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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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分散

子供たちの侵入が続く中、静希は相手の行動のさらに先を読もうと思考を進めていた


相手が子供を使って軍の動きを攪乱し、対応できる人間を減らそうとしているという事は、少なくとも目的はこの内部への侵入であることが理解できる

その方法が正面突破か、それとも隠密潜入かは不明だが、一般人が多い今いつ行動を起こしても不思議はない


『静希?聞こえてるわね?どうするのこの状況、これ明らかに陽動でしょ?』


明利が各所へ報告を続けている中、鏡花が静希に通信を向けてくる、鏡花もどうやらこの行動がただの報道関係者の侵入ではないことに気付いたようだ


「あぁ、しかもかなり面倒な方法だよ、こっちに攻撃することもさせることなく自分の戦力も削ることなく、こっちの戦力を上手く分散させてきてる、少佐はどう判断してる?」


『向こうも薄々だけど勘付いてるでしょうね、軍の一部の人間を侵入してきた子供たちに当てて、内側に戦力を集めてる、いくつかの防衛ラインを築く様に指示してるわ』


鏡花の言葉に静希は口元に手を当てて思考を始める


つまり、この警戒区域内をいくつかの層に区切って行動するつもりなのだ、一番外側の層は外側から内部への侵入に対応する部隊を配置、そして警戒区域の内側の層は武力をもってでしか侵入できないような実働部隊を配置するつもりだろう


だがここまで早急な反応ができたとは考えにくい


「その考えっていうか案、もしかしなくてもお前がアドバイスしたのか?」


『あら、わかる?ちょっとは見直したかしら?』


鏡花は静希とほぼ同じ状況をこなしてきた、それなりに面倒事への対処法を理解している、特に静希がとりたいと思う様な事に関して先読みすることくらいなら簡単だ、こういう時に自分以外に考える人間がいるというのは本当にありがたく思える


『で?そっちはどうするの?相手が戦力を分散しようとしてるなら、こっちに来る可能性高くなってるってことでしょ?』


「あぁ、一時接触までは軍に任せる、そこから先が俺らの仕事だ・・・ちなみに鏡花、お前はこの状況どう思う?」


せっかく自分以外に考えが回る人間がいるのだ、意見を聞いておいて損はない


幸いにして鏡花は現在そこまで警戒するような状況ではない上にいざとなれば邪薙がその身を守ってくれる、少し会話するにはおあつらえ向きな状況だ


『どう思うって聞かれると返答に困るけど・・・こういう手を使って来たってことは戦力を分散させる必要があったってことじゃない?あるいは戦力を分散させようとしているってこっちに思わせることが目的だとか』


戦力を分散させる必要がある、あるいはそうしようとしていると思わせる


可能性としてはどちらもあり得る、ただそうなると静希が考えつくのは前者の場合のみだ


後者の場合、何故そのようなことを思わせようとしているのかがわからない、分散させようとしていると看破させ何をさせようとしているのかそこがわからないのだ


前者ならただ単に潜入したいから、あるいは無意味な戦闘を避けられるかもしれないからというメリットを思いつくことができる


『またはあれじゃない?こっちの動きを探るためじゃない?相手だって何の策もなしに突っ込んで来ようとは思わないでしょ』


「・・・まぁそれもあるかもな・・・こういう手を使われると厄介だな」


『普段はあんたが使うような手なんだから文句言わないの』


鏡花の言葉に静希は苦笑してしまう


彼女の言う通り、こういう搦め手は普段静希が使うような手だ、相手の意識の外側から切り崩していく、時には派手な行動もするが、基本はそこに尽きる


今までは攻めに回ることが多かった静希だが、今回は守る立場だ、一体どのように相手が動くのかを予想して先の一手を打たなければいけない


相手が愚直に突っ込んでくれるのであればそれもよかったのだが、生憎と今回の相手は随分と頭が回るようだった


しっかりと思考して戦うような相手を敵に回すのはテオドール以来だろうか、そんなことを考えながら静希は無線の向こう側で次々指示を送っている明利の言葉に耳を傾ける


現在位置から、囮役である子供が侵入してくる経路を確認し、それを元に相手が何をさせようとしているか、そして何をしたいのかを予想していく


子供の侵入は主に市街地から行われている、建物の少ない平坦区間からは全くやってきていないことからそちらが手薄になっているかと思ったのだが、どうやら軍の方はそれを読んで均等に部隊を配置している様だった


後方を軍が押さえてくれるなら静希が思考を進めるのは別の場所だ、相手が何をさせたいのか、子供を使って行う陽動、趣味がいいとは言えないが有効な策であるのもまた事実


時間は刻々と進んでいる、部隊の配置はもう済んだのだろうが、子供の侵入は未だまばらながら続いている、そろそろ協力者も尽きてきたのか、明利の索敵報告がやや少なくなり始めてきた


『静希、もうすぐ九時半だけどそっちに変化はある?』


「今のところないな・・・一般人の数がかなり少なくなってきたくらいだ」


静希の視界の中に見られる一般人はかなりその数を減らしていた、部隊の人間が家を一軒一軒確認しているが、あと十分もすれば確認も終わり、この区間から一般人は完全にいなくなるだろう


