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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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予想の当たり外れ

カロラインは確実に静希の射撃を避けながら市街地の中を走っていた、体力の持つ限り、各個撃破していけば終わりはある、だというのに自分を追う仮面の男を振り切れずにいた


銃を何発か撃ちこんでいるはずなのに効いた素振りを見せないところを見ると自己治癒ができる能力者であると判断していた


だからこそ市街地戦では敵ではないと感じていた


だが次の瞬間、彼女の表情が一変する


静希はカロラインの上方に位置取り、その姿を完全に視界に収めることに成功した


そして初撃は直上から静希自身が銃弾を放つ、カロラインはそれをすでに予測していたのか静希が銃を構え狙いをつける段階で回避行動をとり始めていた


そして当然のように放たれた銃弾は地面にめり込み、お返しとばかりに静希に銃口を向けようとした瞬間、半ば無理矢理に体をひねる、次の瞬間すでにトランプから放たれていた静希の釘が先程までカロラインの体があった場所を通過していく


無理矢理に回避したことでカロラインは倒れるような形で着地した、そして今度は事前に準備してあった銃弾が数発、複数の角度から彼女めがけ襲い掛かる、そしてその中に一発、メフィの放った光弾が含まれていた


全てを避けるのは無理だと悟ったのか、カロラインは瞬時に光弾の方向へと強引にジャンプして、当たりながら地面を転がり、銃弾を避けることに成功した


『ねぇ静希、今の行動何か意味あるの?』


『あぁ、よくわかったよ、少なくとも相手がどれくらいの反応速度があるのかはわかった、それに相手が見えてるものも』


静希があえてメフィに弱い威力の一撃を要求したのは、高威力の攻撃の中に一発だけ含まれた攻撃を選択し、それを利用して回避できるかというのを確かめたかったからだ


銃弾と光弾、前者はほぼ見えず、後者は確実にとらえられる、なのに彼女は光弾に向かっていった、つまり光弾には自分にさしたるダメージを与えられるほどの威力はないと知ったうえでの行動だ


そして、回避による予知のしなおしの時間もおおよそ把握した


今回静希が銃弾を一斉に放たなかったのにはわけがある


もし時間的にかなり遠くの未来が見えていた場合、この場所にそもそも近づくことがなかったかもしれないのだ、そこで初撃は静希が放ち、そこから連撃の形で徐々に追い込んでいった、こうすることで相手の連続予知の時間的猶予を測ったのだ


『で、結局この後どうするの?』


『まぁ一撃で決める必要はない、よけきれない攻撃を確実に入れて、少しずつ弱らせていけばいい、そうなりゃ悪魔に頼るだろ、そしたらお前の出番だ』


『そう・・・楽しみにしてるわ』


メフィの声から、本当に楽しみにしているであろうことが覗えた、思えば彼女が大手を振って外に出ることができるのは久しぶりだ、心が躍るのは無理ないかもしれない


そして静希は少しずつ弱らせてという風に表現したが、正確に言えば弱らせていくことしかできそうにないのである


相手の連続して行う予知の間隔が、予想よりずっと早かったのだ


能力を連続使用する場合、タイムラグを要するものがある、その中で予知系統はそのタイムラグを必要とするタイプが多いのだ


その為予知をし直すのに時間的な差が生まれると思っていたのだが、静希の予想に反してその差は全くと言っていい程に存在しなかった、今もなお予知をし直し続けていると考えていいだろう


そのあたりはさすがエルフというべきだろうか


そうなると一気に弾丸を消費するような攻撃は予知によって回避される可能性が高い、その為に一発一発で少しずつ追い込み、避けられないような状況にしてから攻撃しよけきれない攻撃を含めるしかないのだ


