の商品あるいはサービスを提供しているのだろうが、詳細が一切書いていない


これ広告って言えるの?と当然の疑問を抱いている鏡花とは対照的に明利は純粋に興味を抱いている様だった


「でも互いのことをもっと深くっていうのは面白そう・・・ねぇ静希君、今度行ってみない?せっかくの紹介だし」


「ん、そうだな、明利の試験も終わったし、今度の休みに行ってみるか、お前らはどうする?」


「やめとくわ、二人で行ってきなさい、それで好評だったら行ってみるわ」


要するに静希達を試金石にして良い店だったら自分たちも行ってみようという魂胆なのだろうが、どちらかというと静希と明利の時間を邪魔しないようにするための心遣いのように思えた


せっかく試験という重圧から解放されたのに邪魔ものがいたのでは明利も楽しめないだろう、鏡花なりの気づかいに明利は感謝しながら微笑んでいる


「にしても本当に何屋なんだろうな?食い物か、小物か・・・占いっぽいのか?」


「エルフの人が出してる店なんだし、なんかの能力が関係してるんじゃないか?少なくとも石動の知り合いなら少しは信用できるだろ」


石動の知り合いという事は、かつての石動の先生である山崎の指導を受けた人間である可能性が高い


あの人の指導を受けた人間であればそこまで悪さをするという事もないだろうと静希はなんとなく楽観視していた


何より人気であるという前評判に多少興味があるのもまた事実である


せっかく紹介されたのだ、ちょっとした怖いもの見たさで行ってみるのもいいだろう


広告を見ながら疑問と好奇心が湧き上がってくるのを感じながら静希は弁当を取り出しとりあえず昼食をとることにした



放課後、静希は初等部に顔をだし東雲姉妹にバレンタインのお返しをした後家に帰ってきていた、今日は明利も一緒に家に来ており、雪奈が帰ってくるのと同時にダラダラしていた


「へぇ、エルフの出す店かぁ・・・気になるね・・・この謎の広告・・・」


昼に渡された石動の知り合いのやっている店の広告を見る雪奈は興味深そうに唸っている


具体的な商品やサービスの内容も何も書いていないために興味は尽きない、同時に怖くもあるがせっかく紹介してもらったのだから行かないのも気が引けた


「今度の休みに行こうと思ってるんですけど、雪奈さんもどうですか?一緒に行きません?」


「んぁー・・・いや私は遠慮しておくよ、静と明ちゃんで行っといで」


「珍しいな、変な気づかいしてるんじゃないだろうな?」


静希と明利、そして雪奈は三人でワンセットのようなものだ、今まで試験で忙しかった明利のために雪奈が気を利かせたのではないかと思ったのだが、雪奈は気まずそうに視線を逸らす


「いやその・・・実は三年に上がるときにいろいろやることがあるらしくて今週末は忙しいんだよね・・・なんか集まりとかあるらしくて」


「へぇ・・・そんなのあるのか、何やるんだ?」


静希の言葉に雪奈はさぁ?と首をかしげる、本人も何をするのかわかっていないようだった、恐らくは今後の就職の話だとか実習の話になるのだろうが、もう少し自分でそういう事を把握しておいた方が良いのではないかと思えてならない


どちらにしろ、雪奈が行けないのなら明利と一緒に行くほかないだろう


よく考えれば二人とも自分の彼女ですなんて言ったらどんな目をされるかわかったものではない、そう言う意味では丁度良かったのかもしれない、もちろん残念ではあるが


「そっか、雪奈さんももうすぐ三年生になるんですね・・・」


「そうだよ、最高学年になるのさ、敬いたまえ後輩君」


「そう言うセリフはもう少ししっかりしてから言おうな、このままじゃダメな先輩として見られるぞ」


静希の容赦のない酷評に雪奈は若干傷つきながらも静希の体にもたれかかりながら不満を体全体で表現していた


年上とは思えない態度だが、これも雪奈の魅力の一つだと見逃すことにする


「ていうかそれを言うなら静たちだって来年は二年生だよ?ようやく後輩ができるじゃん」


「たぶん俺たちは後輩指導には当たらないだろうけどな、うちの班は特殊すぎる」


収納系統としては役に立たない静希、索敵に関しては時間がかかるうえに引っ込み思案な明利、周りを巻き込みかねない前衛の陽太、大概何でもこなす鏡花


パッと個人の能力を表現した時、明らかに新一年生の教育には向いていないような人間がそろっているのがわかる


能力だけではなく性格面でもまず指導という項目には向いていない


静希は指揮能力の高さ故に、きっと一年生の行動が効率が悪かったり悪手だった場合は口出ししてしまうかもしれない、鏡花もまた然りだが彼女の場合毒舌が発動した時どうなるかわかったものではない


