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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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鏡花と陽太の提案

二月も終わりに近づき、徐々に暖かくなってきた頃に静希は鏡花に頼まれてコンクリートの演習場にやってきていた


その場には静希と鏡花だけではなく、当然というべきか陽太もおり、明利もその場に居合わせていた


「もう一度聞くけど、正気か?さすがに怪我じゃ済まないかもしれないぞ?」


「それを確かめるためにやるのよ、もちろんお礼はするわ、できる限りのものだけど」


怪訝な顔をする静希に対して、鏡花と陽太の決意は固いようだった


心配そうにそれを眺める明利と、どうしたものかと悩む静希、事の発端は陽太の炎で作り出す盾がようやく完成したというものだった


今まで作り慣れた槍と比べるとやはり準備に時間がかかるが、その形自体は十分維持できるようになっており、右腕に槍、左腕に盾を持つという戦闘スタイルを確立することができるようになりつつあるようだった


鏡花に言わせればまだまだ改善点はあるという事だったが、ここで問題が発生したのだ


問題というよりは、確かめてみる必要があるという方が正しいだろう


それはつまり、陽太が作り出した盾の強度だ


攻撃を行う槍と違い、身を守る盾は確かな強度が求められる


作り出せる盾の強度をしっかり確かめておかなくては、どのレベルの攻撃まで受け止められるのか、どの攻撃までは避けずに突進できるのか、それがわからないのだ


そこで鏡花はこう提案した


『メフィの攻撃を陽太に当ててほしい』と


今までの戦闘の中で、陽太がダメージを負ったことは数えられるほどしかない、能力を発動した陽太はそれほどに屈強な肉体を有するのだ


そしてそんな陽太にダメージを与えたものの一つ、それがメフィの攻撃だった


あの時はメフィ自身、人間相手だったという事もあり手加減をしていたらしいが、その状態でも陽太相手にダメージを与えられた、それほどの威力をメフィは有しているのだ


悪魔であることを考えれば当然だが、逆にこれは陽太と鏡花にしてみればありがたいことだった


銃などの道具などは威力の調整ができないために、どれほどの耐久力があるかもわからない状態では試したくない、だがメフィの能力なら、ある程度は加減ができる


鏡花は静希を通じて、メフィが信頼に足る存在であることを理解していた、だからこそこうして頼んでいるのである


「ばれないようにちゃんと準備するし、城島先生にも話は通してあるわ、お願い」


まさか城島にまで話を通しているとは思わなかったのか、静希はため息をつく、よくこんな無茶を城島が許したものだと呆れてしまう


陽太にメフィの攻撃を当てる、ただそれだけのことだが一対一で悪魔と対峙することがどれだけ危険であるかは静希も、そして鏡花や陽太も理解しているはずだ


実際、手加減しているとはいえメフィと直接対峙したのはこの三人なのだから


それでもなおそんな頼みをしてくるあたり、陽太の盾の重要性が高いものであるという事がわかる


「・・・一応聞いてはみるけど、あんまり期待するなよ?」


「えぇ、構わないわ、もしだめだったら別の手段を考えるもの」


その言葉に静希は少しだけ気が楽になりながらも意識をトランプの中にいるメフィに向ける


『という事だけど、お前としてはどうなんだ?』


トランプの中にいる悪魔、メフィストフェレスはくすくすと笑っている、何が面白いのかわからないが、少なくとも嫌悪などは抱いていないようだった


『面白いわ、悪魔の攻撃を受けてみたいだなんて、そんなことを言う人は今までいなかったもの』


メフィのいう事はもっともである、以前ダムの一部を破壊して見せたあの威力を見れば悪魔の攻撃を受けようなどと微塵も考えなくなるだろう