自分自身で攻撃が作れるのであれば、もっと楽に追い込めたかもしれないが、こういう時に攻撃手段が既存の物しかないというのは不便なものだ


拘束して話を聞くという目的がある以上、殺すわけにもいかないため手榴弾などの殺傷能力の高い武器を使うわけにもいかない、どうしたものかと悩むところである


とはいえ、静希がやるべきことはすでに決まっていた


徹底的に相手の行動の選択肢を削っていく、まずは肩を、次に手を、次に足を、そうやって少しずつ相手の行動力を削いでいき、最終的には動けなくするのが目的だった


そうして悪魔の力を行使したら強制的に軍をこの辺り一帯から退去させて悪魔戦を行う


女性に対して攻撃を行うなんて非人道的といわれるかもしれないが、そんなことを気にするほど静希は優しくない


敵には容赦しない、それが静希の信条だ、たとえそれが女であろうと手を抜く理由にはなりえない


何より相手はエルフだ、静希が全力を出しても勝てるかどうか怪しい相手、手を抜くなんて選択肢は最初から静希にはなかった


そして何より相手はすでに静希の術中にはまっている、こうして静希の近くを移動しながら攻撃のチャンスをうかがっているのがいい証拠だ


本当に静希の攻撃から逃れようとするなら、静希を倒すのではなく静希からとにかく離れるべきだったのだ


今まで経験してきた全てを使って静希は相手を追い詰めていくつもりだった

過去最高ともいえるかもしれない集中状態の中、静希は明利のナビに従ってカロラインを追い詰めていく


仮面のせいで外から静希の顔を見ることはできないが、その表情はいつにも増して邪悪な笑みを浮かべていた


カロラインが回避と同時に銃弾を射出するも、その弾丸は静希には当たりもしなかった、正確に言えば当たる直前に回避したのとはまた別の弾丸が飛んでくるために、回避行動を強いられ狙いを定めることができないのだ


そして静希の放った弾丸は着実にカロラインの体に傷をつけていた


左腕に傷を負い、血を流しながらも移動するカロライン、片手での照準はさらに精度をおとし、すでに静希との戦闘は一方的なものとなっていた


軽度ではあるが足からも血が流れている、こちらは静希と同じようなかすり傷ではあるものの着実にカロラインを衰弱させている


『そろそろ仕上げだな・・・メフィ、もう一発頼む』


『また?まぁいいけど、仕上げって何するの?』


メフィの疑問に静希が答えると、悪魔は嬉しそうに微笑んで見せる


断る理由は無し、むしろやってみたいとのことだった


静希の指示通り能力を使うためにメフィが集中を始める中、静希は先程までと同じようにカロラインを追い詰めていく


死角からの銃撃を繰り返し、回避行動をとらせながら体勢を崩し、多方向からの同時攻撃


ポイントに追い込むのにも銃撃を使うことで予知を乱発させ思考の選択肢を削っていく、動き続けることで疲労を誘い、治療のひまも与えない


そんな中、再びメフィの能力が放たれる


多方向からの銃弾に混じって一発、放たれた光弾を見てカロラインは半ば反射的にその光弾の方へ体を向け再び強引に突破しようと試みる


だがその光弾が着弾する寸前に持っていた銃を盾にして光弾を防ごうとした


カロラインの判断は正しい、だが圧倒的に遅い


放たれた光弾は彼女の持っていた銃を易々と破壊し、その右腕に深々とめり込む


骨の砕ける音がしながら彼女は吹き飛ばされ、その体を建物に叩き付けた


メフィに使わせたのは先程と同じサイズの光弾、だがその威力は人間相手に向けるには少々高いものにさせておいた


先程光弾をその体で受けて自分にダメージを与えるには不足している能力であると判断させ、予知をする前に体が動くように仕向けておいた、着弾する前に予知したために光弾の威力が先程とは変わっていることに気付き銃を盾にしたのだろうが、すでに手遅れだった


