静希達の実習
「ただ、いくら私たちが認めても先生が認めてくれるかしら?」
鏡花の言葉に全員の視線が城島に向く、さすがに静希も城島の意見を無視してまで実行に移すつもりはなかったのだが、城島はため息をつきながら首を横に振る
「お前がその気になったら無理やりにでも実習に組み込めるだろう?私の介入する隙などない、本当は止めたいがな・・・まぁお前達を監視下に置いておけるというのはそれはそれで楽だがな」
城島としては余計な危険に首を突っ込んでほしくないと考えているようだが、悪魔の契約者という強大過ぎる存在との接触、近隣諸国が何の準備もしていないとは思えなかった
それ故に、単なる能力者の必要性とその危険性は下がると考えたのだ
極端なことを言えば静希だけ現場に向かい、他の三人はホテルで待機していても何の問題はないのだ、それをこの三人が許容するかどうかは別問題だが
どちらにせよ城島自身が言ったように、静希がその気になればテオドールに連絡してすぐに実習に今回のことを組み込むことができるのだ、いくら止めたところでそう易々と止まるほど静希が素直な人間ではないのは城島も理解していた
「だが五十嵐一つ、いや二つ確認したい、一つはお前達をどのような形の実習で送り出すつもりでいるのか、そしてもう一つはお前たちの実習にその召喚実験関係の内容を組み込むことはいいが、他の人員を日本から派遣することは可能かどうかだ」
「えっと・・・例えば軍人を何人か一緒に連れていくとかそういう事ですか?」
静希の言葉に城島はそうだと答える
城島の言いたいことは理解できる、つまり召喚実験に際し現れる悪魔の契約者への対抗策という名目で軍の人員を静希達と一緒に派遣し、その実静希達を守るために行動させようとしているのだ
いわば静希達学生の護衛任務を軍人にさせようというのである
できるかどうか怪しいところだが、これは確認をとったほうがよさそうだった
「ちょっとテオドールに連絡して聞いてみます、さすがに俺だけじゃ判断できないですし」
そう言って静希は携帯を取り出しテオドールに電話を掛ける
数回のコールの後電話の向こう側と繋がる音がする
『もしもし・・・イガラシか、何か用か?』
「用がなけりゃ俺がお前なんかに電話なんかするか」
この前のお返しかとテオドールは苦笑していたが、とりあえず静希の用事が例の話であることを察してそれで?と聞き返してくる
「二つ確認したいことがあってな、仮に俺を実習っていう形で班員ごとフランスに送り込む場合、どういう依頼をねじ込むつもりなんだ?」
『単純だ、召喚実験を悪魔の契約者が狙っている、となれば悪魔の契約者で対抗するのが最も簡単だ、表向きはただの能力者のお前をイギリスの推薦という形でねじ込むつもりだった』
「つまり、護衛任務って形で行くことになるのか」
あえて口に出すことで城島にその事実を伝えると、城島は頷いて返事をして見せた
護衛任務、静希としてはあまり良い経験のない内容だが、選りすぐりはしていられないのも事実である
『それでもう一つの確認したいことってのは?』
「その実習に日本の軍人を連れていくことは可能か?戦力は多いほうがいいと思うんだが」
『あー・・・それは難しいな、なにせいくつもの国が関わっているプロジェクトだ、関係のない他国の軍人を連れてくるというのはあまりよろしい行動ではないな』
テオドールの言葉に静希は城島に視線を送った後で首を横に振る
確かに国の息がかかっているかもしれない人間を易々と懐に入れる程近隣諸国も耄碌していないだろう、静希がその場に行けるのは悪魔の契約者だからで、陽太達がそれについていけるのは彼らが学生だからである
情報が漏れるのを極力防ぐなら静希だけで行くのがベストだろうが、悪魔の契約者である静希を引っ張ってくるための条件が学生三人と教師だけなら安い物だろう
『確認したいことってのはそれだけか?もう決まったと解釈しても?』
「いや、もう少し話し合う、ただ今日中に答えは出すつもりだ、また連絡する」
静希はそのまま通話を切り小さくため息をつく
「軍人の同伴は難しそうですね、あっちも結構なプロジェクト抱えてるみたいですし」
「ふむ・・・となるとどうしたものか・・・また非番の人間を探してくるか・・・あるいは作るかだな」
軍人としての仕事で行けないのであれば、休日に偶々フランス旅行に行く人間を作ればいい
