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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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姉とオトウト

護衛を終え全員がフランスの街を満喫していると、静希の携帯にエドから連絡が入る


メールではなく電話であることから何かしら緊急の用事であることが覗えた


「もしもし?何かあったか?」


『あぁシズキ、いま彼女の治療が終わったところでね、その報告ついでに電話したんだよ』


どうやら悪い知らせではなかったようだ、これでカロラインが脱走したなどという事になったら目も当てられないが、さすがにそんなミスを犯すような男ではなかったようだ


エドやヴァラファールだけではなく、アイナやレイシャもいるのだ、当然かもしれない


だが良い知らせのはずなのにエドの声はあまり良いものではない、なんというか言い淀んでいる雰囲気が感じられた


「・・・一応聞いておくけど、何か気になることでもあったか?」


『・・・あぁ、ちょっとね、彼女の弟のことについてだ』


カロラインの弟のフリッツ、最前線に侵入し軍人たちに負傷を負わせたエルフの少年、静希も実際にその眼で見ている小柄な男の子だ


「あいつがどうかしたのか?姉が怪我して泣いてるとかか?」


『その逆さ、泣きも笑いもしない、それどころか声を出すこともしないんだ・・・あの年の子にしては少し大人しすぎる』


エドの言葉に静希はあの時見た少年の姿を思い出す、年のころは十に届くか届かないかという幼さだったように記憶している、最初にあった時は自分の姉の姿に驚愕して反応できないようにも取れたが、時間が経過しても何も反応しないというのは些かおかしい気がする


「そっちでアクションはとってみたのか?話しかけたりだとか」


『あぁ、うちの子たちが何度か話しかけているのだがまったく反応しないんだ、視線をこっちに向けることはあっても、口を開くことはなかったよ、表情も全く変えずにね』


異常とまではいわずとも、その状態が正常ではないことは静希にも理解できた、普通肉親が怪我を負ったら心配するものである


それをしないのはただ単に姉弟仲が悪いだけだろうか、否それだけではさすがに反応がおかしすぎる


エドが判断しかねているのがよくわかる、いや判断しかねるというよりはどう接すればいいのかわからなくなっていると言った方が正しいかもしれない

エドは良くも悪くも甘い男だ、それは優しさともとらえることができるかもしれないが、必要もないことまで抱え込む性分がある


人間らしさともいえるかもしれないがエドにとってただ放っておくという選択肢はすでに無いように見えた


「エド、とりあえずは彼女の見張りに徹してくれ、弟の方は今夜話し合おう、無理に話しかけるのはかえって逆効果かもしれない、一度時間を置いたほうがいい、くれぐれも気を付けてくれよ」


『・・・あぁ、わかっている、少なくとも彼女たちは逃げるそぶりはなかったよ、僕がある程度事情を説明したらそれっきり大人しくなってくれた』


エドがいったいどのような話をしたのか、少しだけ気になるが、そうなったのなら静希がとる行動は決まった、カロラインが逃げないのならこちらもそれ相応の態度で示すべきである


『そうそう、彼女の治療でわかったことなんだけど、彼女の奇形は胸部にあるみたいだ、何でも綺麗な肌の色をしているそうだよ?』


「おいおい、彼女がいる身で他の女性に現を抜かすのはどうなんだ?」


静希はちょっとした冗談のつもりだったのだが君に言われたくないなぁと笑いながら返されると何も言えなくなってしまう


二人の彼女を持つ静希としては耳が痛いことである


「・・・悪いな面倒を押し付けて、今度なんか礼するよ」


『ハハハ、そうだね、じゃあ今度お邪魔した時にでも手料理をごちそうしてもらおうか、それとも結婚のスピーチでもしてもらおうかな』


気が早いんじゃないかと茶化しながら静希は本心から感謝していた、エドがいてくれたおかげで静希は随分と楽に動けた、カロラインの方に集中できたのもエドがしっかりと後方を支えていてくれたおかげである


