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J/53  作者: 池金啓太
二十二話「二月半ばの男女のあれこれ」

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日本のイベント

一方、女子たちがそんなやり取りをしているとはつゆ知らず、陽太は久しぶりに静希の家に遊びに来ていた


というのも、せっかくメフィがゲームをやりだしたという事で陽太が相手になりに来たのだ


どうせ暇な休日、遊んですごそうという魂胆らしい


「この!近づかないでよ!」


「はっはっは!鈍い鈍い!喰らえオラぁ!」


「ちょっと!何で緑甲羅なんて当てられるのよ!」


「実力の違いってやつだよ!ほらもう一つ追加だ!」


陽太とメフィはコントローラーを握りながら一進一退の攻防を繰り広げているように見えるが、実際はメフィが周回遅れにされているのを陽太がもてあそんでいる状況である


二人がやっているのはレースゲーム、アイテムや仕掛けなどを駆使しながらトップを争うゲームで複数人数で遊んだ方が面白い部類のものである


一位は陽太、二位は静希、三位はメフィの順でレースを展開しているのだが


「私を甘く見ないでよね!喰らえ赤甲羅!」


「残念だったな、甲羅なんてものは簡単にガードできるんだよ!」


一位とビリがこうしてアイテムを駆使したデットヒートを繰り出していると、静希としてはただ淡々とアイテムをため込みながら隙を窺うような流れになってしまう


というか陽太がメフィに対して容赦がなさすぎるのだ


もう少し手加減してあげてもいいのではないだろうかと思えるのだが、遊びには全力を尽くす陽太、慈悲も加減もないと言わんばかりにビリのメフィを圧倒していく


「さて・・・陽太君、あまり弱い者いじめをしていると足元をすくわれるぞ?」


「あぁん?これだけ差がついてるのにそんなわけないだろ、負け惜しみか静希」


虎視眈々と一位を狙う静希は一位に向けてのみ使える道具をいつの間にか保持している、そしてそのことに気付いた陽太は僅かに表情を引き締めた


「確かにそいつを当てれば俺との距離は近づけられるだろうよ・・・だがそれでも足りない!俺とお前との距離はそれだけ開いているのさ!」


ノリノリでスピードを上げる陽太に追い抜かれまいとメフィが必死に食い下

がる中、静希はタイミングを見計らう


陽太の言うようにただアイテムを当てるだけではすぐに復帰されてしまうだろう


だが物は使いようである


タイミングを見計らって放たれた静希のとっておきは一直線に陽太へと向かっていき、直撃、陽太の操作するキャラを高々と空へと打ち上げていく


ただ、それがただの道ではなくカーブの途中だったというのが重要だった


「あ、落ちた」


「しまった!早くしろ!早く復帰!」


曲がろうとしている中上空に打ち上げられたせいで道から外れ、近くにあった川に落ちてしまう


お助けキャラがゆっくりと陽太のキャラを助け出す間に、静希はもうすぐ後ろまで迫っていた


もうすぐゴールという局面での攻防、何とか静希に追い抜かれるより早く走り出した陽太だが、一歩間違えれば負けていたかもしれない


「ふぅ・・・残念だったな、この距離を埋めるにはさすがに時間が」


「いいや、俺の勝ちだ」


そう言って静希はもう一つストックしていたアイテムを使う


それは一時的な加速ができるキノコのアイテムだった


ゴール直前、静希はそのアイテムを使うことで陽太のキャラを追い抜き、トップでゴールして見せる


「ふははは!アイテム有りのゲームならそれなりに勝って見せるさ・・・まして相手が陽太ならな」


「くっそ・・・してやられた・・・一位だといいアイテムでないからなぁ・・・」


「もう別のにしましょ!もっと私でも勝てるようなやつ!」


どうやら相手にすらされなかったのが嫌だったのか、メフィは手慣れた手つきでゲーム機を操りソフトを入れ替えていく


その光景に陽太は何とも不思議そうにしていた


「なんつーかさ・・・メフィって随分と現代になじんできたよな」


「そうだな・・・日がな一日ゲームやったりテレビ見たりしてるしな」


暇人が時間の許す限り遊びに興じているのだ、現代への知識や常識を取り込んでいくのもそれなりに早い、特にメフィは長い間生きているせいで別の世代などへの時代の移り変わりに慣れているようだ


