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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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悪魔との会合

激しい閃光が放たれ、その光に目が慣れるのに数秒を要しその中で鏡花と陽太はその光の中心にいる影を捉えていた


仮面をつけていて僅かな遮光効果があったのが幸いしたか、この場にいた誰よりも早くその姿を確認することができた


初めに見えたシルエットは翼だ、大きく羽ばたくように広がった両翼、鏡花も陽太もその姿を確認すると僅かに警戒を強めた


光が収まると、周りにいた研究者や軍人たちはようやくその全容を把握することができた


それは、まるで、いや形は鳥そのものだった


唯一違うとすればその体を覆う羽毛はすべて刃でできていたという事だけ、剣のような鋭さと輝きを放つその羽一枚一枚が、鋭利な刃物であることがうかがえる


鋭い刃物であるように見えるのに、それらはすべて柔らかく、羽ばたきの動きを阻害することも、音を立てるようなこともなかった


「いきなり呼ばれたと思えば・・・妙な場所に出されたものだな・・・」


その声は男性のものだった、だがそれほど低さはない、どちらかというのなら高い声だった、少年とまではいかないが、声変わりを始めた青年のそれに近い


鳥の姿をした悪魔はきょろきょろと周囲を見渡しながら今の状況を把握しようと努めている


鳥の姿であるというのにその存在感は圧倒的だった、悪魔に慣れている鏡花たちはそれほどの圧力は感じなかったが、悪魔慣れしていない人間にとっては相当な重圧を感じているだろう


「私を呼び出したのは誰だ、名を名乗れ」


その声音から、あまり機嫌が良いとは言えないことを感じ取った鏡花と陽太は明利を自らの背に置くようにしながら前へ出て行く


何故なら周りにいる誰もが今の状態に圧倒され口をきけずにいるからだ、もしこのまま彼の問いを無視しようものならどうなる事かわかったものではない


この圧力から察するに以前のメフィの時のようなちょっとむかついてるレベルではない、相当頭にきている様子だった


「召喚者ではありませんが、今の状況を説明しようと思います、よろしいでしょうか?」


鏡花が前に出てしゃべりだしたことで、周りの人間はようやく自分たちの置かれている状況を把握したのか鏡花の一挙一動を見守る構えをとっていた


通訳は常に鏡花の言葉を翻訳しその場にいたモーリスへと伝えている、もし鏡花が不穏な発言をした場合はどうなるか、その場にいる鏡花も陽太も理解していた


「・・・あぁ、頼もう、君の名は?」


「清水鏡花、こっちのは私の仲間の響陽太です、私達は召喚実験の護衛としてこの場にいます」


簡潔に自分たちの名とその状況を告げたことで悪魔はとりあえず自分に敵意はないことを把握したのか周囲に気を配りながら鏡花と陽太に視線を向ける


「状況を説明する前に、貴方の名を聞かせていただけますか?」


「・・・失礼、私はカイム、見ての通りしがない悪魔だ」


翼をはばたかせながらカイムと名乗った悪魔はゆっくりと近くにあった机の上に乗り、鏡花と陽太の近くへ身を置いた


陽太は常に鏡花とカイムの間に体を置き、鏡花は何時でも能力を発動できるように集中状態を維持していた


「では今の状況を説明させていただきます・・・といっても私たちが知る程度のことでしかありませんが」


そう前置きをしてから鏡花は今の状況を説明し始める、各国が合同で召喚実験を行おうとしていること、それに際し自分たちが護衛に来たこと、召喚を狙って何者かが襲いに来ていること、それを防ぐために外で自分たちの仲間が戦っていること


