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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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悪人、善人

「それだけ聞くと俺凄い悪人ですね、完全に捨て駒扱いじゃないですか」


「もとよりお前は善人ではないだろう、そもそも軍人は一般市民より前に出てその身を盾にするのも仕事の内だ、お前は一応一般市民だからな」


一応という部分に少々含みがあるのに気付くが、静希は苦笑する事しかできずにいた


城島の言うように静希は基本善人ではない、誰かを助けるのにだって損得勘定がからむし、無償で誰かを助けるという事などほとんどしない人間である


仮にするとしてもそれは目的を達成する過程で偶然救う形になったというだけだ、例えばエドがその典型である、事件解決の過程で彼を助けることが必須になったというだけで静希自身エドを助けたくて助けたわけではない


そしてこれも城島の言う通り静希自身、立場は複雑であれど一応は一般市民だ


能力者で悪魔の契約者という肩書はあるが、それでも学生であるという事実は変わらない


その為城島の言うような事も間違いではないのだ


軍人は市民を守るために存在する、それは外国であるフランスでも間違いではない


この国の市民ではない静希でも、一応はただの学生だ、進んで前に出るような義務はないのである


「カロライン本人と弟、どう動くかも考え物だけど・・・他に戦力がある可能性はあるか?」


「・・・他に・・・か・・・相手の立場を考えれば難しいだろうが・・・」


カロラインは現在犯罪者としてマークされている、そんな人間が余分な戦力を確保できるかは怪しいところである


もちろん銃器の類は所持しているとみてまず間違いないだろうが、武器と人員は戦力という項目では全く別の意味を持つ


無論武器は必要不可欠だ、装備というのは戦力を大幅に変えることだってできる立派な戦的要因の一つである


だが武装より大事なのはそれを装備できる人員の数である


仮に拳銃を持った人間が十人と剣を持った人間が百人いたとして、その両雄が衝突したときどちらが勝つか


状況にもよるが、勝つのは大体数の多い方だ、戦いにおいて最も重要なのは個々の実力や装備よりも、その数によって決まると言っていい


無論これは能力の介入がない場合の予想でしかない、だが今の例に挙げたくらいの違いがただの能力者とエルフの間にはある、そしてエルフと悪魔の契約者との間にある違いもまた同様だ


確認できている戦力はエルフが二人、そしてその一方は悪魔と思われる人外を引き連れていると考えていいだろう


対してこちらは能力者多数、悪魔の契約者二人という布陣だ、数でいえばまず間違いなく相手を圧倒できるかもしれない


だが先にあげた例の欠点が存在する、それは相手が勝利を求めなかった場合だ


先の例では相手をすべて殲滅するまで続けるのが条件となっているが、実戦の場合別に相手をすべて打倒しなくてもよいのだ


全ての相手と戦わずとも、自分の目的に必要な相手とだけ戦い、目的を遂げたら離脱する、そんな戦いも現実には存在する


「仮に予備戦力を整えた状態だったとしても、大した奴は呼び込めないだろう、せいぜい犯罪者か、質の悪い傭兵の類か・・・そのあたりの報告は上がっているのか?」


「いえ、テオドールからは何も、誰かと接触していたなどの連絡はありませんでした」


「だとすればこの辺りで細工をしているかもしれないね、こちらは陣地防衛の立場だけどホームグラウンドってわけじゃないし、あちらにとっても攻めにくい場所ではあると思うけど・・・」


入り組んだ地形というのはそれだけで活動しにくいものだ、移動速度も落ちるし自らがどの位置にいるのかを把握するのも難しくなってくる


潜入においてはむしろ好都合な状態であるのだが、相手が悪魔の契約者という立場を持っていることから真っ向からの正面突破で来る可能性が高い


無駄な戦闘をしないという意味では潜入という手もあるかもしれないが、明利の索敵網が完成した時点でその潜入は失敗に終わる、そうなった時はもはややることは一つ、力を使った強引な突破のみである


何もすべてを蹴散らす必要はない、自分の進行方向にいる敵だけを排除すれば移動はできる、そうやって進もうとする相手に対し、こちらも同等の戦力をぶつけて足止めをする、それが今回の静希の役割であり、目的でもある


実際に衝突すれば相手のことが少しはわかる、そして可能ならば制圧し、彼女から話を聞く、その先に、その背後に誰がいるのかを確認するべきだ


彼女の目的を確認するうえで非常に重要なことでもある、その先に静希達に辛酸をなめさせ続けてきたリチャード・ロゥがいるのなら最高の結果といえるかもしれない


あまり高望みをするつもりはないが、放っておくつもりもない


ようやく掴みかけた尻尾だ、切り離される前に確実に拘束することが求められる


静希もエドも、その考えに変わりはなかった


特にエドはその気持ちが強い、自分の友人が死ぬきっかけを作った人物だ、静希以上に今回の召喚実験における思い入れは強いだろう


気丈に振る舞ってはいるが、その雰囲気にわずかに棘のようなものを感じられる、その証拠に後ろにいるアイナとレイシャが甲斐甲斐しくエドに気づかいしているのだ


この精神状態が吉と出るか凶と出るかは静希にも分からない、エドは優秀だ、だが肝心な時に頭の回転が悪い時がある


感情的になることはなく、理性的な行動ができる人物ではあっても、もし万が一にも理性が失われるようなことがあった場合は


その時は静希が直接どうにかしなくてはならないだろう、一緒にいるヴァラファールも止めてくれるとは思うが、エドを犯罪者にするわけにはいかないのだ


「それじゃあ僕たちはこれで、明日は市街地の見回りをしているよ、みんなお休み」


そう言ってエドはアイナとレイシャを引き連れて軽くなった荷物を持ちながら部屋から出て行った


今後の方針を話し、互いに顔合わせも済み、エドの言っていた土産とやらも受け取った


帰らない理由はないのだが、エドが部屋を出て行く際にわずかな気負いのようなものを含んでいるのを静希は感じていた


今にして思えばエドは悪魔の契約者として活動をするのは今回が初めてだ、しかも近くには友人である静希もいる、さらに言えば今回のことは今まで関わってきた事件につながるかもしれないことだ、精神的に少し負荷がかかっていたとしても不思議はない


