陽太の閃き
「そう言えばエド、昼に土産とかなんとか言ってたけど・・・どれのことだ?」
静希はエドの持ってきた荷物をざっと見渡す、大きなトランクが結び付けられいくつものカバンを鈴なりにつけているその様は少々異様だ
「あぁそう言えばすっかり忘れていたね、いくつかあるから好きなのを持って行ってくれて構わないよ」
そう言って一つずつカバンから取り出していくのだが、その中身は物騒なものばかりだった
銃に手榴弾に弾薬に刃物、それも多種多様、今回のことに関わるにあたりエドが用意した武装の限りだった
「また随分と・・・」
「すごい構図ね・・・」
静希はその武器の数々に驚き、鏡花はそれらを用意したエドの評価を少し改めていた
外国ならこのくらいは当たり前なのだろうかとも思えたが、さすがにそのレベルを越して余りある量の数の武器に、さすがに鏡花も引いてしまっている
「・・・生徒の前で危険物を取り扱うのは少々いただけないな、こちらとしても立場があるのだが?」
「あぁ、もちろん所有するための訓練を受けている人に限りさ、この中ではキョーカとヨータ以外の全員だろうけどね」
この中で銃の訓練をしていないのは、エドの言う通り鏡花と陽太だけだ、明利はよく静希と射撃訓練を行っており、銃の所有許可証も有している
大野と小岩は軍人であるが故にいうまでもなく、城島もかつて軍の特殊部隊にいたという事で何の問題もない
「とりあえずこれとこれと・・・あとこれももらってくぞ」
「どうぞどうぞ、用意した甲斐があるってものだよ」
静希がホイホイと武器の類を選別しているのを眺めながら、陽太は何かを考えている様だった
一体何を考えているのかはわからないが、とりあえず明利も用意された武器を眺めてみることにする
この中で彼女が使えそうなのは拳銃か、地面に置いて撃つタイプの狙撃銃くらいのものだ、ないよりはましだろうと明利は懐にしまっておけるような単発の小型の拳銃を手に取った
「明利・・・まさかそれ使うの?」
「使わないに越したことはないけど・・・一応の備えとして」
この中で銃の手ほどきを受けていない鏡花は、明利が銃を使うという事に少々抵抗があった
今まで銃の訓練をしていたというのは知っているし、夏休みには時折その姿を見ていた
だが訓練と実戦で使うことはまた意味が違うのだ、鏡花だけではなくそれは明利も十分理解している
前回の実習、あの奇形種であふれた動物園の中で明利は一度拳銃を持った、静希から借りた拳銃、それを握って索敵を行ったときその意味をわずかながら理解した
そして今度はそれを自ら行おうとしている
身を守るためなのだ、それも必要であることはわかってはいるが、鏡花は頭で理解できていても、納得することはできかねていた
「・・・こんなものに触るのは久しぶりだな・・・」
そう言いながら城島はいくつかの銃に手慣れた手つきで触れていく、かつてそれらを使ったことがあるのだろうか一つ一つの動作に無駄がないように思えた
「先生って銃も使ったんですか?大きな鈍器で戦うって聞いたんですけど」
「・・・そのほうが得意ではあるが・・・まぁあって困るものでもないだろう」
城島は一瞬小岩の方を睨んだ後でそう言いながらため息をつく
事実、銃はあって困ることはない、いざという時は攻撃手段にもなるし、大きな銃であれば盾にだってできる
しかも今回の城島達の行動からすると遠距離攻撃はあったほうがいいのだ、能力とは別のところで攻撃手段があるというのはそれだけで有利になれる点でもある
逆に言えば、相手も同じように銃を所持していると考えていいだろう
日本のように銃そのものが規制されているような国ならまだしも、ほとんどの外国では銃の取り扱いは平然と行われている、場所によってはホームセンターで銃を取り扱っているところもあるほどだ
「鏡花はあれだ、手榴弾とかナイフとか持っとけって、トラップとかに使い放題だぞ」
「相手が悪魔かもしれないのに通じるの?まぁ一応貰っておくけどさ・・・」
鏡花の能力を駆使すれば自らの能力の効果範囲内であればトラップは作り放題である
そう考えた時鏡花の能力と現代兵器との相性は非常にいい、なにせ現代兵器のほとんどは引き金や留め金などでその動作を制御しているのだ、鏡花の能力を持ってすれば遠距離での動作制御も何の問題もない
「喜んでくれているみたいで何よりだよ、用意するのはそれなりに骨が折れたけどね」
「こういうの一体どこから仕入れてくるんだか・・・まぁ助かってるからいいんだけどさ」
エドはいろんな国に足を運び、恐らくいろんな国でいろんな人と関わりコネを形成していっているのだろう、そう言う意味ではこの中で一番の重要人物といえるかもしれない
社会人として働くだけではなく悪魔の契約者としての土台も形成しているあたりさすがと言わざるを得ない、少々抜けているところもあるがそのくらいはご愛嬌だろう
「あぁそうそう、武器だけじゃなくて普通のお土産もあるんだよ、お菓子とか食べ物とか」
「・・・そっちを先に出した方が平和的に見えたかもな・・・いったいどこのだ?」
「さぁ?いろんなところに行ったからね、いちいち覚えていないさ」
爽やかにそう笑うエドだが、後ろのアイナとレイシャは額に手を当ててしまっている
この二人がいない状態でエドを放置したら一体どうなるのか、少し怖くなってしまう一瞬だった
「あぁそうだ!ようやく分かった!」
エドの振る舞ってくれたお菓子などを口に運ぶ中、糖分が入ったことで頭が回ったのか陽太が手を叩いて声をあげる
先程から何かを考えていたようだが、どうやらそれに対しての結論が出たようだった