自分が知り得る限りの情報を話すことで、カイムは大まかにではあるが状況を把握したのか何度か頷いた後で周囲に視線を向ける


「なるほど、周りにいるのは実験を行っていた者たちという事か・・・状況は理解した、どうやら明確な召喚者がいるような場所ではないようだな」


何人もが合同で召喚を行ったために『誰が』召喚を行ったという事は明確にはできない、それを理解したのかカイムは小さくため息をつく


「まったく、こんなことで呼び出される身にもなってほしいものだ・・・ところで」


カイムが言葉を切って全員を見渡した瞬間、全員が感じる圧力が一気に強くなる、威圧だけではない、僅かな殺気の混じる視線と存在感に鏡花たちを除くその場の全員が気圧されてしまっていた


「呼び出しておいてそのまま帰れとは言わないだろうね、こちらの都合も考えずに呼んだのだ、何かしらの代価があるのだろう?」


その言葉に鏡花はモーリスの方に視線を向けるが、彼は圧倒されてしまっていて使い物になる状態ではなさそうだった、研究者の代表のハインリヒも同じ様子、ここは自分の機転で切り抜けるしかないのかと鏡花は歯噛みする


悪魔は何にしろ代価を求める存在だ、勝手に呼び出されて帰れなどといわれれば誰だって腹が立つ、カイムが殺気を含めているのも当然だ


飄々とした性格のメフィと違って、どうやらこの悪魔はずいぶん礼を重んじる様だった、一度メフィと敵対したときはこれほどの圧力は感じなかった、あの時メフィはそこまで本気ではなかったと言っていたが、どうやらあながちウソでもなさそうだ


そして今自分がこうして前に出られるのは、以前より少しは成長したという事なのだろうか


「どうやらこの連中は、悪魔がどのようなものであるかも知らずに召喚を行ったようです、恐らく見返りの類は用意していないかと・・・」


「・・・そうか・・・ところで、その口ぶりだと君は悪魔がどのようなものであるかを知っているようだね?」


「・・・えぇ、先程言った外で戦っている私たちの仲間は、悪魔の契約者ですから」


鏡花の言葉にふぅんと呟いたカイムは外の方に意識を向け始める、恐らく気配を探っているのだろう、数瞬目を瞑るとゆっくりとその瞳を開いて頷いて見せる


「なるほど、確かに同族の感覚がするね・・・道理で君たちはこの状況でも私と相対していられるわけだ」


「お褒めに預かり光栄です、ですが貴方の望むような対価は用意できるかどうか・・・この場にいるもののできる限りのことはするつもりですが・・・」


鏡花が周囲を見渡すと、ようやく何人かの人間は平静を取り戻し始めている様だったが、この状況にどうすればいいのか迷ってしまっている


中にはゆっくりとその場から離れようとしている者もいる、やはり自分たちで何とかするしかないようだ


いきなり呼び出されて何の用もなく帰れなんて言われれば腹が立つのも当然、足を運ばせたぶんくらいの対価を払うのもまた当然という風に思える、静希やメフィにそのあたりのことを聞いておくべきだったと鏡花は後悔していた


仮に聞いたとしても『人それぞれだから何とも言えないわねぇ』なんてことを言うメフィの姿が目に浮かぶ、こんな状況になって何も考えていない軍や研究者も大概だが、悪魔に関わって長い自分たちがこの程度のことも思いつかなかったのは痛手である


「君たちは今回の事には関わっておらず、どちらかといえば巻き込まれた立場みたいだね、ならば君たちから何か奪うという事はしない、それは筋違いだからね」


「ありがとうございます・・・ですがこの場の者に危害を与えるという事になると、私達としてはそれを防がなければいけない立場にあります、その点を考慮していただけるとありがたいです」


