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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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立場と慣れ

挨拶もそこそこに静希達は一度モーリスとハインリヒに別れを告げ、今いる研究所を一通り回ることにした


大きな実験を行える研究所というだけあってとても広く、地図を片手に動かなくては迷ってしまいそうなほどだった


「まったく・・・肝が冷えたわよさっきのやり取りは」


「悪かったって、でもいい具合に話を進められたな、さすが鏡花姐さん」


オルビアの簡易翻訳を切り、単純な日本語だけで会話することで周りになにを言っているのかわからなくさせ、万が一日本語ができる人が近くにいた場合のために小声でそう話す二人


変わっていく状況に即座に対応して相手の考えを読み、先回りして会話を構築するなんてことは誰にもできることではない


鏡花が天才と言われるのは何も能力だけの事ではない、単純な思考戦においても鏡花はたぐいまれなる才能を発揮するのだ


ほんの少しの助言だけであそこまで話を持って行ける人間はなかなかいない、本当にこの班に鏡花がいてよかったと思うばかりである


「でも静希君・・・私達だけ研究所の中にいるっていうのは・・・ちょっと・・・」


「そうだぜ、俺らだけ蚊帳の外かよ」


明利と陽太の言葉に静希は苦笑する、危険から遠ざけるという意味でも研究所に置いておきたかったというのもあるのだが、本当の理由はそこではない


「お前らには召喚の時変な動きをする奴がいないかだけ注意してほしいんだよ、悪魔を利用する奴が外部だけにいるとは限らないからな」


「あー・・・なるほどね、だからここに残らせるような事言ったんだ」


静希が本当に戦闘を行おうと思ったら単身だけではなく複数人数での連携を重視した策を用いるはずである、だが今回はそれをしない


もちろん三人の身を案じてという意味合いもあるのだが、これ以上面倒を増やさないためというのもある


悪魔の力は強大だ、その力を利用しようとする人間はいくらいても不思議はない、だからこそ静希は信頼できる人間にこの場を任せようとしているのだ


「でもそうすると私たちが危険じゃない?殺されるかもってことでしょ?」


「もちろん考えてあるよ、お前達には邪薙を付ける、万が一にも危険がないようにな」


「・・・静希君・・・それは・・・」


邪薙を付ける、それはつまり静希が有する防御手段を鏡花たちに渡すという事であり、静希の防御力の著しい低下をも意味する


これから悪魔の契約者とぶつかるかもしれないのに、自らを危険に晒すという行為に明利は静希を心配そうに見つめていた


そして心配しているのは明利だけではない、鏡花も陽太も少なからず思うところがあった


「・・・さすがに賛同できないわね、人間相手と悪魔相手、どっちが危険かはわかってるつもりよ、あんたにかかる負担が多すぎるわ」


「そうでもないさ、俺にはメフィもオルビアもフィアもいる、これだけいれば生き残るくらいはしてみせるよ、お前らの場合犯罪者予備軍と戦うかもしれないんだ、万全を期すならお前達の方に人員を割くべきなんだよ」


静希が懸念しているのはその予想通り悪魔と契約しようとトラウマの再現を行い心臓への細工を成功させた場合だ


もしそうなったらただでさえ少ない人員が減るうえに、相手にしなくてはならない悪魔の契約者が二人になることになる


無論二人を同時に相手どる必要はないかもしれないが、研究所の外と研究所の中、その二か所からの挟撃になってしまう事だってあり得る


これは最悪のケースだが、それを防ぐためにも召喚陣付近に人員を配置しておく必要があるのだ


鏡花の言っていることももちろん間違いではない、むしろ正しいと言える


相手が悪魔の契約者である以上、その危険度は並の能力者のそれとは一線を画す、そんな状況で自らの守りの要を譲渡するなど正気の沙汰ではない

だがだからこそ静希はそれをするのだ


自らが負う危険と、万が一に起こる最悪の事態を想定したとき、こうするのが最善だと静希は判断した、負担が増えるのは承知の上、それでも止めなくてはいけないこともあるのだ


「・・・はぁ・・・もう聞きそうにないわね」


「悪いな、今のところこれが最善手だ、その代り大野さんたちはこっちについてもらうから、それなら少しは安心だろ?」


安心できるはずないでしょと鏡花はため息をついて見せる、大野たちのことを信用していないわけではないが、それでも悪魔の前には無力に等しい


対抗するには同じような人外が必要不可欠なのだ、その程度のことは鏡花にだってわかる


「ならメフィに伝えておきなさい、死ぬ気で静希を守ること、でないと明利や雪奈さんが激怒するわよって」


「オーケー、伝えておくよ」


静希の言葉に反してすでにその言葉を聞いていたメフィはくすくすと笑う


『あらあら、ひょっとして責任重大な感じになってる?』


『そうだな、しっかり守ってくれよ?』


メフィは笑い、静希も笑う


この二人の独特な信頼関係を理解できるのは本人たちだけだろう、死ぬ気で守ると言うものではなく、守ることが当たり前の存在などそうそうないのだ、それが互いにそうであるというのが不思議な関係と言えるだろう


