機内の内緒話
飛行機が日本を離れて数時間、丁度機内食が振る舞われるということで、席を移動していた小岩が元の席に戻ると、静希達の後方から小岩の小さな悲鳴が聞こえてくる
恐らく城島の制裁を受けているのだろう、彼女の冥福を祈るしかない
「あれだよな、機内食ってなんかこう強烈だよな」
「強烈って言い方はどうなのよ・・・まぁ言いたいことはわかるけどさ」
静希達に振る舞われた機内食は肉か魚か、和食か洋食か選ぶことができ、それぞれ思い思いのものを頼んでいたのだが、そこは機内食、普通に作られる料理よりもずっと濃く独特の味がする
インスタントというほどの安っぽさはないのだが、即席物よりも強い香りと味がするのが特徴だ、機内で傷ませないための工夫がされているのだろうが、この食事は何度食べてもきっと慣れることはないだろう
「あと十時間・・・一体何してればいいんだよ・・・」
「イメトレでもしてなさいよ、危険は多いんだから、後は暇つぶしのゲームとか?」
飛行機の時間が長いことは把握していたために暇つぶし用のゲームは勿論持ってきているものの、それだって限界がある
二、三時間はゲームで時間は潰せても後の数時間は何をすればいいのか
寝ておくというのも一つの手ではある、なにせフランスに到着するのは日本時間の夜二十二時頃だが、現地時間では十五時ごろになるのだ
昼から夕方に変わろうという時間帯に到着するわけだが、そこからさらに行動することを考えると寝ておくことは必要である
鏡花が陽太にイメージトレーニングを勧めたのもそれが理由である、陽太は目を瞑って集中すると大抵寝る、今のうちに寝て英気を養っておくのも必要なことだ
とはいっても、今日行う予定は関係各所への顔見せのみ、そこまで激しい動きはしないと思うのだが、実際は何が起こるかわからないのだ
「静希は何やってんだ?さっきからなんか見てるけど」
「ん?俺は現場の周辺を覚えてるんだよ、どうせやることもないしな」
静希が食事をしながら見ているのは今回召喚が行われる研究所の周辺地図だ
以前ブリーフィングをした時、鏡花といろいろ話し合いいろいろと書き記してあるものである
頭脳労働を必要としない陽太と違って、静希は覚えておくことだったり頭に入れておきたい情報がいろいろあるのだ、そしてそれは鏡花も同じである
「なんならお前も覚えるか?そのほうが楽に動けるぞ」
「えー・・・地図かぁ・・・地図かぁ・・・」
静希から地図を借りて数秒眺めた後で飽きたとすぐさま地図を返却してしまう
あまり乗り気ではなかったようだが、わざわざ地図を覚えるという事をする必要性がないと思ったのか、陽太は機内食の肉に食らいついていた
「まぁ実際忙しくなるのは向こうについて・・・明日からだろうな、特に明利の索敵網は敷いておきたいし」
実際今日はやることはほとんどない、そして明日からはまず時差の調整と現場周辺に明利の索敵網を敷くのが主な仕事になるだろう、一日かけて索敵網を完成させたら軍の人間ともある程度打ち合わせなどをしておきたいところである
我ながら面倒なことに首を突っ込んだものだと静希がため息をつくと、後ろの方から声が聞こえてくる
「そういえば五十嵐君、俺らはどう動けばいいのかな?一応ただの旅行者としていくわけだし・・・一緒に行くのはまずいよね?」
そう言えば今回はそう言う立場だったなと静希は思い出す、前回、前々回のように四六時中行動を共にしてもらうわけにはいかないと考えて静希はとりあえず暫定的にだが指示を出すことにした
「あー・・・そうですね、今日はホテルでゆっくりするなり街を移動するなり好きにしてください、明日は主に明利の索敵網作成の手伝いを、当日は現場付近の警戒に当たってもらいます」
「了解、じゃあ現場の場所を確認したら先にホテルの方に戻らせてもらうよ、いろいろ見て回れるだろうしね」
せっかく無理を言ってついてきてもらったのだ、彼らもちゃんと旅行らしく楽しんでもらわねば非常に申し訳ない
後ろではどこを回ろうかとか何を買おうかなどの議論がされる中、静希は資料を読みふけっていた
今回のメインはあくまで静希だ、サポートとして、そして体裁上は一緒にやってきてくれた陽太たちや大野たちにも協力はしてもらうだろうが、それはあくまで補助に近い