だが陽太と鏡花はあれを見たうえでメフィの攻撃を受けると言っているのだ、はっきり言って正気の沙汰とは思えない


『そのセリフだと、やってもいいってことでいいのか?』


『・・・やめたほうがいいっていうのが正直なところよ、危険も大きいし、途中で私が楽しくなっちゃって手加減できなくなるかもしれないし』


メフィにしては珍しく、誰かを心配しての言葉だったが、その声音から今すぐにでもやってみたいという気持ちが伝わってくる


言ってみればこれは能力の力比べのようなものだ、強大な力を持つ悪魔としては、人間と真っ向から勝負するなどと言うことはなかっただろう、それを今やろうとしているのだ


かつて自分に一撃を入れて見せた陽太の能力、以前とは違う、成長した陽太のそれを実感してみたいというのもあるのだろう


静希としては止めてやりたいところだが、どうやらこの交渉は成功してしまいそうだった


『じゃあとりあえず、その対価はどうするんだ?あんまり無茶なのだとあいつらも困るだろうけど』


『そうねぇ・・・キョーカには前にゲーム機軽くしてもらったし、軽めにしてあげようかしら』


そう言って何にしようか考えだすメフィ、どうやら悪魔の頭の中にも一応恩義という単語はある様だった


俗世に染まってきたことで考えが変わったのか、それともただ単に鏡花に情がわいただけか、どちらにせよあまり無茶な要求はしないということがうかがえる


ゲーム機の恩というのも悪魔の台詞としては微妙な気がするが、気まぐれなメフィとしては、それはそれでらしいと言えるかもしれない


「結局、新作のゲームで手を打つそうだ、よかったな」


「そう、ちゃんとお礼言わないとね」


数分のメフィの対価の選択が終わった後、静希はとりあえず鏡花にそれを告げた


悪魔が行動するのに数千円のゲームでいいというのは、本来なら破格と言える


契約者である静希ではなく、他の人間の依頼を受けるというのもまた珍しいが、やはりそれなりに知っている人間だからという事だろうか、静希のお願いの対価が大体千円弱のケーキなどであることを考えれば、それなりに違いは見せているというところだろう


「んじゃ準備するから、ちょっと待ってて」


鏡花は以前作ったような大きなドームを作り出して外界から完全に内部を遮断してゆく


これで一応メフィを出しても問題がないと言えるが、これからやることを考えるとただのコンクリートのドームでは強度に問題があるように思える


鏡花もそれを理解しているのか、ドームの材質を徐々に変えていった


コンクリートから金属、主に耐久性の優れた装甲などに用いられるものに変えているようだ、以前陽太の槍の威力を測るために戦車の装甲を模造した経験が役に立っている様だった


「よし、陽太明かりお願い、私は酸素を作ってるから、明利は私の近くにいてね、いざってときは守るから」


「う、うん・・・平気かな・・・」


完全な暗闇だった状態から、陽太が能力を発動することで周囲が明るくなる

自分たちを覆うドームの大きさとその強度を確認しながら静希はトランプの中からメフィを取り出した


「メフィ、静希から説明を受けたと思うけど、もう一度説明しておくわ、今から陽太が盾を作るから、それに攻撃していってほしいの、ただ少しずつ威力を上げていくようにしてくれると助かるわ」


「わかってるわ、人間相手に本気にはならないから安心して」


メフィはそう言いながら周囲に光弾を作り出していく、陽太の炎とメフィの光弾がドーム内を照らす中、陽太はゆっくりと左腕を前に出して集中し始める


炎の総量が一瞬跳ね上がり、左腕へと集まっていくのがよくわかる、そして数十秒の時間をかけて陽太は炎の盾を作り出して見せた


第一印象を言うのであれば、大きい、その一言に尽きる


分類としてはタワーシールドと呼ばれるそれが最も近いだろうか、陽太の体全体を隠せるだけの高さと幅を持ったその盾は、大きいだけではなく分厚さも兼ね備え、ちょっとやそっとでは貫通することはできないのではないかと思えるほどだった


