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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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通達とチーム

「ちょっとまだわからないな・・・一応こっちも相談してみる、返事は少し待ってほしい、いつまでにお前に言えばいいとかあるか?」


問題は静希達だけではなく、恐らく城島にもかかわってくる、監督役として城島もついていかなくてはいけないのだ、相談するのは当然と言えるだろう


『そりゃ早い方がいいが・・・そうだな、三日以内に答えを聞かせろ、それなら間に合う』


「三日だな、わかった、それまでにこっちから連絡する」


三日


今日を含めて三日だとしても城島に相談するだけの猶予は十分ある、班の人間にもしっかり話をしておかなければならない


それに校外実習までに武装を強化しておかなければいけないことを考えるとやることは山積みだった


『用件はそれだけだ、それとも面白おかしいジョークでも話してやろうか?』


「んなもんいらねえよ、とりあえず感謝はしておいてやる・・・あぁそうだ、肝心なこと確認してなかった」


肝心なこと、静希はそのエルフの研究者のことを何も知らないのだ


「そのエルフの研究者の名前とか起こした事件の情報とか、とりあえずこっちに送ってくれるか?考える材料にもなるし」


『わかった、お前の家に直接送ってやる、それじゃあこっちは忙しいから切るぞ』


そう言ってテオドールは電話を一方的に切ってしまった、幹部ともなるとそれなりに忙しいのだろうかと思ったが、ただ単に静希とこれ以上会話したくなかったというのもあるだろう


静希としても必要以上の会話はしたくないために都合がよかったが、どうしたものかと頭を抱えてしまう


「どうしたのよシズキ、頭抱えちゃって」


「あー・・・校外実習の日に依頼が入るか・・・校外実習そのものになるかってところなんだけど・・・また海外に行くことになるかもだ」


その言葉に三人の人外は顔を見合わせどういう事なのだろうかと静希の言葉を待つ


「俺とメフィが出会うきっかけになった四月の召喚、エドと出会うきっかけになった八月の召喚、そしてその間の六月にもう一つ召喚事件があったんだ、その時の関係者・・・っていうか容疑者に関わる話でさ」


「あぁなるほどね、時期的に怪しいから接触してみようってことなのね?」


メフィの言葉にそういう事だと静希はため息交じりに返して見せる


「その接触できる可能性の日が偶然校外実習とぶつかってしまった、とそういう事なのですね?」


「そうなんだよ、俺だけ欠席してそっちに行ったらどうなるかわかったもんじゃないし・・・かといってあいつらを悪魔関係のことに巻き込むのも気が引けるし」


今さらな気もするけどねとメフィはあっけらかんとしている


確かに家に来て悪魔と平然とゲームをしているような光景を見かける今となっては、悪魔に関わらないようにさせるというのは今さらというほかないだろう


本当に今さらではあるのだが、事件に関わらせるかどうかと言われるとまた話が変わってくる


わざわざ危険に踏み込ませる必要がないのだ、それに陽太達だって面倒事はごめんのはずである


「ところでシズキよ、今度の場所はどこなのだ?またイギリスか?」


「いや、今度はフランスだ、詳しい場所までは聞いてないけど」


へぇフランスとメフィは僅かに口角をあげ、オルビアは神妙な表情をしている


かつてオルビアはイギリスの国に住んでいたのだ、海を挟んで向こう側にあった国に行くとなるとなかなか思うところがあるだろう


「実習で行くとなると・・・三日じゃ足りないわね・・・一週間ってところかしら?」


「たぶんそれくらいになるだろうなぁ・・・その間に接触できれば御の字、できなくても手がかりがつかめればよしってところか・・・」


実際情報も何も掴めていないために、完全にテオドール任せになってしまっているのだがとりあえずそのエルフの研究者がフランスで行われる召喚実験を目当てにやってきているのであれば何かしらのアクションは起こすはずだ