そう言う意味では今回の陰の功労者はエドで間違いないだろう


「お前の相棒にも伝えておいてくれ、今回は助かったって、お前の小さな社員にもな」


『了解したよ、しっかり伝えておこう、最高の賛辞を受けたとね』


エドの言葉に静希は薄く笑いながら、ふとあることを思いつく


今後のことで必要なこと、考えておくべきことの一つ、それが解決するかもしれない内容だった


「ところでエド、話は変わるけどお前の作った会社って新入社員は募集してるのか?」


『なんだい藪から棒に、君たちだったら大歓迎だよ、いつでも最高の待遇でお迎えするさ、優秀な人間は喉から手が出るほど欲しいからね』


エドの言葉に静希は小さく笑いながらそりゃ嬉しいなと返して見せる


上手くいくかはわからないが、とりあえず静希はあることをするつもりだった


もしかしたら面倒事を引き込むことになりかねないが、最善はつくすべきだ、それが巡り巡って自分のためになるかもしれないのだから


「とりあえず頼んだ、今夜に俺の部屋に集合してくれ、二人も一緒に」


『あぁ、任せておいてくれ、君は羽を伸ばすと良い、せっかくのフランスだ、楽しんでおいで』


エドの言葉に静希は少しだけ安堵しながらわかってるよと告げて通話を切る

自分もつかれているはずなのにああいう事を言えるのがエドの良いところだ、自分が女だったら惚れていただろうなと思いながら静希は近くにいる明利達に合流するべく足を動かした








実習三日目日曜日の夜、静希達は夕食を終えた後静希の部屋に集まっていた


事前にすでに確認してあったが、もう一度監視カメラや盗聴器などがないことを入念に確認し、エドたちがやってくるのを待っていた


今回の騒動のほぼ中心にいた人物を連れてくるという事でその場にいる全員に緊張の色が見える、無理もないだろう、ただの能力者ならまだしもやってくるのは悪魔の契約者なのだから


「・・・来たかな」


静希がその気配を感じ取ると同時にオルビアが扉を開ける、そこにはちょうどインターフォンを鳴らそうとしていたエドの姿があった


「おぉ、まさか扉に張り付いてたのかい?ナイスタイミングだよ」


「さすがに悪魔二人分となるとわかりやすくてな・・・それじゃあ、話をしようか」


エドに引き連れられて入ってきたカロラインの右腕にはギプスがつけられ完全に固定されている様だった


さすがにこの短い時間では完全に治すことはできなかったのだろう、だが最低限の治療がしてあるのであれば問題ない、ここでは戦闘などは行わず、話をすることが目的なのだから


