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J/53  作者: 池金啓太
二十二話「二月半ばの男女のあれこれ」

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鏡花が好きになった人

鏡花の言葉を聞いて、陽太は複雑な表情をしていた


自分が誰かに好かれるなど考えたこともなかった、そして今目の前にいる鏡花に考えてほしいと言われた


考えてはいる、だが答えが出ないのだ


自分が鏡花のことをどう思っているのか


決して嫌いではない、だが女性として好きかと言われると、わからないのだ


そもそも女性として好きという感情がどういうものであるかを、陽太は知らない


それでも、考えろと、考えなければならないと陽太は理解していた、でなければこうして自分に好意を向けてくれる鏡花に合わせる顔がない


「・・・もし、俺が情けないところとかみせて・・・お前がオレのことを好きじゃなくなったら、どうすんだよ」


「それは無いわね、私は別にあんたのみてくれだとか、かっこいいところだとかが好きになったわけじゃないもの、私はね、バカでデリカシーなくて、鈍感で考えなしで・・・そんな陽太の全部が好きになったの、今さら情けないところ見たところで変わんないわよ」


鏡花は自信を持って陽太にそう告げる


情けないところも、格好悪いところも、嫌いなところも、すべてひっくるめて鏡花は陽太が好きになった


その言葉に嘘はない、そしてこれからもそうだろうと鏡花は確信していた


鏡花の言葉に、陽太は一瞬目を伏せた


自分の全てを好きになってくれた


嬉しいという感情が湧くのと同時に、申し訳なさが襲い掛かってきていたのだ


こんなに自分を好きと言ってくれるのに、いまだ答えが出せずにいる自分が情けなくて


「情けないとか考えてる顔ね」


「う・・・何でわかんだよ・・・」


ズバリ今の心境を言い当てられたことで陽太は気まずそうに目をそらす、だが鏡花は悪戯っぽく笑うばかりだった


「陽太、一つだけ考える上でのヒントをあげる、私はね安い女じゃないの、自分で言うのもなんだけど頭はいいし、スタイルもいい、顔だって可愛いと思うわ」


「・・・本当に自分でいう事じゃねえな」


陽太の言葉にそうねと笑いながら鏡花は少しだけ気まずそうにした後、再び陽太の目を見つめる


「だからね、自信を持ちなさい、あんたは、そんな私が好きになった奴なの、だからもっと自分に自信を持ちなさい、どんな答えでもあんたがしっかり考えて出してくれた結果なら、私は満足よ」


「・・・でも諦めないんだろ?」


当然よと鏡花は自信満々に笑って見せる


いつか必ず陽太を惚れさせてみせる


いつだったか、静希や明利に宣言したことだった、そして今は陽太自身にそう告げる


自信を持て、陽太がしっかりと考えた結果なら


ヒントというにはあまりにも抽象的過ぎて、陽太はほとんど足しにもなっていないのではないかと思える


だが鏡花が言いたいことは、なんとなくわかっていた


自分に見合わないだとか、情けないだとか、そんな状態で出した答えを自分に向けてほしくなかったのだ


そんな理由は抜きにして、陽太自身がどう思っているのかを知りたかったのだ


「・・・話はおしまい、後はあんたが答えを出せた時でいいわ、はい訓練再開!今度はちゃんと集中しなさいよ!」


「なんだよ・・・考える暇ないじゃんか」


考えながら集中しなさいとなかなか無茶な注文をしながらも、陽太は鏡花の指示に従って訓練を再開する


その炎を見て、鏡花は少しだけ安心した


先程まではあれほど揺らめいていた炎が、今は安定している


恐らく陽太の中で気持ちの整理ができたのだろう、この状態なら答えを出すことができるのは、案外遠くない未来かもしれない


「じゃあ色を変えた状態で槍作ってみて、暴発させちゃだめよ」


「無茶言うな!これでも手一杯だっての!」


普段の訓練でも成功率の低い炎の色を変えた状態での槍の作成などと言う完全なる無理難題を突き付けられながらも、陽太は指示に従う


鏡花がなぜこんな精神状態でも訓練をさせるのか、陽太は理解できなかった

だが鏡花がやることなのだ、無意味なはずがない、きっと自分が成長するうえで必要な事だろうと信じられる


集中しながらも、陽太は今までの鏡花とのことを振り返っていた


初めて会ったときは、ただの嫌な奴だった


一緒に行動するようになって嫌なだけの奴じゃないという事を知った


訓練をお願いしてからは、誰かのために一生懸命になれる奴だと思った


自分に才能があると、初めて言ってくれた人だった


自信満々であるのにもかかわらず打たれ弱いところがあり、今まで自分の周りにいた女性とは全く違う女らしさを持っているところを見てきた


頭が良くて、料理が上手くて、少し口うるさくて、実は恥ずかしがり屋で、意地っ張りで


そして自分のことを好きだと言ってくれた、初めての女の子


少し遠くで自分の訓練の様子を眺めているその姿を見ながら、陽太は鏡花のことを考えていた


鏡花がさっき言ったとおり、彼女はいい女だと陽太も思う


だが陽太は鏡花のことをあまり知らない、知っていることはたぶん静希達とそう変わらないだろう


だからこそ、陽太は決めた、そして答えを出した


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