明利は索敵と応急処置という意味では優秀だが、その性格や体から一年生に指導してもいう事を聞いてもらえない可能性もある、陽太はそもそも指導できるような頭脳を持ち合わせていない


もし班を二分して後輩の指導に当たった場合、明らかにバランスが悪くなってしまうのだ、それは避けたいところである


「まぁ優秀な班が全部後輩の指導をしてるってわけじゃないしね、中には上級生の補助をしてる班もあるし」


「たぶん俺らはそっちになるか、完全に関係ないところで活動するかの二択だな、俺としてはどっちでもいいけど」


「私はまた雪奈さんと一緒に活動したいな、雪奈さんいると心強いし」


嬉しいこと言ってくれるじゃないかと明利を抱きしめながら雪奈が笑う中、静希はもし雪奈たちの班の補助をすることになった場合を想定する


班を分割するかはさておき、もし静希達の一班が雪奈たちの班を補助した場合、かなりバランスのいいチームになる


雪奈の班には雪奈ともう一人前衛がいる、そうなると陽太を含め合計三人の前衛


そして中衛、静希と鏡花を含め熊田と井谷がいるため四人、そして索敵として後衛に明利、さらに索敵もこなせる熊田を入れればば索敵手は二人


前衛三、中衛四、後衛一あるいは前衛三、中衛三、後衛二というなかなかバランスのいい配置を作ることができるのだ


八人一組の小隊としてはなかなかにいいチームになりそうな気がする


しかも雪奈を始め練度の高い能力者がそろっているためにそこらの奇形種程度には負ける気がしない布陣だ、仲間となったらさぞ心強いだろう


「まぁ雪姉がいればそれなりに頼りになるだろうな、それに熊田先輩もいるし」


「ふふん、お姉ちゃんの頼もしさを理解したかい?たまには頼ってくれていいんだよ?」


雪奈の言葉にはいはいといいながら静希はその頭をやさしくなでる、雪奈も頼りになるが熊田もかなり頼りになる先輩だ、索敵も攻撃も補助も工作もこなせるかなり万能な能力者である、防御面に不安があるがそれに目をつぶれば隠密に置いては最高の能力を持っていると言っていい、静希との相性はよく、連携もうまくできる自信があった


二年になってからどんな実習が行われるのかまだ全く分からないが、現在より難易度が高いものになるのはまず間違いないだろう、さらに鍛錬が必要になるなと思いながら静希は小さく嘆息する


とはいえまだ一か月近くある新学期、そこまで気を張っていても仕方がないなと思いながら静希は石動にもらった広告を眺めながら好奇心を高めていた








週末、静希と明利は宣言通り石動に紹介された店へと向かうべく二人で出かけていた


現在位置と広告に載っている地図を確認しながら足を運ぶこと数十分、静希と明利はその場所を見つけることができた


駅の裏を少し歩いたところ、表通りから少し離れた建物がいくつか並ぶ中の一つ、ビルの中の一つの階層をそのまま自宅兼職場にしているらしいその店を確認して静希と明利は視線を合わせる


店の名前はあっている、ビルの側面に着けられている看板が記すものも広告のそれと相違ない、立地がいいとは言えないが、混みもするのだろうか、ちらほらとその建物の中に入っていく人を見ることができた


静希と明利がビルのエレベーターに乗り、その店がある階層に向かうとそこにはすでに何人かの客が入っていた


といってもその中のほとんどがカップルだったり物見遊山だったりとあまり整合性はない


自分たちも似たようなものだなと思いながら静希達も同じように並ぶと、受付らしき人物がこちらに近づいてくる、その人もエルフのようで仮面をつけていた


「いらっしゃいませ、お二人ですか?」


「はい、えっと石動藍の紹介で来たんですけど」


受付の人物はどうやら女性のようだった、名簿のようなものに名前を記す前に静希が用件を告げたためにその動きを止めていた


静希は彼女から渡された広告を見せると、受付のエルフはおぉと小さく声を漏らしてから静希達を奥の部屋へと通す、どうやらあらかじめ話が通っていたようだった、事前に準備しておくとは石動が気を回したという事だろうか