城島の無茶苦茶な方法は、一見非道に見えるが、その実非常に的確だ
いくら職業が軍人だからと言ってプライベートまでは干渉することはできない、能力者とはいえ休日に旅行に行くことくらいあるだろう、そう考えるとできないわけではないのだ
「じゃあ先生、実習に組み込むという形でいいんですか?」
「・・・町崎に話を伝えて同伴できそうな人間を見繕ってもらおう、それが確認でき次第連絡する、そしたらお前も彼奴に返事をしろ」
携帯を持って部屋から出て行く城島に了解ですと返事をして、静希は小さくため息をついた
「何ため息してんのよ、ため息つきたいのはこっちだってのに」
「いやまぁ・・・その・・・すまん」
巻き込んでいるのはこちらで、鏡花たちは完全に巻き込まれた立場だ、鏡花の言う通りため息をつきたいのは彼女たちの方だろう
「でもフランスかー・・・なんだっけ、ボンジュールだっけ?」
「フランス語だね、フランスって何が有名だったかなぁ」
二人はすでにフランスに行く気満々なようだったが、気苦労の多い鏡花はさらに気落ちしてしまっていた
本当にごめんと謝りながら項垂れる鏡花を慰めようとするが、その大きなため息に阻まれ何もいう事が出来なかった
城島から連絡が来たのはその日の夜の事だった
町崎に確認、というか指示を出したところ以前静希が世話になった大野と小岩を含めた四人を丁度休みにできるのだという
あの二人も運がいいのだか運が悪いのだかわからないが、今度は二人だけではなくもう二人追加でいるようだ、両名の負担は軽減されると思っていいだろう
「あぁ・・・実習に組み込む形で頼む、四人ほど偶然旅行に行く軍人がいるようだが気にしなくていい」
『なるほどな、そう言う手で人員を補充するとは思わなかった、まぁいいだろう、そいつらの旅費もついでにフランスから引っ張ってきてやる、数人程度の許容でお前を雇えるんだ、安いもんだろ』
テオドールとしても人員が増えるというのは特に問題はないことだと受け取っているらしく、むしろ楽しそうにしていた
こちらとしても旅費を確保できるのであればいう事はない、すべて静希が出してもよかったがそれだと出費がかなりかさむ計算になってしまう、今回のことは好都合と取るべきだろう
『ほかに何か要望は?向こうとしてはVIP待遇をしてもいいくらいの姿勢は見せてくれると思うぞ?』
「そうだな・・・まぁチームと監督役、それと軍の人たちの部屋を分けたり、それなりにいい部屋だったりの要望はあるけど、そのあたりはお前に任せる、盗聴の危険の無い場所を頼むぞ」
『確かにその通りだ、休むべき場所で休めないなんて笑い話にもならないからな』
どの口がそんなことを言うのかと静希はわずかに笑いながら他に要望がないかを確認していく
エドは自分達とは関係なく現場にやってくるだろう、彼に余計な柵を付けるわけにはいかないために、エドがやってくることは伏せておいた方がよさそうだ
旅費や宿に関してもエドは自分で用意するだろう、誘っておいて自由にしろというのも少し心苦しいが、ここはエドの自由意思に任せるしかない
「あとはそうだな・・・現地にいる部隊と接触できるように計らってほしい、まぁ向こうから近づいてくるだろうけど、顔見せ的な意味でも必要だろ」
『わかった、そのように伝えておこう、他に要望がなければあとはこっちがやっておく』
「あぁ、資料なんかはきっちり情報を隠匿しておいてくれよ?あと俺の連れがいるんだ、くれぐれも丁重に頼むぞ」
僅かに静希の声音が低くなったのをテオドールは感じ取り、わかっているともと答えた後で通話を切る
テオドールは一度陽太達に会っている、万が一にも彼らに危険が及ばないようにしなければいけない
事前にできる準備はまだいくらでもある、忙しくなりそうだと静希は大きく伸びをした
「あら、電話終わった?・・・邪薙置いてくわよ」
「今回は順調に事が進みそうだな・・・メフィストフェレス、盾を持っているならこちらをカバーしてくれないか?」
「お疲れ様ですマスター、お茶をどうぞ」
人外のうちの二人がゲームをしている間、オルビアだけが静希に気を遣ってくれる、やはり悪魔や神は人間に対しては無関心になってしまうのだろうかと僅かに涙がにじむ
二人がやっているのは先日メフィが鏡花に買わせたものだ、丁度良く協力プレイができるという事で珍しくメフィと邪薙が同時に遊んでいるところである