主な戦力が自分しかいない以上、自分が何とかするしかないのだ
全てを抱え込むつもりはないが、それだけシビアな状態になるのはまず間違いないだろう
前回のエドとの戦闘でそれはすでに学習済みだ
実際に悪魔同士の戦闘が始まった場合、普通の能力者ではそれについていくことも難しくなる、その為行動しながら次の手を考えて他の人間を動かした方が楽なのだ
もちろん人間一人でできることも考えられることもたかが知れているために、もしもの時は鏡花にオブザーバーとなって観察、そして意見を出してもらうつもりである
強力な能力に加えて頭脳も持ち合わせている彼女なら遺憾なくその力を発揮できるだろう
もっとも、危険な状態で最高のスペックを発揮できるかは鏡花の気力にかかっているわけだが、もしもの時は陽太にしっかりと守ってもらうことにしよう
お姫様ならぬ女王様を守るナイトというわけだ、ナイトにしては姿が少々禍々しいが、その点は鏡花の脳内補完で何とかしてもらうしかない
一体どれくらいの時間が経過しただろうか、資料を読み終え地図も頭の中に入れてしまった静希は大きく伸びをしていた
陽太をはじめとする何人かは眠りについている、鏡花が未だに資料に目を通しているがそれもそろそろ終盤に差し掛かりそうだった
ずっと座った状態でいたために肩が凝ってしまい、首をわずかに動かすとボキボキと何かが鳴る音がする、今度オルビアにマッサージを頼まなければと思っていると、城島が後ろの席から静希の頭を軽くつついてきた
「ん?・・・なんですか先生」
「少し話がある、付いて来い」
城島はそう言って席を立ち、区画を分ける部分の通路に静希を連れてきた
そこにあった売店のようなところで飲み物を注文して静希に渡すと、自分も飲み物を買って近くの壁に寄り掛かる
「とりあえず、今のところの方針はさっきあいつらに言ったとおりだと思うが・・・今回、私はどう動けばいい?」
「うぇ?・・・せ、先生も動いてくれるんですか・・・?」
まさか城島からそんな申し出があるとは思わなかったために静希は少し驚いてしまった
城島は引率という立場だ、彼女が実際に動くといろいろと面倒な部分があるのは確かなのだが
「問題ない、事前に話はつけておいた・・・内容が内容だけに、委員会の方も黙認するそうだ」
「あぁ・・・そうですか・・・」
本来城島は傍観し監督することが仕事だが、今回に限っては実際に戦闘を行ってもお咎めはないという事だろう、相手が悪魔の契約者である以上、そこまで不自然ではないが、静希が考えている以上に事は大きくなっているのかもしれなかった
「でも、正直俺が指示するより先生の方がずっとうまく立ち回れるんじゃないかと思うんですけど・・・」
「そうでもない、確かに私はお前より経験は豊富だが、悪魔の、ひいては悪魔の契約者との戦闘は今回が初めてだ、そう言う意味ではお前の方が経験豊富という事になる」
静希は今まで二度悪魔との戦闘を経験している
一度目は自分が契約しているメフィ、二度目はエドが契約しているヴァラファール
一度目は静希だけではなく陽太と鏡花、そして監査の教員も合同で立ち向かったが、軽くあしらわれるかのように返り討ちにされた、結果的に無事だったのは偏に運が良かったとしか言いようがない
二度目はメフィや邪薙、フィアの協力によりほぼ互角に近い戦いをすることができたが実際静希は指示を出したり動き回ったりフォローをしただけだ、悪魔同士の戦いにおいて役に立ったわけではない
とはいえ、確かに悪魔との戦闘経験のない城島が動くというのはさすがに不安がある、日本に前原という婚約者がいる以上、彼女にはあまり無理はさせたくないものだ
「・・・一応、注意点とかやってほしいこととかは頭にありますけど・・・可能な限り城島先生は待機していてほしいですね」
「・・・ふむ、ひょっとしてだが気を遣っているつもりか?」
そんなところですと言いながら静希は城島からもらった飲み物に口をつける
僅かに苦いカフェオレ、先程まで頭を使っていたためにその中にわずかに含まれる糖分が体に染みていくような感覚がした、疲れた時には甘い物とはよく言ったものである
「じっとしているというのは、案外暇でつまらないものなのだがな・・・」
