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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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食い違う意見

「五十嵐、お前はそろそろ脱出したほうがいいんじゃないのか?」


「・・・面白いこと言うな、この状況でどこに逃げるっていうんだ?何のために俺らが囮になってると思ってるんだ、今逃げたら今までの苦労が全部水の泡だ」


石動の言葉に静希は笑う、逃げようにも周りは奇形種だらけ、仮に外に逃げようものなら奇形種が自分の後を追ってくるかもしれない、逃げる先が明利達の所でも城島達の所でも同じことである


だが、石動は静希の手の内の中でそれができるものを一つ知っている


「あのペットとやらの力を借りれば、ここから全力で逃げることくらいはできるはずだ、違うか?」


「・・・これだから頭のいいやつに手の内を見せるのは嫌なんだ、すぐに分析される」


石動は頭がいい、前衛とは思えないほど頭の回転が速く、思い切りもいい


可能な限り手の内を見せないことを信条としている静希だが、一つ見せただけで選択肢のいくつかを把握されるというのはあまりいい気分ではなかった


石動の読み通り、フィアの力を借りれば奇形種全てを振り切って逃げることもできるだろう、ただそれは静希だけを乗せた場合の話だ、他の人間はすべて置いて、自分だけ安全圏に逃げ出すという事になる


「冗談言うな、何のために俺がここにいると思ってる、俺はお前らのフォローだ、数が少なくなってるとはいえ奇形種はまだいる、俺が抜けるわけにはいかないだろ」


「五十嵐!私はお前のためを思って言っているんだぞ!肉体強化もかかっていない、ただの人間同然になったお前では危険すぎる」


静希の言い分も正しいし、石動の言い分も十分正しい


二人の間にあるのは意識の違いだ


静希は自分が多少傷ついても問題なく、目的達成のためならある程度犠牲も仕方ないと考えている、しかもその犠牲が自分であればすぐに治癒する、そのことを理解したうえでここに残ろうとしている


一方石動は静希が傷つけば明利や鏡花、そして東雲姉妹が傷つくと理解しているからこそ静希を安全な場所に置こうとしていた、つまり目的の達成よりも静希達班員の身の安全に重点を置いている


前に出るのは前衛である自分たちの役目、だが本来収納系統であり、後方支援を主とするはずの静希がこの場にいること自体が異例なのだ


普段行動を共にしていないからこそ、静希の本質と、その性格を理解していない石動と静希が衝突するのは半ば必然だったのかもしれない


「響、お前からもなんとか言え、五十嵐がこのまま残れば取り返しのつかないことになる」


「・・・ん・・・そう言われても・・・」


急に話を振られた陽太は困惑しながら自分の頬を掻いている、静希が考えたうえで問題ないと言ったのなら、自分がどんな言葉をかけたところで意味がないことを知っているからこそ、これ以上の言葉が見つからなかった


そしてそんな中静希は左腕を掴んで僅かに歯噛みする


「取り返しのつかないことなら、もうなってるよ」


その言葉に、石動は仮面の奥で僅かに眉をひそめた、そして静希の左腕を見てそれを理解する


静希の左腕が義手になっていたのは先程気づいたことだ、そしてその原因を考えた時、静希が乗り越えてきた死線の壮絶さを理解する


「・・・ならなおさらわかるだろう、もうこれ以上は」


「わかるからこそ、まだ行けるって言ってるんだ、相手はただの奇形種、いや能力を持っていない個体の多い奇形種の群れ、ただの動物と変わらない、それならまだ戦える」


一度死線を潜り抜けたからこそ、今はまだ大丈夫であることを静希は経験則で理解していた、自らの経験で判断するのは危険であると静希自身理解してたが、どれほどこれからの事態を想定しても自らが死の淵に立たされるような状況はイメージできなかったのだ


静希と石動の視線が交錯する中、陽太は傍観しつつ周囲の警戒を怠らなかった


自分の幼馴染が残ると決めたなら自分が言うことはない、静希は頑固だ、特に自分が間違っていないと思うのならとことんそれをやり通す


反論されたときに、相手が理屈を備え静希を論破することができたのなら、しっかりその意見を取り入れて考えを修正するが、生憎と感情論程度で考えを改めるような性格ではない


静希は実習において、自分たちの身の安全はかなり高い優先順位に置いている、だが一番は実習の達成なのだ


石動は実習の達成よりも自らの身の安全を第一に考えている、班長としてはそれが正しいだろう、班員の身の安全を考え行動するのは、チームのリーダーとしては当然のことだ


だが静希は班長ではない、身の安全を考えるのは鏡花の仕事だ、静希は目的の達成のために最善を考え、それを実行するのが仕事である


時に狂気とさえ思える事柄を実行するのが静希の特性であり、強みである

だからこそ、二人の意見は食い違った


「・・・ならせめて私の血の鎧を付けろ、それなら危険は少なくなるだろう」


「そりゃありがたいな、けどあんまり重いと動きにくくなるからそこは調整してくれよ?あと左腕部分には鎧はいらないからな」


静希の言葉に石動は自分を覆っていた血の鎧の一部を切り離し、静希の体に付着させる


すると血の塊が少しずつ静希の体を覆っていき、薄い血の鎧となっていく


「おぉ、通気性悪いけど、案外悪くないな、結構軽いし」


「薄い分防御性能は低い、奇形種の牙や爪程度なら防げるだろうが、それもいつまで続くかわからない、そこは留意しておけ」


「了解だ、悪いな気を遣わせて」


静希の言葉に石動は構わないと言ってのける、血の鎧を纏った静希は体の動きを確認した後で建物の下の奇形種たちと、明利達の位置を確認する


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