三月のそれぞれ
海外での校外実習を無事に終え、静希達は日本での平穏を満喫していた
時は三月、徐々に終わっていく冬と近づいてくる春の陽気に静希達は平和ボケといわなくとも安寧の日々を過ごしていた
そんな中、珍しく陽太が単独で静希の家にやってきていた
用件はたった一つ、バレンタインのお返しを作成するためである
「というわけでお菓子作り教えてください!」
「・・・とりあえず扉の前で土下座はやめてくれ」
こんなやり取りを挟んだ後で静希は何事もなかったかのように陽太を家に招き入れた
開口一番、というわけでなどといわれて一体どういうわけだと聞き返したくなるが、そこは陽太だ、いちいち細かいことは考えていないだろう
「あれ、なんだよ明利達いないのかよ、てっきりいると思ったのに」
「なるほどそっちが本命か、残念だったな、明利と雪姉は鏡花の家にガールズトークしに行ったよ」
陽太の思惑としては普段静希の家に入り浸る明利にお菓子の作り方を教えてもらおうとしたのだろう、休日にわざわざ家に足を運んだかと思えば自分ではなく明利が目的だったという事もあり、静希の心境は少し微妙だったが気持ちはわからなくもない
お菓子作りだけではなく明利は料理全般が得意だ、静希のような一人暮らし用の適当なものではなく、かなりレベルの高い調理を行える
そう言う意味では静希もむしろ指導してほしかったくらいなのだが、さすがに渡す本人に指導を受けるというのはさすがにないなと思ったのだ
「うぇ・・・せっかく来たのに・・・静希がお菓子なんて作れるはずないしなぁ・・・無駄足かぁ・・・」
「勝手に来ておいて失礼なこと言いやがって、ほれ茶だ・・・買ったもんじゃダメなのか?」
「そこはお前手作りの方が愛がこもってるだろ?」
静希から受け取った紅茶を一気飲みしながら陽太が愛などという言葉を使ったことで静希は僅かに吐き気を催すが、鏡花にとってはこれほどなくうれしいことになるだろう
そして陽太なりに鏡花のことを想っていることがうかがえる、二人の関係は静希としてはよく知らないのだが、少なくともよい方向に向かっているのだと思いたいものである
「ちなみにお前はどうするんだ?買ったやつにするのか?」
「いや、俺はちょっとその手のプロに指導してもらおうかと思ってな」
静希の言葉に陽太はなんだと!?と大げさに反応して見せる、いつの間に静希にそんな人脈ができていたのだという事に驚いているのだろう、抜け駆けされたことを少し悔しそうにもしていた
「ずるいぞ静希!お前だけそんな知り合いがいるなんて!」
「何言ってんだ、お前も知ってる人だぞ、ほれカエデさんだよ、あの人一応喫茶店やってるだろ」
カエデ
その名前と同時に陽太の脳裏に筋肉質で厚化粧の女性服を着た男性の姿が思い浮かぶ
陽太にとって忘れたくても忘れられない実姉の師匠、まさかその名前がここで出てくるとは思わなかったのだろう、あまりの衝撃に少々気分を悪くしている様だった
「あ・・・あの人か・・・でもお菓子作りなんてできんのかよ・・・」
「一応聞いてみたらクッキーでもケーキでも何でも作れるってさ、教える分には大歓迎だって・・・人は見かけによらないよな」
あの筋肉質な体と濃い顔面をしながら繊細な洋菓子を作ることが容易であるというのはさすがにイメージが異なりすぎる、だが実際それを含めて生計を立てているのだ、それに静希もその菓子を何度か口にしたことがある、腕は確かだろう
あの外見で料理をしている姿が全く想像できないのは、仕方のないことかもしれない
「他に誰か作れる人居ないのかよ、身近にさぁ」
「明利のおばさんとかなら作れるだろうけど・・・さすがになぁ、俺があげる相手の母親だぞ、後俺らの知り合いの女子あるいは女性というと・・・城島先生とか?」
「ねーな、あの人がお菓子作りとかねーわ」
名前が出た瞬間に否定した陽太を見て静希は小さく苦笑してしまう、もしこの場に城島がいたらまず間違いなく陽太の顔面はボールのようにバウンドしていただろう
だが陽太の言うように城島がお菓子を作っているところなど想像できない
かつてバレンタインの時に明利に頼み込んで手作り菓子に挑戦していたこともあるわけだが、静希達は知る由もない
「メフィとかオルビアとかさぁ、菓子の一つや二つ作れねぇの?見た目は凄い女っぽいのに」
