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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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顔合わせ

城島との密談を終え席に戻ってくるとその場にいた全員が眠りについていた

日本時間にしてまだ十六時ほどだが、昼寝という名目で今のうちに寝だめしておくのも必要なことである


これからさらに動くことを考えると静希もそろそろ仮眠をとったほうがいい気がしてきた


静希は資料などをすべてまとめたうえでしまい、とりあえず仮眠をとることにした


あまり疲れていないが、目を閉じるだけでも意味があるだろうと目を閉じてゆっくりと息をする


するとトランプの中に意識が向いてしまい、雑談していた人外たちの会話が聞こえてきた


『だからね、片手を使うなら回避プラスと広域は必須だと思うのよ』


『ですがそれではボマーがつけられません、ここは広域は外すべきでは』


『だが爆弾を連発されるとこちらとしてもつらい、回復が重要なのはお前も理解しているだろう』


一体何の話をしているのか静希はなんとなく察するが、恐らく十数時間トランプの中にいるためにやることがないのだろう、人外たちはゲームの話に花を咲かせていた


正月に三人に共通のゲームを渡してから時折こういった話し合いの場が作られることは多々あった


静希が意識を向けていない時でも人外達はそれぞれご近所付き合いとでもいえばいいのか、それなりに仲良くやっている様だった


安心するところだろうか、それとも呆れるところだろうか、三人そろって現代に染まってきているという事実に嘆息するしかなかった


『お前ら緊張感ないのな・・・』


『あらシズキ、暇な時間にこうやって作戦を考えておくのよ、大事な事でしょ?』


その作戦がゲームの事でなければ最高なんだけどなと呆れながらも静希は思考を緩やかに停滞させていく


先程まで回転させていた頭を休めることで眠りの方向へと移行しようとしているのだ


『これから御就寝ですか?でしたら静かにしていますが・・・』


『いや、そのままでいいぞ、どうせ眠れないからな、音楽代わりに丁度いいかもな』


時間が時間のせいで眠気など皆無なために、目を瞑り眠りに限りなく近い形で疲れを残さないようにしているだけだ、ただ放心しているよりは人外たちの会話を聞いているのもいいかもしれない


普段静希が耳を傾けていない時間人外たちがどんな話をしているのかも気になるところでもある


『それじゃあ勝手に話してるわよ?・・・で、さっきの話に戻すけどさ、私と邪薙の武器から言って回復にどうしても時間がかかっちゃうのよ、それに比べてオルビアのは片手でしょ?アイテムの使う手間少ないじゃない?』


『それは理解できます、ですが私の所有しているアイテムにも限りがあります、広域を用いても回復できるのは・・・調合分を合わせてもせいぜい十回あるかないか・・・それなら短期決戦を挑んだ方が効率が良いのでは?』


『確かにオルビアのいう事ももっともだが、それは上手くいった場合の話だろう?毎回上手く爆弾が効くとも限らん、安定した戦いができる回復役を担ってくれるとこちらとしては助かるのだが』


どうやら人外たちはこれからかなりの大敵にぶつかるにもかかわらず何のプレッシャーなども感じていないようだった、むしろこれから作る装備についての議論の方が重要なようで、少し安心してしまう