そろそろだな


静希と鏡花が同時にそんなことを考えていると静希のいる場所にも届くほどの轟音が響き渡った


音の方角を確認するとそこには土煙が上がっている


あの方角は明利の報告でつい先ほど軍の人間が向かった方向だった


土煙が上がった地点では、子供が立っていた、歳の程は十に届くか届かないかほどだろうか、身長も低く、白い肌が覗きその顔にはエルフの証である仮面が装着されていた


ただその仮面は半分が壊れ、顔の半分をのぞくことができていた


『静希君!子供が軍の人を攻撃!能力者です!』


「了解、位置情報を頼む、見える場所まで移動する」


接触する必要はなくとも一度見ておく必要がある、何より子供が攻撃したというのはまだどういう事なのか判断できなかったのだ


依頼された子供が逆上したのか、それとも近くに契約者がいるのか


フィアをトランプから取り出し能力を発動させ明利の指示する地点まで高速で移動する


その場にいた監視役の軍人など簡単に引きはがし、静希は物の一分程度で現場を見ることができる場所に到着した


土煙が上がる中、静希は双眼鏡でその現場を確認することができた


その少年が装着している仮面を見て静希は理解した、そしてこの子供を使った陽動がどういう意味を持っているのかの一部を理解した


子供に紛れさせて、侵入、先制攻撃をかける


今まで静希はカロラインとその悪魔にしか注目していなかった、弟も一緒に来ているであろうことは予想していたが、まさか戦闘にまで参加させるとは


だがその姿とその仮面は、静希が資料で見たカロラインの弟のフリッツで間違いない


「明利、あいつの近くに仲間らしい人影はあるか?」


『確認できません、近くにいるのは軍の人だけのようです』


単身でこの場にやってきている、それが作戦の上でなのかそれとも何も考えずに突っ込んだ結果か


否、これほどまでに軍をかき乱すような行動をとっているような人物が何も考えずに行動しているはずがない


断続的に上がる衝撃音と土煙を確認しながら、静希は少しずつ相手の状態を確認しようとしていた


「明利、今戦闘している相手を目標2とする、あいつの動きに注意してくれ、軍には最低限の戦力で牽制しながら様子をうかがうように伝えろ、勝つ戦いをしなくていい、相手の動向を探れと」


『了解、目標2を敵対勢力と認識します、近くの部隊に攻撃よりも様子見を優先するようにお願いしますね』


相手の出方をうかがう以上、こちらが無駄に戦力を削がれるわけにはいかない、使える手は何でも使って相手の動向をうかがうのが良策だ


もっともカロラインの弟であるフリッツの中に悪魔がいた場合、静希が動かなくてはいけなくなるため、それが判明するまで静希自身もここから動くことはできない


静希の存在を確認したうえでの行動だとすれば、これほど厄介な手はない、もしこの状態で相手が突っ込んできた場合、静希は両方に気を配らなくてはならないのだから


先制攻撃だけではなく、主戦力であり隠し玉でもある静希を釘付けにすること、今のところ相手の思う通りになっているのかもしれないが、こちらとて黙ってその策略に乗ってやるつもりはない


静希の目的は今のところ専守防衛、一定以上侵入させなければいいのだ


たとえ相手がエルフとはいえ洗練された能力者の軍人の部隊が『勝とうとしない戦い方』をした時に無傷で突破できるとは思えなかった


特に相手はまだ子供、実力差を考えれば人数で押しつぶすこともできるだろうが静希はあえてそれをさせなかった


勝とうとする戦いをすれば、当然危険度が高く、隙の大きい攻撃を必要とするだろうが、相手を殺すつもりではなく牽制を目的とした攻撃をすればこちらも戦力を保持でき相手もその場に釘付けにできる


場が硬直すれば相手は更なる一手を用意してくるだろう、手を出させて動きを把握できたなら御の字だ、こちらからすれば接触する機会は増える


明利の指示か、それともモーリスがそのように計ったのか、十人に届くか届かないか程度の小規模な部隊がその場にやってきて攻撃を開始する


指示通り、狙いを定めない面状の攻撃だ、相手に攻撃させる隙を与えない、徹底的な牽制攻撃、数の利を上手くいかせている、これなら相手が強力な能力を放っても対応できるだろう


静希がやっているのは、相手の手札を一つ一つつぶしていくことだ、こちらの方が手札で勝っている、だからこそ相手の切る手札を、一つ一つ確実に対処していく


詰将棋とは少し違うかもしれないが、相手の行動に対して確実に対処していくのが静希の強みでもある


相手が行ってきたのは近隣の子供を使った陽動と、その陽動を逆手にとった先制攻撃


この二つで外周部の部隊は拡散し、一部の負傷者が出た、だが内部にいる部隊はむしろ堅牢な構えをとっている、相手の行動に対しほぼ最適な行動はとれていると思える


だが逆に言えば、警戒区域の内側までなら容易に侵入できてしまう状況を作らされたともとれる


「明利、外から侵入してくる子供たちはまだいるのか?」


『いいえ、現在逃げている子以降やってきていません、逃げている子を確保すればそれで一般人はいなくなります』


外からの侵入が無くなったという事は、つまり協力してくれている子供たちはすでに確保されてしまったという事だろう


相手の潰した手札に対して、こちらが支払った代価は多少大きい、相手は無関係な人間を使っているのだから当然ともいえるだろう


だがその支払いももうすぐ終わる、子供を確保し、侵入できないようにしておけば今外側で行動している軍の人間は防衛に当てられる、侵入している弟のフリッツに関してもこのまま包囲してしまえばいいだけだ、数の暴力とはよく言ったものである




月曜日なので二回分投稿

引き続き予約以下略、さすがにこれだけ予約投稿したのは初めてですね・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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