「見た目で技術が身につくなら苦労はないわね、少しは自分で何とかしたらどうなの?」
こちらに目を向けることもなくメフィはゲームに没頭している、今彼女がやっているのはレーシングゲーム、それもオンライン対戦ができるタイプのものだ、全世界のプレイヤーたちと対戦し腕を磨いているのだがこれがなかなか難しいようである
「私は料理の類は苦手でして・・・ご期待に添えず申し訳ありません・・・」
そもそも騎士として育てられ生きてきたオルビアに料理のことを求めるのが酷と言うものだ、それに自分ができないことを相手に求めるというのもナンセンスである
「どうせならお前も来るか?一人くらいならカエデさんも許してくれると思うぞ?っていうかお前なら大丈夫だと思うぞ?」
実月さんの弟だしと付け足して静希が提案するのだが、陽太は果てしなく気が重いようだった
昔あったことがあるらしいのだが陽太はそのことをすっかり忘れている、それに実月の師匠だからこそ少々苦手意識があるのだ
もちろんあの外見に気圧されるというのも理由の一つだが、こればかりは理屈ではないようだった
とはいうものの、いくら陽太が嫌がっていたとはいえ他に頼る術がないのもまた事実である
こうなれば苦手意識がどうのなど言っていられない、しっかりとしたものを渡さねば鏡花になにを言われるかわかったものではないのだ
「まぁお前が嫌なら無理にとは言わないけどさ、どうせお前が行く行かないにかかわらず俺はカエデさんの所に行くし」
例え陽太が行くと言っても行かないと言っても静希の予定は変わらない、静希についていくかいかないかは陽太の自由である
その結果どうなるかは静希にも分からないのだから
「うぐぅぅ・・・俺に選べというのか・・・でもあの人苦手なんだよ・・・」
「それは外見の話か?それとも内面の話か」
「両方だよ」
どうやら陽太は強烈な外見もあの性格も少し苦手なようだった、何もかも見透かしているような独特の視線と喋り方、そして含みを付けた笑い、そこまで陽太が苦手なタイプであるようには見えないがどうやらあの外見と内面の両方が合わさってかなり苦手な印象があるようだった
確かに静希もあの外見と強烈なキャラクターには少々どころかかなり気圧されるところがある、世話になっているという事もありすでに慣れたが、慣れない人にとっては同じ空間にいたいとはお世辞にも言えない人であるのはまず間違いない
何がどうしてカエデがあのようなことになったのかは本当に謎である
「ていうかお前はあの人のどこが苦手なんだよ、普通にいい人じゃんか」
「いい人だってのはわかってんだよ・・・でもあの人姉貴の師匠なんだろ?俺のこといろいろばらされるとあれじゃんか」
あれじゃんかといわれてもいったいどれだと言いたくなるが、なんとなく陽太の言いたいことはわかる、要するに陽太はカエデを通じて実月にいろいろと情報をリークされないかと心配しているのだ
まず間違いなくカエデは実月と繋がっているだろうが、今さら何を心配するようなことがあるのかとため息をついてしまう、すでに陽太のプライバシーなどないに等しいというのに
いや、陽太の場合実月にいろいろなことを知られるが嫌なのだろう、姉に対してここまで苦手意識を持っているというのも難儀なものである
「でもそうなると他に頼れる人は?恥を忍んで明利に頼むか?確実に鏡花にもばれるだろうけど」
「い・・・いや・・・ばれるのは避けたいな、たまにはびっくりさせてやりたい・・・!俺だって菓子の一つ作れるんだってことを見せつけてやる!」
妙にやる気がある陽太に、静希はなんとなく彼の状況を把握する、きっと鏡花に『別にそこまでのものは期待してないから安心しなさい』とか言われたのだろう、その評価をひっくり返すために躍起になっている様だった
付き合っているというのにやっていることは以前とあまり変わらないのではないかと思ってしまうのだが、付き合い方は人それぞれ、陽太達には陽太たちなりの過ごし方があるのだろう
それにしても相手を喜ばせたいではなく相手に評価を改めさせたいという理由でバレンタインのお返しの菓子を手作りをするのは陽太くらいだろう
「陽太、どっちをとるか秤にかけてみろよ、カエデさんの指導を受けるか、それとも手作りは諦めるか」
「ま、まだ他の人を頼るという選択肢が」
「誰を頼るんだよ、俺らの中で菓子作りができるのなんて明利と鏡花くらいのものだぞ、その二人に頼れない今誰に頼るっていうんだ」