「結局ヨータたちと一緒に行くのね?私の出番ある?」
「あぁ、どっちかっていうとお前メインだろうな、むしろ俺がおまけだ」
今回フランスの人間が呼び込みたいのはあくまで静希ではなくメフィだ
悪魔の契約者は周りの人間と悪魔とのつなぎになるのがせいぜいという認識を多くの人間が持っていることを静希は知っている、だが逆にその『つなぎ』の機嫌を損ねれば悪魔と接触する事すらできなくなる
だからこそ最大限気を遣うし、待遇もよくするのだ
もっとも単なるつなぎ程度で満足するほど静希は控えめな性格はしていない
悪魔と比較されてその価値で勝るような人間などいるはずがない、否、いてはならないのだ
だがだからと言って自分の存在をただのパイプ程度に考えている人間がいるというのは、あまり気分が良くない
「派手に暴れることもあるだろうから、しっかり英気を養っておけよ?頼りにしてるぞメフィストフェレス」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない?了解、とことん楽しませてあげるわ、イガラシシズキ」
お互いをフルネームで呼んだのは実に久しぶりだったかもしれない、メフィに至ってはもしかしたら初めてだったかもしれない
互いを認め合い、対等であるように契約している二人からすれば名前や愛称で呼ぶことが当たり前になり、それが当然であるように毎日過ごしていた
だから今、もう一度確認した、自分は悪魔の契約者で、自分はこの人間と契約しているのだと
「報酬は一体何がいいかしら?派手に戦うとなるとそれなりに大変なんだけどなぁ」
「はいはい、俺にできることならやってやるよ、浮気はするつもりはないけどな」
悪戯っぽく笑うメフィの顎を優しくなでながら静希は笑う、そしてメフィはあら残念と告げた後でゲームに集中し始める
先程のただ遊んでいた眼とは明らかに違う、英気を養う、静希はそのように表現したが、今のメフィを表現するなら、刃を研ぐと言った方が的確かもしれない
鋭く、鋭く、より良く斬れるようにしていく作業
何のことはないただのゲームをしている光景だが、その眼だけがいつもと違った
翌日、静希はそのことを城島に報告するべく職員室にやってきていた
「なるほど、随分と気前のいいことだ、まぁこっちとしては楽だがな」
旅費などはすべてむこうが持ってくれるという条件に、城島自身はありがたいようだったが、その分求められる要求は大きくなる
今回の場合は召喚の終了までの護衛が義務付けられるだろう、そうなると本来の実習の滞在時間と比べて長くその場にいなければいけなくなる、三日で帰るという状況にはならないだろうことが覗えた
「俺らはまぁ平気ですけど、先生とかはどうするんですか?授業とかあるでしょうし・・・」
「それくらいなら別の日の授業と入れ替えてもらったり、他の先生に頼んだりすることもできる、そこは問題ない」
実際、何度か授業が入れ替わったり自習になったりしたことはある、先生が出張や私用でいない時などにはよくとられる処置だ
「問題は私の方ではない、お前の方だ、あいつは納得しているのか?」
あいつ、それがメフィのことを指していることに静希はすぐに気づけた
悪魔の契約者としていくのに、肝心の悪魔の了承が取れていないのでは話にならない
「そこは問題ないです、今回はあいつも乗り気みたいですし・・・まぁその分見返りが大きくなりそうですけど」
静希とメフィの契約はあくまで対等、相手に何かをさせたいのであれば当然代価が必要になる
メフィは静希を気に入っているためにそこまでひどい内容の見返りは要求してこないが、金銭面で削られているというのはまず間違いないだろう
「まぁお前の方で折り合いをつけているのであればそれでいい、来週になれば資料も届くだろう、そうなったらすぐにお前の方に回しておく」
「いいんですか?他の生徒とかと違いが出ますけど」
以前樹海の実習に行ったときは周りの生徒と比べて贔屓することになるからと、危険勧告だけで資料までは渡してくれなかった、だが今回は渡してくれるという、静希からすれば有難いことだが問題にならないか少々心配である
「問題ないだろう、今回はさすがに危険の難易度も違うし、何よりお前がメインで動くことになる実習だ、ただの学生としてではなく・・・な」