今年の一月の実習で見せた棍棒もどきから比べると、その形の違いがよくわかる


炎に固体としての特性を持たせ、形を作り出すその工程を、陽太はだいぶものにしてきているという事だろう


その上達の早さから、コツを掴んで随分と修練を重ねているという事がわかる、毎日鏡花と訓練しているのは伊達ではないという事だろう


「それじゃあヨータ、しっかり構えなさい、少しずつ強くしていくからね」


「おうよ!バッチコイ!」


まるで野球のキャッチャーのように腰を落としスタンスを広げ、踏ん張る陽太、放たれるのが硬球か能力かの違いはあれど、受け止めるという事に違いはなかった


「まずは手加減してっと・・・そりゃ!」


メフィも陽太の姿を見て野球の真似事でもしたくなったのか、ピッチャーのように振りかぶってから陽太めがけて光弾を射出する


それはかつて、メフィが静希達に向けて放ったあの光弾と同じ威力のものだった


放たれた光弾を陽太は受け流そうともせずに真正面から受け止める


盾に着弾した瞬間、腕が上に弾かれ同時に後方へと体が運ばれるが、その盾は壊れることなく陽太の腕にあり続けていた


「おぉ!痛くない!いけるぞ鏡花!」


「まずはなかなかの強度があるってことね・・・陽太、盾を地面に押し付けなさい、固定するわ」


重さがほとんどない状態では盾は簡単に弾かれてしまう、その為陽太の盾を地面に固定して弾かれないようにし、純粋な強度を測ろうとしているのだ


陽太と鏡花が嬉しそうにしているのを見ながら、静希はメフィの表情に注視していた


彼女の顔には、歓喜にも似たものが浮かんでいた


人間が自分の攻撃を防ぎ、しかも痛くないなどと言ったことに嬉しさと悔しさ、そして喜びを感じているのだろう


そして、彼女自身楽しくなっているという事がうかがえる


危険だ


静希はそう思いながら何時でもメフィを収納できるようにトランプを飛翔させていた


メフィが約束を違えるとは思えないが、楽しさについやりすぎてしまう事だってあり得る


そうなった時はすぐに止めなければ陽太が危険だ


かつては手加減した状態の攻撃でも痛みを覚えていたというのに、徐々に強くなっていく威力をまともに受けたらどうなるか


静希自身打撃などで能力発動時の陽太が倒される場面は見たことがないため、想像することもできなかったが、相手は悪魔、それくらいのことができてもおかしくない


せっかく鏡花と恋仲になれた陽太を、何より自分の幼馴染を死なせるわけにはいかない


「いいわねヨータ、楽しくなってきたわ・・・!」


「そりゃよかった、こっちも楽しくなってきたところだよ!」


悪魔と鬼が互いに笑う中、静希は冷や汗をかいていた


鏡花はその様子を観察し、明利は不安そうに二人を眺めていた


五発目のメフィの攻撃を受けとめ、陽太は固定した地面ごと後方に運ばれながらもその盾の形を維持していた


少しずつではあるがその威力を高めているのにもかかわらず、陽太の盾は壊れることがない、むしろ陽太自身のやる気の上昇に伴ってより強固になっているように思える


「ここまでやって壊れないっていうのは、ちょっとむかつくわね、悪魔としての沽券に関わるわ」


「だからって本気でやるなよ?いまどれくらいで撃ってるんだ?」


「そこそこね、邪薙の障壁だったら防げるレベルよ」


邪薙の障壁で防げるという事は、普通の悪魔の攻撃よりも数段威力を下げているという事になる


以前ヴァラファールの攻撃を防いだ時は数発で障壁が壊れたが、少なくともそれよりは威力を低くしているのだろう


「陽太、あんたとしてはどうなの?今の盾の具合は」


「悪くないけど・・・ちょっときつくなってきたかもだな・・・みしみしいってる感じ」


炎がそんな音を立てるはずがないが、とりあえず陽太の感覚としては限界に近付いているという事なのだろう


つまり陽太の盾は邪薙の障壁ほどの強度は持ち合わせていないという事になる


小神とはいえ守りに特化した存在である邪薙の力には及ばないというのは、仕方のないことであるように思えた


「ちなみに今のままの強度だとどれくらいの攻撃くらいまでは防げるんだ?」


「そうねぇ・・・大体弱い悪魔くらいの攻撃は余裕で防げるでしょうね、相性にもよるけど人間の攻撃くらいじゃびくともしないと思うわよ」


メフィの言葉に静希は陽太の盾を見ながらふむと呟く、つまり陽太の盾、というよりは陽太が有している炎を固体化したときの強度はかなり高いとみていいだろう


真正面から防ぐことができれば人間の攻撃程度では陽太を傷をつけることは難しいという事になる


「そろそろやめとく?怪我しても私責任とれないわよ?」


「・・・そうね、ありがとメフィ、助かったわ」


報酬の件忘れないでよねと言いながらメフィは静希に抱き着く


静希もメフィをねぎらい、トランプの中へと収納していく