相手は圧倒的な強者、下手に出るしかないが、少なくとも静希がこの場に助けに入るまでの時間くらいは何としても稼ぐつもりだった


どうにかしてこの場の研究者たちを安全に退避させた上で交渉できればなおよかったのだが、そうそううまくはいかないものである


「君たちはなかなか苦労してきたようだね、この状況でも誰かを守ろうとする余裕があるなんて」


「そうですね・・・まぁ、それなりに」


先の言葉と鏡花の表情から彼女が何をしようとしているのか、何を考えているのかを把握したのか、カイムはクスクスと笑って見せる


鳥類の表情はさすがに読み取れなかったが、その声音が少しだけ柔らかくなっているのを鏡花は感じていた


「・・・良い目をしている、何があってもこの場は凌ぐという覚悟がある目だ」


「・・・褒められていると思っていいのでしょうか」


「もちろん、そう言う目ができる人間は稀だ、なかなかに興味深い」


鏡花の視線から、彼女がどんな手を使ってでもこの場をしのいで見せるという覚悟を感じ取ったのか、カイムは再び笑う、その笑みは面白いものを見つけた子供のそれを彷彿とさせた


その視線は鏡花だけではなく、その前に立ちふさがる陽太にも注がれている


敵意こそ向けられていないものの、こちらが動けばすぐに対応できるように警戒しているのが一目でわかる、そして何があっても鏡花を守るという態度がその全身から見て取れた


「そうだな・・・では呼び出した対価をいただこう・・・君たちに協力をお願いしたいが、構わないかな?」


「・・・私たちにできる事であれば」


カイムの言葉、一言一句を聞きのがさないようにしながら、飛び立とうとするその姿を注視する、何をしてきても反応できるように、何を言ってきても思考をとぎらせないように


「この周りにある機材、恐らく召喚した時の状況を記録しているものもあるだろう、それらをすべて破壊してもらいたい、記録に残るのはいやなんだ」


カイムの言葉に一番大きく反応したのはこの実験を行っていた研究者たちだった、時間をかけて行った実験の結果をすべて破棄しろと言われているようなものだ


「ま、待ってくれ!この実験を行うのにどれだけ時間をかけたと」


「それだけでよいのですか?その程度でよければこちらとしてはありがたいのですが」


ハインリヒの言葉を遮って鏡花が聞き返すと、カイムは満足そうにうなずいて見せる


通訳の人を呼んでこれからいう事を伝えるべく、鏡花は視線を鋭くする


「ミスター、今の状況をわかりやすく説明させていただきます、この悪魔は私達に機材全ての破壊を求めました、それが彼を召喚した対価です、それが破られた場合命の保証はありません、破壊するか、死ぬか、どちらかの選択肢です」


通訳の言葉を受けてハインリヒは歯噛みしながら近くにいるモーリスを呼んだ、どうにかしろと言っていることだけは通訳を通じて鏡花も理解することができたが、状況を理解していない人間ばかりだと嫌気がさしてくる


今自分たちは、カイムに殺されるか、見逃してもらうかというどちらかの選択肢しかないのだ


時間をかければもしかしたら静希が問題を解決してここにやってくるかもしれないが、その可能性は低いだろう、あっちも悪魔を相手にしているのだ、希望的観測は捨てるべきだ


「もう一度言います、死にますか?機材を破壊しますか?もちろん私たちとしても最善を尽くします、あなたたちをここから逃がす程度のことはして見せますが、どちらにせよ機材は破壊されるでしょう、賢明な判断をお願いします」


召喚が無事行われた時点で、鏡花たちはすでに目的の半分以上をこなしている、彼らの身を守るのはいわばアフターサービスのようなものだ


さすがに死なせるわけにはいかない、召喚を行った結果死んでしまったのでは無事に終わったとは言えないというのもある、何より死なせたとあっては寝つきが悪くなるのは目に見えている


悪魔は敵に回さない、今鏡花がやろうとしているのはそういう事だ、何事も穏便に話を進めるのが一番である


「やはり状況を理解している人間が一人でもいると交渉が楽だな・・・彼らはどうするかな?」


「・・・こちらとしては機材の破壊を提案しますが・・・彼らにとってもこの実験はかなり重要なものだったようです・・・とはいえ命と秤にかけた時どうなるかは彼ら次第でしょう」


この場の責任者である両名からの許可がない限り、この場に護衛としている鏡花たちに行動することはできない、だが鏡花の勘が告げている、いや鏡花だけではなく、悪魔と対峙したことのある陽太も感じていた


