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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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先輩後輩

静希達が空港に到着すると、そこには私服姿の大野と小岩が静希達の到着を待っていた、その近くには恐らく今回同行してくれるであろう、もう二人の姿も確認できた


「やぁ五十嵐君!待ってたよ」


「大野さん小岩さん、今回も面倒に巻き込んで申し訳ないです」


「あはは、イギリスに引き続き今度はフランス、この調子なら数年後には世界全部の国を網羅できそうね」


冗談交じりに小岩は笑うが、静希からすれば冗談ではない、一年以内に二つの国に行くなんてあまりないどころかほとんどないであろうことだ、もしかしたら本当に数年後にはこの世界のすべての国を行き来するようになっているかもしれないから笑えない


最初の挨拶を終わらせ、静希は大野と小岩の後ろにいる二人に目を向ける


その視線を察したのか、大野は二人を紹介するべく静希達の前に二人を立たせた


「みんなに紹介するよ、今回同行する平井隆文と荒川薫だ」


「ど、どうも、よろしく」


「お、お願いします」


平井と荒川と紹介された二人はやや緊張した面持ちでこちらに頭を下げてくる、平井はガタイの良い男性、頭髪を五分刈りにしているのが特徴的でいかにも体育会系といった様相だ


一方荒川は細身の女性、短めの髪と長い手足が特徴的だった、身長は百七十に届くかもしれないほどの高身長なのが見て取れる


一体どんな話を聞いた結果この反応になったのかは後々しっかり聞いておく必要があるかもしれない


「えっと、じゃあこっちも自己紹介を」


「はいはい・・・初めまして、喜吉学園一年B組一班班長の清水鏡花です、右から同じ班の幹原明利、響陽太、五十嵐静希です」


班を代表して鏡花が挨拶し、それぞれの紹介と同時に一言ずつ挨拶して頭を下げていく


すでに面識のある大野と小岩はその光景をほほえましく見ていたが、平井と荒川の視線が静希と明利に注がれる


片方はこれが本当に高校生なのかという疑いの目、そしてもう一つは、彼が噂のという若干の畏怖を含んだ視線だった


「挨拶も済んだところですぐに手続きをするぞ、後の話はまたあとにしろ」


「あ・・・先輩、そんなに急がなくても」


「あぁ?」


小岩は団欒の会話を取り持とうとしたのだが、城島に一睨みされるとすいませんという言葉と共にすぐに引き下がってしまう


この二人に関しては完全に上下関係ができてしまっている様だった、何とも見ていて面白い限りである


全員が手続きを終え、飛行機の準備ができるまで待っている間、大野と小岩はともかく、新顔の平井と荒川は少々居心地悪そうにしていた


まぁ当然かもしれない、高校一年生の校外実習で海外に行くこと自体が異例だというのに、しかも休みを利用してフランスに一緒に行くことになってしまったのだ


そしてその原因が目の前の普通そうな少年にあるという事で少々警戒の色が強いように思える


当然の反応だと静希は割り切っているが、このままだと少し居心地が悪い、これから世話になることもあるだろうから柵は可能な限り取り除きたいのだが、どうしたものか


「そういや小岩さんって城島先生の後輩なんすよね、なんか先生の面白エピソードとかないんすか?」


「うぇ・・・?その・・・えっと・・・ここではちょっと」


相変わらず空気を読まない陽太が、城島が目の前にいるのにもかかわらずそんなことを言うものだから小岩が蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまっている


あんな状態で昔話などできようはずもない、しかも『話したらどうなるかわかっているだろうな?』とでもいうかのような鋭い眼光が城島から放たれている


小岩が哀れでしょうがないので、とりあえず静希は助け舟を出すことにした


「おら陽太、飛行機の時間は長いんだ、そういう暇な時間に長話はしてもらえばいいだろ、せっかくまだ店があるんだから適当に話の肴でも買いに行こうぜ」


「お!いいな!全員で食えるようなチップ系にするか!」


陽太の興味を城島に関する昔話から食べ物に変えたことで一時的に事なきを得たが、結局話すことに変わりはないのではないかと小岩ははっとなる


そして静希の親指が微妙に立っているのを確認してやられたと項垂れてしまう


「えっと、その・・・うちのバカがすいません・・・」


「・・・ううん、平気よ、こうなったら覚悟を決めるわ」


それは一体何の覚悟だろうか


鏡花は聞きたかったが近くにいる城島から放たれるプレッシャーがその質問を許してくれなかった


生徒や後輩に向けるべき眼光ではない、明らかに敵に向けるそれである


「そ、そう言えば大野さんたちと平井さんたちってどういう関係なんですか?同僚・・・ですか?」


「あぁ、こいつらとは軍に入った時からの同期でな、まぁそれなりに長い付き合いだ」


「あはは、こいつといるとたかられるからいやなんだけどな」


大野と平井はどうやらそれなりに仲がいいのか軽口を言い合っている、それに対し小岩と荒川はそんな二人を見てため息を吐き合っている、どうやら少し頭の弱い二人を支える頭脳役としてこの二人がいるようだった