本気で能力を使うようなことはなかったようだが、とりあえず静希は無事に検証が終わってほっとしていた


「これなら静希の大砲も防げるんじゃねえかな、案外余裕で」


「試すようなことはしないぞ、メフィの力と違って加減なんてできないんだから」


メフィの能力がいくら強力であっても、兵器のそれとはまた意味合いが異なる、特に静希の持つ大砲の弾丸によってもその威力の違いは明らかだ


もし貫通力の高い武器で陽太の盾を突破してしまった場合、どうなるかわかったものではない


それに左腕の大砲を人に向けるのは源蔵から固く禁じられている、静希だって幼馴染にそんなものを向けようとは思わなかった


「とりあえずもうドームは外すわね、さすがに酸素作り続けるのも疲れたし」


「おう、お疲れさん」


陽太のねぎらいの言葉を聞いているのかいないのか、鏡花は地面を足で叩いて周囲を覆っていたドームを元のコンクリートの地面へと戻していく


「こういうのはもう勘弁してくれよ?さすがにあいつに攻撃を頼むなんて俺だってあまりやらないんだから・・・まして人間相手に」


「あはは、悪かったわよ、とりあえず必要なことは確認できたし、帰りに報酬を買って明日渡すわ」


報酬、メフィの言っていたゲームソフトの事なのだが、その程度で動く悪魔というのはどうなのだろう、実際に契約している静希からしたら非常に複雑な気分である


悪魔の契約者は世界にも数えられるほどしか確認できていないのだという、そんな貴重な存在に気軽に頼みごとをできるということ自体が異常な状態だと取るべきだろう


そこまで厄介な頼み事はさすがにされないのが幸いだが、これから先どうなるかは全く分からないのが現状である


「あ・・・そうだ、静希、ちょっとカモン」


「ん?どうした?」


珍しく陽太が静希を呼び、鏡花や明利に聞こえないように肩を組んで顔を近づける、二人に聞かれてはまずい話なのだろうかと訝しむと、陽太は気まずそうに苦笑して見せる


「えっとだな・・・お前にちょっとアドバイスを頼みたいんだ」


「アドバイス?何の?」


陽太がアドバイスを求めることは別段珍しくはない、だが最近陽太に助言やヒントを出すのはほとんど鏡花の仕事だったために、何故自分なのかと首をかしげてしまった


なぜそこにいる鏡花に質問しないで自分に聞くのかという疑問を解消するより早く、陽太が口を開く


「いやその・・・今度あいつと、鏡花と遊びに行くんだけどさ・・・なんかこう・・・いい案とかないか?」


「・・・あぁー・・・あぁなるほどな、そういう事か」


陽太の言葉にようやく静希は納得する、要するに陽太は鏡花と今度デートするからそのことについて気を付けることややっておいた方がいいことなどを聞きたいのだろう


なるほど、それなら鏡花に隠しておくのも納得できる、陽太としては軽いサプライズを催したいのだろう、陽太の中に存在しないはずのデリカシーが何らかの形で作用したのだと思われる、今までの陽太だったら別に隠す必要もなく鏡花に直接どうすればいいかなど聞いていたかもしれない、能力だけではなく、精神的な面でも陽太は少しずつ変わりつつあるのかもしれない


「なるほどな、お前としてはどうなんだよ、なんかいい案ないのか?どこ行きたいとか、何したいとか」


静希だけが考えるのではなく、陽太自身にも考えさせるのが重要だ、他人の意見に流されるようではこれから先毎回静希に意見を求めてくるようになってしまう、それはあまり良い傾向ではない


「俺はまぁ・・・一緒に映画いったり飯食ったりが妥当じゃねえかと思うんだけど」


「ふむ・・・まぁ間違いではないな・・・それっぽい」


「おうよ、漫画とかでもデートって言ったらそんな感じだしな」


漫画で得た知識をもとに行動するのは地味に危険だが、少なくとも大幅な見解の相違は確認できないため静希はとりあえずスルーすることにした


ここで問題なのは陽太が鏡花に内緒で相談をしてきているという点だ、普段静希達は互いに行きたいところややりたいことを話し合って遊ぶが、今回陽太はなぜかわからないがサプライズを狙っているらしい


となればある程度鏡花が何をしたいのかを予測しなくてはいけないが、そこで静希は一つ妙案を思いつく


なにも鏡花の考えを予測する必要などないのだ、なにせこちらには今までアドバイスを受けてきた明利がいる


静希は陽太の、明利は鏡花の相談に乗りながら両者の希望が叶うようにセッティングすればいいだけのことである


そうと決まればやることは一つである


「よし陽太、いろいろとこっちで考えておくからお前もやりたいことをまとめて俺にメールしろ、それを踏まえたうえで連絡する」


「お、おう、了解だ」


二人にとっては恋人関係になってから最初のデートだ、成功させてやりたいという思いだって静希にはある、はっきり言って鏡花をリードするなんてことが陽太にできるとは思えない