一通り研究所を回りながら明利の種を配置していき、研究所全体を明利の索敵下に置くと、静希達はとりあえず一度ホテルの方に戻ることにした


思ったよりも研究所が広く時間がかかってしまったのだ、すでに辺りは日が暮れ、暗くなり始めている


近くの軍人に頼んでホテルまで車を出してもらい、静希達が宿泊するホテルまで戻ってくると全員が一息つくことができた


「案外時間かかったわね・・・とりあえず一休みしたいわ・・・そろそろ眠気が限界だし・・・」


「時差の調整も楽じゃないな・・・それに腹減った・・・昼から何も食ってないしな・・・」


昼と言っても日本時間のそれであるためにもう十時間以上何も食べていない計算になる、眠気も襲い掛かっているというのに全員が空腹状態のためにあまりいいコンディションであるとはお世辞にも言えなかった


「まずは食事にしよう・・・それが終わったら軽くブリーフィングをする、それまでは我慢だな」


欠伸を噛み殺しながら静希達は部屋に手荷物を置いてからホテルの中にある食堂に向かう


そこにはすでに大野たちがいて夕食を楽しんでいた


「やぁ、もう今日の用事は済んだのかい?」


口に食べ物を含みながらそんなことを言っている大野に苦笑しながら静希達は彼らの近くの席に座り込む


「えぇ一応は、大野さんたちはどうでした?『フランス観光』は」


「ん・・・なかなかだったよ、あまり近くまではいけなかったけどしっかり見ることができた」


それは何よりと言いながら静希は給仕の人間に夕食のメニューを持ってこさせる、何が書いてあるのかほとんどわからないが、丁寧に写真がついているのが有難かった


「それはそうと、平井さんや荒川さんはどうです?今後のことについて考えはまとまりましたか?」


今回初めて静希と行動を共にする二人に話を振りながら静希達は次々と料理を注文していく、空腹であるために量が少し多いが、こういったホテルの料理は量が少なめに設定してあるためむしろこの程度で丁度いいのだ


そして話を振られた両者は複雑な表情をしながら視線を合わせる


「正直・・・まだ決めかねてるって感じだな・・・好き好んで面倒事に首を突っ込みたいわけじゃないし・・・」


「・・・そうね、私達だって命が惜しいし・・・」


今日一日で大野と小岩にいったい何を吹き込まれたのか、二人はあまり乗り気ではないようだった


それはそれで無理もないことだ、考えを強要するつもりはないし、彼らがそのつもりであるというのなら静希も無理にとは言わない


「わかりました、ではお二方は可能な限り作戦範囲外の地点での索敵に回ってもらいます、危険は少ないと思いますよ、大野さんと小岩さんはこの後軽いブリーフィングを行うので俺と陽太の部屋に来てください」


静希があっさり引き下がってくれたのが少し意外だったのか、平井と荒川は少し申し訳なさそうな表情をしている


自分たちを頼りにしてくれていたのだろうかという気持ちがないわけではない、期待に応えたいという気持ちも十分にあったがやはり優先順位は自らの安全が第一だ


危険を冒してまでだれかのために行動しようという気概は二人にはなかった

本来はこれが普通なのだ、誰かのために自らを犠牲にできる人間の方が稀なのである


「そっちの用件はどういう感じで終わったの?あんまりいい結果じゃないの?」


恐らくは一緒にいる鏡花たちの表情からそう判断したのだろうが、全員の表情が浮かないのは空腹と眠気によるものが大きい、もちろん鏡花はこれから先のことを憂いているという事もあるのだが、まず空腹と眠気が一番こたえているのだ


「そうでもありませんよ、とりあえず主導権は得られたかと・・・まぁ事が起こるまではお手並み拝見ですね、それまでは大人しくしてますよ」


今度は一体何をしたのだろうかと、以前の行動の一部を知っている二人からすれば苦笑いしか出てこないが少なくともそれが必要なことであるという事はわかる


立場が立場なだけに舐められてはいけない、利用されてはいけない、だからと言って出しゃばりすぎてもいけない、静希は非常に微妙な立ち位置にいるのだ


今回は同級生の仲間がいるという事で幾分かその負担は軽減されているだろうが、それでも静希にかかる負担は大きい、戦力的な意味でも精神的な意味でも


そんなことを話している間に静希達が注文した料理が運ばれてくる、ようやく食事にありつけると静希達は次々と料理を平らげていった


「悪いな、大野、小岩・・・あんまり力になれなくて」


「ん?あぁ気にすることはないんじゃないか?彼ならそのことを把握したうえでうまく利用するだろうさ」


「利用するって言い方やめなさい、五十嵐君に失礼よ」


少なくとも静希は自分に協力してくれる人間を利用するという感覚で動かしたことはない


あくまで協力という関係にある以上、最低限の気は使うし危険が少ないように配慮もする


無論利用しているという事を否定するつもりはないが、言いかたを変えるだけでここまで胡散臭く聞こえるのも珍しいものである


「あんたたちは大丈夫なの?危なくないの?」


「・・・ん・・・まぁ大丈夫なんじゃないか?そこまで踏み込むつもりはないし、何よりそこまでさせてくれるとも思えないし」


大野は静希との付き合いは短い方だが、静希がどんな人間であるかはおおむね把握しているつもりだった、むやみやたらと人を巻き込む性格ではない上に、誰かが傷つくことを望むタイプでもない、好青年と言うかどうかは判断に困るが、嫌いなタイプではないのは確かだった