この三人が自分にはついているのだ、心配などする必要がないことに気付き静希は自分の体を椅子に深く預ける


『ですがそうすると私の今の装備では広域と回避性能、それにプラスで一つ付けるのがせいぜい・・・もう少し良いお守りに恵まれれば他の道もあるでしょうが・・・』


『なんだったらまたお守りマラソンやる?なんかあんたってお守りの引き悪いわよね』


『我々はなかなか悪くないものを手に入れられたのだがな・・・アイテムと一緒に装備も受け渡しができれば楽だったのだが・・・』


とはいえまさかこんなに廃人チックな話をしているとは思わなかったために静希は苦笑してしまう


まさか正月から始めてすでにお守りの厳選作業まで行っているとは思わなかっただけにその驚きは大きい


元々現代の順応が早かったオルビアや娯楽に関して妥協しないメフィならまだわかるのだが、まさか邪薙がここまで現代の娯楽に対して真摯に打ち込むとは思ってもみなかった


お前は神様としてそれでいいのかと言いたくなるが、一個人の趣味にとやかくいう事もないだろうと聞き流すことにした


『お守りの厳選はいいのですが、それだと武器の発掘もした方が良いのでは?特に邪薙の武器は妥協した結果のものでしょう』


『あー・・・確かに性能微妙よね、切れ味が白だったら最高なんだけど・・・確かそれ青ゲージまででしょ』


『あぁ、攻撃力と属性値は文句なしなのだが、それだけが欠点だな・・・だがこれ以上のものを出そうと思うとまた長いこと厳選が必要になるぞ』


その会話に静希はさすがにゲームを勧めたのは失敗だったなと確信する


最新作でようやく導入された発掘装備にまで手を出しているという事実に静希は驚愕を通り越して呆れてしまう


この一、二か月でいったいどれだけやりこんでいるのかと言いたくなる、静希だってお守りと発掘装備の厳選をしたのは手に入れてから半年近く経過してからだったというのに


これが日夜暇している人外たちの本気という事なのだろうか、そのうち静希達全員より上手くなっている人外たちがいそうで怖い、きっとその未来は案外近い日になるかもしれないなと思いながら、人外たちの会話を聞きながら意識をゆっくりと沈めつづけた






静希が目を休めてどれだけ時間が経っただろうか、ようやくパリに到着するという事で全員降りる準備を始めていた


幸いにしてパリの天候はなかなか良いようで着陸時もほとんど衝撃なく済んだ


「あー・・・やっとか・・・ふぁぁぁあ・・・」


「欠伸をするときは口を押さえなさいっての・・・気持ちはわからなくないけどね」


「長かったね・・・体が凝っちゃったよ」


「軽く運動したいところだけど、さっさと降りようぜ、迎えも来てるかもだし」


アナウンスが聞こえた後で静希達は早々に下りる準備をし、それぞれ手荷物をまとめてから移動を始めた


空港でも国の違いはやはり出るもので、以前イギリスに行った時のような独特の空気の違いを感じることができた


入国手続きと荷物を受け取った静希達はとりあえず資料にあった案内人を探すことにした


「えっと・・・確かまずはホテルに送ってくれるんだっけ?」


「あぁ、そのあとチェックインと荷物を置いたらすぐに現場に行ってくれるらしい・・・そこまでしか書いてないからそこからは自由行動だろうな」


資料に書いてあったスケジュールはそこまで、あとは自由に移動なりはしていいという事なのだろうが、さすがに土地勘のない場所で行き来するのは危険であるためにある程度案内人がついてくれるらしい


まぁ体の良い監視役だろうが、それでも便利なことに変わりはない


「五十嵐君、俺たちはどうしたらいいかな?今回の件に関しては部外者になるわけだけど・・・」


「あー・・・そう言えばそうですね・・・どうしたもんか・・・ホテルに先に行ってもらってもいいですけど・・・その場合はタクシーとかになりますかね・・・ホテルの住所とか知ってますよね?」


「えぇ、メモしてあるわ、それじゃ私たちは先に行ってましょうか」


住所さえ分かっていればタクシー運転手に場所を伝えれば問題なく向かってくれるだろう


言葉の壁に関しては多分何とかするだろう、彼らもいい大人だ、英語くらいは話せると思いたい、もっともフランスの言葉は文字通りフランス語だが


「で、俺らは使いを待つと・・・」


「んー・・・どっかにいると思うんだけどなぁ・・・」


大野たちが出発したのを見送ってから事前資料にあった案内人の写真を見ながら空港内を見渡すが、それらしい人物は見当たらなかった


一体どこにいるのだろうかと見渡しているとエントランスの方から軍服らしきものを着込んだ男性が三名ほどこちらにやってくるのが見えた


あれだろうなと思いそちらの方に全員の視線が集まると、やはりというかなんというか静希達の前で一度停止し一度敬礼をして見せる


「我々は国防省国家憲兵隊の者だ、日本から派遣された能力者で間違いないか?」


「間違いありません、喜吉学園より参りました、一年B組一班とその引率の城島です」


すでにオルビアの簡易翻訳は始まっているためにフランス語だろうと何の問題もなく翻訳される、彼らはそれが能力の作用だとわかっているのか、言語の壁が取り払われているという事にわずかながらに安堵している様だった