「メフィ、お前から見てエドとヴァラファールの状態はどうだった?」


「状態?まぁ悪くないんじゃない?ちょっとエドの方に不安定っぽいところはあったけど」


やはりメフィも感じ取っていたようだ、長年生きていただけあって、数多くの人間と契約したことがあるだけあって人の精神状態を見るのには事欠かないようだった


とはいえやはりエドは少し気負っているようだ、どうにかしてそれをほぐせればいいのだが


エドはもともとその能力からも分かるように戦闘が得意な人間ではない、どちらかといえば裏工作の方が得意な人種だ、そんな人間を前線に出すなどと、畑違いにもほどがある


とはいえエドと共にいるヴァラファールはそれを補って余りあるほどの戦力になる、それはかつて対峙した静希自身よくわかっていることだ


「エドモンドの配置は俺たちとほぼ同じだったよね?こっちでフォローしようか?」


大野の申し出に静希は考え込んでしまう


確かに大野と小岩はエドモンドと同じく警戒区域の外側に待機するのが初期配置だ、頑張ればフォローできない距離ではない、だが悪魔の戦闘に巻き込んでいいものか、少しだけ躊躇ってしまう


二人が優秀なのは理解している、でなければ町崎の推薦など得られるはずもない


だが悪魔が出てくる戦闘に関わらせるのは危険だ、かつてのエドとの戦闘で静希はそれを学んでいた


能力者として優秀だろうと、所詮はただの能力者、限界があるのだ


元より能力の出力も耐久力も違いすぎる、特にエドの連れている悪魔ヴァラファールは機動力にも優れている、あの速度についていくことすら普通の能力者には難しいだろう


「そこまで心配する必要はないんじゃないかしら、彼だってれっきとした契約者なんだから」


「・・・そうか?俺からすると、頼りになるけど・・・なんか頼りにならないというか・・・そんなイメージがあったけどなぁ」


大野の言葉にメフィはわかってないわねと呆れながらため息をつく


「私たち悪魔は、気まぐれで契約することはあっても、人がいいだけの人間と一緒にいるなんてことは絶対にないわ、加えてヴァラファールはあんななりだけど頭がいい、エドは仮にもあいつが選んだ契約者なのよ?あいつにしかわからない何かがあるのよ」


私にとってのシズキと同じようにねと付け加えながら静希の首に抱き着き、にこやかに笑って見せる


同じ悪魔の言葉だと、妙に説得力があるのはなぜだろうか


だが確かに、悪魔は長く生き続けている存在だ、たとえその契約が突発的で気まぐれでただの偶然だったとしても、つまらなければいつでもその契約を破棄することだってできるのだ


エドがヴァラファールと出会ってすでに半年以上が経過している、それでもなお彼がエドに付き従っているという事は、それだけの物がエドにはあるのだ


それは鏡花が感じた、カリスマかもしれない、または彼が考える一見無茶とも思えるような壮大な目標なのかもしれない


決してバカではない悪魔が彼に付き従う理由、思えば静希はエドとヴァラファールが正式に契約した時のことを何も知らないのだ


静希はメフィと実際に戦って、その結果幸か不幸か気に入られた、そして今もこうしてともにいる


だがエドはどのようにして契約したのだろうか、召喚されトラウマを刺激されたときに唐突に現れたエド、そしてエドを半ば無理矢理引き連れる形で脱出した悪魔


その後何があったのか、どのような会話があり、どのような意思疎通があったのかは静希は知らない、彼らにしかない共通の思いがあったという事なのだろうか


「それに彼にはちゃんとフォローしてくれる人がいるじゃない、ちょっと幼くて小さいけどね」


メフィの言葉に、静希はエドの後ろにいた幼い能力者二人を思い出す

エドに救われ、教えを受けている弟子二人


メフィにはエドを支え、フォローする存在としては十分に思えたのだ


「・・・お前って変なところでまともなこと言うよな」


「あら失礼ね、私は何時だってまともよ?」


思ってもないようなことを笑いながら言うメフィに、部屋の中にいる全員が苦笑する中、静希はホテルから出て行ったであろうエドを見送りながら目を細める


エドは大丈夫


自分が契約している悪魔がそう言うのだ、静希もそれを信じることにした

きっと自分の中で何かしらの折り合いをつけるだろう、そして自分の中で答えを出すだろう


エドはそれができる人間であると、そう思うことにした


静希達はその後各部屋に戻り明日に向けて休息をとることにした


召喚実験が行われるまで、あと三十七時間


月曜日なので二回分投稿


なお少々事情があって数日間家を空けることになりそうです、予約投稿はしておきますが反応が遅れてしまうことがあるかもしれません、ご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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