あえて悪魔の契約者であるという単語を出さなかったのは城島なりの気遣いだろうか
今までの実習は静希をただの能力者として扱った内容だった、だが今回は静希がそのように計らったとはいえ、静希を悪魔の契約者として扱っている内容だ
無論余計な情報漏洩が無いように気は使うつもりではあるが、人の口には戸が立てられない、必ずどこかしらから話が漏れるだろう
静希からすれば悪魔の契約者であることは隠しておきたいことの一つではあるが、今回はようやく手に入るかもしれない情報のため、多少の漏洩はむしろして然るべきだ
「可能な限り準備をしておけ、もし必要なら知り合いに頼み事くらいはしてやるぞ」
「・・・いえ、お気持ちだけ頂いておきます、それに持ってても空港とかで引っかかりますよ」
再び言葉を濁したが、恐らくは武器の調達という意味で言っているのだろう、城島の場合その人脈がかなり広いために武器の横流しくらいはできそうだが、さすがにそれは問題だ
何より静希が収納できる重量の武器は少ないし、静希以外に銃の取り扱いができる人間は明利しかいない
それに静希のいう通り、能力に収まるようなもので無ければ結局のところ空港で持ち物検査をした時に引っかかってしまうだろう
武器を新しく手に入れたところであまり意味がないのだ、こういう時に自分の能力の許容量の少なさが悔やまれる
メフィに魔素を注入してもらい、能力を強化、変質させても結局のところその総量は一グラムたりとも増えることはなかった
収穫はあったものの、それでも数グラムくらい増えてもよかったのではないかと思えてならない
「まぁ、お前以外で準備が必要なのは幹原くらいのものか、あいつにもしっかり言い含めておけよ、今回ばかりは用意しすぎて困るという事は無い」
「了解です、先生も準備とかするんですよね?」
もちろんだと城島はいうが、一体どのような準備をするのか静希は見当もつかない
以前城島の戦闘スタイルについて聞いたことがあるが、確か巨大なハンマーを能力を使って叩き付けるという超アグレッシブな戦い方をしていたらしい
そんな城島がいったいどんな準備をするのか興味はあるが、見たくないというのもまた本心である
普段攻撃的な性格をしているだけに容易に想像できる、嬉々として何かしらを殴っている光景が目に浮かぶようである
その被害者の映像がたまに陽太になるのは、いつも城島に殴られているからだろう
「先生って銃とかも使えるんですよね?」
「当たり前だ、軍にいたんだぞ、銃の一つも使えんでどうする」
「いえ、銃を持ってるところとか見たことなかったんで・・・」
今まで城島が戦ったところを、静希は数えられる程度しか見たことがない、そのほとんどが訓練のときであり、大体はトンファーなどの打撃系の武器を持っていた
「銃はあまり好みじゃない、なにせ感触がないからな、どれだけのダメージを与えたのかわかりにくいし、何よりすっきりしない」
城島の言葉に殴るのはすっきりするのかと思いながら静希は顔を引きつらせる
確かに直接殴るのは相手に与えるダメージを調整しやすいだろう、だから城島は指導を主に自らの拳で行っているのかもしれない、もしかしたらただ単に殴りたいだけなのかもしれないが
「というわけで、お前達にもいろいろと準備をしておいてもらいたいわけだ」
城島に報告した内容を踏まえつつ、とりあえず注意勧告の意味も兼ねて班員である鏡花たちにそのように述べたのだが、三人の反応はあまり大きくない
「って言ってもねぇ・・・私と陽太は衣類とパスポートくらいしか用意できるものないんだけど・・・あ、今回は仮面持って行ったほうがいいわよね、犯罪者相手だし」
「向こうの飯とかってどうなんだ?まずいならまたカップ麺とか用意したほうがいいのか?」
鏡花の言葉の通り、事前準備と言うものがそもそも必要ない鏡花と陽太は自分の持って行く必需品と気構えだけしておけばいいため、そこまで気にかける必要はないようだった
明利にしても種を大量に用意しておくこと以外できることはない、救急用具や万が一に備えて薬品を用意しておくくらいだろうか
こうしてみると本格的な事前準備が必要な人間が静希しかいないのだ
「そういえば一緒に来る人って前に一般公開で会った軍人さんなんでしょ?あんたの知り合いの」
「あー・・・うん、あの二人は以前にお世話になっててな、今回もお世話になるわけだが」