静希の正論に返す言葉が無くなったのか陽太は悔しそうな表情をしながら苦悶している、陽太自身わかっているのだ、すでに選択肢はないに等しいのだという事を
「それにお前が何をばれないようにしたいのか知らないけど、要はお前が何もしゃべらなきゃいいだけだろ、仕草だけで相手の心を読めるほどあの人は読心術長けてないぞ・・・たぶん」
確信は持てないものの、カエデはそこまで読心に長けているというわけではないように思える、どのような感情を抱いているか程度はわかるかもしれないが何を考えているかまで言い当てられるほどの技術はないと予想していた
ないと言い切れないのがカエデの恐ろしいところだが、少なくとも陽太が隠したいような内容は口に出さなければ問題ないだろう
「そ・・・そうかな」
「お前が下手なこと言わなければな、そもそも黙っててくれって言えばちゃんと秘密にしてくれると思うぞ」
カエデは喫茶店だけではなく情報屋も営んでいる、もし第三者からその情報を買うと言われたらまず間違いなく売るだろうが、そんなものを買うのは実月以外には思いつかない
そう考えると知られた時点でアウトかもしれないが、そこはあえて伏せておくことにした
「そ、そうだよな、俺が口を滑らせなければいいんだ・・・うん、よしその作戦で行こう」
「作戦も何もないけどな、午後から約束してるからもうちょっと時間潰してろ」
静希の言葉によっしゃと声を出しながらゲームに興じているメフィに戦いを挑むために陽太はコントローラーを取り出して颯爽とゲーム機に取り付け始める
作戦などといっていたが、ただ黙っていることが作戦になるのならこの世のどんな事柄だって作戦になるだろうと静希は呆れていた
ただなんとも陽太らしい、単純であほらしいが一番手っ取り早い対応である
結果的に自分がフォローすることになるが、そこはもう慣れっこである
「いらっしゃい・・・ってあら静希君、ちょっと早かったじゃない?」
陽太を引き連れてカエデの営む店にやってくると、いつも通り濃い顔面と異様な外見をしたカエデが二人を迎えてくれる
いつ見ても衝撃的な外見をしているなとしみじみと思いながら静希は陽太を連れて店の中に入る
「あら、陽太君もいたのね、バレンタインのお返しを作りたいの?二人そろってプレイボーイねぇ」
「あはは・・・えっと菓子作り習うの一人追加ってことでお願いします」
静希との言葉にカエデはわかったわといいながらカウンターの奥に消えていく
恐らく何かしら準備をするのだろうが店を開けていて大丈夫なのだろうか、幸い店の中に客はいないようだったが、誰か来た時に店主がいないのはさすがに問題ではないだろうか
習いに来ておいてなんだが、菓子を作るのはそれなりに時間もかかる、その間まさか店を放置するつもりだろうかと少々心配になってしまう
思えば従業員などの姿も見たことがないなとあたりを見渡すが店内には一人もいない、完全にカエデが一人で切り盛りしているのだろう
「はい、準備できたわよ、奥にいらっしゃい」
「わかりました、ほれ陽太行くぞ」
静希の言葉に陽太は口を開かずにびしりと敬礼して見せる、どうやら頑なまでにしゃべることをしないつもりのようだ、この作戦がいつまで続くのか見ものである
厨房に入ると静希達にエプロンと髪を留めるためのバンダナのようなものを渡される、こういうところは結構しっかりしているのだなと思ったのだが、カエデの姿を見て二人はうわぁと内心ドン引きしてしまっている
フリルのついたピンクのエプロンを化粧をして女性服に身を包んだ筋肉質な男性が着ているのだ、これを見てドン引きしない人間がいるなら見てみたいものである
「それじゃあ菓子づくり講座・・・というかバレンタインのお返し作りを始めましょうか、何を作りたいとかリクエストはあるの?」
「えっと・・・とりあえず無難にクッキーとかいいなと思ってますけど・・・陽太は?」
陽太は何も言わずに首を縦に振っている、恐らく陽太もクッキーでいいと思っているのだろう、さすがにしゃべらないでやり取りをするのは非常に面倒くさい、早い段階でやめさせた方がいいかもしれないと思いながら静希は小さくため息をつく
「クッキーねぇ・・・何クッキーがいいの?チョコでもバターでも何でもできるだけの材料はあるけど」