状況が目まぐるしく変わる中予知し続けるのは相当の負担になっただろう、少しでも予知しなくてもいいだけの状況ができたならそれに縋るのは半ば当然


何より一度自分の体で受けたという経験が彼女の判断を鈍らせた


その結果、カロラインは武器を失い、右手もほとんど動かせない状態になっている


「こちら静希、これより悪魔の戦闘を始める、近くにいる部隊は至急周囲から離れるように伝えてくれ」


『了解、全部隊に伝達します』


『静希、そろそろそっちにつくわ、周りを囲っておく?』


鏡花の言葉に頼むとだけ言って静希はカロラインの前に立って見せた


憎々しげにこちらを睨むカロライン、彼女に視線を向けながら静希はトランプの中からメフィを取り出して見せた


「もう隠しっこなしにしよう、前戯は十分だろ?そろそろ本番といこうぜ」


武器を失い、その上悪魔まで現れたことでカロラインは圧倒的に不利であることを悟ったのか、その体を動かして逃げようとする、そしてその体から即座にある存在が姿を現した


それが悪魔だと理解するのに時間はかからなかった


突然現れたそれは、馬のようだった


具体的に言うのなら、二本足で歩く馬というべきだろう、骨格から微妙に馬のそれとは違うが、その手と足、そして頭は紛う事なく馬のそれだ


「・・・あんただったのね、オロバス」


「・・・君がここにいるとはな、メフィストフェレス」


どうやら顔見知りだったのか、互いに視線を交わしながら敵意を向ける中、オロバスと呼ばれた悪魔は静希の方へと視線を向けた


「メフィストフェレスの契約者よ、ここは見逃してくれないか?彼女には・・・いや私達にはやるべきことがある」


「やるべきことがあるから見逃せ?交渉が下手だな、そんなことを言われて見逃すはずがないだろう、そっちの都合はどうあれこっちはカロラインを捕まえるために動いていたんだ」


その言葉にカロラインは眉をひそめた、オロバスも視線を鋭くするのに対しメフィは何時でも静希をかばえるように集中していた


そして緊張が続く中でメフィが口を開く


「シズキ、オロバスが相手となると、ちょっと状況が変わるわ、さっきまでの予想の中で食い違うことがあるの」


「・・・言ってみてくれるか?」


メフィの知っている知識の中で静希がしていた予想と違うことがあるのか、視線をカロラインとオロバスから外さずにそう聞くと、メフィは小さくため息をついて見せた


「・・・さっきシズキはエルフの方の能力が予知だって予想してたわよね?でも違うわ、悪魔の能力の方が予知なのよ」


「・・・なんだと?」


先程まで静希はカロラインの能力が予知なのだと思っていた、だから避けられない攻撃があってもそこまで不思議ではなかった、だが悪魔の能力が予知だというのは予想していなかった