こいつを敵に回してはいけない


今は紳士的な対応をしているが、こちらが交渉を破棄した時、確実にその力を存分に振ってくるだろう、そうなれば自分たちにできるのは戦闘などではなく、ただの逃走だけだ


「ここから彼らを逃がす程度はできると言ったね、それは容易かな?」


「いいえ、かなりギリギリです、そうなった場合外にいる私たちの仲間にも救援を要請しないと難しいでしょう、最悪私たちの誰かが瀕死の重傷を負う可能性もあります」


鏡花はこの場でブラフなどを使う事なく、真摯に悪魔と対応していた、嘘は一つもついていない


こちらが誠実な対応をしているという事が相手に伝われば、少しでも交渉できると感じたためだ


この場にいる全員を逃がせる可能性はほんのわずかだ、多くの場合、逃がせたとしても半数といったところだろう


だが陽太がカイムを押さえつけ、鏡花が能力で強制的にこの場から全員を押し出す形で外へ放り出す程度のことはできる


相手の能力にもよるが、自分たちの被害を考えなくていいのであれば、不可能ではない


「悪魔の力を恐れながら、なおかつ最善を尽くそうとしている・・・なるほど、君たちは良い能力者のようだ」


「どうも・・・ですがまだまだ未熟な学生です、そこまで良い能力者といえるかどうかは怪しいところですね」


そんな話をしながら責任者二人の話がまとまるのを待っている間も、鏡花も陽太も警戒を怠っていない、いつカイムが飽きて攻撃を始めてもいいように集中状態だけは切らさないように深呼吸を持続している


そんな様子を楽しそうに見つめている悪魔、どうやら鏡花と陽太に対する心象は悪くないようだが、これがどういう結果になるか二人は判断できずにいた


「ミスシミズ、君たちの力でどうにかならないのか?この研究を破棄するのは我々としては望まない、ミスターイガラシを呼べばなんとか」


モーリスの言葉を通訳から間接的に聞いたことで鏡花は額に手を当ててあきれ返ってしまっていた


彼らとしても苦労して召喚実験を行っていたのは知っている、そのデータを守りたいという気持ちも十分理解できる、だがこの状況においてまだそんなことを言っているのかと鏡花はため息をつく


「少佐、貴方たちの理屈は十分に理解しています、ですが我々はただの能力者、静希も言っていたと思いますが私たちにできるのはあくまで時間稼ぎです、何よりこの場に静希がやってきて戦闘を始めたら、この研究所は無くなりますよ?」


研究所が無くなる、それは比喩でも何でもない、物理的に消滅する可能性があるという事だ、嘘は何一つ言っていない、なのにこの大人たちは未だに状況を理解していないのだ


存在だけでは悪魔の力を自覚できないというのは仕方のないことだが、自分たちの呼び出した者が一体どれほどのものなのか理解していない、これ程恐ろしい状況はないだろう


「悪魔と我々の力の差をわかりやすく教えましょう、水鉄砲を持った子供が我々人間、主力戦車に乗っているのが悪魔です、この差がわかりますか?水鉄砲をいくら用意したところで戦車には勝てないでしょう?」


呆れがやがて苛立ちになってきたのか、鏡花はわずかに声をあげてモーリスに怒鳴る、現状を把握していない大人に少しでもこの状況を正しく伝えたいのに、実際に体験していない彼らはそれを理解できない


いっそのことカイムに能力を使わせてその恐怖を教えたほうが良いのではないかとさえ思えてくる始末である


「自殺したいというのであれば私は止めません、ですがこの場でデータを守って死ぬよりも、また実験を行い、今度はしっかりと対価を用意するか、対価を必要とせず応じてくれる悪魔を召喚するかすればいいだけでしょう」