夕食を終えた静希達は軽く小休憩をとってから静希と陽太の部屋に集まっていた


部屋に盗聴器や隠しカメラの類がないのを確認してから人外たちを出すとその密度が一気に上がるがその場にいる人間は一切気にしていないようだった


「それじゃ一通り今日あったこととこれからのことを話していきたいんですけど・・・大野さんたちから何かありますか?」


「そうだな、よさそうな店をいくつか見つけたよ、この一件が終わったらそこらで買い物とかしたいなぁ」


大野の言葉に全員の視線が集中し、あきれ返ってため息をついてしまうものまでいる始末である


「・・・小岩、お前の同僚はいつもこんな感じか?」


「いえ・・・場を和ませようとしたのではないかと・・・」


城島の鋭い言葉に小岩は申し訳なさそうに項垂れる、彼女としてもこんな発言をするとは思ってもみなかったのだろう


普段どのような対応をしているのかは知らないが、今回ばかりは擁護できないようだった


「まぁ冗談はさておき、研究所周囲の街並みとしてはやっぱり開けてるところもあれば複雑な場所もあったよ、これだけの広さとなると隠れたりするのに苦労はしないだろうね」


さすがに店だけを見て回ったなどと言うことはないようで、この辺りの地図を広げて潜伏できそうな場所や開けている場所などを一つ一つ書き記していく


時間があったとはいえ随分ハイペースで見て回ったようだ、それなり以上の成果と言えるだろう


「一つ一つ確認できればいいけど、それは明日の仕事になりそうですね・・・他に何か気になったことは?」


「そうね・・・人通りに関してなんだけど、まぁ当然と言えば当然だけど大通りは結構人がいたけど裏通りはあまり人はいなかったわね、浮浪者を時折見たくらいかしら」


やはりというかなんというか、平日という事もあって夕方になればそれなりの人はいるようだ、召喚が行われる当日ともなればもっと人は増えるかもしれない


そんな中で危険人物だけを発見するというのは至難の業だ、恐らく交通を遮断した後が勝負になるだろう


ホテルの人に何とはなしに聞いたところ、事前にその地域の交通を完全に遮断することはかなり前から触れ回っているらしく、当日は一般人は完全には入れないようにするつもりらしい


無論百%というわけにはいかないだろうが、一定区域内の不審者を見つけるのが楽になるのは間違いないだろう


軍によって交通規制がされる場所を線で印をつけ、その内側の索敵を密にした方がよさそうだと考える中、今度は大野たちが口を開く


「そっちはどうだったんだい?こっちの軍人さんたちと話はしたんだろう?」


「えぇ、一応好き勝手動けるようにだけはしておきました、今後どうなるかは事態が動いてからですね・・・それまでは下準備って感じでしょうか」


事件が起きてから本格的に動くとしても何もできないわけではない、何よりせっかくの時間的猶予があるのだ、それを無為に過ごすことはない


エドからの連絡が来たら彼とも話し合いの場を持ちたいところである、今どこにいるのかまでは把握できないが、恐らく明日辺りにはこちらに到着するだろう


「・・・ちなみに今回も監視はつくの?」


「えぇ、こっちからお願いしました、そのほうが相手も安心できるでしょうし、まぁ有事の際は振り切りますよ」


軍の配置させた監視を簡単に振り切るというあたり静希がいかに場馴れしているかがわかると言うものである


監視をする人間の能力にもよるだろうが、ほとんどの場合において静希を監視し続けるというのは難しいだろう


静希はそれをわかっている、自分の実力を把握したうえでそう言っているのだ


敵に回すとこれほど厄介な人間はいないなと実感しながら今度は鏡花がゆっくりと口を開く


「今のところ分かっているのはフランスの軍は悪魔との戦闘経験がないという事です、もし目標が接敵した場合こちらの考えや指示を優先するように言ってはおきましたが・・・」


「そう簡単には従わないでしょうね、一応向こうにも軍としてのプライドがあるんだから」


小岩の言葉にその場にいたおおむね全員が同意した


軍人とは厄介なものだ、良くも悪くも責任は付きまとい、その分誇りがある

同じ国の軍の中でもそれぞれが反目し合い、協力できないような状況が多々あり得るのが軍隊と言うものだ


今回モーリスは静希達の意見に賛同した、その為彼の所属である憲兵隊に関してはある程度こちらの思い通りに動いてくれると予想するが、他の部隊、具体的には陸軍や他国から派遣された部隊に関してはその確証はない