そこでちょっとした助言をするだけにとどめるつもりだった


後は陽太自身で何とかしてもらう、そこは陽太の処理能力に託すしかないところだが、二人の問題である以上必要以上の介入は避けるべきだと静希も理解していた


「ところでさ、そのデートっていつやるんだ?それによってちょっと急がなきゃなんだけど」


「あぁ、今度の休みに行こうって言ってある、鏡花曰く期待しているだそうだ」


鏡花が期待している、期待されているから内緒で進めたいのか、それとも内緒にされていることを気づいているから期待しているのか、もし後者ならすでにサプライズそのものが失敗しているのではないかと思えてしまうが、ここは考えないようにすることにした


だがここで静希は少し悩んでしまう


鏡花の言葉から、陽太がしっかり考えたことによって得た回答を望んでいるのではないかという点だ


鏡花は頭が良く、理解も早い、そして陽太という人間の性質をよく理解したうえで好意を持っている


もし拙い回答だったとしても、恐らく鏡花はそれを許容し、その上でしっかり陽太と向き合うだろう


もしここで静希や明利が要らぬ気を回した場合、鏡花の望むものではなくなってしまうのではないかという気がしたのだ


そのあたりも含め、明利と一度話した方がいいかもしれないと思いながら、静希は陽太を見た後で鏡花の方へ視線を向ける


鏡花は今明利と話している様だった、会話の内容までは聞き取れないが面白いことでも話しているのだろう、両者ともに笑っている


今度の休み、あと数日しかないが時間的猶予はまだある


もしかしたら本当に最低限の助言しかできなくなるかもしれないが、その時はその時だ


「とりあえずお前はちゃんとやりたいこととあいつがやりたいんじゃないかって思ってることをリストアップしておけ、ちゃんと考えろよ?」


「おうよ、頑張るぜ」


言葉は非常に心強いのだが、実際にそれができるかと言われると首をかしげる


なにせ考えるのは陽太の苦手分野だ


「陽太!話終わった?これからゲーム屋よるけど一緒に行く?」


「お!行く行く!んじゃな静希!」


「あぁ、行ってこい」


静希の懸念など知らぬと言わんばかりに満面の笑みを浮かべ陽太は鏡花と並んで帰宅していった


その様子を眺めた後、静希と明利は同時にため息をついた


「静希君、ひょっとして今度のデートのことについて話してた?」


「あぁ、陽太からアドバイスを求められてな・・・何でわかった?」


「鏡花ちゃんが言ってた、たぶん今静希君にアドバイス貰おうとしてるだろうって」


先程話していた内容の一つはどうやらデートに関してのことだったらしい、サプライズはすでに瓦解していると言っていいだろう、陽太の行動は完全に鏡花に読まれているとみて間違いない


考えればすぐにわかることだ、陽太がアドバイスを求めるような人間は鏡花を除けば静希か明利しかいない、しかもわざわざ鏡花から離れて話している時点で鏡花に隠しておきたい、あるいは鏡花自身のことでアドバイスが欲しいという事につながる


静希程ではないが鏡花は頭の回転はいい方だ、陽太が静希を呼んだ時点でおおよその見当はついていたのだろう


優秀なのも考え物だなと静希は小さくため息をついた


「で、どうするべきかな、あいつらに・・・ていうか陽太に助言するべきか・・・」


鏡花にすでにアドバイスのことがばれているのであれば、もし明利がそれとなく鏡花に話を振った時点でその情報が陽太にばれることも把握されると思っていい


となると明利を経由して陽太に情報を流しデートプランを考えるという静希の案はうまく機能しない可能性もある


「ん・・・私はしちゃだめだと思う、陽太君ががんばって考えてあげたほうが鏡花ちゃん喜ぶよ、きっと」


「んん・・・微妙なんだよなぁ・・・陽太のとんでもプランが出来上がらなきゃいいけど・・・そこら辺は俺がチェック入れとくか・・・」


陽太は基本バカであるために思考が突拍子もない方向へ飛ぶことがある、普通の人間では考え付かないようなことに至れるという長所でもあるが、逆に常識外れな回答をするという短所へと早変わりすることもある


もしかしたらデートでバンジージャンプを予定に入れるようなことだってあるかもしれないのだ、流石の鏡花も恋人になってからの初デートでバンジージャンプなんてことになったらどんな反応をするかわかったものではない