鏡花の言葉に少しではあるが二人の意見もぶれてきている様だった、もう少し押す必要がある、鏡花は眉間にしわを寄せながら舌打ちして見せる


「静希のいう事は正しかったようです、悪魔相手に戦ったことがない人間に対悪魔の指揮ができるはずもなかった・・・ここで部下も研究者も無駄死にさせる様なら、貴方は無能な指揮官だ、そのことをよく理解したうえで返答してください、死ぬか、機材を破壊するか」


静希の真似をするようで嫌だったが、もうこうなったら多少強引にでもモーリスの首を縦に振らせるしかない、この状況を正しく理解しているのは自分たちだけなのだ、自分たちがどうにかするしかない


でなければ、最悪全滅だ


自分たちの身を邪薙が守ってくれているとはいえ、邪薙が作る障壁は悪魔の攻撃に対して防げて数発という事だった、防いで回避するなんてことが何回も通じる相手とは思えない


鏡花は今までの会話や態度から、この悪魔カイムがメフィと違い物事を理屈で解決できるタイプの存在であることを感じ取っていた、もしかしたらメフィにもできるかもしれないが、そんなことは今は後回しである


この判断の如何によって、自分たちが窮地に立たされるか否かが決定するのだ


「・・・わかった、機材を破壊しよう」


「正気か少佐!これまでの苦労を!」


その言葉を確認すると同時に、鏡花は陽太と視線を合わせたあと地面を足で叩く


瞬間、カイムの出てきた召喚陣の周囲にあった機材を掴むように地面が変化し、一点に集めていく


「英断感謝します・・・陽太、集中はできてるわね?」


「オーライだ!」


一カ所に集められた機材を確認した後、陽太はその体を炎で包んでいき、右腕に巨大な槍を作り出していく


鏡花が足元に鉄柱を作り出すと、陽太は何も言わずにその鉄柱を手に取って槍で包み込んでいく


かつて巨大な門を破壊した攻城兵器、その称号に偽りなしといったところか

鏡花自身も自らの能力で圧力を加えていき、機材が悲鳴を上げていくが、そこにさらに追い打ちをかけようとしているのだ、近くにいる研究員はすでに離れているが、唯一ハインリヒだけが機材を破壊されるのを防ごうとその場に向かう、だがすぐにモーリスによって取り押さえられ、その場から強制的に退避させられていた


「木端微塵にしなさい」


「アイアイマム!」


鏡花の命令に従い、陽太がまとめられている機材に自らの槍を叩き込んでいく


強烈な衝撃と熱に晒され、機材は原形を亡くしていく


「どうする鏡花?爆発させるか?」


「その必要はないわ、熱で完全に破壊しなさい、周りへの被害がないようにね」


鏡花の指示に陽太は了解と軽く答え槍へと炎を集めていく


破壊された機材はさらに陽太の熱に晒されることでその形を維持できなくなったのか、赤く変色しながら融解していった


「・・・ところで、こうしてしっかりと破壊してはいますが、貴方はこの後どうするつもりですか?」


「ん・・・そうだな、せっかくこちらに来たのだ、少し世界を見て回るさ・・・なに人間社会に危害を加えないように注意はするよ」


とりあえずこの場から離れてくれるのかと鏡花は安心してはいるが、問題を先送りにしているような気がしてならない


自分たちが関わらなければそれでいいのだが、さすがに面倒をよそに押し付けているような気がするのだ


「終わったぞ、もう原型ないな」


陽太の言う通り、鏡花が固定を解除するとそこには金属の塊がそこにあった、周りに使われていたプラスチックやらビニールやらも燃えてしまったのだろう、あたりに異臭が漂っているが、鏡花は即座にそれらを構造変換で通常の空気へと変えていく