「言葉が通じるのであれば話が早い、これより君たちを宿泊先のホテルへと移送し、その後今回の現場に向かうことになるが、問題はあるか?」


「いいえ、どうぞよろしくお願いします」


城島の握手をそのまま受け入れ、そのまま全員を引き連れて空港前に停車してあった大きめのワゴン車に全員を乗せる


全員が乗ったことを確認するとゆっくりと発車し目的地のホテルへと移動を始めた


「ところで、君たちの中に『ジョーカー』がいるという事を聞いているのだが、相違ないだろうか」


ジョーカー、その言葉の意味を理解しているのだろう、城島は一瞬眉をひそめたが、すぐにその視線を静希の方へ向ける


「彼がそうです、ジョーカー、五十嵐静希」


「ほう・・・彼が・・・」


静希の方を見た軍人らしい男性が僅かに目を細める、その視線にどのような意味が込められているのかわからないが、少なくとも完全に歓迎しているというわけでもないようだった


そこは大人の柵とでもいえばいいのか、それともプライドか、こんな学生に力を借りるようなことになっていること自体に不満を持っているのかもしれない


「・・・純粋な疑問なのだが、彼は本当に・・・契約者なのか?」


「・・・それは本人に確認していただければと」


城島はあえて明言せず、静希に話を振ることで直接会話をする機会を与えた、今後行動を決めるのは主に静希だ、フランスの人間が自分に対してどのような印象を持っているのかを把握する材料は多い方がいい


「聞いてもいいかなミスターイガラシ、君は本当に悪魔を連れているのか?」


「さぁ?少なくとも悪魔の相手は慣れていると言っておきますよ」


静希の言葉にその場にいた全員の表情が強張る


静希が一体どういう意味を込めて言ったのか、そして彼らの表情にどういう意味が込められているのか、まだ互いに探りを入れている段階だ


だが少なくとも、この場にいるフランス人は静希にわずかながらな警戒を向けていた


子供にしては大人の相手が慣れている、そして何よりその眼と表情に普通の学生ではないと言うものを感じ取ったのだろう


その後特に会話らしい会話はなく、静希達は今日宿泊するホテルへと到着した


ホテルは周りの建物に比べるとだいぶ高く、そして新しく高級さがうかがえるものだった


テオドールがまた頑張ってくれたのだろうと思っていると、フランス人が二、三フロントと話した後で鍵を持ってきてくれる


「これが鍵だ、それぞれの部屋で荷物を置いたら戻ってきてくれ、現場へ案内する」


「ありがとうございます、行くぞお前ら」


城島の後に続く中、静希はわずかにその場に残っているフランス人に視線を向け含み笑いを浮かべる


明らかに三人の表情が強張っているのがわかったからだ


おそらく訓練を積み、実際に起こる犯罪や能力者などとの対処や戦闘経験は豊富なようだが悪魔との接触自体は初めてらしい


いつ悪魔が出てくるのかビクビクしているという印象だ


「目に見えて緊張している様だったな・・・あれでは付け入ってくれと言っているようなものだ」


「ですね、どうします?またトップに揺さぶりかけて主導権握りましょうか?」


静希と城島がそんな危うい会話をしているのを鏡花たちは複雑そうな表情で聞き流している、なにせ静希は一度イギリスの軍の部隊長に対して同じことをやっているのだ


場所が違えどやることは同じ、前回は静希の立場を明確にしていなかったが、今回はすでに悪魔の契約者という事が知らされている、そう考えれば多少無茶をしても問題はないように思える


「いや、今回はあえて軍にしっかり動いてもらおう、お手並み拝見と行こうじゃないか、どれだけ動けるかをしっかり見てからお前の動く基準にするといい」


「了解です、今日明日はとりあえず様子見でこそこそ動いておきますよ、ただ自由に動けるようにだけさせてもらいます」


元より表だって動くことを得意としていない静希としてはひっそり行動できるような状況を作っておくことも必要だ、そう言う意味ではすでに実習は、いや実戦は開始されていると言っていい


戦闘は何も戦うだけがすべてではない、それに至るまでの過程が重要なのだ

男女それぞれの部屋はすぐ隣にありすぐに行き来ができるようになっている様だった、スイートではないものの、それなりにランクの高い部屋らしく二人部屋にしては随分と広いのがわかる


「静希、お前一体何するつもりだ?」


「ん?何のことだよ」


「さっきから顔がにやついてるぞ」


部屋について荷物を置き、移動用の手荷物をまとめている時に陽太が静希の顔を指さしながらそう言うと、静希はようやく自分が笑っていることに気が付いた


いつも策を思いついたときの邪笑ではなく、薄く笑うような冷めた笑いとでもいえばいいのか、いつもあまり見ない顔だったので陽太の嫌な予感は加速している様だった


「安心しろよ、そこまで派手なことはしないから、ただ舐められるのも癪だし、ちょっとだけ牽制する程度にしておくよ・・・俺らが自由に動ける程度には」


陽太は今まで日本以外の軍とかかわった経験はない、そして今まで関わってきた大人の大多数が自分たちに好意的だったからわからないのだ、依頼をしてくれる人がすべて自分たちに好意的ではないという事を