この近くでバンジージャンプができるようなところがあるかはさておいて、二人は一度静希の家へと行くことにした


男性としての意見は静希が、女性としての意見は明利がだしてどこまでがセーフラインかを決めておく必要がある


デートプランは陽太が考えなければ意味がない、その為結果的には具体的にどうするかなどはすべて陽太に決めさせ、そのルートなどは静希が考えることになった


「でもこれから毎回静希君に頼ってるようじゃダメだね陽太君」


「そうだな、今後あいつらが一緒にいることも増えるだろうし、そこはあいつらでしっかりと折り合いを付けられるようになってもらわなきゃな」


二人で一緒に炬燵に入りながらのんびりしていると、明利がわずかに静希に体重をかけてくる


静希の足の間に収まり、静希に背を預けている明利がこうして体重をかけてくるのは実は珍しい


「どうした?」


「・・・ううん、ちょっとこうしていたいだけ」


「珍しく甘えんぼだな」


明利の頭や耳、首筋を撫でながらその小さな体を支えているとインターフォンが鳴り響く


オルビアが対応すると玄関からドタドタとこちらにやってくる足音が聞こえてくる


「おっす静!お姉ちゃんが来たぞってあー!静、明ちゃんといちゃついてる!ずるいぞ代わりなさい!明ちゃんは私のものだ!」


「ふざけんな早いもん勝ちだ、今明利は俺のものだ、雪姉は俺で我慢してなさい」


いつものように嵐のようにやってきた雪奈はさも当然のように静希の横に陣取り、明利の腰に手を回して抱き着こうとしている


一見するとほほえましい光景なのだが、雪奈は隙あらば静希や明利に性的なアプローチをかけようとしてくるから地味に性質が悪い


「そうだ静希君、雪奈さんにも聞いてみようよ」


「ん?あぁアドバイスの事か、意見は多い方がいいしな」


「ん?なになに何の話?」


話の内容を知らない雪奈にとりあえず事情を説明すると、雪奈は炬燵に置かれたみかんを頬張りながらなるほどねぇと呟いていた


雪奈は女性でありながら前衛の人間だ、思考としては鏡花よりも陽太の方が近いためにまた新しい意見も期待できる


「私としては、まったくなんの意見もアドバイスも出さずに全部陽に決めさせた方がいいと思うよ、最初だからいい思い出作りたいってのも分かるけどさ、話を聞く限り鏡花ちゃんは気づいてるんでしょ?」


「うん、陽太君の行動は全部お見通しって感じだった」


雪奈にしては少々厳しい意見に静希は少しだけ意外そうにしていた


なにせ雪奈のことだからアドバイス位いいんじゃないのというかと思ったのだが、実際はアドバイスゼロというまったく正反対の意見が出たことになる


「鏡花ちゃんは陽がバカなのを知ったうえで好きになってるんでしょ?なら陽ががんばって考えてくれたって方が嬉しいと思うな、誰かのアドバイス受けてそのままってのじゃたぶん鏡花ちゃんは納得しないと思うよ?」


「それはわかるけどさ、さすがにアドバイスゼロってのは厳しくないか?」


陽太がどのようなプランをするかはさておき、最低限の助言くらいはいいと思えるのだが、雪奈は首を縦に振らなかった


「鏡花ちゃんが求めているのは結果じゃなくて、陽が自分のために悩んでくれたっていう過程だと思うよ、鏡花ちゃんあれで結構乙女だし」


普段の鏡花の毒舌や気性の強さからあまり意識できないが、こと恋愛のことに関しては鏡花の思考レベルは明利と同等かそれ以下となってしまう


理想が高いわけではないが、結果だけを求めるようなタイプではないのは確かだ


「でも鏡花ちゃんはアドバイスするってことはわかってるみたいですし、少し位は」


「ダメだね、鏡花ちゃんはしっかり陽に考えさせようとしてるんだよ、なら陽はその期待に応えないと、そう言う意味で鏡花ちゃんは期待してるって言ったんじゃない?」


雪奈の言葉に静希と明利はなるほどと小さくつぶやきながら目を丸くしていた


「雪姉なんか悪い物でも食べたのか?まるで年上のお姉さんみたいな的確な指摘だけど」


「なにそれ!?私は最初から年上のお姉さんだよ!?」


静希の言い分に明利はつい笑ってしまい、雪奈は即座に反撃として明利に強く抱き着いて仕返しをし始めた


こういう行動が年上にみられない原因になっていると気づいているのだろうか


土曜日と誤字報告十五件分溜まったので五回分投稿


この話から二十三話が始まります


これからもお楽しみいただければ幸いです

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