「そうですね・・・とりあえずいくつか種類を作ってみたいなと思ってます、一種類だけじゃちょっと寂しいし」
明利達はかなりしっかりとしたものを作ってきてくれたのだ、こちらとしてもそれなりのもので返したいと思うのは当然だろう
三倍返しという言葉があるが、これに関しては完全にプライスレスだ、手作りのものに値段を付けられるはずもなく、それならこちらも手作りで応じるしかないと思ったのだ
「それならいろいろ作ってみましょうか、最初は型に入れて・・・慣れてきたら自分で形を作ってみましょ」
そう言ってカエデは調理器具の中からいろいろな形をしているケースのようなものを取り出す、これを使って生地を整形するらしい
形もいろいろあったほうが視覚的に楽しめるかもしれない、そう言うアプローチもあるのかと静希は興味深そうにしている
『これでシズキがお菓子作れるようになったら毎日食べ放題ね』
『ほほう、悪くないな・・・シズキ、ここはケーキの作り方を学んだらどうだ』
『あ、あなたたち勝手なことを言うのはやめなさい、マスターのご迷惑になります』
勝手なことを言うメフィと邪薙にオルビアの叱咤が飛ぶが、彼女も声が少し揺らいでいるところを見ると少々誘惑に反応しているようだった
毎日ケーキが味わえるかもしれないという誘惑は人外にとってなかなかに魅力的なようだった、こちらとしては御免こうむりたいところなのだが
「ところで静希君、なんでさっきから陽太君はしゃべらないの?」
準備をしているさなかカエデが静希に顔を近づけて声を小さくしながらそんなことを聞いてくる、今まで一言もしゃべらないのをさすがに不思議がったのだろう、もともとの陽太の性格を考えれば無理もないことである
「あー・・・まぁいろいろありまして、ちょっと今喋ろうとしないんです」
「ふぅん・・・あー・・・なるほどそういう事ね、秘密を守ろうとしてるわけだ」
陽太の方を見て一瞬警戒した瞳と表情を見たことでカエデはなんとなく状況を察したのか不敵な笑みを浮かべる
自分が警戒されている、あるいは自分がいるからしゃべりたくないというところから陽太が何を思ってしゃべらないようにしているのかを察したのだろう、さすがは実月の師匠だというべきだろう
実月が機械などを通して情報を掴むのを得意としているのに対し、カエデはどちらかというと人を観察して情報を引き出すことに長けているように思えた
人間観察とでもいえばいいか、その人の性格や趣向などを条件に当てはめて表情や声音、視線の動きなどまでも考慮して相手が何を考えているのかどのような感情を抱いているのかを把握する
読心術の基礎にもなっているだろうが、彼女はそれを突き詰めている様だった
無論相手の心の全てを読むとまではいかないだろうが、持ち前の情報収集能力でそれを補い、高いレベルでの読心を会得している様だった
自分ではなく他人がそれをやられているところを見るとその技術の高さを理解できる、仮に静希が真似しようとしてもほとんどうまくいかないだろう
静希がやるのは相手を追い詰めるか、圧力をかけて最善の動きをさせない状態で動きを読む程度だ、平常状態の相手の考えを予測できるほど優れた頭脳と技術は持ち合わせていないのだ
静希と陽太がカエデの元で菓子作りに勤しんでいる間、ガールズトークをしていると言っていた明利、鏡花、雪奈は鏡花の家に集まっていた
そして三人の中で雪奈だけ下着姿である、別にいかがわしい行為をするためではなく明利の能力によって同調を行い健康診断のようなことをしていたのだ
それもこれも正月についてしまった肉をそぎ落とす行為が上手くいったかどうかの確認である
明利の能力があれば体脂肪率や体重などもほぼ一発でわかるが、視覚的な状態を確認するために服を脱いでいたのだ
恥じらう事なく堂々としているその姿は男らしすぎるが、鏡花はあえてそこには触れずに雪奈の体のサイズをそれぞれ測定しメモしていた
「どうだい私のこの二か月近く絞った体は・・・!痩せてる?痩せてる!?」
「とりあえず動かないでください、いちいちポージングすると測りにくいですから」
何故強調するためのポーズがボディビルダーがよくやるものなのか、女性であればセクシーなポーズの一つでもやればいいのになぜやらないのか、鏡花は突っ込みたくなるがぐっとこらえて黙々と雪奈の体を測定していく
