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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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第二回ブリーフィング

静希達が資料を受け取り、その対策をしてから数日、普通の生徒たちも資料を受け取るべく教室内で待機していた


いつもなら自分たちも同様に独特の緊張感と共に班長達が帰ってくるのを待つのだが、静希達は幸か不幸か既に内容を知り尽くしてしまっている


建前上鏡花も他の班の長と共に職員室に向かっているが、あくまで形式上の物なのでさしたる意味はない、もしかしたら追加情報もあるかもしれないが、それが手に入ったらまたブリーフィングをすればいいだけの話である


「なんかあれだな、いつもと違うと違和感あるな」


「まぁ違和感はしょうがないだろ、周りとの空気も全部違うんだから」


「疎外感っていうのとは違うけど・・・ちょっと居心地悪いね・・・」


すでに内容を知っている三人は周りに聞こえないように小声でそんな会話をしている、他の生徒たちも普通に会話したりしているが、その表情や仕草の節々に緊張感にも似た物があるのがうかがえる


一年間の総集と言ってもいい今回の校外実習、恐らく全体的に難易度は高く設定してあるだろう、それを他の生徒たちも何とはなしに察しているのだ、仮にも一年間実習と訓練を重ねてきたわけではない


思えば、今の静希達は最初に実習に行った時の雪奈や熊田の状態に限りなく近い物になっているのだろう、あの時は二人の集中や振る舞いなどに自分達との明確な差を感じたが、なかなかどうして一年も活動すればそれなりに変わるものである


面倒事に巻き込まれ続けた静希達だけではなく、普通に学校生活を送っていた他のクラスメートたちも、何か口では表せないような風格を持ち合わせているように思える


経験を積んだことによる自信か、それぞれによってその空気は違うが、最初の実習の頃を思い返すとまるで別人のようである


「一年間・・・長いようで案外短かったな」


「そうだな・・・まぁいろいろあったし、しょうがないんじゃね?」


「本当にいろいろあったしね・・・」


いろいろ、というにはあまりにも多くの事柄が静希達の間では巻き起こっていた、少なくとも一年前には想像もできなかったことばかりだ


全てがいい変化で、いい事柄だったかと言われれば首を横に振るが、それらすべては余りあるほどの経験となって静希達の中に蓄積されている


人間関係も、生活も何もかも変化している、静希達だけではなくそれは他のクラスメートたちも同様だろう


喜ぶべきことであるかはさておいて、その変化は少しずつ少しずつ静希達を成長させていく要素となっているのだと実感できた


「この分だと来年はどうなることやら・・・特に静希の行く末が不安だぜ」


「お前に心配されるほどじゃないと言いたいけど・・・一度やらかしてるしなぁ・・・」


「ふふ、もうあんな思いさせちゃだめだよ?」


一度静希は本気で陽太達に心配をかけている、死にかけていたためそんな余裕はなかったがそれだけの危険に晒されたのだ


静希の近くで明利は笑っているのだが、それは表層上だけで目はまったく笑っていなかった


もう静希は明利も雪奈も心配させることはしてはいけないのだ、なにせ雪奈の片腕がかかってしまっているのだから


そんなことを話していると、教室の扉が開いて城島と各班の班長が戻ってくる


先程まで騒がしかった教室内は一変、静かになり城島の言葉を全員が待っていた


「あー・・・今回で今年度最後の実習になる、全員気を引き締め、全力で事に当たるように、ただ怪我などはするな、終わり良ければ総て良し、最後位は華やかに終わって見せろ、以上解散」