「エドから大体の事情は聞いたか?今の状況で何か質問は?」


部屋の中には静希を含め、人外たちもたむろしている、その中には先刻見ることがなかった邪薙やオルビアの姿もある


そしてエドも部屋の中に入るとヴァラファールを解放し近くの椅子に腰かけた


いくら広い部屋とはいえこれほどまでに人が多いと流石に圧迫感がある


この状況を見て、彼女の中にいた悪魔、オロバスもここは自分も姿を現すべきだと判断したのかカロラインの横に顕現して見せる


この場に悪魔が三人、神格が一人、霊装が一人、恐ろしいほどの人外過密地帯になってしまっている


そんな中、カロラインは静希に視線を向けた


「・・・イガラシ・シズキ、君について聞きたい、構わないか?」


「あぁ、何でもは教えられないけどな」


「何故、リチャード・ロウを追う?」


回り道などしない直球な質問に、その場の空気が一気に緊張感に満ちていく


返答によってはこちらとしても容赦しない、そう言う感情がその言葉と視線に込められているのを静希は察していた


だからこそ、嘘偽りなく答えるつもりだった


「あいつのせいでえらく面倒なことになってるんだ、しかも一度俺を潰そうと手を回してきたこともあってな、さすがに看過できない、見つけたら今までの報いを受けてもらう」


僅かに怒気を孕んだ言葉に、静希のそう言う表情を見慣れていない大野と小岩は僅かにたじろいでいる様だった


カロラインはその言葉と感情を真正面から受け止め、その上で小さく息をつく


「こっちからも一つ聞いていいか?お前についてのことだ」


「・・・あぁ、何でもは答えられないがな」


先程のお返しだろうか、その言葉に静希は苦笑しながらもカロラインを見る


「何でお前、今日能力を使わなかった?手を抜いてたのか?違うだろ?何故使わなかった?」


それは静希がずっと疑問に思っていたことだ、今日の戦闘でわかったのは、彼女の契約している悪魔の能力が予知系統で、彼女はその力を利用して静希と戦っていたという事だ


だがせっかくエルフなのに何故能力を使わないのか、そこがずっと腑に落ちなかったのだ


自らも強い力を持っているというのにそれを使わないなど宝の持ち腐れ以外の何物でもない、しかも手を抜いていたとは思えなかったのだ


手を抜いて負けていたのでは話にならない、静希の予想は彼女は能力を使わなかったのではなく、使えなかったという状態だったという事、あるいは戦闘において役に立たない能力であることだ


「・・・自分の能力について易々と教えると思うか?」


「教えてくれるならこっちの能力も教えよう、せっかくお話しできてるんだ、きっちりギブ&テイクといこうぜ」


静希の能力は知られたところでそこまで痛手にはならない、対応されようと彼女に対してであればごり押しで対応できる


そして何より、この場に来たことで静希はすでに彼女を敵としてみていなかった


敵の懐の中に入り込むだけ、言葉にすれば簡単だが悪魔がいるような場所に自ら足を運ぶというのは生半可な覚悟ではない、彼女はここに話をしに来ているのだ、戦闘がないと確信したうえで


その確信がオロバスの予知によるものかどうかは知らないが、戦闘する気がないという事なら静希はすでに交渉の状態に入る準備があった


相手に信用されるには、自分の手の内を明かす必要がある、その為ならば自分の矮小な能力の一つや二つ明かしても問題はない


「なんなら先に俺から種明かししようか?その代り俺がしゃべったらお前はしゃべるまでここから出られないと思え?」


「・・・いや、そこまでする必要はない・・・おおよそ予測はできているのだろうが・・・私は今能力が使えない状態にある」


能力が使えない状態、そんな状態になった人間がいるなどと聞いたことがないが、少なくともそれなりの事情があるのだろう、カロラインの言葉を待ちながら静希は彼女の視線をたどる


その先には彼女と一緒にやってきていた弟のフリッツの姿がある


この状況にも全く動じず、直立不動の構えをとるその少年を見てカロラインはつらそうな表情をしていた


「・・・そいつが原因なのか?」


「・・・そうだ」


静希の言葉に否定することなく答えるカロラインに、その場の全員が首を傾げた


弟が原因で能力を使えない、弟がかつて静希が対峙した江本のような他人の能力を操作する能力を有しているかとも考えたが、静希もエドも彼が軍人を攻撃しているのをこの目で見ている、どういう事なのだろうかと疑問を抱いている中、カロラインはつらそうに弟の姿を見続けている


これ以上言葉にすることは憚れるのだろうか、彼女の口は重く、それ以上口にしてくれなかった


静希が弟のフリッツに近づいてその瞳をのぞき込む、だが彼は一体どこを見ているのかもわからないような表情をしたままだ、体に触れても何の反応も見せない


「明利、ちょっとこいつに同調してみてくれ」


「う、うん・・・わかった」


明利がフリッツの近くに歩み寄りその手に触れて同調しようとするが、上手くいかず、もう一度試みてみても明利はフリッツに同調することができなかった


「・・・あれ・・・同調できない・・・?」


「・・・同調できない・・・?・・・っ!まさか」


静希は思い当たる節があった、この中で唯一静希だけがその可能性に気が付いた


そしてメフィを一瞬見た後でカロラインに視線を向ける


「・・・カロライン・・・お前、自分の弟を使い魔にしたのか?」


「・・・そうだ」


静希の言葉を理解できていなかった明利は数秒してその意味を理解した、なにせ彼女はフィアが使い魔となった瞬間を目にしている


そして近くにいた鏡花や城島もその言葉の意味を理解した


つまり、フリッツは一度死に、カロラインの魔素を供給することで動いているという事である


「私の家族は、私以外みな殺され・・・家族をよみがえらせることができないかとオロバスに聞いた、その中で一番幼かったフリッツなら近しいことなら可能だと言われたためそれを実行した・・・その結果が・・・これだ」