起こさなくても索敵ができる人間に協力してもらえば見つけるくらいのことはできるかもしれない


相手が悪魔の契約者であることを考慮すると絶対とは言えないが、可能性は高いと思っていい


八月以降、目立った動きをしていないリチャード・ロゥへのわずかな手掛かりだ、もしうまくいけば直接的な関与も考えられるためにこれを逃す手はない


だがそうなると静希は実習を休むか、あるいは実習自体に組み込むかという選択肢しかなくなる


実習で何が起こるかわからない以上静希がいなくなるというのは班にとって大きな痛手だ


頭脳労働は鏡花に任せられるとはいえ、戦力が四人から三人になるというのはかなりの損失である、その場合残された三人が無事でいられるという保証はない


特に鏡花はピンチになると処理能力が激減する、明利は静希がいないと安定しない、静希が抜けることでどうなるかを知っている鏡花としてはあまり賛成しない内容だろう


となると実習そのものに今回の事案を組み込むという手なのだが、あの三人を巻き込むというのは非常に気が引ける


「マスター、そのことをエドモンド様はご存じなのですか?」


「おぉそうだった、エドにも連絡してやらないと・・・」


携帯からエドの連絡先を引っ張り出して通話を始める、静希と違いエドは件の事件で友人を殺されている、静希以上に思い入れ、というか執着があるため教えておいた方がいい


協力を得られるというだけではなく、それはエド自身にも必要なことだ


「もしもしエド?今平気か?」


『シズキかい?君からの電話だったらいつだって最優先事項さ』


そのように言ってくれるのはありがたいが、仕事はきちんとしてくれたほうが精神衛生上よいのだがと思いながらも静希は苦笑する


『それにしてもいったい何の用だい?急ぎなのかな?』


「あぁ、お前には一番に知らせておかなくちゃと思ってな」


『おっと、随分と興味深い話だ、君の結婚式の日取りでも決まったのかな?』


そんなわけないだろと軽口を言いながら静希はエドの冗談を軽く流すことにする


静希はまだ十六だ、結婚できる年齢ではない上に少なくとも高校を卒業するまでは結婚するつもりはない


学生結婚など負担が増えるだけだ、しっかりと収入を得てからするのが賢いやり方だと言えるだろう


『あはは、冗談が過ぎたね、すまない・・・まぁそっちの方は日取りが決まったらぜひ教えてくれ、どこからでも駆けつけるよ』


「ははは、それはこっちの台詞だな、例の狙っている娘とは上手くいったのか?」


『そう!そうなんだよ!実は告白したらOKを貰ったのさ!いやすまない、君に一番に報告するべきことだったのだが、自分でも随分と舞い上がってしまって・・・』


どうやらバレンタインでの勝負は良い意味で終わったようだった、好きな人と付き合えて浮ついていたのだろう、静希の方に意識が向いていなかったのも無理がないと言える


だがだからこそ件の話をするのが少々気が引けた


『いやぁ、僕としては嬉しい限りでね・・・あれから毎日が楽しくて楽しくて・・・ただあまりにはしゃぎ過ぎてあの子たちにはちょっと引かれてしまったけどね・・・』


あの子たち、というのはアイナとレイシャの事だろう


エドと違って明らかに冷静でしっかりしているあの二人が、はしゃぐエドを冷めた目で見ている光景が目に浮かぶ


仮にも雇い主であり恩人であるエドに向ける視線ではないと思ったが、それも信頼の裏返しなのだろう


『もし結婚式を挙げることになったら、君にはぜひ出席してほしい、可能ならスピーチの一つでもしてほしいくらいだよ』


「スピーチはさておいて、出席は是非させてもらうよ、あまり人前で話すのは得意じゃないんだから」


人前に出て目立つようなことをするのは静希の性分ではない、いくらエドの頼みでも何かしゃべるなんてことができるとは思えなかった


『おっと・・・僕の事ばかり話してしまったね・・・それで君の用というのは一体何なんだい?』


ようやく本題に入れることになりそうだったが、静希は少し言いにくかった


今まで楽しい話ばかりしていたのに、急に気分が落ちる話をしようとしているのだから