城島にしては随分としっかりとした激励を送ったものだと静希達は感心しながら資料の束を持ってやってきた鏡花に視線を送る


その表情は何か考えているようではあるが、何を考えているのかまではわからない


だが考えるだけの内容があの資料の中にあるのだろうと納得し、とりあえず帰りのHRが終わったのを確認して荷物をまとめ始める


「どうだった鏡花ちゃん、何か追加の情報とかあった?」


辺りが一斉に騒がしくなるのに乗じて明利は鏡花のそばに歩み寄る、それを確認してか鏡花は少しげんなりした表情を明利に見せた


「あー・・・まぁ追加って程じゃないけど・・・あとで全員に話すわ、全員知っておいた方がいいでしょうし」


その言葉に明利をはじめとして静希も陽太も首をかしげてしまう


一体何がこんなに鏡花の気分を沈ませているのか、それだけの情報が資料に込められているのか


とりあえず静希達は荷物をまとめいつものようにお菓子やら何やらを買い込んで静希の家へと向かうことにする


「まさか二回もブリーフィングすることになるとはなぁ」


「まぁ今回は規模が規模だし、仕方ないんじゃない?」


鏡花の言う通り、今回の実習は今までのそれとは規模が違う


静希はすでに軍が関わるような事件に干渉してきたが、鏡花たちは初めてなのだ


単身で軍の中に入ることと、チームで軍に入るのとはまた難易度も状況も全く変わってくる、しかも今回自分たちはいてもいなくてもいい立場なのだ


どれだけ邪魔にならないように静希のサポートができるかというのが重要になってくる


普段は静希が自分たちをサポートする立場であるというのに、今回に限ってはそれが逆転するあたり静希本来の立場というのが浮き彫りになると言うものである


「えっと・・・とりあえず概要だけ言っちゃうとね、今回の私たちの滞在期間が決定したのよ」


滞在期間、つまりは静希達が今回の実習にかけることができる時間という事である


実際は召喚が行われるまでがリミットになるわけだが、事後処理なども含めて今回は行われるのだろうかと飲み物などを用意した静希と明利は全員の前に湯呑などを置いていく


「で?実際何日居るんだ?召喚までの猶予とかも知りたいし」


「一週間よ」


その言葉に全員が飲みかけていた茶を吹きだす


普通の実習は金土日の三日間で行われる、まさか三日間を飛び越えるどころか倍近い日数を過ごすことになるとは思ってもみなかった


「ちょ、ちょっと待て、確か召喚が行われるのが日曜日だろ?ひょっとして出発って・・・」


こうして話している今日は火曜日、金曜日に出発だったらその日まではだいぶ余裕があったのだが、実際の余裕はもっと少ないのかもしれない


かなり規格外な実習内容なために他の班と違う日に出発しても何もおかしくないのだ


「出発は木曜日よ、他のみんなよりも一日早い出発になるわね」


木、金、土、日、月、火、水、これが今回の実習スケジュールになる


出発の木曜日は恐らく移動でほとんどが終わるだろう、その資料には移動のスケジュールなどもすべて記されている、と言っても行って帰っての分だけでそのほかは自分たちで決めるようだが


召喚の前三日、召喚の後三日というスケジュール、いや移動を考えれば実際は二日ずつの猶予を作ったと考えるのが妥当だろう


だがまさか一週間も向こうにいることになるとは思っていなかった


「・・・今までで最長の実習だな・・・」


「本当にね、帰ってきたら誰かにノートのコピー貰わないと・・・ったく誰かさんが面倒を呼び寄せなきゃこんなことには・・・」


「わ、悪かったよ・・・まさかこんなに長いとは・・・」


金土日以外の日は他の生徒は普通に授業があるために、自分たちはその授業に出席することはできないという事になるのだが、そうなると随分と授業に遅れが生じてしまうことになる


訓練などはまだいいとして座学の方は遅れを取り戻すのは非常につらい、こういう事態であるために仕方がないと言えるが、静希の我儘でこうなっているのだ、多少恨む気持ちもあった


資料に記されていたのは事前に城島から受け取った資料とほとんど同じだが、移動など飛行機の時間などのタイムスケジュールと、すでに待機している軍の人員とそれを総括する人物の名前が記されていた


それを見ると確かにげんなりしてしまうのも当然だろう、実習よりもその後の方が面倒そうなのだから


「こりゃもう今日から準備始めないとな・・・パスポートとか着替えとか武器とか・・・明日は忙しそうだ・・・」


「明日以降はもっと忙しそうだけどね・・・前々から用意しておいてよかった・・・」


海外に行くというだけでも準備が必要だというのに、その猶予が実質一日しかないという事態に僅かに焦りを覚える中、静希は鏡花の持っていた資料に目を通し始める


「・・・うん、内容自体は先生に渡してもらったのと変わりないな・・・あとは今まで考えたことを詰めるくらいでよさそうだ」


先日しっかりと話し合いをしたために大まかにではあるが静希の中でもプランはできていた、後はそれを実行できればいいのだが、そう上手くいかないのが校外実習と言うものである


資料を読んでいる静希を横目に、陽太が何か考えだし口を開いた


「なぁ、今回の実習って召喚が上手くいくように護衛するんだよな?」


「名目上はね、静希の目的はそれにつられてやってくる悪魔の契約者との接触よ」


今回静希はその契約者と接触したいが為にテオドールを使って自分の所へ実習という形で任務を請け負った、仮に召喚自体を妨害されたとしても相手と接触し拘束できれば静希の中では成功なのだ


「うん、それは納得したんだけどさ、その悪魔の契約者は何で召喚実験の所に来るんだ?」


陽太の言葉に、鏡花ははぁ?と眉を顰め、静希は資料を見るのをやめる


「そりゃ、あれでしょ、召喚される人外を自分のものにするためとか、そう言うのじゃないの?」


「そうなのか?もう契約してるんだからそれでいいんじゃねえの?」


鏡花の言葉に陽太は納得していないようだが、陽太の言う通り、悪魔の契約者がなぜ召喚の場にやってくるのかの理由が不明なのだ


召喚実験の数日前にフランスに到着するような手はずをとったというだけで、実際はただ通り過ぎるためにフランスによっただけという事も十分あり得るが、静希やテオドールの予想通り召喚実験を目的にやってくるのだとしたら、一体何がしたくて来るのだろうか


鏡花の言うように自らの手の内に人外を加えるためだろうか、それなら自分で召喚をすればいいのではないかと思える


犯罪者という立場のために長時間一つの場所に留まれず、召喚陣を作るだけの時間的猶予がないから他の召喚を利用するという考えは理解できなくはない


だがただ召喚されるものを手に入れたいがためだけにわざわざ危険区域に首を突っ込むようなことをするだろうか


悪魔の契約者として警戒されている以上、そこにはかなりの数の戦力が投入されるとみて間違いない、そんな場所に飛び込んでまで新しい人外を求めるだろうか、それも何が召喚されるか全く未知数なものであるというのに


研究者となれるほどに優秀なエルフが、不確定要素の強い召喚に対してそこまで強く出る意味が分からない、リスクに対してのリターンが不明瞭な状況に突っ込むほど、状況判断ができないような人物であるとは思えなかった


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


今日から数日間所用で予約投稿をするために反応が遅れてしまいます、どうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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