「エルフの人がやってるって本当だったんだね」


「あぁ、受付が仮面着けてるっていちゃもん付けられそうだけど・・・あれでいいのかな」


接客において素顔が見えないというのは客に対して失礼ととられてもおかしくないが、そこまで迷惑を起こす客もいないのだろうか、彼らは仮面をつけたまま客と応対している


接客業ではないのだろうかと考えながら事務所のような場所で待たされているとやがて扉が開き扉の向こうから仮面をつけた人物が現れる、服装と身長から先程受付で対応した人物とはまた違うエルフのようだった


「君たちが藍ちゃんの友人か、えっと確か五十嵐君だったね」


聞こえてきたのは男性の声だ、体格は静希より少し小さいくらいだろうか、男性らしい野太い声をしている


「えっと、初めまして、五十嵐静希です、こっちは幼馴染で恋人の幹原明利です」


「初めまして、幹原明利です」


二人の自己紹介にエルフは初めましてと返しながら懐から名刺を取り出す


「俺はこの店の店長をやってる、虎杖廉太郎だ、藍ちゃんとは村からの仲になる、ちなみに受付やってたのは家内だ」


そう言って名刺を渡しながら握手する虎杖の手に応えながら、静希は首をかしげていた


石動の話では占いのようなものに近いようなことを言っていたが、わざわざビルの一階を貸し切るほどの意味があるのだろうかと思えてならない、それこそ部屋の一室だけでも問題ないのではないかと思えてしまう


受付から店内の様子をすべて把握できなかったため一体何をしているのかは定かではないが、恐らく何らかの能力を使っているのではないかと思えるのだ


「えっと、虎杖さん、ここって何の店なんですか?石動は占いっぽいって言ってましたけど」


「はっはっは、説明が足りなかったか・・・占い・・・んん、間違ってはいないんだろうけど微妙に違うというか・・・まぁ見てもらったほうが早いね、こっちにおいで」


そう言って虎杖は店の裏側、客のいる場所が見えるような場所に静希達を案内する


店内はそれぞれネットカフェのような敷居が用意されており、その中に先程のカップルたちが入っている様だった


「・・・ひょっとしてラブホ代わりですか・・・?」


「いや、それはお断りしてる、もし発覚した場合は出て行ってもらう約束なんだ、一見すると何しているかわからないだろう?」


静希と明利がよくよく客を観察するが、どう見ても個室の中に入った二人が会話したり自分の体を確認してみたり抱き合ったりしている


場所を提供するだけならここまで盛況するとは思えないし、何よりいかがわしいことをするためにこんなたくさん人が集まる場所に来るとも思えない


「彼らには各個人に許可をとった後で能力をかけてあるんだ、彼らは今その能力の効果を確認しているというわけさ」


「能力・・・つまり能力を商売にしているってことですか」


静希の言葉にまぁそういう事だねと虎杖は肯定する


現代において能力を商売とするのは事実上認められていない、だがそれはあくまで書類上や法律上の話だ、実際それを商売にしている人間は多く存在する


能力を間接的に使ったり、ある目的のために能力を使うのはまだ許容されるが、能力そのものを商品として使用するのは禁止されている


例えば命を救うという理由と目的の元、その目的を果たすための手段の一つとして能力を使うのは問題なく、相手に能力をかけることで利益を得るのは原則禁止されているのだ


無論例外もある、きちんと各省に通達し許可が得られればその禁止を解くこともできる


「ちゃんと許可とってますか?」


「もちろん、だから能力の使用が認められているのは店内のみ、さらに言えばいかがわしい行為などは禁止ってしてるんだ」


能力にもさまざまなものがある、それ故にある種のアトラクション感覚でそれを求める人も多い、だからこそ例外と言うものが存在するのだが、その例外として認められるのはなかなか難しい


その条件をクリアしているという事は、彼はかなり優秀な能力者でありながら、同時に経営者としての手腕も持ち合わせているという事になる


これにて大量投降は終了、二周年のお祝いでした


二周年とこの物語も地味に長く続いていますが、より一層楽しんでいただけるように努力する次第です


これからもご愛読いただければ幸いです

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