いくらモーリスが命令したとしても、他の場所や人間から特別な指示を受けていた場合そちらを優先する可能性がある


とはいえ軍に置いて命令無視は重罪だ、場合にもよるがほとんどの軍人にとって上官の命令は絶対なのである


そして直接の上官であればそれは確かに絶対なのだが、直接の上官ではないモーリスの指揮に対しどれだけの人間が素直に従うかわかったものではない

なにせ複数の国籍や所属の部隊が入り混じる状態だ、命令無視をする部隊があっても何ら不思議はない


今回のような面倒なイレギュラーな状態が一番嫌いな静希としてはどうしたものかと悩む種となってしまっていた





軽く今後の流れについて話した後、大野と小岩は自分の部屋へと戻っていった、その場に残った鏡花をはじめとする一班の人間はため息をつきながら眠気と戦っていた


明日からまともに行動するためには完全に時差を調整した状態が好ましい、その為にもう少しだけ遅くに就寝するつもりだったのだ


「それにしても人間って随分とややこしいのね、いちいち面倒なプライドだの建前だの用意しなきゃいけないんだから」


「そう言うな、我らとて誇りがないわけではないだろう、それと似たようなものだ」


今日のやり取りを見ていた悪魔の率直な感想だったのだろう、学生である静希からしてもその感想は同意するが、面倒なことにそうやって現在の社会は成り立っているのだ


軍のそれに比べれば随分と楽なものではあるだろうが静希達にだってプライドに近しいものはある、軍と違うのは組織としてのそれではなく個人のそれに近いという事である


「悪魔にだってプライドはあるんでしょ?なんかないの?プライドのために戦ったとかそう言うエピソード」


眠気を抑えるためか、鏡花が話を振るとメフィは腕を組んで考え出す


記憶の中に該当するものがあるか探しているのだろうが、数秒経っても該当するものがないらしく唸り続けている


「ん・・・単に相手がムカついたから戦ったっていうのはあるけど・・・そのせいで自分が苦しんだことはないわね、プライド優先にして負けたんじゃ話になら無いもの」


悪魔の世界には社会や組織と言うものが存在しないのだろうか、個人としての見解だけではなく、集団における立場や認識が人間のそれとは圧倒的に違うような気がした


思えば当たり前のことかもしれない、人間が社会を作るのは言ってしまえば弱いからだ


動物などが多く群れを成す理由、それは一個体の能力だけでは生存することができないのが最大の理由である、だからこそ群れ徒党を組み、支え協力し合って生きていく


そうして長い時間を経たことで人間は社会と言うものを生み出した、結果その社会が複雑になり個人の見識を超えた立場と言うものを作ってしまっているのだ


個体としての能力が高い悪魔はそもそも社会と言うものを作る必要がなかったのだろう、だからこそこういう面倒な事態を見ると不思議がるし、徒党を組むことによってようやく完成した文明と言うものに興味を引かれるのだ


一人の天才が社会の基盤を作ったとしても、それを支える大量の凡人がいなくては社会は成り立たない


この人間社会はほんの一握りの天才たちが技術や考え方を広げ、それを凡人たちが作り支えてきた


だが悪魔の社会はいわば天才しかいない世界だ、そんな世界で天才たちが徒党を組むとは思えない、互いがそれぞれ研鑽する対象である以上、仲良しこよしとはいかないのだろう


特に我が強い悪魔ならなおさらだ、外見も性格も能力も実力もそれぞれ違うのだ、メフィ曰く格差的なものはあるらしいが、それは単純に実力で決まるものらしく人間のように血縁だとか外見だとかでの差別はほとんどないらしい


そう言う意味では平等であるように見えるが静希はそんな世界はごめんだった


「というかこれは私の個人的な感想なんだけどさ、何で一つの物事に一緒に取り組もうって言ってるのに実際そうしないわけ?最初からお前とは協力できないとかはっきり言えばいいのに」


「そこはほら、立場とかあるんだよ、表向きは仲良くしておかないといろいろ面倒だったりするんだ」


静希の返答にメフィはそこら辺がわからないわぁと腕を組んだ状態でふわふわと宙に浮きながら唸っている


悪魔からしたら外見上の付き合いなど意味の無い物なのだろう、いいたいことをはっきり言えるという意味ではよいことなのかもしれないが、その分必要のない争いを巻き起こすのも事実だ


「ちなみにあんたって悪魔の中ではどれくらい強いわけ?上の方って言ってたけど」


「気になる?そうね・・・私に勝てる悪魔って言ったら結構限られると思うわよ?もちろん一対一でハンデなしの状況に限るけどね」


ハンデ、メフィはそのように言葉を濁したがこの場合のハンデとは静希のことだ


人間を守りながら戦うというのは悪魔にとってそれなりのハンデになるという事でもある、静希達能力者で言うなら無能力者を守りながら戦うと言っているようなものだ


そんな状況では仮に格下でも負ける可能性がある、それを理解しているのか鏡花はふぅんと息をついて静希と邪薙の方を見る


「今回の相手がどんなかは知らないけどさ、そんな状態ならなおさら邪薙を私たちにつけるべきじゃないんじゃないの?当人としてはどうなのよ邪薙」


神に対して当人というのは表現として正しいかはさておいて、邪薙は口元に手を当て少し考えだす


「ふむ・・・シズキの言葉にも納得できるしキョウカの言葉も納得できるものだ、ならば私はシズキの考えを支持する、いくら我々で慣れているとはいえお前たちはただの人間だ、脅威にさらされたときに最も危険なのはお前達だろう」