本当に運がいいんだか悪いんだかわからない引き合わせをしている、大野と小岩、最初に会ったのは八月、静希が初めて悪魔の契約者として依頼を受けた、というか受けさせられたときだ
今にして思えばあの時選出されたのは本当に運が悪かったとしか言えないだろう、こうして静希の面倒事に巻き込まれることになってしまうのだから
今回はさらに二名巻き込まれる人間がいるようだが、不憫だというほかない
「確かエドモンドさんの時にお世話になった人なんだったっけ、その人たちも運がないわね」
「やっぱそう思うか・・・まぁそう思われても仕方ないわな」
静希と行動をしているという事はそれだけ面倒事に巻き込まれるという事でもある
鏡花は今まで多くの状況を共にしてそのことを理解していた
恐らくこの中で一番運がないのは鏡花だろう
初対面で足にナイフを刺されそのまま班長になり、多くの面倒事に首を突っ込む羽目になってしまっているのだ
思えば鏡花が静希達と行動するきっかけになったのは明利だ、そう考えると何もかもの始まりは明利ともいえるかもしれないが、その結果こうして得難いものを手に入れることができたのだ
釣り合いが取れているかはさておいて、鏡花は後悔はしていなかった
「その人たちも能力者なんでしょ?どんな能力を使うの?」
「・・・そう言えば知らないな・・・話す機会なかったし・・・ただ二人は俺の事情は知ってる、だからある程度信頼はできるぞ、追加で来る二人は知らん」
信用を得るために、そして脅しという意味でも静希は大野と小岩の両名に自分の手の内を明かした
城島の後輩であり、町崎の部下であるという事で可能なら味方に引き入れたかったというのもあるのだが、今にして思えばあの二人の都合も考えずに無理やり引き入れたと捉えられてもおかしくない行動だった
今回のことももしかしたら『偶然』休みが取れてフランスに行けると言っていても、実際はかなり無理やりな形でこの件に巻き込まれたのかもしれない
なにせ二人は静希の事情を知る数少ない人間だ
「確か小岩さんって城島先生の後輩なんだよね?前にいろいろ話してくれたけど」
「あぁ・・・そう言えば・・・もしかしたら先生の意外な一面が見れるかもしれないな」
小岩は城島を呼ぶ時先輩と呼ぶ、そして一般公開の時のその表情から当時の城島はかなり荒々しかったという事がわかる
その時の話をしてもらうのも面白そうだし、その時の城島の反応を見るのもおもしろそうだった
「これはあれだな、先生の貴重な弱みをゲットできるかもしれねえぞ?」
「よ、弱みって・・・何もそんなことしなくても」
「いいや、普段殴られてる俺だからたまには復讐しても許されるはずだ、ここは小岩さんとやらに根掘り葉掘り聞くしかあるまい」
普段城島によく教育指導されているのは他ならぬ陽太だ
授業態度からも、そのバカさ加減からももっとも城島の拳をその身に受けていると言っていい
生身でも、能力を使っている時でも構わずに向けられる拳はある種すがすがしいとさえ取れるほどの素早さと痛みを兼ね備えている、あれでよく拳を傷めないでいられるものだと感心するほかない
「先輩かぁ・・・身近な先輩だと私たちは雪奈さんと熊田先輩くらいかしら?」
「あの二人だと・・・あんまり怖いって印象はないね、特に雪奈さんは」
一班の人間は雪奈の情けないところを山ほど見ているために、そこまで怖い先輩という印象は受けない、戦闘している姿を知っている静希と陽太でもそこまで畏怖の念は抱かない
家族というイメージが強すぎるせいでもあるだろうが、小岩が城島に抱くようなものではないのは確かだ
「思えばあともうちょっとで私たちも二年生かぁ・・・長かったなぁこの一年」
「鏡花姐さんマジお疲れ様でした、来年もよろしくおなしゃす」
「お願いします姐さん、午後茶どうぞ」
「お、お願いしますお姉ちゃん、クッキーどうぞ」
とうとう明利まで微妙にできていない三下演技を始める中、鏡花はふんぞり返りながら大きなため息をつく
本当に長い一年だった、まだ終わっていないがまだ二年以上もこの四人でいることを思うと頭痛がしてくる、だが楽しかったというのも、また事実だった
誤字報告が十五件分溜まったので四回分投稿
もはや誤字が十五個たまったくらいではびくともしないメンタルが身についたと自負しています!豆腐メンタルがこんにゃくメンタルに進化した!
これからもお楽しみいただければ幸いです