特に軍ともなればそれぞれの威信やプライドもある、勝手に動かれると立場がないというのも静希だって理解している、だからと言って行動を制限されては面倒になることこの上ない


だから少しだけ牽制する必要があるのだ


立場をわからせると言えば少しわかりやすいだろうか、ただでさえ若年かつ学生であるが故に舐められるかもしれないのだ、少し強めにお話しても問題ないだろう


少なくとも自分たちは軍隊程度では御することはできないという事を理解されればいい、後は流れでどうにでもなる


今回は依頼を受けた立場だから強制的に指揮下に入ってもらうなどという事を言われる可能性だってある、軍の指揮下に入るなど面倒なだけだ、悪魔の力を実際に見てもいない人間に指揮されるなど冗談ではない


戦力は必要な時に必要な場所に投入してこそ意味がある、その戦力の大きさを理解していない人間に最適な配置ができるはずもないのだ


「ちなみにそれって俺らはなんかやることはある?」


「いんや、基本黙っていてくれればいいよ、ただ何があっても動じないように演技してくれれば・・・あと仮面持ってくから準備しておけよ」


静希の言葉に陽太は了解と間延びした声を出している、恐らく静希が何をしようとしているのかは理解していないだろうが、自分がやることがないという事は理解したのだろう、荷物の中から鏡花印の仮面を取り出してさっさと荷物を片付けていた


とりあえず仮面だけは持ってくるように隣の部屋にいる鏡花と明利にも伝えるべくメールすることにした


メールを打ち終えた後そう言えば大野たちはすでにチェックインしているのだろうかと心配になりついでにメールでこれから現場に行くことを知らせることにした


あの四人にも一応現場を見ておいてもらいたいために偶然を装って移動してもらう必要がある


大野達であれば問題なく動けるだろうが、もし既に交通規制などが張られていた場合などはどうしようもなくなってしまう、それこそ静希の先導の下潜入する必要もあるかもしれない


堂々と静希の連れであると言ってもいいのだがいちいち説明するのが面倒だ、戦力を温存、そして隠しておきたいという意味でも軍に話すのは少々遠慮したいところである


そんなことを考えながら静希と陽太は準備を終えて早々に部屋を出ることにした


廊下にはすでに城島が待機しており、隣の部屋から鏡花たちが出てくるのを待つばかりとなった


女子は準備が長いのに城島の準備はいやに早い、いやいいことなのだがどうにも違和感がある


「もういいのか?持ち物はそれだけか」


「えぇ、後は向こうにつく前に着けておけば大丈夫ですね、まぁもう三人に顔は見られてますけど、正装とか言っておけば誤魔化せるでしょ」


静希の持っている仮面を見て城島はわずかに鼻を鳴らすが、その仮面の意味をしっかり理解していた


鏡花の作った仮面はサングラスに近い特性を持っており、ある程度光を遮光する作りになっている、つまり相手からこちらの顔色をうかがうことができないのだ


後は第一印象を変えるという意味合いもある、ただの学生ではないという印象を与えることができれば成功と言っていいだろう


話の流れによっては仮面を外すこともあるだろうし、何より仮面をつけて行動するという事をあらかじめ伝えておくという事も必要である、これで誤って敵と一緒に誤射されてはたまったものではない


「お待たせ、ごめんちょっと手間取ったわ」


「お待たせ・・・もう行くの?」


部屋から鏡花と明利が出てきたことで静希達はようやく準備が整ったと全員が移動を開始する


「とりあえずエントランスで待ってる三人の所に行こう、行動は早い方がいいからな」


そう言ってせかす静希も、ただ理由もなく急いでいるわけではない

急ぐ理由として、活動時間に限りがあるのだ


それは単に実習時間という意味ではなく静希達の体の問題である、飛行機の中で仮眠をとったとはいえ日本時間に直せば今はもうすでに深夜零時を超えているため、僅かながらに眠気が襲い掛かっているのだ