邪薙の言うようにいくら鏡花たちが悪魔をはじめとする人外たちに慣れているとはいえ所詮はただの人間、本気の一撃を受ければそれだけで死んでしまうかもしれないのだ


万が一の事態は起こしたくないという静希の考えを基にするならば、その判断は正しいものであるように思える


「もう少し信仰があればもっと強い力を使えるのだが・・・力不足なのが嘆かわしいな」


「そう言うな邪薙、いつも助けてもらってるんだ、あんまり多くを望むのは贅沢ってもんだろ」


そもそも人外を引き連れているという状況が贅沢にもほどがあるという事実、静希は理解しているからこそ人外に必要以上の要求はしなかった


あまり頼りすぎるとダメ人間になってしまうと静希もなんとはなく察しているのだ






その日フランスの時間で二十二時ごろに就寝した静希達は泥のように眠り、時差の調整をおおむね良好に行うことができた


飛行機の中で仮眠をしていたおかげか、それほど倦怠感もなく二日目の朝を迎えることができたのは幸運と言えるだろう


とはいえ慣れない外国の朝、体にわずかながら違和感は残っている


体の調子を確かめるべくストレッチをしてから両腕の調子も確認していく

左腕はいつも通り、右手に関してもほぼいつも通りだ、不調はない


大きく伸びをして頭だけではなく体も起こそうとするがやはりどこか違和感がある


睡眠をとることで起きている時間をずらすことはできても体内時計の調整にはもう少し時間がかかるという事なのだろう、無駄に精密にできている人間の体に少しだけ感動しながら未だ眠りこけている陽太をベッドから叩き落とすことで起こして見せた


「うぇあ!?・・・もう朝か・・・も、もうちょっとだけ」


「とっとと起きろバカ陽太、さっさと飯食って動くぞ、時間ないんだから」


ホテルに置いてあった時計を見てみると時間は朝の七時半、今からいろいろ準備をしたり食事をすることを考えると行動開始できるのは遅くて九時と言ったところだろうか


研究所の周囲に索敵網を作ることを考えると時間的にはぎりぎりになるかもしれなかった


寝ぼけている陽太を引き連れて食堂まで向かおうとするとちょうど女子二人も起きたのだろうか、扉が開いて僅かに寝癖を付けた明利と髪を下ろした鏡花が現れる


「あ、おはよう静希君・・・よく眠れた?」


「あぁ、一応な、そっちも眠れたみたいだな」


「まぁね、そっちのバカは何でまだ寝ぼけてるのよ」


「あー・・・鏡花か・・・うー・・・眠い」


この中で完全に覚醒していないのは陽太だけのようだが、とりあえず食事をとらないと頭も回転しないという事でホテル内にあるバイキング形式の朝食をとることにした


食堂に向かうとそこにはすでに城島が食事をとっている最中だった、自分達よりも早く行動するのは教師として当然なのだろうが、まったく疲れなどを感じさせない顔色をしていた


この人は本当に自分たちと同じ人間なのだろうかと疑ってしまう、城島は体だけで言えばエルフなのだが、そこは流すべきだろう


「おはようございます先生、早いですね」


「ん・・・まだ慣れていないという風だな・・・まぁお前達もそのうち慣れるだろうさ」


そう言いながらパンを口に含む城島、慣れているというのは海外の話だろうか、それとも仕事での早起きの話だろうか


とりあえず静希達も朝食の料理をいくつか皿に盛り、城島と同じテーブルに座ることにした


「今日は幹原の索敵を広げる作業と言っていたな、具体的にはどのあたりを行うんだ?」


「研究所周りと、軍が封鎖する地域全体です、その中に誰かが入ってきたらすぐにわかるようにするのが理想ですね」


事前に封鎖地域がわかっているというだけでずいぶんと作業は楽になる


無論時間が余れば他の地域にも種を蒔くつもりではいるが、その余裕があるかはやってみないことにはわからない


なれない市街地を歩くというのは案外時間がかかるものだ、地図を確認しながらだとなおさらである


「必要ならあいつらにも協力してもらうといい、その程度なら事情を知らなくてもできるだろう」


「そうですね、人手は多い方がいいですし・・・ちなみに先生」


「私は非常時以外は動くつもりはないからそのつもりでいろ」


手伝ってくれないのかと聞く前に釘を刺されたことで静希は苦笑してしまう

さすがに危険な状態でもないのに教師に手を借りるのはNGだったかと少しだけ残念そうにしながら静希は朝食を口の中に放り込んでいく


やはり日本のそれに比べると濃い味付けだが、不味くはない、高級なホテルだけあってそこそこいい食事を提供してくれるようだった


「ほら陽太、ちゃんとバランスよく食べなさい、これとこれも」


「うい・・・わぁってるわぁってる・・・」


まだ寝ぼけている陽太のために鏡花が甲斐甲斐しく食事を盛り付けているのが何とも微笑ましい、今陽太の意識があるかどうかは定かではないが、このままだとそのまま食事を食べさせる勢いだった