つまり先程まで悪魔の力を使わずに戦っていたのではなく、悪魔の力を使い続けていたのだ、そして自らの力は使わずにいたという事になる


順序が逆なのではないかと思えるが、静希は視線をカロラインに向けて彼女を観察し始めた


能力を使わなかったのか、それとも使えなかったのか、その考察を始める前に静希はトランプの中から救急用具を取り出した


このままでは失血死される可能性もある、その為一応治療をすることにしたのだ


「メフィ、オロバスを見張ってろ、俺はこいつの手当てをする」


「あら随分紳士的なのね」


「茶化すな、拘束して話を聞くのが目的だって言っておいただろ」


あえて口に出すことでこれ以上攻撃する意思がないことを示した後で、静希はカロラインの体から出ている血の箇所を治療していく


といってもできるのは消毒と止血程度だ、本格的な治療は静希ではできない、特に骨が折れている右腕に関しては専門的な治療を受ける必要があるだろう


出血はそこまで激しくないが運動し続けていたせいか脈拍が高い、既に止まりかけている傷口もあるが一部は未だ脈々と血を流し続けている


このまま放置すれば間違いなく失血死するだろう


「・・・お前の目的は何だ・・・何故私を捕まえようとする」


「黙ってろ、手元が狂う」


カロラインの質問を軽くはねのけ、静希は自らが与えた傷を治療していく


消毒と止血という粗末なものではあるが、ないよりはましなのだろう、徐々にそこから溢れる血は少なくなっていっているのがわかった


そして治療を終えると静希は携帯を片手にエドモンドに向けて連絡を付け始める


カロラインを撃破したという事と現在位置、そして可能なら弟を連れてここに来るように


そう言った内容のメールを送った後、静希は小さくため息を吐いた後でカロラインの方を見る


「俺の仲間がお前の弟をここに連れてくる、抵抗しないように連絡だけしておけ」


「・・・従うと思うか?」


「従うさ、お前の治療をしている間俺は無防備だった、それなのに攻撃しなかったってことは話をする準備がお前にもあるってことだろう?」


そう言いながら静希はカロラインの腰のあたりを一瞥する、そこには静希には見えないようにしながらも刃物の類があった、銃が破壊されたとはいえ武器の一つくらいは持っているだろうなという静希の読みだが、彼女にそのようなことがわかるはずもなかった


全て看破されているのかと悔しそうな表情をするが、それでもまだ負けを認めていないようで静希に向けて敵意を放ち続けている


「さて、ここらで腹を割ってお話ししようか、俺の名前は五十嵐静希、こっちは俺の契約している悪魔のメフィストフェレスだ、今回は表向き召喚の護衛、本命はお前の捕獲を目的に動いていた」


紹介された途端、メフィは笑みを浮かべながら手を振って見せる、そんな愛想を振りまくほどの余裕がある状況ではないのは明らかだが、カロラインたちにとっては精神的攻撃につながったようだった


「・・・何が目的だ・・・私を捕えて何をしようとしている」


「話を聞きたいんだよ、いろいろとな、ついでにお前の目的も聞いておこうか、今回召喚実験に近づいた目的は何だ?何をしようとしていた?」


静希の言葉にカロラインは一瞬視線を伏せる、そしてその後に自らの契約する悪魔であるオロバスの方に視線を向けた


馬の顔をしたオロバスもその視線に気づいたのか、小さくうなずいて見せる、とりあえず今は話をするのが正解だと思ったのだろう、カロラインもその反応にある種諦めがついたのか、口を開く


「私は、この召喚の裏に何者かがいるのではないかと思い、監視と調査に来た、何とかして召喚の現場に侵入しようとしたが・・・お前達に阻まれたことになるな」


「・・・召喚の裏に・・・」


カロラインの言葉に静希はなるほどと納得する


彼女はかつての召喚事件のように裏に関わる人間がいるかどうか、あるいはその人物がいた場合その行動を阻もうとしていたのだろう


何かしらの目的というのが明確化されてきた、それと同時に静希の脳裏にはいやな予感が浮かんでいた


「・・・ところでカロライン、お前はリチャード・ロウってやつを知ってるか?仮面をつけた奴だ」


静希の言葉を聞いた後、カロラインの表情が一変する


先程までの悔しさが残るものから、明らかな怒りへと変貌していた


「お前・・・奴を知ってるのか・・・?!」


「質問してるのはこっちだ、その様子だと知っているみたいだけどな・・・どういう関係だった、全部吐け」


静希の冷え切った言葉にカロラインは歯噛みしながら拳を握りしめている、この反応でもうおおよその予測はできていたが、確認のためにも彼女の口からきくのが一番だ


リチャードの味方か、敵か


すでに答えは出ている、だからこそ明確にしておかなければならない


「あいつは・・・私の家族を殺した張本人だ・・・!だから見つけ出して・・・必ず・・・!」


その言葉を聞いて静希は肩を落としていた、考えた中で最も嫌な状況がここにきて発覚してしまった


それは陽太が予想したことが見事に的中した形になる


当たってほしくない時に限って陽太の勘は当たってしまう、実月の弟という血の力が妙な形で発現したものだとため息が止まらない


カロラインの言葉が正しければ、彼女はエドと同じく、召喚によって犯人に仕立て上げられた被害者だったという事である


誤字報告が五件分溜まったのと土曜日なので三回分投稿


この辺り話が進むとありがたい、この話は地味に長すぎました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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