生き返ったように見えている、ただそれだけ、実際は主の思うが儘に、魔素によって動く肉人形


生き返ったなどとは決して言えない、言えるはずもない状態である


「メフィ、人間を使い魔にした場合、その供給する魔素ってどれくらいになるんだ?」


「・・・かなり多くなるわね、大きなものを動かすにはそれだけたくさんのエネルギーが必要、フィアみたいに小さければ静希の魔素でも十分補えるけど・・・この大きさだと・・・」


メフィはフリッツを見て口元に手を当てて考え出す、カロラインがフリッツを使い魔にして供給している魔素は恐らく膨大な量になっているのだろう


それこそ彼女自身が魔素が使える余裕がなくなるほどに


「無理をすれば能力を使うことはできる・・・だが威力は小さくなるし・・・体の奇形は進む・・・私としてもとりたい手段ではない」


静希は何らかの理由で能力が使えないという事までは予想していた、だがまさか弟を使い魔にしているとまでは予想できなかった


これで昼にエドが抱えていた疑問が解消されたことになる、人間らしさとでもいえばいいか、子供にもかかわらず彼は子供らしい反応をしていない、それもそのはずだ、彼は使い魔ですでに死んでおり、生きているように見えているだけなのだから


「何度も・・・何度も死なせてやろうと、壊そうと思った・・・だが・・・その度に弟の顔が浮かぶ・・・私にはできなかった・・・」


カロラインの苦悶の表情にその場にいた全員が複雑そうな表情をする中、静希が口を開く


「じゃあ・・・お前の召喚の時殺されたのは・・・お前以外の家族全員だったのか」


「そうだ・・・私が召喚に集中している隙をついて・・・奴が・・・」


その当時のことを思い出したのか、彼女の表情は憎しみと怒りに支配されているように見えた


不憫だ


静希はそう言う感情しか湧いてこなかった


家族を殺され、一人だけ助けられるかもしれないと思い縋りついたその結果、得られたのはその家族を冒涜することになっているかもしれない操り人形のような存在


彼女としても悔いただろう、だが同時に弟の姿のままである使い魔を前に、壊すこともできなかったのだ


自分が許されないことをしているというのがわかっていても、どんな形であっても動いている弟の姿を見て、肉親である彼女が何も思わないはずがないのだ


叶う事ならこのまま動いていてほしい、だがいつかは終わらせなくてはならない


二つの矛盾した感情を抱えたまま、カロラインは苦しんでいたのだろう、そして今も苦しみ続けている


だが彼女もいい大人、自分のしでかしたことに対しての覚悟はすでにできているのか先程までの表情を一変させて静希の方を見る


「さぁ、私が能力を使えない理由は話した・・・次はイガラシ、君の能力を教えてもらおう」


さすがにしっかりしている、そこは大人という事かと感心しながら静希は懐からトランプを出してそれを宙に浮かせる


空中に浮くトランプに一瞬目を奪われながらもカロラインは静希の言葉を待っていた


「これが俺の能力『歪む切り札』だ、系統は収納、この中に五百グラム以下のものを入れられる、そこにちょっとした付加効果があるけどな」


そう言って静希は自分の能力のことを包み隠さず教えた、自分の手の内をすべて明かすつもりでカロラインに話した、そうするだけの価値が彼女にあると思ったからである


月曜日で二回、誤字報告を五件分受けたので一回、合計三回分投稿です


明日は二周年記念でたくさん投稿する予定です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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