比較的朝が弱いというわけではないだろうが、さすがに昨日長時間起きていたために眠気がまだ強いようだった


かくいう静希も少しだけ眠い、だが無理にでも行動していればそのうち眠気は飛ぶと考えていた


「朝飯をここまでガッツリ食べるのって久しぶりかもな・・・普段はパンとかばっかりだし」


「そうだね、朝は走ったりするから時間ないしね」


静希と明利は普段早朝にランニングをしているために朝食をじっくり食べるという事はあまりない


携帯食とまではいかないが簡単に摂れる食事で済ますことが多いためにここまで多くの食事をとるというのは実に久しぶりだった


「今日は明利にがっつり働いてもらうからな、しっかり食べておけよ?」


「うん、任せて」


明利の頭を撫でると嬉しそうにしながら小さくガッツポーズをして見せる、索敵に関してはさすがに自信がついてきたのかその表情は明るい


今日は長い一日になりそうだと思いながら静希は紅茶で口の中にある食べ物を一気に胃の中へ流し込んだ


朝食を食べた後、大野たちとも合流し二人一組になって明利の用意した種をとにかく配置していく作業に移ることにした


静希達は主に軍が交通規制を行う研究所の周辺を、大野たちは交通規制の外側を行うことになった


種を蒔く上で必要な街路樹や隙間などは、幸いにしてレンガ造りの石畳が多いため探すのに苦労はしなかった


とはいえ単調に蒔いては印を付けの繰り返し、時間があるとはいえどなかなかに面倒な作業だった


天気も良く、さわやかな風が吹くとはいえ未だ二月、僅かに寒気が残るこの季節に動き続けるというのは地味に根気がいる作業といえるだろう


通信用の人材として鏡花の下に一人監視がついているが、静希達の方にはついていなかった、この班をまとめているのは鏡花だという錯覚を起こさせた結果だと言えるだろう


静希明利、鏡花陽太、大野小岩、平井荒川の四つのチームになって少しずつ索敵範囲を広げていくとはいえ、やはり市街地、一カ所に種を蒔くだけでは確実な索敵ができないことがある


明利の索敵は準備さえすれば広範囲に行き渡らせることができるが、詳細な部分までは一つの種では難しい


例えば一カ所に種を置いてもそこが遮蔽物が多い場所だとその索敵の効果は半減される


静希達が多く足を運ぶような山や森であれば種を成長させ根や茎、葉を広げることで一個の種の索敵範囲を強引に広げることもできるのだが、アスファルトや石の多い市街地ではその効果も半減されてしまうだろう


あらかじめ研究所の周りの地図や写真を出してあったために、そこが市街地であるという事は把握していたから種の数はかなり用意しておいたが、その分蒔くという手間がかかるのは仕方のないことだろう


フランスの街を観光しながら種まき、随分と奇妙な絵面だがそれはそれでいい経験になると考えていた


定期的に連絡を取り合い、索敵にムラがないかを把握する中、そろそろ昼食時になるかと思われたとき静希の携帯に電話が入る


相手はエドモンドからだった


『もしもしシズキかい?ようやくフランスについたよ、今どこだい?予定が合えばお昼を一緒にと思ったんだけど』


この前の様子とは打って変わり随分と和やかな声をしている、どうやら彼なりに折り合いはつけてきたようだった、少なくとも私怨を抱いて我を忘れているという事はなさそうだ


「今は・・・どこらへんだここ・・・?面倒だからGPSの座標を送る、そっちで確認してくれ」


明利の携帯を借りてエドに現在位置の座標を送信すると、エドがなるほどと言いながらどうするか考えている様だった


『そのあたりにいるってことは、すでにいろいろ仕込みをしているところみたいだね、オーケー、今から迎えに行こう、この辺りでおいしい店を知ってるんだ』


「そりゃいい、それじゃ一度こっちに他の奴も集めておくよ、明利、一度休憩だ、俺たちのいるところに陽太と鏡花を呼び出してくれ、通信要員を撒くのも一緒にな、できなきゃなんかいいわけよろしくって言っておいてくれ」


「うん、わかった、伝えておくね」


明利のナビがあれば土地勘のない場所でもかなり早く移動することが可能だ、複雑な地形を移動しながらこちらに向かえば一緒にいる通信役を撒くこともできるだろう


それに仮に撒くことができなかったとしても鏡花ならうまい言い訳をすることができると確信していた


『そう言えばシズキのチームメイトも一緒なんだろう?こりゃ店を予約しておいた方がいいかもしれないね』


「あー・・・確かに人数多くなるからな・・・エドにアイナ、レイシャ、俺に明利、陽太と鏡花、七人か」


確かに数えてみれば相当な人数だ、昼時の店としてはいきなり七人の人間を入れるというのは地味に迷惑だろう


どうやらアイナかレイシャに店に予約をとるように指示を出しているようだ、手際の良さは相変わらずというべきか


「そうだエド、俺らの泊まってるホテルなんだけど、もう場所はわかってるのか?」


『もちろん、すでに割り出してあるよ、夜にでもまた遊びに行くさ、一応手土産も持ってね』


手土産というのがいったい何なのかはわからないが、エドは随分と楽しそうだ


それじゃあ待ってるぞと言って通話を切り、とりあえず今の場所から動かずに鏡花たちとエドを待っていると、先にやってきたのは鏡花と陽太だった


その近くに通信役の軍人がいないところを見ると撒いたか説得でもしたようだ


「お疲れ、今からお昼?」


「あぁ、丁度VIPも到着したしな、ついでにってことで」


VIPというには随分と親しい仲になってしまったが、その待遇には間違いはないだろう


仮にも悪魔の契約者、そして運輸会社の御曹司だ、そんな相手と会うのがただの学生であるというのが何とも妙な話ではある


「通信役の人は?」


「お昼に行くから休憩してていいですよって言ったら帰って行ったわ、途中まで尾行してたみたいだけど撒いてきた」


休憩していていいから離れるという子供の使い程度の仕事をするような人間ではなかったのだろう、しっかりと鏡花たちの後について来たようだったが、明利のナビゲートがある状態ではさすがに鏡花たちに分があったのだろう、すでに引き離され完全に見失った後のようだった、こういう時索敵網を敷く意味を実感させられる