もはや機械として正しい動作をすることは二度とないだろうただの歪な塊を見てハインリヒは大きく肩を落としていた


陽太は右腕の炎を徐々に分散させながら槍を消していき、最終的に能力を解除して見せる、もはや槍の扱いに関しては完璧というにふさわしい状態である


「確かに、対価は受け取った、この件に関しては私はもう何も言わないことにしよう」


「感謝します、こちらとしてもありがたい限りです」


悪魔が敵にならなかったという事が何よりも鏡花たちにとってはありがたかった、もしカイムが敵になっていたらと思うとぞっとする


無駄な戦闘は省くことができただろうと鏡花は安堵するが、まだ状況は終了していない、悪魔の脅威をすべて払うことができて初めて終了というべきなのだ


「それでは私はもう行くとしよう、この場にいては君たちに緊張を強いることになるからな」


こちらの心境を察してか、カイムは羽ばたこうとするが、それをモーリスの声が止めて見せた


「待ってくれ!我々と契約するつもりはないか!?相応の対価は支払う!」


通訳を通してその言葉の意味を知った鏡花は僅かに眉をひそめた、こういう構想があることは予想していたが、まさかこの場で堂々と行うとは思っていなかった、もっとも悪魔自身が去ろうとしている状況では今この時しか交渉する場がないのも事実である


モーリスの言葉にカイムはわずかに機嫌を悪くしたのか、その瞳を鋭くし僅かに殺気を放ちながら口を開いて見せる


「私が現れた時、声を出すこともできずにいた者たちと契約するほど私は安くはない、身の程を知れ人間、この場で私が契約してもいいと思えた者は三人しかいない・・・その中にお前たちは入っていないのだ」


カイムがそう言いながら視線を移していく、鏡花に、陽太に、そして鏡花があえて紹介しなかった、先程からずっと静希に対してナビを続けている明利に


この場で唯一、悪魔の存在に対して対応でき、また悪魔の存在を意に介さなかった人間達


カイムの言葉にモーリスは悔しそうに歯噛みしながら握り拳を作って見せる、そしてその様子を見てから再び羽ばたこうとする前に、カイムは鏡花に目を向ける


「シミズキョーカ、ヒビキヨータ、君たちに会えたのは僥倖だった、またいずれ会える時が来ることを願うよ」


その言葉に、それと一つ助言をしておこうと付け足してカイムは顔を上げどこかを見るような目を向けた後に再び鏡花たちを見る


「君たちの仲間が戦っていると言っていたな、ならば早めに助けに行ってやった方がいいかもしれない、苦戦しているようだ」


鏡花たちが目を見開くのを確認してからカイムはその羽をはばたかせ、天井などないかとでもいうかのようにすり抜けてその場から去って行った



悪魔がいなくなったことで鏡花たちは緊張から解放されたが、最後にカイムが残した言葉が気がかりだった


鏡花と陽太はすぐさま通信し続けている明利の元へと状況を確認しようと駆けだす


「静希!聞こえる!?状況を報告して!」


無線の向こう側にいる静希に声を飛ばすと、何度かのノイズの後に咳き込む声と一緒に静希の呼吸音が聞こえてくる


『あー、そんなにでかい声出さなくても聞こえてるよ・・・そっちはうまくいったみたいだな、無事で何よりだ』


「あんたの方は?必要ならフォローに行くけど」


『・・・そうだな・・・ちょっと俺だけじゃ抑えられないかもしれない・・・正直予知系統を侮ってた・・・銃だけでここまでやるとはな』


静希は悪態をつきながらため息をついて見せる


鏡花の場所から数キロ離れた場所、市街地の一角で静希は眉間にしわを寄せながらため息をついていた


彼の衣服にはわずかに血が滲んでいる、銃弾を数発掠めたのだが今この状態でため息をつきたいのは静希の負傷具合ではない


静希の周りには、市街地のあちこちにはカロラインの放った銃弾が命中した部隊の人間であふれていた、それも全員足や肩などの戦闘行動が不可能になる程度の負傷ばかり、手を抜かれているのは明らかである


予知によって相手の動きがわかるのであれば、どのタイミングでどの場所に撃てば当たるかがわかるのだ、いくら能力者といえど、銃弾が放たれてから反応できるのは感覚を強化できるタイプの強化系統くらいのものである