「うん・・・でも結構痩せてきてますよ、お尻のあたりにちょっとお肉が残ってますけど・・・ほとんど以前の雪奈さんのものに相違ないです」
「う・・・まだお尻のシェイプアップが足りなかったかぁ・・・ここの肉落しにくいんだよねぇ・・・」
個人差もあるだろうが人によって体の部位の肉が落ちやすかったり落ちにくかったりというのはよくある話である、雪奈の場合尻についた肉が落ちにくいらしい、以前より少しだけ肉付きが良くなっている尻を触りながら雪奈は落胆している
「多少肉がついたくらいならいいんじゃないですか?明利、正月より前の体重にほとんど戻ってるのよね?」
「うん、グラム単位での変動はあるけどほとんど戻ってるよ、肌艶も髪の状態も変わらず健康体」
明利がいると医者いらずだなと思いながらも鏡花は明利がつけているメモを覗き見る
それはすべて鏡花の知らない言語で書かれている、恐らくドイツ語なのだろうがかなり崩して書いているために書いた本人でしかわからないだろう
明利曰くこれも医者になるための勉強らしい、思えばもうすぐ彼女は医師になるための資格試験があるという
本来医師免許を取得するための試験は二月に行われるのだが、能力者が受けるための試験は一般人が受ける試験の一か月程度後になる、つまり普通の人が合格発表を見ている時期に試験を受けることになる
これは難易度の調整のためでもあるし、何より試験場の調整をするためでもある
その年度の試験と合格者の比率から、さらに難易度をあげ、何より受験人数の多い場所に試験場を設置するためである
本来であれば大きな都市のある県など、全国に試験場が複数設置されるのだが、能力者の医師試験の受験者自体が少ないために毎年一つしか試験場を準備しないのだ
そう言う事情もあって一か月近く遅い試験、ホワイトデーの少し前に試験を受けると明利は言っていたが、どうなるかは全く分からない
静希は心配していないと言っていたし、雪奈は大丈夫だろうと楽観しているが、こんなことをしていていいのだろうかと思ってしまう
「うぅ、お尻が大きいのはいやだなぁ・・・もうちょっと小さくならないものか」
「そんなに気になるなら静希に揉んでもらえばいいじゃないですか、マッサージで痩せるかもしれませんよ?」
「いやん鏡花ちゃんそんな事したらダイエットじゃなくなっちゃうじゃんよ」
揉むという行為に対していったい何を想像したのか知らないが、雪奈は顔をわずかに赤くしながら恥ずかしそうに笑っている
全くこの人はとあきれ返りながら鏡花は近くにある布を使って一着の服を作り出した、先程まで測っていた雪奈の体に合うように調整したものである
「はい雪奈さん、試着してみてください」
今日雪奈がここにやってきたのはこれも理由の一つだった、僅かであるとはいえ体形が変わったために服の微調整をしてもらいに来たのである
身近に変換系統の能力者がいると仕立て人は全くいらなくなるからありがたいものである
「おぉありがと鏡花ちゃん、んんんん、うんぴったり、でもちょっと腕が動かしにくいかな・・・」
「あー・・・なるほど、じゃあもうちょっとゆとりを作りますね、他にきついところとかは?」
「今のところはないかな、ちょっと動いてみるね」
そう言うと雪奈は軽く体を動かしてみせる、屈伸運動や前屈、軽くジャンプなどをして見せた後大きく体をのけぞらせて伸びをする
一通り体の動きに対しての服の様子を見ていると、雪奈は唸りだす
「あー・・・あれだね、足を大きく広げるとちょっと窮屈かな、後は問題なさそう」
「わかりました、調節します・・・にしてもピッタリに作るっていうのも案外難しい物ね、サイズに合うようにしても着心地は別物だからなぁ・・・」
サイズを測り、それにピッタリになるように服を作ってもそれが最高の着心地か言われると首をかしげてしまう
着心地などというものは個人に差があり、何よりサイズに合わせれば着やすいと言うものではないのだ
身の回りにあるものはそれなりに作ってきた鏡花だったが、本格的な衣服の作成というのは実はあまり経験はない、特に元からあるものを使うのではなくただの布から服を作った経験はほぼ皆無といってもいいのだ
大量投降10/20、今回は四回分、あと二回、五回分を投稿します
きっと誤字がすごいことになるんだろうとか考えている今日この頃
これからもお楽しみいただければ幸いです