しばらく談笑して待っていると、静希達の近くに大型のワゴン車が停車する

そして窓が開きその中からサングラスをかけたエドが顔をのぞかせた


「やぁシズキ、ボンジュール?」


「はは、フランスっぽいけど、発音が微妙だぞ?」


そう言ってくれるなよと言いながらエドは車の鍵を開けて静希達を中に招き入れる


その中にはいつものようにアイナとレイシャが待っていた、そして後部座席にはいくつかの道具が乱雑に置かれているのがわかる


「皆様、お久しぶりです」


「数日間ではありますが、よろしくお願いいたします」


「二人とも久しぶり、また背が伸びたか?」


アイナとレイシャの頭を撫でながら久しぶりの再会を喜びながら静希も席に座る


全員が乗ったことを確認するとエドはゆっくりと車を走らせ始める


静希とエドの事情を知るものがこの場にいたら、悪魔の契約者が二人もいるという現状に慌てるところだろうが、生憎とここにいるのは二人のことをそれぞれ知っている人間ばかり、静希に至っては単に友人と会うかのような気安さで接していた


「そう言えば君たちはフランスは初めてだったっけ、どうだいフランスは」


「なんていうか、イギリスとは違った雰囲気の所だな、街というか人というか、空気が違う気がするよ」


「あと飯がイギリスと違う味付けがしますね、あれも結構うまかったっす」


陽太はすでにエドへの警戒を解いているのか気兼ねなく話しかけている様だったが、鏡花はまだ少しだけ気後れしている様だった


当然かもしれない、ほとんど面識のない外人と話せという方が無茶だ、静希は何度も面識があるし明利も同じようなものだろう、陽太に常識的な考えをしろという方が無理なのはわかっているが、自分だけ話をしないというのも妙な感じだった


「あの、エドモンドさんは悪魔の契約者なんですよね?」


「ん?あぁそう言えば君たちはまだ僕のバディにあったことがなかったね、今日時間があれば紹介するよ、さすがに車の中で出すと狭くなるからね」


紹介はされたが実際に悪魔を見ていない鏡花からすれば未だに半信半疑だったのだろう、それもそのはず、エドモンドはパッと見ただの好青年だ、いや歳を考えれば好中年というべきだろうか、どちらにせよその性格と表情や口調から悪魔の契約者という事実を結び付けにくいのだ


今まで悪魔の契約者という存在の印象はすべて静希一人で構築していたために、どこか頭のネジが飛んでいてなおかつ残忍な人間がなるものとばかり思っていたのだ


なのでこんないい人そうな男性が悪魔の契約者であると言われても違和感しかなかったのである


「ヴァラファールさんは凄くモフモフしてるんだよ、鏡花ちゃんも触らせてもらうといいよ」


「・・・え?モフモフしてるの?」


てっきり悪魔というとメフィのような人型かと思っていただけに少し意外だったのか、丸い毛玉のような姿を想像してしまっていた


実際は獅子のような姿をした渋い声を持った悪魔なのだが、そこまで想像しろというのは酷な話だろう


「ちなみにさ、アイナちゃんとレイシャちゃんはいつもエドモンドさんと一緒にいるのよね?そのヴァラ・・・ファール?さんともよく会うの?」


「はい、ヴァル卿は私達とよく遊んでくださいます」


「とてもお優しい方です、とても良い声をしておられます」


エドと行動を共にすることが多い二人に話を聞くと、とてもいい人(?)のような気がする、静希の家に住み着いているニート悪魔とはずいぶんと印象が違うように思えた


鏡花の中でヴァラファールのイメージが毛玉で紳士な羊のような存在になってきたが、実際にその姿を見た時どんな反応をするか楽しみである


草食系とは真反対の外見をしているだけにどんな印象を受けるか


「なんだか同じ悪魔でも随分と印象が違うわね・・・静希のとこのとは大違い」


「あはは、メフィさんは気まぐれだからね、それにメフィさんは女性っぽいし、ヴァラファールさんは男性っぽいから」


へぇそうなんだと実際に会ったことのある明利の証言にさらに鏡花の中でイメージが膨らんでいく、徐々にシルクハットに杖、そして髭を生やした毛玉がいい声で話しかけてくるのが浮かんでくる始末だ、本人にその想像を見せた時どんなリアクションをするかも気になるところである


「そうそう、君たちは何かアレルギーとかはあるかい?あれば店にあらかじめ言っておくけど」


「いやないよ、大体何でも食べられる、というかエド、どこに向かってるんだ?もう結構移動したけど」


静希の言葉にエドはまぁ任せてよと笑っている、それなりに自信があるのだろうか楽しそうにハンドルを操っている


思えばエドが運転する乗り物に乗るのも久しぶりだなと思いながらその運転に身を任せる


あの時はバイクだったが、車の運転もうまいものだ、安心して任せていられる運転で静希のそれとはまた違う感覚がある


「その場所ってたくさん食えますか?俺腹減っちゃって」


「ははは、了解、たらふく食えるように言っておくよ、もう少しでつくから我慢していてくれ」


遠慮と言うものをしない陽太の言葉にも見事な大人の対応をするエドを見てやはりこの人は悪魔の契約者ではないのではないかと思ってしまう鏡花、身近にいるそれとは性格が違いすぎるためとはいえ、少々疑いすぎかもしれないと鏡花は自らを戒めた