彼女が行っているのは実にシンプル、逃げながらの各個撃破、市街地において視界の狭い状態は相手にもこちらにも不利だ、静希はそこを明利の索敵によってカバーしているがカロラインは予知によってそれをカバーしている


ただし、この辺りに展開している部隊はその限りではない、いくら明利の索敵を翻訳した後で伝えようとも微妙に誤差が生じてしまう、その誤差は銃弾を放ち、着弾するには余りあるほどのタイムラグとなっている


特に一時的にではあるがモーリスが指揮できない状況に陥ったのが痛かった、指揮が乱れ現場の状況判断だけで動いたため、予知できる人間の行動力は軍のそれよりもはるかに上になってしまったのだ


数で勝っていても、ゲリラ戦法による不意打ちを駆使されてはただの案山子同然である


総力戦をする気などさらさらない、いわば強制的に一対一の状態に、しかもほぼ一方的な不意打ちの形に持ち込んでいる、予知系統の本領を発揮していると言っていいだろう


「とりあえずこっちに来てくれればありがたいけど、明利のナビを聞きのがすなよ、最悪狙撃されるぞ」


『そんなに精度良いの?わかったわ、気を付けてね』


鏡花との通信を切った後で静希は再度集中を高めていく


戦闘による集中状態が続いたおかげか、静希は近くにいるカロラインから確かな悪魔の気配を感じ取っていた


彼女の中に悪魔はいる、その確信を静希は得た


だがそうすると、彼女は悪魔の力を借りずに戦っているという事になる、銃だけでこの場をやり過ごすつもりだろうか


すでに悪魔の召喚が終わった今、彼女にとってこの場で戦闘を続ける理由とは何か


それを把握するためにも、少々アクションをかけてみる必要がありそうだった


『・・・メフィ、一度アタックをかけるぞ』


『あら、ようやく重い腰上げる気になったのね?』


今までトラップの設置と相手の行動の把握に努めていた静希は負傷はほとんどなく、準備は万端な状態を維持していた、なにせいつ研究所から悪魔がやってくるかわからない状態だったのだ、戦力の維持は最低限しておくべきだったのだ


そして鏡花たちが悪魔とうまく対応した今、この戦力はすべてカロラインにぶつけることができる


『一斉攻撃をする中で一回だけお前に攻撃してほしいんだ』


『私に?もう決着付けるつもりなわけ?』


メフィの言葉に静希はいいやと否定する、相手の行動を知るため、そしてある程度行動を操作するために必要な行動をとるつもりだった


『一発は殴られたと感じる程度の弱い一撃で構わない、俺が弾幕を張るからお前は避けられないポイントに攻撃してくれ』


『むむむ・・・また難しいこと言ってくれるわね・・・まぁいいわ、最低威力で打ち抜けばいいわけね』


頼むよといった後で静希は視線を鋭くする


相手が何を考えているのか、何を目的としているのかはいまだ不明だ、だが戦場においてどのような行動をとるかはある程度予測できる


今相手が行っているのは各個撃破、そして逃走する気配がないことを考えるとこの場所、あるいはこの周辺に目的があるとみていいだろう


明利の報告によるとエドが潜伏している近くではカロラインの弟のフリッツが相変わらず部隊に足止めされているとのことだった


この場から逃げるつもりはない、そうなれば手はいくらでもある


その中でも一番手っ取り早く、なおかつ有効的な手を静希はするつもりだった


「さて、どこまで見えてるか、確認しようか」


避けられるものなら避けてみろ、そう笑いながら静希は自らの射撃でカロラインを目標ポイントまで追い詰めていった


誤字報告十件分、累計pv14,000,000、ブックマーク登録件数2900突破で合計5回分投稿


反応が遅れ本当に申し訳ありませんでした、まだちょっと忙しいですがとりあえず予約地獄からは抜けられたかと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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