「あー・・・その・・・なんだ・・・」


『・・・言いにくそうだね、何かあったのかい?』


静希が言いにくそうにしているとエドはそのことに気付いたのだろう、穏やかな声音でこちらに伺いを立ててくる、こういうところはさすが年上というべきか


「・・・前にお前が日本に来た時、最後に俺が言った言葉、覚えてるか?」


『ん・・・ちょっと待ってくれ、今思い出す』


そう言って少し悩んだ後、あの時のことを思い出したのかあぁ・・・と呟いた後、少し低くなった声音でこちらに声を飛ばす


『以前メールで送ってくれた、ドイツのエルフの話だね?』


静希とエドの召喚事件の間に起こった召喚に関わった人物、これだけでも十分に接触する価値がある、もしかしたらリチャード・ロゥとかかわりのある人物かもしれないのだ


エドもそのことを理解しているのか、どんどん声が鋭くなっていくのがわかる


「あぁ、実はそいつの向かう先が判明してな・・・今度フランスで召喚実験が行われるのは知ってるか?」


『いいや初耳だ・・・なるほど、そこにそのエルフも来るという事かい?』


流石に研究者をしていただけあって頭の回転が速い、それにもともとの教養の高さもあるだろうが推察する能力もかなり高い


こういう人間が味方にいると本当にありがたいと思いながら静希はさらに本題に入る


「あぁ・・・それで今度そこに行こうと思ってるんだが・・・お前も来るか?」


『・・・なるほど、そう言う話だったのか・・・もちろんご一緒しよう、君と共闘できるなら心強い』


詳しい日程を告げて、エドもスケジュールなどを調整すると言っているのだが、ここで一つ問題がある、静希の行動の理由、というか口実についてだ


「エド、それでな、実はもしかしたら俺のチームメイトも一緒に行くことになるかもしれないんだ」


『え?どうしてまた?』


静希は簡単に実習の日程がその召喚実験の日程とかぶっており、もしかしたら校外実習という名目で行動することになるかもしれないという事を告げた


すると学生は大変だねとエドは軽く笑っている、エドのように社会人であれば都合はいくらでも付けられたかもしれないのだが、そこは学生の辛いところである


『わかった、君の友人たちが来てもいいように準備をしておくよ、他に何か要望はあるかい?』


「そうだな・・・俺の銃の弾丸をそれぞれ五百ほど売ってくれるか?」


『ま、また随分と買うんだね・・・前のやつはもう使ってしまったのかい?』


戦闘の下準備だよと言って静希は持っている武装のチェックをし始める、悪魔相手となる可能性が高い以上、武装はどれだけあっても足りないと考えるべきだ


銃の使用も視野に入れる場合、弾丸はたくさんあって困るものではないのである







エドに弾丸の注文をした翌日、静希は放課後時間を貰って多目的室に城島を伴って集まり、全員に件の話をすることにした


その反応として


「なるほどな・・・期間を延ばすこと自体は不可能ではない・・・だがこいつらを連れていくというのは少々リスクが高いな・・・」


というものだった


城島としては理屈としては静希がその召喚実験の行われる場所に向かうこと自体は何の不満もないようだが、陽太達を一緒に連れていくことには賛成しかねるようだった


「でも先生、もし静希だけフランスに行った場合、私達だけで実習を行うことになるんですよね?それも結構きついと思うんですけど・・・」


主に頭脳労働的な意味でと付け足しながらそう意見する鏡花、彼女の意見ももっともである、戦力的な意味でも、思考力的な意味でも静希の存在は貴重だ


班の中心的能力を持ち合わせているのが前衛の陽太と中衛の要の鏡花だとするなら、静希は精神的、そして思考的主柱になっていると言っていい


陽太が前衛、明利が索敵、静希が指示をだし鏡花がフォローする


静希達一班はほとんどこの図式で成り立っているために、もし静希が抜けた場合鏡花の負担が激増することとなる


「確かにそうだが・・・お前たちは悪魔との接触は慣れているとはいえ、悪魔と戦闘した回数自体は一回だけだろう?今回の相手はしかも犯罪者・・・教育者としては見過ごせん」