「まぁそうかもですけど、ぶっちゃけ先生の能力は市街地戦で結構使えるものだと思ってるんです、部隊の移動も楽にできるし、相手も拘束できたり攻撃できる割に周りを巻き込まないし、なので一つの場所で役割を与えるより有事の際の遊撃隊みたいな感じになってもらえればと思ってます」
城島の能力は重力の発生と操作だ、何もない場所に重力場を発生させることもできるし、重力の方向を変えることもできる、それらを応用して飛行や高速移動なども容易に可能とする、周りへの被害が限りなく少ない能力であるため、市街地戦においては大いに活躍できる能力である
静希のいう通り、一つの場所に留まって役目を果たすよりは、指示を与え続けてあちこち飛び回って行動してもらう方が貢献度は高くなると考えたのだ
城島としてもその考えに異論はないらしく、とりあえずの所は納得している様だった
「あいつらに関してはどうするつもりだ?」
「あいつらって・・・鏡花たちのことですか?」
城島がそうだと答えた後、静希は僅かに眉をひそめる
実際の所、そこが最も迷うところでもあったからだ
明利はさておいて陽太と鏡花の戦闘能力は決して低くない、陽太に至っては手加減状態ではあるがメフィの攻撃を真正面から受け止めて見せたのだ、悪魔と戦えるだけの地力は持っていると思っていいだろう
だが、だからと言って最前線に一緒に立たせるかというのは別問題だ
明利の配置はもう決まっている、城島と共に基本待機で現場から静希達に指示を送るのがメインでの仕事になるだろう
だが陽太と鏡花の扱いに少々困っていた
あの二人は基本何処でも最低限以上の実力を発揮できるだろう、だからこそ困るのだ
汎用性が高い分、どこに配置していいものか本当に困る
遊撃隊に入れてもいいし前衛部隊のアシスタントに入れても申し分ない、工作部隊や市街地などの安全確保へまわってもいい
選択肢が多すぎるとかえって迷ってしまうという事なのだが、静希個人の友人でもあるために危険なところに配置したくないという事以外何も決まっていないのが現状なのだ
「明利は城島先生と同じく待機、陽太と鏡花に関しては・・・まだ決まってません」
「ふむ・・・あいつらの能力的には前線に出ても問題ないとは思うが・・・私と違いすでに相対したことがあるしな」
陽太と鏡花の二人はすでに悪魔との戦闘を経験済みだ、と言っても手加減状態のメフィとの話だが、その空気はすでに十分すぎるほど味わっている、前に出てもしっかりと動いてくれるだろうが、静希の気は進まなかった
「やはり身内を危険に晒すのはお前でも躊躇うか」
「・・・時と場合によってはやりますけど、やる必要もないのに危険に晒すのはどうかと・・・」
静希は別に絶対に陽太達を危険に晒したくないと言っているわけではない、必要に迫られれば、可能な限り安全な策を考えたうえで実行させることもある
だが相手の勢力も能力も何もわかっていない状態で前に出させるのはさすがに危険すぎるのだ
それに今回静希の側にいるのは何も自分たちだけではない、フランスに駐在しているであろう軍隊もいる、何も自分たちだけががんばる必要などないのだ
相手の能力が解析でき次第戦力を投入していく予定だが、それまでは移動と挑発と遠距離からの攻撃を駆使して相手の能力を探っていきたいところである
陽太達の力を借りるのは恐らく後半戦、これからが正念場という場面だろうと考えていた
「俺が主に矢面に立って相手の動向とかを探って、目的やら能力やらが判明したら動いてもらうことになると思います、そのほうが安全だし対策も立てやすいし」
「・・・まぁ間違ってはいないな、お前の連れのことを考えればいい判断だと思うぞ」
城島も静希の考えに反対はしなかったが、少しだけ言いかたが引っ掛かる、何かもう少し足りないという事を示唆されているような感覚だった
事実、静希も今の考えに物足りなさを感じている、より正確に言うならば堅実に行き過ぎている気がするのだ
自分だけで行動するのであればもっとアグレッシブに行くことができるのだろうが、身内が近くにいるとこうまで行動が制限されるとは知らなかった
危険に巻き込めない、巻き込みたくない
そう思うだけで考えが縮こまるという事だろうか、妙に考えが凝り固まってしまっている気がした