できるなら早めに今日やっておくべきことは切り上げて体調をこの国のそれに合わせなければ今後に響いてしまうのだ


事実明利はわずかに瞼をこすっている、静希もわずかに眠気があるためさっさと面倒なことは終わらせておきたいのだ


「で、対応は先生に、交渉は静希に任せていいのね?」


「あぁ、陽太にも言ったけどとりあえず何をされても動じないようにしてくれればそれでいいよ、後はこっちで何とかするから、行きすぎたらフォローくらいはしてくれればいいよ」


エントランスへ向かうエレベーターの中で静希は軽く全員に指示をして頭を回転させ始める


眠いなどと弱音はいっていられない、ここは自分がしっかり舵をとらなくては


こういう状況に慣れているのが自分だけしかいないというのもあるのだが、そもそも交渉事ができる人間はこの中では静希と鏡花くらいしかいないのだ

陽太は論外として明利は自己主張が少ないためにこういう場での交渉には不向き、となれば静希か鏡花が場を作るしかないのだが


そして鏡花には静希がやりすぎてしまったときのストッパーになってもらいたい、俗に言ういい警官と悪い警官の見本というわけだ


静希が強くものを言い、鏡花が諭しながら状況を整理する、そうすることで同じ班の中でも強気の常識外れな人間と真っ当な常識人な人間がいるという事がアピールできる


つまり静希以外は普通の能力者であるという印象をつけるのだ、こうすることで無茶をするのは静希の、安定した動きをするのが他の班員という印象を付けることもできる


鏡花たちを安全な場所に置くためにこのやり取りは必要になるだろう


「フォローって言ったって、例えばどうするのよ」


「そうだな・・・軍の全指揮権を譲渡しろとか、こちらの指示にはすべて従えとか言い出したら口出して止めてくれればいいよ、そのほうが流れを作りやすいから」


「・・・あんたが無茶苦茶言いそうだってことだけはわかったわ・・・」


これから静希がしようとしている交渉のことを想像したのか鏡花は額に手を当てて呆れ半分、苦悩半分の複雑な表情をしながらため息をつく


静希がやりたいことは理解できた、だからと言って自分がそれを止められるかと言われると微妙なところであるからでもある


もちろん静希だって無茶を言って自分に止めてほしいと思っていることはわかっている、これが本気で言っていた場合、鏡花はどうやって静希を止めたらいいのか全く分からない


「先生、いいんですか?こいつこんなこと言ってますけど」


「問題ない、少なくとも行動を制限されるのは避けたいところだからな、多少強引でもこちらと向こうの立場を明確化しておくのも必要なことだ」


舐められるくらいなら屈服させた方が話が早いしなと城島は悪いことを考えているような笑みを浮かべている、本当にこの人は教師なのだろうかと久々に思いながら鏡花はため息をつく


せっかく助け舟を求めたのに、今自分の周りには過激派しかいないという現実に頭が痛くなりそうだった


常識人というのはたいてい損をする、どこかの誰かが言ったことだが仕方がないと言えるだろう、彼らを止めないと本当に軍の指揮権をもぎ取りそうだからだ


「きょ、鏡花ちゃん、頑張って」


「鏡花姐さんファイトっす、静希に意見できるとかマジリスペクトっす」


「あんたらは気楽でいいわよね・・・ったくもう・・・」


発言や行動すら許されていない二人は鏡花に応援しかできない、鏡花としても頼られて悪い気はしないのだが、さすがに荷が重すぎると嫌気がさすと言うものである


静希に軽く指示を受けながら城島を含めた五人は早々に案内の三人と合流しワゴンに乗り込む


ホテルから出発してフランスの街を走り抜け、郊外にあるという研究所を目指すことになった


ヨーロッパ圏であるとはいえ、若干ではあるがイギリスとはまた作りが異なり、それなりに味のある街並みを楽しむことができた


「まず現場に行って・・・研究者たちとの顔合わせですか?」


「えぇ、主任と、その場に隊長も来ているので一緒に顔見せを・・・あとは今後についての話し合いをしてもらう予定だ」


研究を行っている人間と、それを警護する人間のトップと同時に会うことになるという事でだいぶ手間が省けると言うものだ


とはいえ同時に話をするというのは少々面倒でもある、別々の所に行くより手間は省けるだろうが、その分話が面倒になるのは目に見えていた


そして研究所に到着する前に静希達は全員仮面を装着する


「・・・失礼だが・・・それは?」


「学生がつけるヘッドセットのようなものですよ、特に犯罪者や国の関係者などと会う時は装着するんです・・・まぁ初対面の時は顔は見せますが」


「実習中・・・あるいは作戦行動が始まった際はこれを付けていることが多いので、他の人間にも見せるという意味で着用を指示しました、まぁ気にしないでください」


静希の言葉の後に城島が助け舟を出す、生徒だけではなく教師からも指示を受けたという事であればさすがに無理に取れとは言えないだろう、本人たちが顔は見せると言っているのだ、わざわざ関係を悪化させるようなことをする必要はない


