仮面の老若
翌日、静希は昼休みに隣のクラス、一年C組に顔を出していた
「あれ?引き出しじゃん、どうしたんだ?」
隣のクラスにも静希を見知った人間はたくさんいる、小学生からエスカレータ式で上がってきたことにはこういった利点もあり、同時に欠点でもある
「あぁ、ちょっと人を探しててな・・・っとわかりやすくていいな」
クラスで昼食をとっているグループの中に一つ見慣れてしまった仮面をつけている人間がいる
人探しの時にあの仮面はいい目印だ
「石動、ちょっといいか」
グループに近づくとクラス中が一瞬ざわついてそのグループ、恐らく石動の班員だろう、彼らも驚いた眼で静希を見つめる
「あぁ五十嵐か、何か用か?」
「昨日の件で報告がある、少し時間をもらえないか?」
「わかった、場所を移そう、すまない皆、構わず食事を続けていてくれ」
静希が石動を連れてクラスを出ると一気にクラスが騒がしくなる
何やら憶測やら驚きが飛び交っているのはわかるが、今はどうでもいい
「悪いな、こっちの都合で一人仲間外れみたいにしちまって」
「いや、班に向けられた任務なら部外者の私に秘めるのは当然だ、気にするな」
「そういってくれると助かるよ」
ある程度人の少ない渡り廊下についた時点で静希は止まり、昨日話し合ったことをかいつまんで説明する
「そのうえでお前に確認したいのは今の村の状況と、精霊などの召喚についてだ、支障がなければ話してほしい」
今回の、いや前回の校外実習のころから問題が継続されているのであればこれはすでに事故ではなく意図的な事件に発展する
召喚されたのは悪魔と神格、メフィの言葉を信じるならもはや本当に静希達の手に負える話ではなくなっている
「村については特に変わった話は聞かない、昨日城島先生から神格の召喚があったと聞いたのも初耳だったんだ・・・」
「そうか・・・精霊とかの召喚については何か知らないか?」
「すまない、基本的な知識はあるが、詳しくはわからない」
「・・・そうか・・・」
この件に関して石動の協力は村の案内までになりそうだ
「だが・・・」
「何か気になることでも?」
「あぁ、召喚の陣は長時間かけて描かれる、そして消すにも同じく長時間を要するんだ」
「なんで?」
「その地の龍脈と召喚の術式をリンクさせるためだ、逆に消す時にはそのリンクを外さなくてはいけない」
またわけのわからない単語が増えた
龍脈、静希が記憶の中からその単語を引っ張り出す
確か風水において使われる大地の気の流れだったか
どちらにせよエルフの能力の使用やら儀式やらは静希達の常識とはかけ離れていることがうかがえた
「週末までその召喚の陣が残ってる可能性は?」
「難しいな、いつ頃召喚が行われたかは分からないのか?」
「資料には書かれていなかったよ、というよりあの資料、任務の内容以外ほとんど何も書いてなかった」
「そうか・・・すまない」
身内の不手際に対して謝っているのか、石動は肩を落とす
どうやら城島の言うとおりエルフの中で頭が固いのは年上の連中だけのようだ
石動は一見すると真面目で融通のきかないところもあるかもしれないが、それは一般的に見ても特に問題のないレベルだ
東雲も年齢の割に落ちついて大人びていたが、それでも子供であることに変わりはない
エルフだから自分たちと違う人間というわけではないようだ
「まぁ、その場についてからいろいろと考えるしかないな、村までの案内は頼むよ」
「あぁ、それは任せてくれ、元よりこちらが頼んだ話なのだから、他にも手伝えることがあればできる限り協力しよう」
「あぁ、ありがとう」
石動が協力的であることが本当にありがたい
資料や前回の実習の対応からしてエルフ上層部の普通の人間に対する態度はいい物とは言えない
最悪村に入った途端に四面楚歌にもなりかねなかっただろう
協力者が一人いるだけでずいぶんと違う
「何かあったら連絡してくれ、これ俺の携番」
「あぁ、こちらでもいくつか調べておくよ」
連絡先を交換し互いのクラスに戻ることにする
村についたら村の把握と東雲に会うことと、さらにやることができてしまった
『メフィ、お前が呼び出されたのは確か二週間くらい前だよな』
『そうね、ちょうどそのくらいになるかしら?』
トランプの中にいるメフィに話しかけると中におさまっている悪魔は呑気な声をあげる
『さすがに二週間も経ってたら消されちまってるかな』
『私のはたぶん消されてるでしょうね、でも神格の方はわからないわ、痕跡さえ残ってれば再現してあげる』
『お前がいてくれてよかったと思ったのは初めてだよ』
あらひどいのねととぼけるように笑いながらメフィの声は消えていく
やることは決まった、後は準備を進めていくだけだ