似た者同士というかなんというか、妙に行動や言動が似ている気がしてならなかった


静希達が飛行機を待つこと数十分、準備ができたという事で早速搭乗すると流石に久しぶりの飛行機で生徒全員に緊張の色が走った


「なぁ静希、だいたいどれくらいでフランスにつくんだ?」


「えっと・・・確か大体十三時間くらいだった気がする・・・ほぼ半日だな」


静希の言葉に陽太はうへぇと嫌そうな顔をする


以前イギリスに行った時も同じくらいの所要時間だったが、また同じほどの時間がかかるとなるとどうしても嫌気がさしてしまう、なにせ前回陽太たちが行ったときは二、三時間ですでに飛行機に飽きていたのだから


自分たちに宛がわれた席を探していると、少し歩いてその場所を見つけることができる


どうやら全員の場所が近くになっているらしく、それぞれ話しやすい位置になっていた


「なぁ静希、どうせテオドールの奴に支払い任せるならファーストクラス?とか高い席とっても良かったんじゃねえの?」


「あ・・・そうだな、どうせならこういうところでもむしり取ってやればよかった・・・次からそうしよう」


「あんたら鬼か・・・ファーストクラスでこの人数移動させたら凄いお金かかるわよ・・・」


今まで海外への依頼を受けた時の移動は主に転移能力者を用いてのものが多かったために飛行機に金をかけるという考えが浮かばなかったのか、静希はしまったなぁと後悔している様だった


日本からフランスに行くだけでも十万以上するというのに、それでファーストクラスの席をとろうとしたらその五倍近い値段がついてもおかしくない


今回移動するのは生徒四人、教員二人、軍人四人、全部で十人だ、これだけで五百万くらいかかる計算になる、ただの移動でここまで金をかけるというのはさすがに可哀想になる


日本からパリへの直行便はさらに金がかかるためその金額も跳ね上がるだろう


「でもさ、案外すいてるし席自体は空いてるんじゃねえの?それなら少し安くならねえの?」


「空いてるイコール安くなるってわけじゃないのよ、サービスとかも違うらしいし」


鏡花自身ファーストクラスのサービスを受けたことはないために、調べた限りの知識でしかないが、それこそ座る席から何から違うらしい


そして陽太の言う通り、この飛行機に乗っている客は少ないように見える


平日の日本からパリへの直行便、出張に行くサラリーマン風の男性が数十名いる程度、見たところ随分と空席が目立つ


もしかしたら静希達のいる区画が少ないだけかもしれないが、こんなものだろうかと首をかしげてしまう


「それにしても空いてるね、ほとんど大人の人たちばっかりだし」


「普通の学生はこの時間は学校に行ってるからな、俺らがおかしいだけだろ、普通の実習のスケジュールも無視してるしな」


大きな荷物はすでに空港に預けているために静希達が持っているのは手荷物だけだ、それらの中から暇つぶしになるようなものを探し出しながら静希は再度周囲を見渡す


日本からパリへの直行便というだけでそもそも利用する客層も少ない上に今日は平日、しかもまだ午前中だ、出張で行く人間以外でこんな便を利用する人間はいないという事だろうか


「人は少ないが、あまり騒ぐなよ、周りの人の迷惑になる」


城島の注意に静希達は小声で了解ですと答えると、近くにいた小岩が小さく笑う


「・・・今なぜ笑ったのか・・・一応聞いておこうか?」


「ご、ごめんなさい先輩・・・でも普通に先生っぽくて・・・」


ぽいもなにも城島はれっきとした教師だが、どうやら小岩の中では城島のイメージを教師と言うものと結びつけるのが難しいらしかった


昔の城島がいったいどんな性格をしているのかを知っているのは恐らく城島と同じ班だった三人、町崎、村端、国岳、そしてその頃に関わりを持っていた数人くらいなのだろう


その数人のうちの一人が小岩という事である


「小岩さん、城島先生って昔はどんな人だったんですか?」


何気ない質問だったのだが、その質問が飛んできた瞬間に城島から放たれるプレッシャーが強くなる


威嚇というにはあまりにも荒々しく、その圧力は小岩の方へ向かっている様だった


城島は口に出すことなくこういっているのだ、しゃべったらどうなるかわかっているだろうなと


小岩は冷や汗を流しながらどうしたものかと悩みだしてしまう


せっかく静希と同じ班の子たちと一緒になり、しかも先輩である城島の指導を受けている生徒たちだ、昔の話にちょっと花を咲かせるくらいのことはしてあげたいのだが、すぐ横から放たれるプレッシャーにはあらがえない


席の配列として前列窓際に明利、その隣に静希、陽太、鏡花の順で並び、その一つ後ろの席に窓際から平井、荒川、大野、小岩、城島の順で並んでいる

静希達の列の席は一つ空いており、その席が監査の教員用のものであることがわかるのだがそこに姿はない、すでに仕事中である以上姿を見せる訳にはいかないのだろう、一体どこにいるのかわかるはずもない


そこで小岩は一つ思いつく


「先輩ちょっと前失礼します」


小岩が城島の前を横切り、前の静希達の席へとやってくる、こうすれば小声で話せば城島に聞かれることなく話すことができるだろうと考えたのである


「さぁ少年少女たち、先輩のことでよければいくらでも話してあげるわよ」


「ほほう・・・いい度胸だ・・・」


小岩が小声で話しても城島には聞こえているのか、腕を組んで怒気を発散させている城島の声が僅かに響く中、そのことに気付いていない小岩は嬉々として静希達に城島の昔の話をし始めた


日曜日なので二回分投稿


予約投稿中にて反応が遅れます、ご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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