「五十嵐、一つだけアドバイスをしておこう、私が実際に体験したことだ」
「・・・なんですか?」
「お前は、お前たちはチームだ、チームは一蓮托生、死なばもろともだ、一人だけが負担すればいいなんてことはない、たとえそれが危険なことでも全員で立ち向かうことに意味があるし、そのほうが有利に働く、理屈とか抜きにな」
全員で立ち向かうことに意味があり、理屈抜きに、そのほうが有利に働く
その言葉に静希は眉をひそめてしまう
理屈抜きに良い方向に働くなどという事があるだろうか
城島が実際に体験したことだというのなら、きっとそれはかつての彼女の班のことを指しているのだろうか、それとも彼女がかつて所属していた部隊の話だろうか
理屈ではない
その言葉に静希は疑いを隠せない
なにせ静希達は班を分断して行動することが多い、それもまた協力の一つであることは理解しているし、そのほうが手っ取り早く効率がいいからだ
今回の場合も、消耗を抑えて後半に力を残しておく方が有効だと静希は考えていた
だが城島はそれではだめだと暗に告げている、一緒に行動するべきだと言っている
「あいつらを危険に晒すのは・・・俺はあまり気が進みません」
「危険に晒せとは言っていない、お前自身わざわざ危険に晒される必要もない、使える手駒はいくらでもいるんだ、そう言う奴らを使ってお前自身も温存すればいいだけの話だ、違うか?」
城島の言葉に静希は絶句する
簡単にまとめると、他の軍人たちを使って相手の手の内を探り、美味しいところだけお前達でかっさらえと言っているようなものだ
「さすがにそれは・・・ちょっと角が立つんじゃ・・・」
周りの人間に苦労だけさせて自分たちでおいしいところを横取りするなどあまり印象は良くないように思える
別段抵抗があるわけではないが、敵視されそうで怖い
「バカ者、むしろ逆だ、お前は確かに特殊な立場にいるが建前上はただの学生だ、そんな奴が前に出ているのに他の軍人がのらりくらりとしてみろ、そのほうが角が立つ、あそこの軍は日本の学生にも劣るのか、とな」
「・・・はぁ・・・そういうもんですか・・・?」
城島の言う通り、静希の考えの場合最前線に静希が立ってその攻撃や動向を事細かに確認するという事になり、軍などはその包囲などに回ってもらうか静希のサポートに回ってもらうつもりだった
確かに第三者から見ると学生にいいようにつかわれているか、学生を盾代わりにしているように見えなくもない
「しかも実際は今回の相手に軍がまともに戦えるかどうかも怪しいんだ、それなら最初に特攻してもらって情報を引き出させた方が幾何か有意義な使い道だろう」
「ひどいこと言ってますけど・・・まぁ確かにそれはそうかもですね」
悪魔というのはとても耐久力が高い、それこそ普通の能力者ではダメージなど与えられないだろう、だからこそ同じ悪魔を使役できる契約者をぶつけるのが最良手なのだ
静希の考えだと最初から最後まで軍は静希におんぶにだっこ状態だが、城島の考えならしっかりと前半で仕事ができることになる、ものの言い方を変えるだけでここまで心象が変わるというのは少々驚きだが、この際目を瞑ることにした
「そのあたりはしっかりと清水達と話し合って決めろ、最終的な決定権がお前にあるとしてもだ」
「・・・了解です」
今後の方針を考える上で自分の考えを鏡花たちに伝えるのは確かに必要な事だろう
いつものように理由を伏せてもいいのだが、今回ばかりは危険度からしてきちんと話して納得してもらったほうがいいと思ったのだ
報告連絡相談はチームに置いて必要不可欠なことでもある、まだ事情をほとんど知らない平井と荒川がいるため、席に戻ってすぐに話をするというわけにはいかないだろうが夜に時間を作ったほうがいいかもしれない
「あの・・・先生は今回の件、どのようにとらえていますか?」
「どのように・・・とはまた抽象的だな、今回の何を、と聞いてくれると答えやすいが」
確かにどのようにだけでは範囲が広すぎたかと、静希は現在考えておきたい事柄を一つに絞って聞くことにする
特に確認したいのは、悪魔の契約者でもあるカロラインの動向についてだ
「今回の相手が、何故現場に向かってくるのか、その意図を測りかねています・・・なので意見をいただけたらと・・・」