エドが連れて来てくれたのは大通りにある少し大きめの店だった


フランスのことをあまり知らず、フランス語も読めない静希達は知る由もないが、時間帯によっては予約しなければ入れないほどに有名な店らしい


そんな店を簡単に予約するあたりエドを始めアイナやレイシャはある意味運がいいのだろうか、それとも何か細工をしたのか、そんなことは全く気にすることなくエドに引き連れられ静希達はその店の中に入っていく


少し大きめのテーブルに全員で座ると、メニューを開いて何にしようかと悩み始めた


「そう言えば君たちはフランス語が読めないんだったっけ?」


「あぁ、話すのは問題ないんだけど、読み書きはからきしだ」


「ははは、なら注文の時は任せてくれ、フランスには何度か来ているからもう慣れてしまったよ」


さすがに多種多様な国に足を運んでいるだけあって最低限の言語は修得しているようだ、英語や日本語だけではなく、もしかしたらもっと多種多様な言語を話すことができるのかもしれない


やはりエドは優秀だなと実感しながら静希はエドにメニューを見せながら注文する料理を告げていく


「ところで、君がキョウカちゃんで合っていたかな?」


「え・・・は、はいそうですけど・・・」


不意に呼ばれたことで鏡花は身構えてしまうが、エドは柔和な表情を浮かべそうかそうかと何度かうなずいている


「いやぁ、シズキから話を聞いていてね、何でも君もバレンタインに告白して成功したそうじゃないか、それで他人のような気がしなくてね」


その言葉に鏡花は吹き出し、すぐに静希を睨む


しゃべったな


鏡花は目でそんなことを訴えた後、小さくため息をついてエドの方を見る


「えっと・・・君もって事はエドモンドさんもバレンタインに?」


「あぁ、いい人に巡り合えてね、毎日が楽しい限りさ」


バレンタインに告白して成功した人が二人、確かに奇妙な縁かもしれない、エドは笑っているが鏡花としては自分の話をいつの間にかされていて気恥ずかしい限りである


「ミスターイガラシからも何か言ってください、ボスは最近浮かれっぱなしです、もううるさくてうるさくて」


「この前ヴァル卿も呆れていました、もう少し落ち着いた態度をするように言ってください」


アイナとレイシャからの苦言にエドは苦笑いしているが、どうやらこの態度を変えるわけではないようだった


幼い能力者二人に注意される辺りエドらしいと言えるが、この二人が年齢の割にしっかりしすぎている気がする


いや、エドが少し頼りないからそうならざるを得なかったのか、どちらにしろエドは将来尻に敷かれそうである


「まぁ幸せなのはいいけど、周りの目に気を付けたほうがいいと思うぞ?見るに堪えないかもしれないしな」


「あんたがそれを言う?普段からしていちゃついてるくせに」


鏡花の指摘に静希は苦笑し、明利は恥ずかしそうにうつむく、人のことを言えるほど静希も自重しているわけではない


今までそれを見てきた鏡花からすれば静希達のいちゃつきっぷりは砂糖を吐くのではないかと思えるほどだ


「えー・・・でも鏡花だって最近二人きりの時は俺とむぐ」


「はい陽太余計なことは言わないの」


陽太の発言を無理やり手で止めるが、そこから先何を言おうとしたのかその場にいる全員が察したのか、鏡花と陽太の方を見ながらニヤニヤしている


祝福されるのは悪くないのだが、こういう反応をされると恥ずかしくて顔から火が出そうである


だがそんな中でアイナとレイシャはまたかという表情をしている


じっとりとした目でため息をつくあたり、普段からエドはこういう空気を垂れ流しているのかもしれない、幼い少女二人にしてみれば飽きもせずよくやるものだと言いたくなるのも納得できる


「まぁめでたいことに変わりはない、ここは僕のおごりだ、好きなだけ食べてくれ」


「まじっすか!よっしゃ!」


「少しは遠慮しなさいよ?すいません、御馳走になります」


陽太と鏡花は正反対の反応をしているのに対し、静希と明利は感謝しながらも追加で何を頼もうかと悩んでいる


そしてエドやアイナとレイシャも何を注文しようかとさらに悩む中、エドが注文した料理がテーブルに運ばれてくる


「よし、それじゃあいただこうか、今は堅苦しい話や面倒な話は無しの方向で行こう」


どうやらエドはこの食事を懇親会のようなものにしたいらしい、静希と違い他のチームメイトとの交流が少なかったため、ここで自分がどんな人物であるか、そして鏡花たちがどんな人物であるかを確認したかったようだ


社会で働く上で人を扱うことに慣れてきたために、こういう社交的な面を持ち合わせてきたという事だろう


静希としてもエドのことを信用してもらうためにこういう場を持ってもらうのは非常にありがたかった


誤字報告が35件たまったので八回分投稿


はい、八回分です・・・八回分です・・・!さすがにちょっとへこんでます


これからもお楽しみいただければ幸いです

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