一体何のことに考えていたのか知らないが、全員の視線が陽太の方へ向く
「なんだよ陽太、いきなり大声出して、暴発したらどうするつもりだ」
「あぁ・・・それについては悪い・・・ずっと引っかかってたことがあってそれがようやく分かったんだよ」
先程から何かを考えていたようだったが、それがどんな内容なのか、静希達は首を傾げ陽太の言葉を待っている
「静希が前言ってただろ?今回来てる奴は静希とエドモンドさんの間に召喚事件を起こした奴だって、だからそいつに話を聞くのが今回の目的だって」
「あぁ、言ったな、ついでに確保して逮捕しておけば万々歳だな、悪魔も取り上げておきたい」
もし召喚を行った犯人で、すでに契約が済んでいたとしても、トラウマを刺激することで悪魔の心臓に細工をした状態での契約であれば静希の能力を使ってその細工を取り除くことができる
そうなれば悪魔もわざわざカロラインに付き従う理由はなくなるのではないかと静希も思っていた
さすがに悪魔と複数契約できるかわからないため、その後の処遇は正直わかっていないが、今のところの予定としては陽太が言ったことで大筋間違いはない
「それで?それが何か問題があったか?」
「いや問題がって言うんじゃないけどさ、そのカロなんとかも静希達と同じように巻き込まれた側だったらどうするんだ?」
その言葉に鏡花ははぁ?と眉を顰め、明利や大野、小岩も首をかしげている
だがその中で静希、エド、城島は目を見開いていた、陽太の言葉の意味を理解したのである
「なるほど・・・その可能性は考えていなかったね・・・」
「でも殺されてたのはカロラインの家族でエルフだぞ?身内以外にそう易々と殺されるか?」
「不意打ちであればいかにエルフといえど人間と変わらん、不可能ではないと思うぞ」
陽太が示した可能性はつまり、カロラインが被害者であった場合の話だ
かつてエドモンドが犯人に仕立て上げられたように、カロラインも同じように犯人にされてしまったのではないかという話だ
エドモンドの時は静希が間に合い、解決したからこそ無事に無罪を獲得できたが、カロラインは誰も助けてくれなかったために犯人にされたという可能性がある
とはいえ不審な点もある、資料の中ではカロラインの家族の殺害現場を見たのは配達に来ていた男性、そしてその時に逃げる彼女を見たと記してあった
なぜそこで逃げる必要があったのか、被害者なのであれば逃げずに逆に助けを求めればよかったのではないか
殺されていたのが彼女の身内だったというのも問題の一つだ、エルフが第三者にあっさり殺されるとは思えなかったのだ、それこそ身内だったからこそ完全に油断していたからこそ殺せたという考えがあったのである
その資料があったからこそ、静希はカロラインが自分たちと同じ被害者の側であることを失念していたと言えるだろう
「逃げたのに関しては?何か理由があっての事か?」
「わからんな、理由はいくらでもあるかもしれんぞ?我々にはわかりようもないことかもしれん・・・だが可能性の一つとして考えておくべきだ」
「・・・一緒に弟も行動していると考えていいんだよね?この子はどうするべきだろうか・・・」
資料にもあった足りない死体、五人家族の中で見つかった死体は三つのみ、カロライン本人と、もう一つ彼女の弟の死体が見つかっていない
もしかしたら恐慌状態の中、弟を守るためにあの場から逃げたのかもしれないと考えながらも静希は状況が面倒になっていくのを感じていた
今回のことにカロラインが接触しようとしているのであれば、弟も一緒に来ている可能性が高い、少なくとも事前にテオドールに伺いを立てた時は二人分の移動手段を用意していると言っていた、恐らくすでにこの近辺に潜伏していると考えていいだろう
問題は今どこにいるのかと、何を目的にしているのかという事である
そして、静希はカロライン本人と対峙することが確定しているが、弟の方はどうするべきか
今のところは部隊の方に任せておこうと考えているのだが、幼いとはいえエルフだ、その能力の力は侮れない
それにもしカロラインではなく、弟の方が契約者だったら
そう考えると頭が痛い、こちらに二人悪魔の契約者がいることを差し引いても面倒なことこの上ない
相手は二人、しかも両方エルフ、さらに言えばどちらが悪魔の契約者でも不思議はないのだ、逆に二人とも静希達の敵にはなりえないことだってあり得る
陽太の閃きにより更なる可能性が生まれてしまったことで考えることが増えてしまった
新しい考えが生まれることは良いことなのだが、その分頭脳労働を仕事とする静希達の負担が増えるのは半ば必然だと言えるだろう
「警戒区域の中に踏み込んだら警告後に攻撃・・・たぶん軍はそうするだろうけど・・・」
「圧倒的に初動が遅すぎるな、有無を言わさずに攻撃してきたらひとたまりもない」
「第一接触は軍に任せ、その増援として駆けつけるのがベストな形だろうな、対話は組み伏せた後で行えばいい」
城島の言う通り、現段階で相手の出方がわからないようであれば出方をうかがえばいいだけだ、そしてその一番槍を軍にやらせればいいというだけの話である
しっかり活躍したいという思いが向こうにもあるのだ、存分に活躍してもらうのが一番だろう、もっともその活躍は捨て駒に近い形であるのは言うまでもない
静希としても可能なら使いたくない策ではあるが、自分の身と、見ず知らずの軍人たちの安全を比べた時に自分の方が大事なのは至極当然のことである
日曜日なので二回分投稿
・・・あれ?何かちょっと物足りないような気が・・・
これからもお楽しみいただければ幸いです