研究所の門を車でくぐり、そのまま中に入り駐車場で停車すると中から一名、軍服を着た若い男性がこちらに駆け寄ってくる、どうやら既に研究所の中には軍が配備されている様だった、召喚実験を行おうとしているのだから半ば当然かもしれない


「お疲れ様です!これから自分が案内させていただきます!」


敬礼しながら静希達を送ってきた三人にそう述べた後で二、三会話して意思疎通に問題ないことを知ると、静希達の前に立って再び敬礼する


「これより主任と隊長の元に案内させていただきます、どうぞこちらへ!」


若いというだけあって元気だ、どこか陽太に近い物を感じる、恐らく新兵だろうか、妙にきびきびしておりやる気に満ちているように見える


案内されて研究所内を見て回ると、その中が随分と広く大きいという事がわかる


大病院のそれに近いだろうか、各部屋には様々な計器や薬品などが配置されているらしくいろいろなものが静希達の視界に入ってきた


そして数分歩いた後、静希達は巨大な扉の前に案内された、どうやら中はホールのようになっているらしく、かなり広い部屋であることがうかがえる


「こちらにいらっしゃいます、どうぞ中へ!」


元気の良い男性の言葉に静希達は顔を見合わせた後で扉を開いて中に入っていく


すると予想通りというべきか、中はかなり広い空間となっており、その中心部に大量の計器が配置され、その奥には召喚陣らしき模様があるのが見て取れる


『メフィ、あの召喚陣、何を召喚するものかわかるか?』


『ん・・・ちょっと遠いわ、もうちょっと近づいてくれればわかるかも』


さすがに扉の入り口付近で聞いたのは焦りすぎたかと、静希は臆すことなく中へと歩みを進める


すると先程まで自分たちを案内してくれた男性が静希達を追い越し、召喚陣付近にいた男性二人に敬礼して報告を始める


「報告します!日本からの協力員五名をお連れしました!」


「・・・了解、御苦労、下がれ」


「了解しました!」


男性に指示した中年の軍人が恐らく今回防衛に当たる部隊の隊長だろう、その軍服にはいくつか勲章のようなものも見られる、それなりに武勲をたてた人間であることがうかがえる


静希達は鏡花を端にして一列に並び、城島が一番前に出て対応することにした


全員が休めの体勢をとったのを確認すると城島は一歩前に出て口を開く


「日本の喜吉学園からまいりました、一年B組一班とその引率教師城島と申します、今日から数日間、どうぞよろしくお願いします」


「・・・これはどうもご丁寧に、国家憲兵隊第一部隊隊長、モーリス・ルブラン少佐だ、遠い所よく来てくれた、歓迎するよ」


そう言いながらモーリスと名乗った男性は城島の手を握るが、その表情と言葉が一致していない、どこからどう見ても歓迎しているようには見えないのだ


今回遭遇している国家憲兵隊というのは軍警察ともいわれる特殊な訓練を課された特殊部隊などを擁する組織だ


これは推測ではあるが、モーリスはもともと軍警察にいた人物ではなく、元は軍の方にいた人物ではないかと思えた


そして静希が抱いた事柄を、実際にその手を握った城島も抱いていた


これは少々面倒になるなと思いながら笑顔は崩さずにゆっくりとその手を離す


「それで・・・ジョーカーはどちらかな?その仮面もとってくれると安心できるのだが?」


初対面で顔を隠すというのは失礼なのでは?と付け足したところで静希達は全員一斉に仮面を外す、そして静希が一歩前に出て姿勢を正し笑みを浮かべながら手を差し出した


「初めまして『ジョーカー』五十嵐静希です、今回はよろしくお願いします、ルブラン少佐」


モーリスはその表情を見て少しだけ不思議そうにしながらも差し出された手をそのまま握手で返すことにした


誤字報告十五件分と評価者人数が320人突破したのでお祝い含めて五回分投稿


最近本当に大量に誤字報告が来るから気が抜けません、自業自得ではありますが


これからもお楽しみいただければ幸いです

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