静希の言葉に城島はふむと腕を組んで思考し始める
城島は静希よりも大人だ、様々な事件に関与していた経験から今回のことに関して静希達が思いつく以外の見解を持っているかもしれない
思考の幅を広げるという意味で意見を求めて損はないと思ったのだ
「私はお前から聞いたのと資料に載っていた程度の事しか知らないから大したことは言えないかもしれないが・・・そうだな・・・資料にあったもう一人の身内のためかもな」
「身内・・・あぁ・・・例の・・・」
静希も城島も周りに内容のことを悟られないようにずっと言葉を濁して会話していたが、ここでようやく静希と城島の間にわずかな言葉の差が生まれた
その為城島が言った身内という言葉が、カロラインの弟のことを示していると気づくのに少し時間がかかってしまった
家族を殺しておきながら弟だけは助けた、あるいは弟と合同で犯行を行ったか、まだそのあたりは不明だが、カロラインはまず間違いなく弟と一緒に行動しているとみて間違いない
そう考えると、今回召喚に向かうという事が弟のため、と言われると妙に信憑性がある
「・・・つまり身内に新しいおもちゃを与えようとしている・・・そういう事ですか」
「あくまで私の予想でしかないがな・・・すでに一つおもちゃを持っていると考えればできないことはないだろう」
おもちゃ
悪魔をおもちゃなどと表現するあたり静希の皮肉が見て取れるが、城島の言う通りカロラインがすでに悪魔と契約していた場合、もう一体の悪魔、あるいは人外が召喚されたとして契約することは十分に可能だと思われる
召喚された相手を拘束するもよし、交渉するもよし、身近に悪魔がいれば無理な話ではない
「仮にそうなった場合、当日もそうですけど前日から周辺を警戒しておかないとまずいかもしれませんね」
「そうだな、あらかじめ潜入されていたのでは話にならん、事前調査と索敵は十分にしておくべきだろうな・・・とはいえ・・・相手が相手だ、潜入などまどろっこしいことをせずとも正面突破も可能かもしれんがな」
「そのために俺が行くんですよ、少なくとも足止めだけはしてみせます」
戦力として純粋に静希を見ると、その戦闘能力は能力者の中ではずば抜けている
無論静希単体ではなく、静希に付き従う人外たちも含めての場合である
静希単体では並の能力者程度、あるいはそれ以下の戦闘能力しかないが、人外たちを含めた場合、エルフさえも軽く凌駕するだけの実力がある
各種攻撃に秀でた悪魔メフィストフェレス
発現系統の再現という能力を持ち、多種多様な攻撃を放つ、その一つ一つの威力はかなりのもので、城島もそれを間近で目撃している
専守防衛に長けた神格邪薙原山尊
小神という力の弱い神格でありながらメフィと同格の悪魔の攻撃を数発ではあるものの防ぐことができるだけの強度を持つ障壁を展開できる、静希が多少無茶しても無事でいられるのも邪薙の働きが大きい
それに加えて静希の剣であるオルビアに、静希の使い魔であるフィア、彼女たちの能力も侮れない
オルビアはすべてに触れることができるという効果を静希の能力から得ており、安定した使用率を誇る、そしてフィアはその能力から機動力に秀でており、移動と高速戦闘にも対応できる
もし静希が人外たちをすべて展開した場合、例え軍が大隊規模を展開しても止められないだろう
ただの能力者でありながら、静希はすでに一個人としての戦闘能力をはるかに凌駕してしまっているのだ
それなのにもかかわらず本人は目立つことを嫌い、隠密行動などを得意としているのだからおかしな話だ、いや、おかしな話というより恐ろしい話というべきだろう
気付いたら自陣の中心に戦略級の存在が潜んでいたなどと、笑い話にもならない
しかも静希の交友関係の中にはもう一人悪魔の契約者がいる、これだけ見ればかなり恐ろしい事態だ
本人が危険や争いを望まないとはいえ、いつか必ず喧騒には巻き込まれる、その時静希がどのように対応するのか、城島はそこまで考えて小さくため息をつく
誤字報告が十五件分溜まっていますので四回分投稿
結構長い間予約投稿期間を作っていましたが、この程度で済んだのは僥倖でした
これからもお楽しみいただければ幸いです