「お二人とも、お茶が入りました」


「おー、サンキュオルビア・・・こっちもずいぶん馴染んだよな」


「オルビアはもうパソコンもほぼ完璧に動かせるぞ、こっちは凄い実用的だってのにあっちときたら・・・」


ゲーム機の近くにいるメフィを見て静希はため息をつく


メフィが何よと半眼で不満を訴えているが、その訴えは軽く無視されることになる


人外たちの中で、日々の生活において最も役に立っていないのはメフィだ


邪薙は家に結界を張り、オルビアは家事全般をこなしている、フィアは癒しを与えているがメフィはぐうたらしているだけ


最初はオルビアがいちいち手伝わせたり注意していたものだが、どうやら彼女の手にも余るような問題児っぷりらしい


ニート悪魔と言われても何も反論できないのである


「そういやさ静希、そろそろバレンタインじゃん?」


「・・・あぁ、そうだな」


ゲームをしながらそんな話題を振られて静希は僅かに動揺していた


というより、まさか陽太からそんな話題を振ってくるとは思わなかったのだ


「今年はお前は特別待遇なんじゃねえの?二人と付き合ってるわけだろ?」


「かもな・・・お前だって鏡花からもらえるだろ?」


「くれるか?あの鏡花だぞ?まぁ義理くらいは・・・いやでもなぁ・・・」


この反応を見る限り、まだ鏡花の好意は陽太には正しく伝わっていないようだった


第三者の視点からしてみれば、どうしてここまでアプローチをかけているのに気付かないのかと言いたくなるほどだ、こんなのを好きになってしまった鏡花に同情してしまう


「ねぇシズキ・・・私日本の風習はよく知らないんだけどさ、バレンタインってどの時代からあったお祭りなの?ていうか何するの?」


ゲームをプレイしながらメフィが不思議そうな顔をしてそんなことを聞いてくる、静希と陽太は顔を見合わせてどう説明したものかと困り果ててしまう


そもそも静希達もバレンタインの起源だとか発端だとかを詳しく知っているわけではない


ただ単に女の子が好きな誰かにチョコをあげる日であるという認識しかないのだ


「えっと・・・確か・・・バレンタイン伯爵だとか神父だとかが処刑された日で・・・当時結婚させちゃいけないけどさせちゃったから処刑されて、それが原因で恋人を応援する日になったんだっけか・・・?」


記憶の中から必死にバレンタインに対する知識をかき集めて説明しようとするのだが、如何せん知識が足りない、そもそも外国はさておき日本のバレンタインという風習は若干企業連による改編やら独自解釈やらがされているために本来のそれとは違うのだ


「バレンタインって人が日本にいたの?日本人の名前には聞こえないけど・・・」


「いや、バレンタインさんはどっか別の国の人だろうけど・・・」


「外国のお祭りを日本に取り入れたってこと?クリスマスもそうだったけど日本って節操ないわね」


そう言われてしまうと日本人の静希や陽太としては耳が痛い限りだが、実際何でそんなことになっているのかも分からないのだ


十月末にあるハロウィンなどは静希達は特に何もしなかったが、町ではそれなりに装飾などもされていた


日本はメフィの言う通り、どんなものでも取り込んで祝ったりするようなことがよくある


クリスマスやバレンタインはその最たる例だろう


「まぁ、日本はいろいろやるからな、うちはやらないけど三月になったらひな壇とか出す家もあるし、五月はこいのぼりがあるし」


そう考えると日本にはいろんな風習に満ちているのだと再確認できる、地方によって若干の違いはあるだろうがそれにしたって無節操と言われても仕方ないほどの量である


「ちなみにさ、この前豆投げてたけど、あれは何の風習なわけ?」


「あぁ、あれは節分って風習だ、鬼は外福は内、つまり害を与える鬼は家から出て行け、いいことをしてくれる福の神とかいい感じの運気は家の中に入れっていうおまじないみたいなものだ」


かなり大まかに説明し、鬼という単語が出てきたことでメフィは陽太を見るが、その顔を見ながら何やら悩み始める


自分の顔に何かついているのだろうかと陽太は顔を触るが、その顔には特に何もついていない、そんな中メフィが首をかしげて口を開いた


「鬼を追い出したり運気を呼び寄せたりってのはわかるんだけどね・・・何で豆?鬼を追い出したいなら銃とかの武器を使うものじゃないの?」


「あー・・・豆は確か・・・魔を滅するとかそういう意味があったような・・・限界だな・・・邪薙、頼む」


ここはにわか知識の静希が説明するよりも古来より日本にいた邪薙が説明したほうが正しく説明することができるだろうことを信じて邪薙にバトンタッチすることにした


説明を任された邪薙はどこから話そうかと少し考えた後で犬顔を全員に向ける


「なぜ豆なのかという理由は、今シズキが言ったとおり、魔を滅するという意味もあるが、昔鬼が悪さをしていた時、神のお告げで豆を鬼の目に投げることで追い払ったという、それが現在に至るまで豆をまく理由になっているのだろう」


「ふぅん・・・さすがの鬼も目に当たったら痛いってことね・・・」


静希が想像していたよりずっと具体的にえげつない方法で鬼を退治していたことにわずかながら辟易する


どんな生き物だろうと目に異物を当てられればそれは痛いから逃げ出すだろう


豆である理由はやはり魔を滅するという言葉遊び的な意味合いが強いのかもしれない


「ちなみに、豆は必ず煎ったものでなくてはいけなくてな、生の豆は芽が出るため魔が芽を出すという意味から縁起が悪いとされているのだ」


「要するに炒めた豆を鬼の眼球めがけて投げつけてたわけね・・・日本人って怖いわ・・・」


静希も豆を投げる理由などは大雑把に知っていたが、必ず煎らなくてはいけないとは知らなかったことである


魔が芽を出す、とは何とも不思議な言葉遊びだ、日本語には時折こういった特徴的な表現があるから面白いものである


ただ、熱々の豆を眼球にぶつけられては、さすがの鬼も逃げ出すだろう


年に一回の行事ではあるため、まさかそこまで的確に急所を狙った攻撃を原典としているとは思わなかっただけに静希と陽太は苦笑いが止まらなかった


「ちなみに、何故二月の頭かというと昔は一年の始まりは春、つまり立春のあたりだったのだ、その為一年の息災を願い鬼を払い福を呼び寄せるための儀式として定着したのだな」


予想以上にためになった邪薙の節分講座にその場で話を聞いていた全員がそうなのかとうなずきながら感心してしまう


流石に長く日本で過ごしているだけはある、この手の解説はお手の物のようだった


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


今回の話のためにネットでいろいろ調べたのですが、もしかしたら間違った知識である可能性があります、ご注意ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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