流石に能力者相手でも苦戦した静希達にいきなり悪魔の相手をするようなことになっては命が危ういという事を理解しているのだろう、城島は難色を示していた


悪魔の契約者である静希はメフィ達人外の庇護下にいるため身を守ることもできるかもしれないが、陽太をはじめとする三人はほぼタダの能力者と何ら変わりない


そんな三人が悪魔の目の前に出たらどうなるか、それは四月のあの森での再現になるだろう


言葉にするのであれば、手も足も出ないという状態である


国際的に指名手配されているような人間が相手ではそれもやむなしだろう


「時に五十嵐、例のエドモンドはどうすると?」


「協力してくれると言ってくれました、こいつらを連れて来ても大丈夫なように準備はすると言っていましたけど・・・」


エドの準備と言っても実際何をするのかは全く分かっていない、移動手段の確保だろうか、それとも武装の確保だろうか、どちらにせよ過度な期待はしないほうが身のためである


「悪魔の契約者が二人・・・いや件のエルフが来ると考えると三人か・・・戦争でも起こりそうな勢いだな・・・」


悪魔の力を知っているその場の人間は苦笑するしかないが、その笑みはひきつったものである


なにせあれだけの威力を連発できるような存在が三人一堂に会するのだ、一触即発とでもいえばいいのか、何が起こってもおかしくない


それこそ城島の言うように戦争が起こっても何も不思議はないのである


「しかもさ、フランスで召喚が行われるんでしょ?最悪悪魔が四人になることだって・・・」


「・・・私がその場にいたらまず間違いなく逃げ出すだろうな・・・まぁこちらには五十嵐がいるからそこまであわてる必要もないかもしれないが」


「俺を当てにしないでくださいよ、俺自体はただの能力者なんですから」


いくら静希が人外たちを付き従えていると言っても、それはギブ&テイクの関係だ、両者の了解のもと成り立っている、つまりは話が通じる相手だったからこそ今の関係が成り立っている


エドモンドもそれは同様だ、だがもし人語を介さない、ただの動物と同じような悪魔がいた場合静希はなす術もない


それこそ静希ではなく、静希の周りにいる人外たちに頼ることになるのだ、静希自身にはそんな危険な状況になった時に打開できるだけの能力はほとんどないと言っていい


「五十嵐としてはどうなんだ?一人で行くか、それともこいつらと共に行くか」


「・・・俺としては来てくれるならありがたいです、一緒にいてくれるだけでありがたいし気が楽になるし・・・でも巻き込むのはちょっと気が引けてます」


と言ってるが、どうだお前達と話を振られた三人は、三種三様の反応をしていた


静希の言葉に鏡花はため息をつき、明利は静希の服の裾を掴み、陽太は首をかしげている


「巻き込むのが気が引けるっていうけど、あんたがいない班をまとめるのがどれだけきついと思ってるのよ、もうあんなのごめんよ」


鏡花は実際静希がいなくなった班で自分の無力を実感した、この班に静希の存在は必要不可欠、それをもう知っているからこそ静希を一人で行かせる選択肢は存在しなかった


「静希君、一人で行ったらまた無茶するでしょ?今度はちゃんと私が見張ってるよ」


以前自分がいないところで危険な行動をしたせいで、自分の目の届かないところで何かをするというのは嫌なのだろうか、明利は笑顔を浮かべながら静希の服を掴んで離さない


自分の愛する恋人のために、静希を愛する恋人のためにも、静希を一人にはさせられない


だからこそ明利は一緒についていくことを選んだ


「ていうか、俺らはもう巻き込まれてるんじゃねえの?静希の問題は俺らの問題みたいなもんなんだし」


陽太の考えはとてもシンプルで、なおかつほとんど理屈になっていない


長年一緒にいたのだから、今度も一緒にいるというだけ、前回の悪魔の時は依頼の体裁上一緒に行けなかったが、今度は一緒に行くこともできる、それならば、陽太がついていかないわけがない


前衛として幼馴染として、静希の前に立って盾になるのが陽太の務めである

結果的に、班員全員が静希と一緒についていくことを決めていた


月曜日と誤字報告五件分で三回分投稿


二周年に向けてコツコツ準備を進めておきたいところですが、たぶんまた大量投稿になると思います、その点ご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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